「機能の認識」という言葉がありました。自分のつくった製品が何に組み込まれて、どのように使用されているのかを考えるということを、試作という言葉でおさえても構わないでしょうか。
小渡氏
ある程度試作的なものでしょうね。
そもそも試作は、機能を具現化するために行うものです。
これは少し余談になりますが、板金屋さんが従業員の教育として、納品したものを最終的にどこでどのように使用されているのか、視察に行くというんです。
要は、教育に取り入れているんです。
この視察によって、その後のもののつくり方とか、発想とかが少しづつ変化していくんだと。
ある板金屋さんでは、病院で使用される検査機器に関わっているのですが、それを見に行く。
「自分がつくったものは最終的にこういう風に使われているんだ」って思うと、モチベーションが全然変わるそうです。
使われている機器の機能、それこそばね一つににしたって、注意してつくらなければいけないということが歴然としてわかってくる。
ですから、機能を認識することは、人材教育の部分も担っているんです。
そうすることで、仕事も面白くなってくるし、仕事が面白くなってくれば色んなことに挑戦しようと思えるようになる。
ですから、機能の認識ということはとても大事だと思います。
なるほど。そのような好循環が生まれるんですね。そうすると、やはり協業って大事なのではないか、と感じます。みんなで一緒に考えながらものをつくる。そうすると、どうしても機能の認識ということが入ってこざるを得ないように思いますので。
小渡氏
仰る通りですね。
例えば、切削加工でつくった機械部品があるとします。
その機能を分析してみたら、実は板金でもできるし、実際やったこともあると。
そうすると、切削ではなくて板金で実現することでどのようなメリットが生まれるのか。
板金であれば、寸法の変更が比較的容易にできるとか、そういうことがでてくるかもしれない。
これは、金属加工だけではなく、広く塑性加工全体に言えることです。
こういう機能を実現するために、こういう部品が必要だよね。
切削加工だったらこうする、板金加工だったらこうする。
場合によっては、樹脂でも代替可能だよね、って。
そのような交流をすることで、新たな発想とか加工の方法とかが生まれてくるかもしれないです。
そのような場合、具体的にどのような方が交流をすればいいのでしょうか。設計士(エンジニア)の方なのか、実際に現場で働いている作業者(ワーカー)の方なのか。
小渡氏
エンジニアとワーカーの関係は面白いものがあると思っています。
いわゆる欧米に行くと、エンジニアって要は理屈をこねる人なんですよね。
でも、日本のエンジニアの場合は、中小企業だと生産技術みたいなところにいます。
ですから、加工もするし、設計もするし、機械のメンテナンスもする。
いわゆる何でも屋さんのようなところがあります。
これは、逆から言うと、それができなければ仕事を続けていくことができないということでもあります。
だからこそ、応用が利くし、小回りが利く。
欧米では、エンジニアが生産現場まで行くということは、ほとんどないと聞いています。
ですから、完全に上下関係ができてしまっている。
エンジニアがいて、その下にワーカーがいる。
でも、日本の場合は、エンジニアが生産現場まで行くし、ワーカーときちんとコミュニケーションが取れている。
対等に近いような立場で、コミュニケーションや合意ができる関係にある。
これができなくなると、たちまち日本のものづくりは破綻してしまうかもしれません(笑)
ある意味では、エンジニアとワーカーが曖昧になっていることが、日本のものづくりの強みだったんだろうと思います。
なるほど。日本のものづくりの強みの一つにすり合わせる能力が高いと伺ったことがあります。ただ、そのようなすり合わせる能力も、一言で現場力とか言われてしまって、また曖昧になっているように思います。ワーカーであり、かつエンジニアでもある。そういうことの持っている意味をもって、発信していかなければいけないように感じます。
小渡氏
私も年齢が年齢なので、そのような動きを積極的にできなくなってきてはいるのですが。
ただ、最近思うのは、やはり学校教育。
ありきたりの話になるのですが、露出度のことを考えると、学校教育の場で今話をしているようなことをできたらなと思います(笑)
学校教育で言うと、例えば高専っていいシステムだなと思うんです。だけど、高専出身の方々の多くは大手メーカーに入社してしまう。あえて、板金加工をやろうと思う人は、まずいないのではないでしょうか。
小渡氏
高専に関しては私もそう思います。
ただ、私が教育と言った時には、もっとターゲットを下げて、小中学生のことを考えています。
すでに行われていることでもありますが、工場見学に行ってみるとか。
今、工場見学には大手メーカーの非常にオートマチックで自動化された工場を見に行くケースが多い。
でも、自動化された工場ではなくて、もっと人間の手が介在しているような、人間のアイデアがそのまま形になるような工場を見に行くのもいいのではないかと思います。
感性がまだ柔軟なころに、そのような工場を見ると、中には面白く思うような子供がいるのではないでしょうか。
例えば、板金屋さんが小中学生向けの板金教材みたいなものをつくってみたり。
で、図工の時間にやってみる。
学校で教えている先生だって、板金に詳しくないわけだから、板金屋さんが出ていかなければいけませんよね。
実際に、板金教材を使用しながら一緒にものをつくってみる。
そういう側面的な支援も含めて、板金業界全体の底上げを図ることも重要だと思うんですよね。
それが、露出度を上げることにも寄与するんじゃないかなと思っています。
確かに、私どもが勉強しようと思っても、なかなかこれといったテキストもない。ですから、一軒一軒工場さんに取材に行って、勉強をさせていただいているという経緯がございます。
小渡氏
今の板金工場って本当に綺麗になりましたよ。実際に行ってみて、そう感じませんでしたか。20年くらい前までは、正直言って、物が雑然と並んでいるような雰囲気でした。今は、どこに視察に行っても綺麗です。ある工場さんなんかは、女性を採用したいと言っていました。そうすると、会社の雰囲気がガラッと変わるだろうからって。でも、なかなか来てもらえない。板金屋さんって、そんなに重いものを持たないので、いいと思うんですけどね。その辺りも、御社がきちんと発信してもらえればと思います(笑)
弊社代表大石と小渡さま