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樹脂加工

  • ABS樹脂とは?特徴、用途、種類、製品例

    ABS樹脂は、3種類の有機化合物を合成したプラスチックです。それぞれの成分の良い特徴を組み合わせることで、強度と柔軟性のバランスが良く、様々な耐性を持った素材になっています。安価で大量生産される汎用樹脂の一つに数えられることから、幅広い用途があります。製品例としては、液晶テレビやデジタルカメラの外装、自動車部品、文房具、各種ケースなどが挙げられ、私たちが利用する多様な製品に用いられています。この記事では、ABS樹脂の特徴や用途、種類などについて解説します。他の素材との性質の比較もしていますので、ABS樹脂について知りたい方は参考にしてください。ABS樹脂とはABS樹脂とは、アクリロニトリル、ブタジエン、スチレンという3種類の有機化合物を化学的に結合させた合成樹脂のことです。加熱によって軟化して可塑性を示し、冷却によって再び固化する「熱可塑性樹脂」に分類されます。正式名称はアクリロニトリル-ブタジエン-スチレン樹脂で、「ABS」は各有機化合物の頭文字からとった略称です。ABS樹脂は、上記3種類の有機化合物のポリマーであるポリアクリロニトリル、ポリブタジエンおよびポリスチレンの下表に挙げたような特性を組み合わせることで、それぞれの利点を活かしつつ、欠点を補うように作り上げた合成樹脂です。<ABS樹脂を構成するモノマーとそのポリマーの特徴>モノマー名称ポリマー名称ポリマーの特徴アクリロニトリル(acrylonitrile)ポリアクリロニトリル(polyacrylonitrile)高強度, 高剛性, 高硬度, 耐熱性, 耐候性, 耐油性, 耐薬品性ブタジエン(butadiene)ポリブタジエン(polybutadiene)高弾性, 耐衝撃性, 耐寒性スチレン(styrene)ポリスチレン(polystyrene)高強度, 高剛性, 高硬度, 脆い, 衝撃に弱い, 高流動性, 加工性が良い, 寸法安定性が良い, 耐薬品性, 電気絶縁性, 光沢性なお、ポリマーとは、その構成要素であるモノマー(スチレン分子など)が鎖状や網状に結合してできた高分子化合物のことです。そして、モノマーからポリマーを合成することを重合、2種類以上のモノマーからポリマーを合成することを共重合と言います。また、ABS樹脂は、熱可塑性樹脂の中でも、性能が比較的低いものの、低価格で生産量が多く、大量に消費される汎用樹脂の一つです。ポリエチレン(PE)やポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)、ポリ塩化ビニル(PVC)と並ぶ、5大汎用樹脂の一つに数えられることもあり、様々な用途・分野で使用されています。参考:塩ビ(ポリ塩化ビニル・PVC)とは?特徴・長所と短所・用途・加工方法ABS樹脂の特徴と用途ABS樹脂の機械的性質ABS樹脂の特徴は、まず強度や剛性、硬度と靭性(衝撃耐性)のバランスが良いことです。つまり、ABS樹脂は、壊れにくく、変形しにくく、その上、硬いにも関わらず、割れにくい素材であることを意味します。ABS樹脂は、下表に見られるように、ポリプロピレン(PP)やポリスチレン(PS)と比較して、「衝撃強さ」が特に大きく、強度や剛性、硬度のほか、靭性も兼ね備えていることが理解できます(下表参照)。<ABS・PP・PSの機械的性質>汎用樹脂の略称ABSPPPS引張強さ(MPa)23~5531~4136~52引張弾性率(MPa)1900~28001100~16002300~3300圧縮強さ(MPa)45~5238~5582~89曲げ強さ(MPa)66~9641~5569~101衝撃強さ(J/m)75~64022~7519~24ロックウェル硬さR100~120R80~102M60~75参照元:プラスチックの基礎「プラスチックの物性」株式会社KDAなお、上表の「ロックウェル硬さ」の「R」と「M」は、スケールの違いを意味し、RスケールよりもMスケールの方が高硬度です。このような優れた機械的性質から、ABS樹脂は、家電製品や電気・電子製品、機械の部品などに用いられています。ABS樹脂の熱的性質ABS樹脂の熱的性質は、耐熱温度が66~110℃、脆くなって壊れやすくなる脆化温度が-20℃と、一般的な用途での使用範囲としては充分に良好です。しかし、他の汎用樹脂と比べて特に優れているわけではなく、下表に見られるように、ABS樹脂の耐熱温度は、ポリスチレン(PS)やポリ塩化ビニル(PVC)よりは高いものの、ポリエチレン(PE)やポリプロピレン(PP)よりも低くなっています。<主要汎用樹脂の熱的性質>汎用樹脂の略称連続耐熱温度 (℃)熱変形温度 (℃)ABS66~11094~107高密度PE12143~54PP107~15052~60PS66~77~104硬質PVC66~7954~74参照元:技術情報「プラスチック物性一覧表 (熱可塑性)」華陽物産株式会社なお、上表の「熱変形温度」とは、18.5kg/cm2の荷重が加えられたときに変形が始まる温度のことです。ABS樹脂の腐食耐性耐薬品性について、ABS樹脂は、酸やアルカリ、塩類に耐性があります。しかし、強酸に対しては、これらが付着すると劣化してクラックなどが生じることがあります。溶剤には特に弱く、ケトンやエステル、塩素化炭化水素などの有機溶剤に接触すると溶解するので注意が必要です。一方、アルコールや炭化水素には不溶ですが、これらに長時間浸漬すると吸収して膨潤してしまいます。また、ABS樹脂は、紫外線の影響でブタジエン成分が酸化することから耐候性が低く、長時間直射日光に曝されると表面変色や光沢劣化が発生します。そのため、屋内で使用される家電製品や雑貨品などの材料には適しているものの、屋外での使用には向いていません。ただし、塗装を施したものや構成成分を変えて耐候性を高めたものの中には、十分に屋外使用に耐えうるABS樹脂が存在します。他の汎用樹脂と腐食耐性を比較したのが下表で、ABS樹脂の腐食耐性は汎用樹脂の中では低めです。<主要汎用樹脂の腐食耐性(数字が大きいほど耐薬品性が高い)>汎用樹脂の略称酸アルカリ塩類酸化(耐候性)有機溶剤ABS981044PE10101087PP10101087PS10101042硬質PVC10101095参照元:プラスチックの基礎「プラスチックの耐薬品性」株式会社KDAABS樹脂の加工性加工性が良好であることもABS樹脂の特徴です。ABS樹脂は、流動性に優れるため、射出成形や押出成形、ブロー成形などの樹脂成形全般に適しており、薄肉品なども容易に成形できます(成形時の条件・性質は下表参照)。<ABS樹脂の樹脂成形時の性質>性質の項目 (単位)値圧縮成形温度 (℃)149~230射出成形温度 (℃)177~316成形収縮率 (%)0.3~0.8 参照元:技術情報「プラスチック物性一覧表 (熱可塑性)」華陽物産株式会社ABS樹脂は、その流動性の高さから、3Dプリンターの材料としても有用です。プリンターのノズルで詰まったり、固まったりすることはほとんどなく、プリントしやすい樹脂として頻繁に用いられています。切削加工や曲げ加工の加工性も良好で、溶接や溶着、接着なども可能です。めっきや塗装などの表面処理も適用可能で、印刷特性にも優れます。ABS樹脂へのめっき例としては、銅めっきや金めっき、クロムめっきが挙げられ、めっきが施されたABS樹脂は、自動車の内外装部品や様々な機器の筐体などに用いられています。参考:樹脂加工とは?素材の種類と加工方法参考:射出成形の仕組みやメリットを解説!他の加工法との比較も参考:押出成形の仕組み・メリット・用途などを解説!参考:ブロー成形とは|特徴や仕組み、用途を解説!ABS樹脂の外観外観について、ABS樹脂の自然色は、光沢のある薄目のアイボリー色です。着色できる上、自然色に癖がないため、自由に色を着けることが可能です。光沢についても調節可能で、光沢を残すことも、艶を消してマットな質感にすることもできます。このABS樹脂の光沢を活かしたのが「ピアノブラック」と呼ばれる高級感のある色調です。ピアノブラックは、その名の通り、ピアノの高光沢の黒色のことで、家電製品の筐体や自動車の内装に採用されています。その鏡面のような仕上がりは、通常何層もの塗装とその研磨によって実現していますが、ABS樹脂を材料とする特殊な射出成形技術によっても実現可能です。ABS樹脂の電気的性質ABS樹脂は、電気絶縁性を示します。幅広い温度・湿度・周波数の範囲で良好な絶縁性を示し、誘電率も極めて低くなっています。ABS樹脂の燃焼性ABS樹脂は、可燃性です。とは言え、引火しやすいわけではなく、燃焼速度も速いわけではありませんが、ゴム臭を伴って煤を出しながら燃焼します。以上の特徴・性質は、ABS樹脂の成分比率や合成方法、ペレット(素材となる粒状の合成樹脂)のサイズによって変化します。一般的に、ABS樹脂を構成するアクリロニトリル・ブタジエン・スチレンの成分比率は、20:30:50となっており、この比率が異なると、性質も変わってきます。例えば、ブタジエンの比率が多いABS樹脂では、耐衝撃性が高くなりますが、強度や剛性、硬度、流動性、耐熱性は低くなります。一方で、ABS樹脂を販売している素材メーカーの多くは、成分比率や合成方法を公開しておらず、またデータシートなどに記載されている機械的性質などはメーカーによって異なります。従って、ABS樹脂を選定する際には、その違いを考慮する必要があります。ABS樹脂のメリット・デメリット以上のように、ABS樹脂は、様々な特徴がありますが、メリットとデメリットに分けてまとめると以下の通りです。メリット・機械的性質のバランスが良い・耐寒性に優れる上、耐熱性も比較的高いため、広い温度範囲で使用可能・耐薬品性を持ち、弱酸や弱アルカリ、塩類に強い・良好な電気絶縁性を示す・樹脂成形(射出成形・押出成形・ブロー成形・カレンダー成形など)に適している・多様な加工方法(切削加工・曲げ加工・溶接・溶着・接着など)にも対応している・表面処理(めっき・塗装など)の適用が可能・印刷特性が良好・自由な着色が可能・光沢の調整が可能・構成成分の比率を変えることで、性質の調整が可能・3Dプリンターの材料に使用可能デメリット・強酸や強アルカリに若干弱く、クラックなどの原因となる・有機溶剤に弱く、溶解する・アルコールや炭化水素を吸収し、膨潤する・紫外線に弱く、耐候性が低い・可燃性で、ゴム臭と煤を伴って燃焼するABS樹脂の種類ABS樹脂は、上述したように、構成成分の比率や合成方法などによって性質が大きく変わりますが、添加物を加えたり、構成成分を入れ替えたりすることでも、性能の向上や機能の付加を図ることが可能です。ここでは、そのような例をいくつかをご紹介します。強化ABS樹脂強化ABS樹脂は、主に機械的性質の向上を目的に繊維素材などを添加したABS樹脂です。ガラス繊維(Glass Fiber)を添加した「GF強化ABS樹脂」が最も多く採用されており、剛性強化や耐熱性向上を図ることができます。「CF強化ABS樹脂」と呼ばれる炭素繊維(Carbon Fiber)を添加したABS樹脂も存在し、強度や剛性、耐摩耗性を高める効果があるほか、軽量化が図れるという利点があります。そのほか、添加剤を加えて耐薬品性や耐候性を高めたものなど、様々な特性を強化したABS樹脂を素材メーカーは取り揃えています。αメチルスチレン系、フェニルマレイミド系αメチルスチレン系ABS樹脂とフェニルマレイミド系ABS樹脂は、ABS樹脂の耐熱性を高めたものです。αメチルスチレン系はスチレンをαメチルスチレンで代替したもの、フェニルマレイミド系はN-フェニルマレイミドを添加してスチレン成分に重合させたもので、フェニルマレイミド系の方が耐熱効果に優れます。ASA樹脂、ACS樹脂、AES樹脂ASA樹脂、ACS樹脂およびAES樹脂は、ABS樹脂の弱点である耐候性を改善するため、紫外線に弱いブタジエンをそれぞれ別の成分に入れ替えて共重合させた合成樹脂のことです。ASA樹脂(アクリロニトリル-スチレン-アクリル酸エステル樹脂)は、アクリルゴムにアクリロニトリルとスチレンを共重合させた合成樹脂です。耐候性や耐オゾン性に優れたアクリルゴムを用いることで、耐衝撃性を維持しつつ、耐候性の改善が図れます。ACS樹脂(アクリロニトリル-塩素化ポリエチレン-スチレン樹脂)は、ブタジエンの代わりに、耐候性や耐オゾン性、耐衝撃性に優れた塩素化ポリエチレンを用いた合成樹脂です。ABS樹脂よりも、優れた耐候性、耐帯電性および耐汚染性を示すほか、可燃性のABS樹脂とは異なり難燃性です, AES樹脂(アクリロニトリル-エチレン-プロピレン-ジエン-スチレン樹脂)は、ブタジエンの代替としてエチレンプロピレンジエンゴムを共重合させた合成樹脂です。ABS樹脂に比べて、耐候性に勝りますが、熱的性質に若干劣ります。下表は、これらの樹脂とABS樹脂の違いをまとめたものです。<ASA樹脂・ACS樹脂・AES樹脂とABS樹脂との違い>樹脂の名称入替前成分入替後成分ABS樹脂に勝る特性ASA樹脂ブタジエンアクリルゴム耐候性ACS樹脂塩素化ポリエチレン耐候性, 難燃性, 耐帯電性, 耐汚染性AES樹脂エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)耐候性ABS樹脂の製品例ABS樹脂は、外観の良さとバランスの取れた機械的性質などから、以下のような様々な製品に用いられています。●家電製品…テレビ、エアコン、冷蔵庫、掃除機、洗濯機、ポット、PC、ノートパソコン、デジタルカメラ、プリンター、ゲーム機など●自動車部品…メーターケース、カーナビフレーム、コンソールボックス、フロントグリル、ハンドルなど●建築部材…ドアや流し台、棚などの装飾部材(屋内用)、パイプなど●日用品…食器、トレー、密閉容器、スーツケース、キャリーケース、おもちゃ、スポーツ用品、家具、文具、楽器などABS樹脂とポリカーボネートとの性能の違いポリカーボネート(Poly Carbonate: PC)樹脂は、ABS樹脂と同じ熱可塑性樹脂の一つですが、汎用樹脂であるABS樹脂とは異なり、より高性能なエンジニアリングプラスチック(汎用エンプラ)に分類される合成樹脂です。ここでは、ポリカーボネート樹脂のABS樹脂との性能の違いについてご紹介します。参考:ポリカーボネート(PC)とは?加工方法と特徴外観の違いポリカーボネート樹脂の外観は、薄く色付いているABS樹脂とは違って、クリアな透明です。非常に透明性が高く、その透明度は光学機器に用いられるほどです。アクリル樹脂などと共に有機ガラスと呼ばれることがあります。機械的性質の違いポリカーボネート樹脂の機械的性質は、強度、剛性、硬度および靭性(耐衝撃性)の全てにおいてABS樹脂よりも優れています(下表参照)。特に、耐衝撃性は、汎用エンプラの中でも特に高く、銃弾の貫通を防ぐ防弾ガラスの材料にも使用されています。<ABS樹脂とPC樹脂の機械的性質の比較>汎用樹脂の略称ABSPC引張強さ(MPa)23~5564~66引張弾性率(MPa)1900~28002400圧縮強さ(MPa)45~5269~86曲げ強さ(MPa)66~9693衝撃強さ(J/m)75~640640~854ロックウェル硬さR100~120M70~72参照元:プラスチックの基礎「プラスチックの物性」株式会社KDA熱的性質の違いポリカーボネート樹脂は、熱的性質にも優れており、-100~140℃の温度範囲で使用可能です。ABS樹脂も-20~110℃の温度範囲で使用できることから決して悪くはありませんが、ポリカーボネート樹脂には劣ります(下表参照)。なお、ポリカーボネートの使用可能温度範囲の下限は、脆化温度のー100℃です。<ABS樹脂とPC樹脂の熱的性質の比較>汎用樹脂の略称ABSPC連続耐熱温度 (℃)66~110120熱変形温度 (℃)94~107 130~140参照元:技術情報「プラスチック物性一覧表 (熱可塑性)」華陽物産株式会社腐食耐性の違い耐薬品性について、ポリカーボネート樹脂は、酸とアルカリの双方に弱く、特にアルカリに対しては弱アルカリでも接触すると劣化します。この点、ABS樹脂の耐薬品性に劣っています。有機溶剤に対しても弱い特徴がありますが、これはABS樹脂も同様です。耐候性については、ABS樹脂よりは良好であるものの、紫外線による劣化は起こります。下表は、以上のポリカーボネート樹脂とABS樹脂の腐食耐性を数値化してまとめたものです。<ABS樹脂とPC樹脂の腐食耐性の比較(数字が大きいほど耐薬品性が高い)>汎用樹脂の略称ABSPC酸97アルカリ81塩類1010酸化 (耐候性)46有機溶剤43参照元:プラスチックの基礎「プラスチックの耐薬品性」株式会社KDA加工性の違いポリカーボネート樹脂は、ABS樹脂同様、樹脂成形加工と切削加工の加工性が良く、溶接にも適しています。ただし、曲げ加工については適用可能ですが、ABS樹脂ほど加工しやすいわけではありません。めっき方法も確立しており、塗装もABS樹脂と同様に可能です。燃焼性の違いそのほか、ポリカーボネート樹脂は、不燃性であるという利点があります。この点、可燃性のABS樹脂と比べると、使いやすい樹脂であると言えます。

  • PPS樹脂とは?性質、用途、メリット・デメリット

    PPSは、ガラス繊維などと合わせてプラスチック部品を形成する際に使用される結晶性樹脂です。成形時に充填する繊維の種類や配合など、組み合わせを変えることにより性能を強化することができます。完成された部品はスーパーエンジニアリングプラスチックという種類に分類されます。配合だけでなく、成形方法によっても特徴が変化するため、用途や目的に適したものを選ぶには、数ある特徴を正確に押さえておく必要があります。本記事ではPPSについて詳しくご紹介しますので、製品を考える際の参考にしてください。PPS樹脂とはPPS(ポリフェニレンサルファイド)は、融点が約280度、連続使用温度が220度という高い耐熱温度を持っている樹脂のことです。融点が高く、難燃剤を添加しなくても自己消化性に優れている他、高い耐薬品性や絶縁性など、さまざまな利点を兼ね備えています。PPSはベンゼンと硫黄の簡単な化学構造で構成された結晶性を持っており、ガラス繊維などの繊維状強化剤や無機質フィラーを充填させることで強度や性能を向上させて使用されます。PPSの用途PPSは、車やバイクなどのエンジン周りのパーツに欠かせない素材です。エンジンはガソリンなどの油を燃焼させ、そのエネルギーを動力としているため、稼働中は非常に高い温度環境に晒されます。PPS樹脂は200℃以上の高温環境下で連続使用できる耐熱性を兼ね備えている上、線膨張係数や寸法安定性にも優れています。しかも、金属より軽くコストも安いため、エンジンの部品として欠かせない素材となっています。PPSは絶縁性を持っていることから、コネクタやスイッチ、基盤やIC部品など、さまざまな電子部品やOA機器、家電製品などにも活用されています。特に、安全性を保つために高い耐熱性や成形性など、多くの性能を求められる電子レンジには欠かせない素材となっています。金属を使用できない検査機器や、酸・アルカリなど強い薬品への耐性が求められる機器などにも、寸法安定性や耐薬品性を兼ね備えているPPS樹脂が活躍します。また、医療器具に使用されている金属部品をプラスチックに置き換えることで、MRIに対応できるメリットがあります。プラスチックは金属に比べて軽い上にコストも安いため、医療機器の部品としてだけでなく、手術器具などにも使われ始め、注目が集まっています。PPSの長所・短所PPSにはさまざまな長所がありますが、もちろん短所もあります。それぞれについて詳しくご紹介します。長所●耐熱性200度を超える環境でも連続使用ができるため高温下での耐熱性能がフォーカスされがちですが、実は寒い環境にも耐性があり、約マイナス20度まで耐えることが可能です。●耐薬品性酸性、アルカリ性をはじめとする薬品に対して耐性を持っているほか、有機溶剤や油脂などさまざまな化学品への耐性があります。200度に近い高温環境下で有機溶剤や油脂を扱っても、耐熱性、耐薬品性共に高い抵抗力を維持することができます。●絶縁性PPSは誘電率、誘電正接共に低く周波数に対しても耐性がある、電気絶縁性の高い素材です。温度への耐性も含め、電子レンジやOA機器など、近年の電子機器に求められる条件を兼ね備えています。●耐久性PPSは部品に対して継続的に負荷がかけられる状況下でも極めて変形量が少ない特徴を持っています。そのため、クリープや応力緩和特性の試験においても良好な数値を示しています。●寸法安定性部品成型時の収縮率が小さく吸水性も低いため、さまざまな環境下でも製品が型崩れをしない高い寸法安定性を持っています。●材料異方性結晶性樹脂であるPPSは、ガラス繊維をはじめとする剛性の高い繊維で強化する際、繊維の性質に支配される高い材料異方性を持っています。そのため、繊維との配合によって強度や弾性率、伸びなどの機械的性質や、成形収縮率、線熱膨張、熱変形温度など、さまざまな性能を向上させることが可能です。短所●耐衝撃性耐久性の高いPPSですが、瞬間的な衝撃への耐性が低いため、落下する可能性がある機器などの素材には不向きです。●耐摩耗性熱耐性が強いためエンジンやブレーキなどの部品として選ばれやすい傾向にありますが、摩耗への耐性が低いため注意が必要です。PPSの機械的性質PPSはさまざまな温度下において引張強度や曲げ強度、高い剛性を維持することができます。ポリエチレンやポリスチレン、アクリルなど、さまざまなプラスチックの引張強度が高くても10kgf/㎟であるのに対し、PPSは無充填時で7.0kgf/㎟、グラスファイバーを40%充填することで16.4kgf/㎟という高い強度を示します。PPSの物理的性質結晶性を持つ材料のPPSは、無充填時でも密度が1.34g/㎤、グラスファイバー40%充填時では、1.64g/㎤となっています。溶融状態のベースポリマの密度が1.05g/㎤であることを考慮すると、極めて高い数値と言えます。結晶性を持ち、融点290度という高い耐熱性を兼ね備えていることから、熱処理のしやすい性質を持っています。

  • ポリプロピレン(PP樹脂)とは?特徴、用途、性質、メリット・デメリット

    今回は、ポリプロピレンの特徴や用途、機械的性質などについて解説します。ポリプロピレンは、合成樹脂(プラスチック)のなかでも「汎用樹脂」と呼ばれる材料の一種です。汎用樹脂は、主に日常でよく使われている家庭用品・雑貨・包装材料などに採用されています。そのなかでもポリプロピレンは、同じ汎用樹脂であるポリエチレンに次いで生産量が多く、幅広い用途で活用されている材料です。ポリプロピレンとポリエチレンは、似た性質を多く持ちますが、違いもいくつかあります。この記事では、ポリプロピレンとポリエチレンの違いについてもご紹介します。参考:樹脂加工とは?素材の種類と加工方法ポリプロピレン(PP樹脂)とはポリプロピレン(PP樹脂)とは、炭素と水素からなる重合体(ポリマー)で、汎用樹脂の一種です。プラスチックのなかでも生産量が非常に多く、比重が0.9と軽量な材料です。製法も、射出成形・押出成形・ブロー成形・真空成形などと豊富で、大量生産に適しています。また、最新のテクノロジーである3Dプリンタの材料としても利用されています。参考:射出成形の仕組みやメリットを解説!他の加工法との比較も参考:押出成形の仕組み・メリット・用途などを解説!参考:ブロー成形とは|特徴や仕組み、用途を解説!参考:3Dプリンタとは?3Dプリンタの基礎を丁寧に解説!ポリプロピレンの特徴と用途ポリプロピレンは、熱可塑性樹脂であるため、熱を加えると変形する特徴を持ちます。反りが発生しやすい材料のため、ポリプロピレンの製品を作る際は、反りにくい形状に設計する必要があります。しかし、耐薬品性・耐摩耗性・耐衝撃性・軽量性に優れており丈夫で傷が付きにくい性質を持つことから、自動車部品や食品容器、医療機器などの幅広い分野で採用されています。また、低コストで量産が可能なので、家庭用品・雑貨・包装材料などにも使われています。ポリプロピレンのメリットとデメリットメリット●軽量性ポリプロピレンは、比重が0.9と軽量です。比重が1よりも低いことから、水に浮かぶほどの軽量性を有しています。そのため、製品の軽量化目的で採用されることがあります。●耐熱性ポリプロピレンは、熱可塑性樹脂のなかでも耐熱温度が高い傾向にあります。●耐薬品性ポリプロピレンは、薬品による影響を受けにくいため、科学機器や医薬機器などにも多く採用されています。●機械的強度に優れるポリプロピレンは、機械的強度に優れており、表面が硬くて耐摩耗性も良好です。●低コストで大量生産できるポリプロピレンは、切削加工や曲げ加工などの加工がしやすく、射出成形や押出成形などさまざまな製法に対応できます。金型を使った製造をすれば、低コストで大量生産が可能です。デメリット●耐候性に乏しいポリプロピレンは、一般的に紫外線に弱く、日光に当たると白くなってしまうので、屋外での使用には適していません。ただし、酸化防止剤などの添加剤を入れることで、改善が見込めます。●接着しにくいポリプロピレンは、接着性に乏しい特徴があります。表面を粗くするなどの下地処理を施すことで改善はされますが、金属を接着するほどの強度を得るのは難しいです。●印刷しにくいポリプロピレンは、そのままだと印刷が難しい材料です。印刷したい場合は、接着のときと同じく下地処理を施す必要があります。ポリプロピレンの機械的性質ポリプロピレンは多くのグレードが存在しており、グレードによって強度に幅があります。一般的なグレードにおける引張強度は30MPa程度です。そのほかの機械的性質については以下の表を参考にしてください。<ポリプロピレンの機械的性質>項目最小値最大値平均値標準偏差引張降伏応力 (MPa)    2641--引張破壊応力 (MPa)    ----引張弾性率(ヤング率)(MPa)60022001313336ポアソン比----曲げ強度 (MPa)254731.96.4曲げ弾性率 (MPa)    65023001291356圧縮永久歪(%)    ----シャルピー衝撃強度(kJ/m2)1667.87.4アイゾット衝撃強度(kJ/m2)----表面硬度6211089.111.2引用元:機械設計エンジニアの基礎知識 ポリプロピレン樹脂(PP)の物性・用途・特性ポリプロピレンの熱的性質ポリプロピレンは熱に強い樹脂のため、ポリプロピレン製の耐熱容器は電子レンジにも対応できます。小さな荷重が加わる場合でも、製品の構造によりますが、100℃近い温度で連続して使うことができます。例えば、市販されているポリプロピレン製のパイプは、0.2MPaの圧力で耐熱温度は90℃です。<ポリプロピレンの熱的性質>項目最小値最大値平均値標準偏差ビカット軟化温度 (℃)110140119.210.5荷重たわみ温度 (℃)6512593.114.4線膨張係数:流動(×10-5/℃)----線膨張係数:直角(×10-5/℃)----引用元:機械設計エンジニアの基礎知識 ポリプロピレン樹脂(PP)の物性・用途・特性ポリプロピレンとポリエチレンの違いポリエチレンは、ポリプロピレンと同じく汎用樹脂の一種です。ポリプロピレンとポリエチレンは以下のような多くの共通点があります。●ポリプロピレンとポリエチレンの共通点・炭素と水素からなるポリマー・熱可塑性樹脂で射出成形・押出成形など、金型を使用した多くのプラスチック成形に対応しており、安いコストで大量生産が可能・絶縁体・比重が軽い(ポリプロピレン:0.9、ポリエチレン:0.95)・吸水率が低く、寸法安定性が良好・誘電率が低く、高周波材料として使われる。電子レンジで発熱しない・無臭、無毒一方で、ポリプロピレンとポリエチレンの違いについては以下の要素が挙げられます。●ポリプロピレンとポリエチレンの相違点・ポリプロピレンは硬く、ポリエチレンは柔らかい・耐候性はポリエチレンの方が優れる・耐熱温度はポリプロピレンの方が優れる・融点はポリプロピレンの方が高い・ポリプロピレンは無色透明に近いものができるが、ポリエチレンは白濁したもののみポリプロピレンとポリエチレンの特徴的な違いは、透明性や耐熱性です。内容物を確認したい場合や、滅菌処理をしたい場合などの違いで、それぞれの材料が使い分けられています。

  • PEEKとは?用途、種類、性質、メリット・デメリット

    今回は、PEEKの基礎知識について解説します。PEEKは、スーパーエンジニアリングプラスチックと呼ばれる、熱可塑性樹脂の一種で、エンジニアリングプラスチックに比べて高い性能を有しています。多くのメリットを持つプラスチックであるため、安全性が求められる製品や、金属部品の代わりとして多く採用されています。この記事で、PEEKの特徴や用途などについて詳しく見てみましょう。参考:樹脂加工とは?素材の種類と加工方法PEEKとはPEEK(ピーク)とは、Poly Ether Ether Ketone(ポリエーテルエーテルケトン)と呼ばれる樹脂の略称で、PAEK(ポリアリールエーテルケトン)、あるいは芳香族ポリエーテルケトンと呼ばれるポリマー群の一種です。PAEKは、アリール基・エーテル基・ケトン基から構成されるポリマー群で、これらの官能基の組み合わせや配列などにより、さまざまな種類の樹脂が存在します。そのなかでもPEEKは豊富なメリットを持つため、PAEKの代表的な樹脂として採用されています。また、PEEKは、熱可塑性樹脂のスーパーエンジニアリングプラスチック(スーパーエンプラ)に該当する樹脂で、スーパーエンプラのなかでも代表的な樹脂として扱われています。スーパーエンプラは、工業用として耐熱性や機械的強度を向上させていますが、PEEKは特に耐熱性や耐薬品性などに優れています。PEEKのメリットとデメリットメリット●耐熱性・耐高温性・耐加水分解性PEEKは、スーパーエンジニアリングプラスチックのなかでも、耐熱性・耐高温性・耐加水分解性が非常に優れた材料です。連続使用温度は250℃程度とされており、熱老朽にも強い特徴があります。耐熱水性にも優れており、200~250℃のスチームの中でも連続使用が可能です。そのためスチーム滅菌も可能で、短時間であれば300℃の高温にも耐えられる性能を有しています。●耐薬品性PEEKは、非常に優れた耐薬品性を有しています。多くの酸やアルカリ、有機溶媒に対して耐性があり、高温化でも耐えられるプラスチックです。ただし濃硫酸などの強酸には耐えられないので注意してください。●機械特性・クリープ特性・耐摩耗性PEEKは、広い温度範囲において高い強度と剛性を示し、機械特性にも優れたプラスチックです。強度については、ガラス繊維やカーボン繊維によって、さらに強化されます。また、クリープ特性や耐摩耗性にも優れており、金属の代替品としても活用されています。●耐放射線性熱加工性を持つ一般的な樹脂は、電磁波や放射線の影響により、脆くなる特徴があります。しかし、PEEKは科学的構造が安定しているため、電磁波や放射線のある環境下でも使うことが可能です。●難燃性PEEKは、難燃性の材料であるため、摩擦熱などの熱で燃える可能性が、他のプラスチックに比べて少ないです。また、燃焼時の発煙や腐食性ガス、有毒ガスなどが極めて少ないのもメリットです。デメリット●コストが高いPEEKは豊富なメリットを持ちますが、他のプラスチックに比べてコストが高いです。PEEKの用途PEEKは、豊富なメリットを持つことから、航空・宇宙・自動車産業、食品加工産業、医療分野、電子産業など、さまざまな業界で採用されています。金属の代替品として使われることもあり、自動車の性能向上や軽量化、コスト削減のために、金属部品の代わりとして多用されています。ギア・ワッシャー・ベアリングなどのパーツ類もPEEKにて製造が可能で、高温時でも優れた機械的性能や耐摩耗性、耐薬品性などを要する場合にPEEKが用いられます。PEEKの種類一般的にPEEKと呼ばれているものは、さまざまなグレードがあるうちのひとつである、基本グレードのことを指しています。ここでは基本グレードにさらに特性を付与した他のグレードについて、いくつかご紹介します。摺動グレード摺動グレードは、基本グレードに炭素繊維・グラファイト・四フッ化エチレン(PTFE)を充填したグレードで、基本グレードに比べて耐摩耗性や摺動性に優れています。用途としては、軸受やライナーなどの摺動部品に採用されています。ガラス繊維強化グレードガラス繊維強化グレードは、基本グレードに比べて高い剛性と耐クリープ性を持ちます。また、寸法安定性も良好です。主に静的荷重が長時間かかる場所に使用されています。カーボン繊維強化・導電グレードカーボン繊維強化・導電グレードは、ガラス繊維強化グレードに比べてより高い剛性を持つほか、機械的強度やクリープ性、耐摩耗性にも優れています。カーボン繊維を採用していることから、基本グレードに比べて約3.5倍高い熱伝導率も有しており、部品に発生した熱を素早く放散します。用途としては、静電気やほこりなどを嫌う環境で採用されています。PEEKの物理的・機械的性質<PEEKの物理的・機械的性質>比重引張強さ(MPa)破断時伸び(%)圧縮強さ(MPa)曲げ強さ(MPa)衝撃強さ (アイゾット ノッチ付)(J/m)1.371-10330-15012511085引用元:株式会社KDA PEEK(ピーク)樹脂の物性物性表1 ※引用資料「プラスチック読本」(プラスチックス・エージ発行)PEEKの熱的性質・成形時の性質・吸水性<PEEKの熱的性質・成形時の性質・吸水性>線膨張率(×10-5/℃)荷重たわみ温度(1.81MPa)(℃)成形温度(射出成形)℃成形温度 (押出成形)℃吸水率 (24h)(重量%)4.0-4.7 (<150℃)160350-400350-3800.10-0.14引用元:株式会社KDA PEEK(ピーク)樹脂の物性物性表1 ※引用資料「プラスチック読本」(プラスチックス・エージ発行)

  • ポリアセタール樹脂(POM)種類・製法・特徴・加工方法

    ポリアセタール樹脂(POM)は、耐衝撃性や耐摩耗性、機械的性質に優れるプラスチック素材です。さまざまな生活用品や、家電製品、機械部品、自動車部品、配管部品、ハードウェア部品、電子部品、電気部品などに用いられており、私たちの生活には欠かせない素材の一つです。今回は、ポリアセタール樹脂(POM)について、種類・製法・特徴・加工方法など幅広い内容について解説します。参考:樹脂加工とは?素材の種類と加工方法ポリアセタール樹脂(POM)とはポリアセタール樹脂は、ポリオキシメチレン(polyoxymethylene)の構造(-CH2O-)を持つポリマーであり、その略記号を用いてPOMと呼ばれています。ポリアセタール樹脂(POM)は、耐衝撃性や耐摩耗性に優れており、「エンジニアプラスチック(特に強度や耐熱性などの特性に優れるプラスチック)」に分類されます。このようなプラスチックは、プラスチックの最大の欠点である熱劣化性を改善した材料であり、金属の代替部品として幅広い用途に利用されています。ポリアセタールとジュラコンとデルリンの違いポリアセタール樹脂(POM)は、複数の会社で製造されており、それぞれ製品名が異なります。代表的な製品として、ポリプラスチックス社のジュラコン®(DURACON®) とデュポン社が開発したデルリン®(Delrin®) が挙げられます。この2つの製品の違いは、分子構造です。ジュラコン®はコポリマーであるのに対し、デルリン®(Delrin®)はホモポリマーと呼ばれる分子構造を持ちます。ポリアセタールの種類と製法前述した通り、ポリアセタール樹脂(POM)は、分子構造によってホモポリマーとコポリマーに分類されます。それぞれの構造について製法と合わせて、以下説明します。ホモポリマーホモポリマーの構造を持つポリアセタール樹脂(POM)は、上図のような分子構造を有します。ホモポリマーとは、モノマー(ポリマーを構成する化合物の単位)が一種類のポリマーを指します。ホルムアルデヒドを原料とし、重合を行って製造されます。コポリマーコポリマーの構造を持つポリアセタール樹脂(POM)は、上図のような分子構造を有します。コポリマーとは、二種類以上のモノマーから構成されるポリマーを指します。コポリマーは、ホルムアルデヒドから三量体であるトリオキサンを生成し、エチレンオキサイドなどのコモノマーとともに重合することで製造されます。ポリアセタールの特徴と用途ポリアセタール樹脂(POM)は、耐摩耗性、剛性や靭性などの機械的性質のほか、耐疲労性や耐クリープ性に優れる素材です。他にも、金属と比較して軽量な素材であることから、より軽い部品、製品の設計が可能となります。また、寸法安定性に優れ、精密部品への使用にも向いています。このような優れた特徴を有するポリアセタール樹脂(POM)は、金属に代わる素材として、さまざまな分野において採用されています。特に、耐久性が必要とされる部品に多用されています。●ポリアセタール樹脂(POM)の主な用途・ギヤ(歯車)やベアリング・生活用品(ファスナー、クリップ、文房具)・自動車部品(燃料ポンプ、ドアロック・ドアラッチ、シートベルトロック機構)・機械部品(半導体製造装置部品、電子機器部品、産業機械部品)・楽器(リコーダーや木管楽器など)ポリアセタールの長所ポリアセタール樹脂(POM)の優れた特徴についてご紹介します。耐衝撃性靭性が高いため衝撃への耐性に優れます。耐熱性耐熱温度は、ホモポリマー約85℃、コポリマー約105℃です。短時間であれば、150℃でも使用可能です。高温での使用のほか、低温耐性にも優れ零下40℃前後まで使用できます。耐薬品性薬品や溶剤への耐性に優れ、薬品による劣化の影響を受けにくい素材です。ただし、強酸には耐性がないため注意が必要です。寸法安定性寸法安定性に優れます。精密部品への使用にも最適です。耐摩耗性自己潤滑性が高い、つまり摩擦係数が極めて小さいためほとんど摩耗しません。ポリアセタール樹脂(POM)は、プラスチックの中でも特に耐摩耗性に優れる素材です。ポリアセタールの短所さまざまな優れた特徴を持つポリアセタール樹脂(POM)ですが、次のような短所もあります。難燃性ポリアセタール樹脂(POM)の分子構造には、酸素(O)が含まれます。そのため、酸化指数が高く燃えやすい材料であるため、注意が必要です。耐候性紫外線(UV)安定性が低く、屋外での使用など長時間紫外線にさらされるような環境においては素材が劣化し、色の変化や強度の低下などが発生します。そのため、屋外での使用には、安定剤やUV吸着剤などを含む製品を利用する必要があります。接着性接着性に優れず、塗装などを行うことが困難です。ただし、溶接は可能です。ポリアセタールの加工方法ポリアセタール(POM)の成形、接着・溶着の加工方法について、説明します。射出成形・ブロー成形ポリアセタール(POM)の主な成形加工方法として、射出成形とブロー成形が挙げられます。ポリアセタール(POM)は熱可塑性樹脂であるため、加熱によって軟化させ成形し、冷却して固化することができる素材で、成形加工性にも優れます。参考:射出成形の仕組みやメリットを解説!他の加工法との比較も接着と溶着前述した通り、ポリアセタール(POM)は接着性には優れません。通常の接着剤を使用しての接着は極めて困難であるため、ポリアセタール(POM)の接着には特殊な方法を用いる必要があります。一つ目の方法は、エッチングなどの表面加工を利用して、その後に接着剤を使用して接着する方法です。なお、エッチングとは化学薬品を利用して、化学反応による腐食作用によって、被加工物表面を溶解させる加工方法です。また、溶着を用いる方法も有効です。溶着とは樹脂などの非鉄金属を接合する技術です。この方法を用いれば、ポリアセタール(POM)の接着が可能です。参考:【エッチング加工とは?】価格や加工例、製造工程までご紹介!ポリアセタールとナイロンの比較と使い分けエンジニアプラスチックには、ポリアセタール樹脂(POM)のほかにもナイロンが挙げられます。ナイロンには、PA6(Polyamide 6)とPA66(Polyamide 6)が存在し、それぞれ6ナイロン、66ナイロンと呼ばれます。<6ナイロン><66ナイロン>上図に、6ナイロン、66ナイロンの分子構造を示しました。分子構造からわかる通り、ナイロン(ポリアミド系樹脂)はアミド結合(-CONH-)を有するポリマーです。ナイロンは、耐衝撃性、耐摩耗性、耐熱性、耐薬品性に優れるほか、高い靱性・引っ張り強度を示します。特に、ナイロンの融点は6ナイロンが225℃、66ナイロンが265℃と、ポリアセタール樹脂(POM)をはじめとするその他のプラスチックよりも、高い融点を示します。そのため、金型を使用してナイロンを成形する際には、温度の管理をより注意して行う必要があります。また、ナイロンは吸水性があり、寸法安定性が低いという特徴があります。そのため、精密部品の製作には、寸法安定性の高いポリアセタール樹脂(POM)の使用が適切です。

  • 塩ビ管(塩ビパイプ)種類・特徴・用途・規格まとめ

    今回は塩ビ管の種類や特徴、用途などについて解説します。塩ビ管とは、主に配管で使われている部材です。塩ビ管は、水道や下水道管などで流体を流すだけでなく、ケーブルを通す保護管としても採用されることがあります。塩ビ管は鉄製の管に比べて施工性・軽量性・経済性などに優れているのが特徴です。塩ビ管に使われている素材のポリ塩化ビニルは、塩化ビニル(クロロエチレン)を重合させたプラスチックです。ポリ塩化ビニルは熱可塑性樹脂の一種で、五大汎用樹脂とも呼ばれています。参考:樹脂加工とは?素材の種類と加工方法塩ビ管(塩ビパイプ)とは塩ビ管とは、ポリ塩化ビニルでできた配管素材のことです。塩ビ管の正式名称は「硬質ポリ塩化ビニル管」で、通称「ポリ塩化ビニル・塩化ビニル樹脂」とも呼ばれています。塩ビ管は鉄製の管よりも流体の流れる抵抗が少なく、腐食にも強い特徴があります。軽量性にも優れており、取り扱いやすいのもポイントです。塩ビ管の素材であるポリ塩化ビニル(PVC)は合成樹脂(プラスチック)です。ポリ塩化ビニルは加工性に優れ、軟質から硬質まで幅広い成型品を製造できます。また、耐水性・耐酸性・耐アルカリ性・電気絶縁性・耐候性・難燃性・経済性など、多くの メリットがあります。一方で、耐熱性・耐衝撃性が低い点はデメリットです。参考:塩ビ(ポリ塩化ビニル・PVC)とは?特徴・長所と短所・用途・加工方法塩ビ管(塩ビパイプ)の種類と色、用途塩ビ管は大きく分けてVP管とVU管があります。VP管は厚肉、VU管は薄肉の特徴があり、用途に合わせて使い分けられています。また、VP管には耐火性・耐衝撃性・耐熱性をそれぞれ向上した種類もラインナップしています。ここでは、各種類の特徴について解説します。塩ビ管の色が違う理由塩ビ管は種類ごとに色が異なります。一般的に、VU管とVP管はグレー、耐火VP管は緑色、HI管・HIVP管は黒色または濃紺色、HT管・HTVP管は赤茶色で分けられています。VU管(グレー)引用元:ダンドリープロ 塩ビパイプ(VPパイプ・VPパイプ)とはVU管は、VP管と比べて薄肉で、主に無圧管路に使用する塩ビ管です。低層住宅の排水系統や、埋設では自然流下用途(下水用・土木用・排水用)に採用されています。VU管は薄肉管なので、VP管と比べて重量が軽いメリットがありますが、圧力には弱く、中~高圧管路用には使用できません。VP管(グレー)引用元:ダンドリープロ 塩ビパイプ(VPパイプ・VPパイプ)とはVP管は、一般的に圧力用の上農水道埋設用・建築給水用に採用されています。そのほかにも集合住宅の排水・通気配管や浅埋設・深埋設の用途でも採用されます。VP管はVU管に比べて厚肉でたわみにくい特徴があります。また、内面が滑らかで摩擦抵抗が小さいことから、粘性の高い液体などが付着しにくく、排水効率に優れています。しかし、直射日光により、塩ビ管の表面温度が上昇すると、塩ビ管の裏側との温度差により反りが発生するので注意が必要です。耐火VP管(緑色) 引用元:ダンドリープロ 塩ビパイプ(VPパイプ・VPパイプ)とは耐火VP管は、火災時の延焼を防止する塩ビ管です。主に集合住宅や店舗等の建物内の雑排水・汚水・雨水排水などの排水設備用として使われています。耐火VP管は、内層・中間層・外層の3層で構成されており、内層と外層は従来の硬質ポリ塩化ビニル樹脂を、中間層には耐火性硬質ポリ塩化ビニル樹脂を採用しています。また、VP管と寸法や性能が同等で、軽量性にも優れており施工が簡単に行えます。HI管・HIVP管(黒色) 引用元:ダンドリープロ 塩ビパイプ(VPパイプ・VPパイプ)とはHI管(HIVP管)は、耐衝撃性能を向上させた塩ビ管です。主に寒冷地での使用や、施工時における、外部衝撃による破損を防止する場面に採用されています。従来の塩ビ管は、低温環境だと耐衝撃性が低下する傾向にありましたが、HI管は粘り強さがあることで、衝撃を吸収します。また、優れた可とう性を有しているほか、管軸・管側方向の荷重に対する接合部の信頼性も高く、地震に強い管路を構築できます。一方で高性能であることから、配管コストがかかる点はデメリットです。HT管・HTVP管(赤茶色)引用元:ダンドリープロ 塩ビパイプ(VPパイプ・VPパイプ)とはHT管(HTVP管)は、耐熱性を向上させた塩ビ管で、給湯配管、冷・暖房管、温泉配管などの用途に採用されています。HT管は熱伝導率が非常に小さい特徴があり、配管内部の流体の保温性に優れています。また、金属管とは異なり、錆びや腐食による水質悪化や電食、漏電事故などの心配もありません。しかし、高性能な塩ビ管のため、配管コストが増加します。塩ビ管の規格(サイズと太さ)塩ビ管のサイズ選びで見ておくべきポイントとして「呼び径」があります。呼び径は管の太さを表す呼称ですが、管の呼び径=管の外径というわけではありません。また、VP管に関しては呼び径と概略内径が近い値を示していますが、実際のところ呼び径は内径とも異なります。JIS規格では、塩ビ管は外径を基準寸法としており、外径から厚さを差し引いた分が内径になるので、内径の値は参考値となります。以下に、JIS K 6741:2016 硬質ポリ塩化ビニル管の規格に記載されている、一部の呼び径を抜粋したものを参考として記載します。<VP・HIVP管の外径・厚さ・概略内径>呼び径外径厚さ参考基準寸法最小許容差概略内径1318.02.2+0.6131622.02.7162026.0202532.03.1+0.8253038.0314048.03.6405060.04.1516576.0677589.05.577引用元:JIS K 6741:2016 硬質ポリ塩化ビニル管<VU管の外径・厚さ・概略内径>呼び径外径厚さ参考基準寸法最小許容差概略内径4048.01.8+0.4445060.0566576.02.2+0.6717589.02.783100114.03.1+0.8107125140.04.1131150165.05.1154200216.06.5+1.0202250267.07.8+1.2250引用元:JIS K 6741:2016 硬質ポリ塩化ビニル管JIS K 6741:2016 硬質ポリ塩化ビニル管では、VP管(HIVP管)の呼び径は13~300まであります。一方でVU管は呼び径40~600まであります。上の2つの表を見比べると、VP管とVU管で同じ呼び径のものは、同じ外径の寸法を示していることが分かります。ただし、厚みの寸法はそれぞれで違うので、内径の寸法はVP管とVU管で異なります。

  • 塩ビ(ポリ塩化ビニル・PVC)とは?特徴・長所と短所・用途・加工方法

    今回の記事では塩ビについての特徴・加工方法・用途などについて解説します。塩ビ(ポリ塩化ビニル・PVC)は熱可塑性樹脂の一種で、五大汎用樹脂とも呼ばれるほど汎用性が高い材質です。用途としては、上下水道管や波板などの建築資材や、家具のレザーなどに採用されており、私たちの身近なところでも、比較的見かけることが多いでしょう。参考:樹脂加工とは?素材の種類と加工方法塩ビとは?塩ビとは、「塩化ビニル樹脂」または「ポリ塩化ビニル」の略称で、塩化ビニル(クロロエチレン)を重合させたプラスチックの一種です。英語ではPVC(Poly Vinyl Cloride)と表記します。また、軟質PVCはソフトビニールやソフビとも呼ばれています。塩ビは、ポリエチレン(PE)・ポリプロピレン(PP)・ポリスチレン(PS)と同じく、五大汎用樹脂に分類される材料です。性能はあまり高くないものの、安価で生産量が多い特徴があります。また、製造過程において可塑剤の添加量を調整することで、硬質・軟質の製品が得られるのも特徴です。塩ビは安価かつ大量に生産されているエチレンと塩素を原料としており、石油を原料とする他のプラスチック製品と比べて省資源で製造できます。ポリ塩化ビニルと塩化ビニルの違いモノマーである塩化ビニル(クロロエチレン)を、繰り返し結合したものをポリ塩化ビニルと呼びます。ポリ塩化ビニルの「ポリ」という言葉は、ポリマー(重合体)からきたもので、「たくさん」という意味があります。しかし、一般的に呼ばれている「塩ビ」は塩化ビニルではなく、ポリ塩化ビニルを指しているケースが多いので注意が必要です。軟質PVCと硬質PVC塩ビには「軟質PVC」と「硬質PVC」の2種類があります。軟質PVCは柔らかい素材で、多少厚みがあるものでも手で曲げられるほどの柔軟性があります。一方、硬質PVCは硬くて強度に優れています。これらの違いは硬さだけでなく、物性や機械的性質にも違いがあります。一例を挙げると、比重は軟質PVCで1.16~1.35、硬質PVCで1.30~1.58と値が異なります。引張強さにおいても軟質PVCは6.9~25MPa、硬質PVCは34~62MPaと大きく違いがあります。PVCの重合度(分子量)比較的小さな分子であるモノマーが、繰り返し結合したものをポリマーと呼びますが、この繰り返し結合した度合いのことを「重合度」と呼びます。PVCは以下の表のように、重合度を変えることでさまざまな用途に活用できます。<PVCの重合度の違いによる分類>平均重合度用途別分類150~400接着剤600~700硬質射出成型品700~800硬質フィルム、シート、ボトル1000硬質パイプ、一般軟質品、波板1300~1800軟質フィルム、電線被覆2000~4000パッキン、床材表面層引用元:ダイヤモンドホイール・ダイヤモンド砥石・CBN工具・CBN砥石と研削研磨の情報サイト ポリ塩化ビニル(PVC)の素材としての特徴|物性と用途、特性についてPVCは、クロロエチレンのみで重合したPVC-S(ストレートPVC)と、ほかの物質との共重合体であるPVC-Mがあります。PVC-Mには、プロピレンと塩ビとの共重合体、酢酸ビニルと塩ビとの共重合体などがあります。塩ビの特徴(長所と短所)ここでは主な塩ビの長所と短所についてご紹介します。塩ビの長所・耐薬品性:薬品に対しての耐性が強い。・耐酸性、耐アルカリ性:酸やアルカリに強い。・耐水性:水を通さない。・電気絶縁性:電気を通しにくい。・難燃性:酸素指数が45~49と高く、自己消火性樹脂に分類される。・耐久性:通常の使用環境下での経年劣化が少ない。・着色やプリント加工性:着色や柄のプリントが可能。・価格が安価:他の材質に比べて価格が安価。重量も重たくないので、運送費や管理費なども抑えられる。塩ビの短所(耐熱温度と融点)・耐熱性:塩ビの耐熱温度は60~80℃、融点は85~210℃程度と、耐熱性に乏しい。・耐衝撃性:他の五大汎用樹脂と比べて耐衝撃性に乏しい。特に低温環境だと衝撃値が低下する。塩ビの加工方法ここでは塩ビの加工方法として代表的なものである、押出成形・カレンダー成形・射出成形・熱成形・ディッピング加工・コーティング加工を解説します。押出成形押出成形は、押出機のなかに溶融した原料を入れ、口金から押し出して成形する加工方法です。パイプなどのように、断面形状がシンプルな形状の製品を作るのに適しています。口金の形状を変えることで、押し出される製品も形を変えられます。カレンダー成形カレンダー成形は、シートやフィルムなどの平らな製品を成形するのに活用される加工方法です。何本もある加熱したロールに、原料を通して圧延したあと、冷却ロールに通して厚みを調整し、材料を巻き取ることで、シートやフィルム状の塩ビを成形します。射出成形射出成形は、金型に溶融した原料を流し込んで固める成形方法です。立体的な製品を成形可能で、押し出し成形よりも複雑な形状を生産できます。製品のサイズも小さいものから大きなものまで対応が可能です。参考:【金型製作】金型の種類と基礎や流れについて徹底解説!!熱成形熱成形は、押出成形やカレンダー成形であらかじめ生産した板状の製品を加熱し、空気や気圧を利用して型の形に成形する加工方法です。型のなかにある空気を吸い取り、大気圧で型に押し付ける手法を「真空成形」、大気圧ではなく圧縮空気で金型に押し付ける手法を「圧空成形」と呼びます。ディッピング加工引用元:塩ビ工業・環境協会 塩ビ樹脂の配合・加工方法ディッピング加工は、ペンチなどの取っ手を保護するカバーのように、皮膜を形成する際に活用されている加工方法です。塩ビ樹脂溶液に皮膜を形成したいものを浸漬し、熱乾燥することで皮膜を形成できます。コーティング加工引用元:塩ビ工業・環境協会 塩ビ樹脂の配合・加工方法コーティング加工は、繊維材料などに樹脂溶液を塗布して熱乾燥処理する加工方法です。上図はドクターナイフ法と呼ばれる方式で、厚みの調節が自由に行えます。表面に凹凸の模様を入れるエンボス加工にも対応が可能です。塩ビの用途塩ビは耐久性・耐薬品性・電気絶縁性などに優れている特徴から、幅広い用途で採用されています。建築資材で使われることの多い材料のため、塩ビの取扱いがない方でも目にする機会は多くあります。軟質PVC硬質PVC床材壁紙家具や車などのレザー人工皮革テープ上下水道・電線管などのパイプや継手バルブ波板やプリント合板などの建築資材平板排水マス

  • ポリカーボネート(PC)とは?加工方法と特徴

    ポリカーボネートは「ポリカ」や「PC」とも呼ばれている、熱可塑性樹脂の一種です。優れた特性を多くもつことから、屋根材やパーテーションなどのさまざまな製品に採用されています。ポリカーボネートはDIYで人気のあるアクリルと同じ種類の材料ですが、特性に違いがあることをご存知でしょうか?この記事では、ポリカーボネートの特徴や用途、加工方法について解説します。ポリカーボネートとは?種類と特徴ポリカーボネートとは、熱可塑性樹脂である汎用エンプラの一種。「5大汎用エンプラ」と呼ばれるほど代表的な材料で、さまざまな用途で採用されています。ポリカーボネートの特徴は、高い透明性・耐衝撃性・耐久性・耐候性・自己消火性をもつ点にあります。また、プラスチックの基本的な成形方法である、射出成形・押出成形・真空成形・ブロー成形などに対応しているのもポイントです。一方で、有機溶剤や界面活性剤に弱いほか、キズが付きやすいといったデメリットがあります。また、アクリルと比べて、接着や熱曲げ加工には不向きです。これらの特徴から、ポリカーボネートは細かい加工を行うよりも、板状のまま使用することが多い材料です。DIYでも加工を行えるものの、アクリルに比べて加工性に劣る点に注意してください。参考:樹脂加工とは?素材の種類と加工方法ポリカーボネートの種類ポリカーボネートには、【平板・中空板・波板】の3種類があります。●平板平板は、アクリル板のような1枚板のタイプで、無色透明から色付きのモノ、すりガラスのような加工を施したモノと種類が豊富です。平板は汎用性が高く、パーテーションや看板、カーポートの屋根材など、幅広い用途で使われています。●中空板中空板は、段ボールのように板と板の間に空洞を設けているのが特徴です。空洞であることで高い断熱性と保温性を有しており、屋根材や保温室、ドアの採光などの用途に適しています。●波板波板は、断面が波をうったような形に成形されているのが特徴です。波状の形により、平板よりも高い強度をもちます。雨水が集まり流れ落ちやすくなるので、屋根材に使われることが多くあります。ポリカーボネートの用途ポリカーボネートは、透明性・耐衝撃性・耐久性・耐候性・自己消火性に優れていることから、幅広い用途で使われています。例えば、高い透明性と耐久性があることにより、DVD基盤やメガネのレンズによく採用されています。また、スマートフォンに内蔵されているカメラのレンズや、スマートフォン用のケースにもぴったりの材料です。ポリカーボネートは高い精度で作れるだけでなく、ひずみも少ないため、カメラよりも雑に扱われることの多いスマートフォンへの使用に適しています。ポリカーボネートは割れにくい特性もあるので、安全性が求められるパーテーションや、階段の腰板にもおすすめの材料です。ポリカーボネートの長所と短所ここではポリカーボネートの長所と短所について詳しく見てみましょう。ポリカーボネートの長所●透明性可視光線透過率80~90%というガラスやアクリルに近い透明性をもちます。●耐衝撃性ポリカーボネートは、ABS樹脂の5倍、ポリ塩化ビニル(PVC)の10倍、ポリエチレン(PE)やアクリル(PMMA)の50倍程度の耐衝撃性を有しています。これはプラスチックのなかでも非常に強く、ハンマーで叩いても壊れないほどです。●耐候性例えば、耐候性の低いポリエチレンなどの樹脂素材は、太陽光・紫外線・雨などの自然環境による影響で、屋外で使用しているとヒビが入ったり変形したりします。一方、ポリカーボネートは耐候性に優れているので、屋外で使用してもさまざまな自然環境に耐えられる性質をもちます。そのため屋根材や看板といった屋外で使用するモノにも適した材料です。●自己消火性ポリカーボネートは、自己消火性(火がついても燃え広がらずに自然に消火される特性)をもちます。プラスチックの自己消化性を判断する材料として代表的なものに、“UL94規格”と“JIS K 7201”の酸素指数(OI)があります。UL94規格では難燃性の違いによってUL94の後ろにさまざまな記号が付きますが、ポリカーボネートは“UL94 V-2”程度の値を示します。これは、2回(各10秒間)炎に接触させても、燃焼時間が30秒以下であることを示します。酸素指数は、数値が高いモノほど難燃性であることを示しますが、ポリカーボネートの酸素指数は24~25程度です。この数値は、材料が燃えるものの、自己消火性があることを示しています。ポリカーボネートの短所●有機溶剤・界面活性剤に弱いポリカーボネートは、有機溶剤・界面活性剤に弱い特徴があります。これらが付着した状態で放置していると、ヒビ割れや変形などを起こす場合があります。●キズがつきやすいポリカーボネートは耐久性に優れているものの、キズがつきやすい点はデメリットです。鉛筆の硬度だとHB程度のため、ブラシで擦るだけでもキズがついてしまいます。キズがつくと透明感が失われるほか、外観も悪くなってしまうので、美観性を求められる箇所にはポリカーボネートの使用は避けたほうがよいでしょう。●加工がアクリルに比べて難しいアクリルは、カッター切断や曲げ加工、溶剤接着が手軽に行えるため、DIYでも人気の材料です。一方でポリカーボネートは、これらの加工を行うのがアクリルに比べて難しい傾向にあるので、板状のまま使うことが多くなります。ポリカーボネートの加工ここではポリカーボネートの加工方法・工作例をご紹介します。ただし、ポリカーボネートはアクリルに比べて加工が難しい傾向にあるので取り扱いには注意が必要です。●切断加工ポリカーボネートは、アクリルカッターを用いて切断することができます。切断の際は板を固定した状態で行い、定規などをガイドにして加工してください。アクリルカッターで設けた溝が不十分だと、折るときに割れてしまう可能性があるので注意が必要です。●面取りポリカーボネートの端部は、何も処理を施していないと鋭利な状態になっているので、取り扱いに注意してください。端部に触れるような用途での使用の際は、糸面取りを行うようにしましょう。糸面取りは、プラスチック用カッターの刃の裏やスクレーパーの刃の側面を、擦るように端から端まで走らせることで角が取れます。●曲げ加工ポリカーボネートは棒ヒーターやヒートガンを用いて曲げられますが、細かい温度調節が求められるため難しい傾向にあります。●接着材料を溶かして接着する溶剤接着は、仕上がりが悪く、強度も損なうので避けてください。●ボルト固定ボルト固定の場合は下記の穴ピッチを参考にしてください。・板厚が3.0mm以下:10~20mm・板厚が3.0mm以上:20~30mm・押さえ板による固定:30~50mmボルト穴の寸法は、温度の変化により伸縮することを想定して、ボルト軸の径に対して2~4mm大きい径で開けましょう。縁にボルト穴を設ける場合は、板の縁から穴径の2.5倍以上内側に位置するようにしてください。●シーリングポリカーボネートのシーリングは、シリコン系アルコールタイプを使用します。アルコールタイプ以外のシーリング材を使用するとクラックが発生する場合があるので注意してください。

  • ブロー成形とは|特徴や仕組み、用途を解説!

    ブロー成形とは、「吹く」を意味する「blow」という言葉に由来する、樹脂成形方法の一種です。加熱した樹脂を型に入れ、樹脂の内側から空気を吹き込むことで、型の形状に樹脂を成形します。吹きガラスの製造方法と類似した成形方法であると言えば分かりやすいでしょうか。樹脂成形や金属加工に関わりのない方には、あまり馴染みのない言葉かもしれませんが、日常的に目にするペットボトルがまさにこの方法で製造されています。そのほか、シャンプー容器や灯油タンク、自動車の排気パイプなど、主に中空のある製品に幅広く適用されている加工法です。今回の記事では、ブロー成形について解説していきます。その特徴や仕組み、用途についても説明しますので、参考にしてください。ブロー成形は樹脂成形方法の一種ブロー成形は、合成樹脂(プラスチック)に対する加工法の一種です。加熱して溶融又は柔らかくした樹脂を金型に入れ、樹脂に空気を吹き込んで膨らませ、金型に押し当てることで成形します。高温溶融したガラスに空気を吹き入れて成形する「吹きガラス」の製造技術を応用した方法です。その成形方法から、「吹込み成形」や「中空成形」とも呼ばれます。空洞がある樹脂成形品の大量生産に適した方法です。ペットボトルやシャンプー容器といったボトル形状の製品のほか、タンク・パイプ形状の製品やポリ袋の成形にも用いられています。ブロー成形では、用途や充填物によって、多様な機能・性質を持った樹脂が利用されています。例えば、食品の酸化や変質を防ぐためには酸素や紫外線を通さない樹脂、内圧が高くなる場合には高強度の樹脂など、様々な樹脂が採用されています。また、場合によっては、複数の樹脂を多層化していることもあります。参考:樹脂加工とは?素材の種類と加工方法ブロー成形の特徴とメリット・デメリットブロー成形の特徴としては、成形品の外側の面は金型に触れているものの、内側の面は空気で圧力を掛けているだけで金型には触れていないという点が挙げられます。そのため、ブロー成形では、成形品の全面が金型に触れる射出成形などと比べて、金型が簡素になり、金型の制作費用が安くなるというメリットがあります。しかし、金型に触れない面があることは、デメリットともなります。まず、金型が触れていない面の形状は、制御が難しく精度が悪くなりやすいことが挙げられます。同様の理由で、肉厚の寸法も高精度にすることが困難です。そのため、金型に触れない面への部品のはめ込みなどが必要な場合は注意が必要です。また、ブロー成形では、溶融樹脂が重力方向に垂れ下がる「ドローダウン」が起きることがあります。これは、溶融樹脂の粘度が低い場合などに起こり、成形品の上部と下部で厚みが不均一となる「偏肉」の原因となります。この偏肉を防止するためには、樹脂の粘度や注入する空気圧の調整などが必要です。そのほか、成形品の形状について、「ゆるやかに変化する形状にする」、「断面は円(楕円)又は角がない形状にする」といった点に気をつけることで偏肉が起こりにくくなります。ブロー成形の仕組み次は、ブロー成形の仕組みについて見ていきましょう。ブロー成形には、いくつかのバリエーションがありますが、ここでは、押出ブロー成形の仕組みについて説明します。①樹脂の加熱溶融とパリソンの成形引用元:大興化成株式会社はじめに、上図の押出機と呼ばれる装置で金型に樹脂を円筒状に押し出します。そのためにまず、押出機のホッパーに樹脂を投入し、樹脂をヒーターで加熱して溶かします。溶融樹脂は、押出スクリューによってヘッド方向に押し出され、リング状に空いたヘッドの出口を経由することで、円筒状となって金型に押し出されます。この膨張前の予備成形状態をパリソンと呼びます。②エアー注入による金型内での膨張と冷却引用元:大興化成株式会社続いて、上図のように、金型を閉じてパリソンを挟み、圧縮空気をブローピンから吹き込んでパリソンを膨張させます。このとき、パリソンの端を巻き込むように金型を閉じることで底部分の成形を行います。膨張したパリソンは、冷却された金型に押し付けられることで、固化していきます。③成形品の取り出し引用元:大興化成株式会社一定時間冷却した後に金型を開き、成形品を取り出せば完成です。ただし、金型で挟んだ樹脂が上図のようにバリとして残ることがあります。その場合、このバリの除去が必要となります。また、完成形状によっては、切削などの後加工が必要となります。さまざまなブロー成形ブロー成形の種類には、代表的なものだけでも以下のようなバリエーションがあります。ここでは、これらのブロー成形法について解説していきます。●代表的なブロー成形の種類・押出ブロー成形・射出ブロー成形・延伸ブロー成形・多層ブロー成形・3次元ブロー成形射出ブロー成形射出ブロー成形は、射出成形でパリソンを成形した後、パリソンをブロー成形用金型に移してブロー成形する方法です。まず、試験管のような形状のパリソン(有底パリソン)を射出成形します。このとき、射出成形品をいったん冷却・固化させるか否かで、コールドパリソン式とホットパリソン式に分かれます。コールドパリソン式では、再加熱してブロー成形を行います。メリットとして、パリソンを中間製品として仕入れたり、製造速度が異なる射出成形機とブロー成形機を個別に運用したりすることが可能となる点が挙げられます。なお、下の写真は、ペットボトルのパリソンで、中間製品として用意されているものです。引用元:料材開発株式会社一方、ホットパリソン式は、射出成形による予熱を残したままブロー成形に移る方式です。再加熱する必要がないため、余分な燃料費が掛からないというメリットがあります。射出ブロー成形自体の利点としては、成形品の底面に接合痕が生じないことや、成形品の重量や肉厚のバラツキなどを抑えやすいといった点が挙げられます。また、ボトルの口部などは予め射出成形で作り込み、胴体部だけにブロー成形を行えば、口部でバリやスクラップが発生せず、後工程が不要になります。ペットボトルの製造には、コールドパリソン式の射出ブロー成形が用いられています。参考:射出成形の仕組みやメリットを解説!他の加工法との比較も延伸ブロー成形延伸ブロー成形は、射出ブロー成形のブロー成形工程において、軸方向にも樹脂を延伸させる成形法です。樹脂毎に異なる適切な温度で行う必要がありますが、膨張させることによる円周方向の延伸と軸方向の延伸をバランス良く行うことで、強度や透明性、ガスバリア性などを向上させることができます。醤油などの食品容器や医薬品容器のほか、炭酸飲料を充填する耐圧ペットボトルの製造にも適用されている方法です。押出ブロー成形引用元:株式会社吉野工業所押出ブロー成形は、前述の「ブロー成形の仕組み」で解説したように、押し出したパリソンをダイレクトに金型に投入してブロー成形する方法で、ダイレクトブロー成形とも呼ばれます。近年の押出ブロー成形では、上図のように、複数の金型を用意して稼働させるケースがほとんどです。一つの金型ではパリソンが押し出され、もう一つの金型ではパリソンを膨張させて成形します。連続的にパリソンを押し出し続ける押出機を停止させることなく、効率的に成形品を製造することができます。次に解説する射出ブロー成形と比べると、押出機によるパリソンの生産速度が速いために大量生産に向いた方法です。しかし、その場合、押出機の生産速度に合わせて複数の金型が必要となります。また、金型に投入されるパリソンは、底部では金型で挟み込み、口部では長さに余裕を持たせて切断されます。そのため、成形品の底部には、バリが残ることがあり、バリを除去しても接合痕が残ります。そして、口部にはスクラップが発生することから、その切断が必要となります。化粧品や洗剤等の容器類、各種タンク・パイプ、ダクト、建材など、様々な製品の製造に適用されている方法です。参考:押出成形の仕組み・メリット・用途などを解説!多層ブロー成形引用元:キーエンス株式会社多層ブロー成形は、飲料などの充填物の酸化・変質防止や成形品の強度向上などを目的に、多層構造の樹脂成形品を製造する方法です。(上図参照)この方法は、コールドパリソン式で実施されます。まず、押出機によって複数の樹脂を同時に押し出して、多層のパリソンを成形。これを再加熱して、ブロー成形します。酸素や紫外線などで劣化しやすい食品やガソリンタンクなどの成形に用いられる方法です。3次元ブロー成形引用元:エクセル株式会社3次元ブロー成形は、複雑形状の容器やパイプなどをブロー成形する方法です。コンピュータ制御によって、パリソンが押し出されてくるヘッドの位置をコントロールしてパリソンを金型形状に沿うように誘導する方法などがあります。(上図参照)クーラーやヒーター用のホースや、自動車の排気パイプなど、湾曲部や蛇腹のある複雑形状の成形に用いられる方法です。ブロー成形の用途ブロー成形は、食品や化粧品、洗剤などの容器類、ホース、ポリ袋といった身近な製品のほか、パイプやダクト、中空の建材、工業用タンクといった業務用製品の製造にも採用されています。その中でも、最も代表的なのは、飲料容器として用いられるペットボトルです。しかし、単にペットボトルと言っても、その機能や形状は様々で、その内容物に合わせて適切なペットボトルが利用されています。例えば、炭酸飲料用の耐圧ペットボトルでは、内側から掛かる圧力を分散させるため、底に5足形状の凸凹(ペタロイド形状と呼ぶ)が設けられています。また、加熱後すぐに充填したり充填後に加熱したりするケースでは、耐熱ペットボトルが採用されます。耐熱ペットボトルには、樹脂の熱固定(150〜165℃に保持)による耐熱性の向上効果を活用したものや、材料として耐熱プラスチックを使用したものなどがあります。そのほか、酸素や紫外線などで変質してしまう食品の容器には、それらに対する遮断効果を持つ樹脂が材料として使用されています。また、人体や環境に悪影響を与えるガソリンの容器(下の写真)は、エチレン-ビニルアルコール共重合体(EVOH)などのガソリンに対するバリア層が積層された構成となっています。その成形には、多層ブロー成形が適用されますが、ガソリンタンクでは6層もの積層が必要になることも少なくありません。まとめブロー成形は、金型に入れた溶融樹脂に空気を吹き込み、金型の形状に合わせて膨張させることで成形する樹脂加工法の一種です。ペットボトルに代表される中空容器の製造に適した方法で、大量生産にも向いています。身近な日用品から自動車部品、業務用タンクなど、幅広い用途に用いられている方法ですので、ぜひこの機会にブロー成形に注目してみてください。ブロー成形や金型製作を得意としているメーカーをお探しの際には、ぜひMitsuriにご相談ください。Mitsuriは、日本全国250社以上の業者と提携しています。そのため、お客様のご要望に合わせて、高い技術とノウハウを持つ業者をご紹介できます。お見積りは複数社から可能です!ブロー成形や金型製作でお困りの際は、ぜひMitsuriにご相談ください。

  • 圧縮成形とは|メリットや原理、用途を解説!

    「圧縮成形とは?」、「圧縮成形の製造方法を知りたい」、「圧縮成形の特徴は?」といった疑問を持つ方は必見です。圧縮成形は、プラスチックの成形方法のひとつ。古くから熱硬化性樹脂の成形に採用されている製法です。熱硬化性樹脂は、加熱すると硬化するという、熱可塑性樹脂とは異なる特性を持ち、家庭でもよく見かける灰皿や電気スイッチなどでも使われています。プラスチックの成形は、射出成形や押出成形なども代表的です。しかし、シンプルな製法である圧縮成形ならではのメリットも存在します。本記事では圧縮成形について知らない方向けに、基礎的な知識に加え、加工手順やメリット・デメリットについて解説します。圧縮成形について知識を深めたい方は、ぜひご一読ください。参考:射出成形の仕組みやメリットを解説!他の加工法との比較も参考:【押出加工】とは?仕組みや特徴、種類、製品例について徹底解説!圧縮成形は熱硬化性樹脂に用いられる加工方法圧縮成形とは、樹脂成形の製法の一種。流動性のある熱硬化性樹脂を金型に入れたのち、圧力を加えて金型内に充填させます。金型内は、キャビティと呼ばれる材料を成形するための隙間があり、充填した材料に圧力をかけてることで形取られます。ここから金型の温度を200℃程度まで加熱し、熱硬化性樹脂を固めて成形します。参考:【金型製作】金型の種類と基礎や流れについて徹底解説!!基本的に樹脂製品は、熱を加えると軟化する熱可塑性樹脂が多いもの。一方、圧縮成形でよく用いられる、熱硬化性樹脂と呼ばれる材料は、加熱すると硬化し、再加熱しても柔らかくならない特性があります。また、強度や絶縁性に優れているのも特徴です。ただし、熱可塑性樹脂に比べて耐衝撃性には劣ります。熱硬化性樹脂の代表的な材料は、フェノール樹脂・メラミン樹脂・エポキシ樹脂・尿素(ユリア)樹脂・ポリウレタンなどが挙げられます。これらの材料も細かく特徴が異なり、用途によって使い分けられています。参考:樹脂加工とは?素材の種類と加工方法圧縮成形の特徴圧縮成形には金型を必要としますが、製法の仕組みからして、複雑な形状のものを成形するのは困難です。その一方で、金型の構造は単純であるため、金型製作にかかるコストが安価に抑えられます。また、成形の際、材料を加圧して金型内に充填させるため、高密度な製品が得られるのも特徴です。ただし、製造の過程でガスが多く発生し金型に付着するため、清掃の手間がかかります。また、バリ(成形の際に発生する突起)が発生しやすく、バリ取りの作業も必要です。圧縮成形の原理と加工手順、注意点ここでは圧縮成形の加工手順を見ながら、原理や注意点について解説します。成形材料の準備まず成形材料を秤量します。材料が多すぎても少なすぎても不良が発生しやすくなるため、秤量は正確に行う必要があります。成形材料は、上の画像のように粉末状や粒状が基本的ですが、生産ロットが大きい場合は、タブレット(成形材料を錠剤のように予備成形したもの)を用いる場合もあります。タブレットを用いると、バリが少なくなるなど、生産する上で有利に働きます。成形材料の予熱次に高周波予熱などを用いて成形材料を予熱します。通常、成形材料全体に熱が伝わるまでに、多くの時間が必要です。しかし、予熱をしておくことで、成形時間が短縮されるほか、成形品を均一に硬化させやすくなる効果が期待できます。また、小さい圧力で成形できるようになるので、金型の損傷も抑えられます。成形材料を金型へ充填引用元:アイアール技術者教育研究所予熱した成形材料を、キャビティ(金型の成形部分の凹部)に充填します。このとき、材料の充填に偏りがあると成形不良を起こす可能性がるので、均一に充填する必要があります。充填したあとは、加熱しながら低い圧力をかけて、成形材料をキャビティ全体に流動させます。加熱を続けると流動性が減少するため、材料がキャビティの隅々まで充填するように加圧の速度を調節しなければなりません。ガス抜き成形材料を加熱すると、材料に含まれる揮発物や水分がガスとなって出てきます。発生したガスは、成形品にヒビが入ったり、「巣」と呼ばれる虫食い穴のような成形不良を起こす可能性があるため、ガス抜きを行う必要があります。ガス抜きの方法は、成形材料が金型内に行き渡ったのちに圧力を落とし、金型をわずかに開くことで行えます。ガス抜きは、材料の硬化が進みすぎると不良品になる可能性があるので、タイミングには注意が必要です。加熱・加圧ガス抜きで低下した圧力から、再度加熱・加圧をして成形材料を熱硬化させます。材料の種類や寸法によって、硬化する時間は左右しますが、肉厚な製品であるほど、硬化時間が長くなる傾向にあります。硬化が不完全だと、表面にふくれが生じたり歪みが発生したりするので、製品に応じて成形条件を変える必要があります。成形品の取り出しと仕上げ成形材料が硬化したら、金型を開いて取り出します。出来上がった成形品は、バリが発生しているため、機械や手作業で取り除きます。圧縮成形のメリット・デメリットここでは、圧縮成形のメリットとデメリットについて解説します。圧縮成形のメリット●金型製作のコストが比較的安価金型の構造が複雑にできない分、射出成形用に比べて金型にかかるコストが削減できます。●圧力の損失が少ない成形材料に直接圧力をかけられるため、射出成形のようにランナーやスクリューなどによる圧力損失が少なく成形が可能。これにより、低い圧力でも成形しやすい傾向にあります。●成形材料をムダなく使いやすい射出成形のように、ランナーやゲートがなく、成形材料をムダなく使えます。製品として機能しない部分は、ほぼバリのみです。●成形材料が配向しにくい射出成形の場合、高い圧力で樹脂を流動させることにより、材料がランナーやゲートを流れる際に配向を生じます。配向は、樹脂の流動する方向と直角方向で収縮率に違いが生じ、強度にバラつきがでるなどの悪影響を及ぼすことも。しかし、圧縮成形では金型に直接成形材料を充填するため、樹脂の特性を活かした製品を作ることが可能です。圧縮成形のデメリット●複雑な形状には不向き金型の構造と成形の原理上、複雑な形状のものを成形するのは困難です。●バリが厚くなりやすいバリに厚みがあるので、仕上げに時間を要します。圧縮成形の用途圧縮成形品は、一般的に熱硬化性樹脂を使った加工であることから、耐熱性は良好です。フェノール樹脂・尿素(ユリア)樹脂・メラミン樹脂・ポリウレタンで100℃前後、エポキシ樹脂で150~200℃程度の耐熱性を有しています。また、強度や絶縁性にも優れているのも特徴です。圧縮成形品は、これらの特性を必要とする、航空機や発電機器の部品のほか、家庭でもよく見かける灰皿・電気スイッチ・台所用品などの製品にも採用されています。まとめ今回は、圧縮成形の基礎知識・加工手順・特徴などについて解説しましたが、いかがでしたでしょうか。圧縮成形は、材料に熱硬化性樹脂を使い、材料を圧縮・加熱して成形する製法です。熱硬化性樹脂の加熱を続けると硬化する性質を利用しています。圧縮成形は製法上、複雑な形状のものを成形できません。その分、金型の構造もシンプルなため、金型製作のコストが抑えられます。また、成形材料をムダなく使えるほか、低い圧力で成形がしやすいなどのメリットがあります。しかし、バリを取り除く手間がかかる点はデメリットと言えます。圧縮成形をはじめとした、樹脂加工業者をお探しの場合は、ぜひMitsuriまでご相談ください。日本全国で250社以上の協力企業と提携しているので、お客様のご希望に沿う加工業者が見つかります。お見積りは複数社から可能ですので、お気軽にお問い合わせください。

  • ABS樹脂とは?特徴、用途、種類、製品例

    ABS樹脂は、3種類の有機化合物を合成したプラスチックです。それぞれの成分の良い特徴を組み合わせることで、強度と柔軟性のバランスが良く、様々な耐性を持った素材になっています。安価で大量生産される汎用樹脂の一つに数えられることから、幅広い用途があります。製品例としては、液晶テレビやデジタルカメラの外装、自動車部品、文房具、各種ケースなどが挙げられ、私たちが利用する多様な製品に用いられています。この記事では、ABS樹脂の特徴や用途、種類などについて解説します。他の素材との性質の比較もしていますので、ABS樹脂について知りたい方は参考にしてください。ABS樹脂とはABS樹脂とは、アクリロニトリル、ブタジエン、スチレンという3種類の有機化合物を化学的に結合させた合成樹脂のことです。加熱によって軟化して可塑性を示し、冷却によって再び固化する「熱可塑性樹脂」に分類されます。正式名称はアクリロニトリル-ブタジエン-スチレン樹脂で、「ABS」は各有機化合物の頭文字からとった略称です。ABS樹脂は、上記3種類の有機化合物のポリマーであるポリアクリロニトリル、ポリブタジエンおよびポリスチレンの下表に挙げたような特性を組み合わせることで、それぞれの利点を活かしつつ、欠点を補うように作り上げた合成樹脂です。<ABS樹脂を構成するモノマーとそのポリマーの特徴>モノマー名称ポリマー名称ポリマーの特徴アクリロニトリル(acrylonitrile)ポリアクリロニトリル(polyacrylonitrile)高強度, 高剛性, 高硬度, 耐熱性, 耐候性, 耐油性, 耐薬品性ブタジエン(butadiene)ポリブタジエン(polybutadiene)高弾性, 耐衝撃性, 耐寒性スチレン(styrene)ポリスチレン(polystyrene)高強度, 高剛性, 高硬度, 脆い, 衝撃に弱い, 高流動性, 加工性が良い, 寸法安定性が良い, 耐薬品性, 電気絶縁性, 光沢性なお、ポリマーとは、その構成要素であるモノマー(スチレン分子など)が鎖状や網状に結合してできた高分子化合物のことです。そして、モノマーからポリマーを合成することを重合、2種類以上のモノマーからポリマーを合成することを共重合と言います。また、ABS樹脂は、熱可塑性樹脂の中でも、性能が比較的低いものの、低価格で生産量が多く、大量に消費される汎用樹脂の一つです。ポリエチレン(PE)やポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)、ポリ塩化ビニル(PVC)と並ぶ、5大汎用樹脂の一つに数えられることもあり、様々な用途・分野で使用されています。参考:塩ビ(ポリ塩化ビニル・PVC)とは?特徴・長所と短所・用途・加工方法ABS樹脂の特徴と用途ABS樹脂の機械的性質ABS樹脂の特徴は、まず強度や剛性、硬度と靭性(衝撃耐性)のバランスが良いことです。つまり、ABS樹脂は、壊れにくく、変形しにくく、その上、硬いにも関わらず、割れにくい素材であることを意味します。ABS樹脂は、下表に見られるように、ポリプロピレン(PP)やポリスチレン(PS)と比較して、「衝撃強さ」が特に大きく、強度や剛性、硬度のほか、靭性も兼ね備えていることが理解できます(下表参照)。<ABS・PP・PSの機械的性質>汎用樹脂の略称ABSPPPS引張強さ(MPa)23~5531~4136~52引張弾性率(MPa)1900~28001100~16002300~3300圧縮強さ(MPa)45~5238~5582~89曲げ強さ(MPa)66~9641~5569~101衝撃強さ(J/m)75~64022~7519~24ロックウェル硬さR100~120R80~102M60~75参照元:プラスチックの基礎「プラスチックの物性」株式会社KDAなお、上表の「ロックウェル硬さ」の「R」と「M」は、スケールの違いを意味し、RスケールよりもMスケールの方が高硬度です。このような優れた機械的性質から、ABS樹脂は、家電製品や電気・電子製品、機械の部品などに用いられています。ABS樹脂の熱的性質ABS樹脂の熱的性質は、耐熱温度が66~110℃、脆くなって壊れやすくなる脆化温度が-20℃と、一般的な用途での使用範囲としては充分に良好です。しかし、他の汎用樹脂と比べて特に優れているわけではなく、下表に見られるように、ABS樹脂の耐熱温度は、ポリスチレン(PS)やポリ塩化ビニル(PVC)よりは高いものの、ポリエチレン(PE)やポリプロピレン(PP)よりも低くなっています。<主要汎用樹脂の熱的性質>汎用樹脂の略称連続耐熱温度 (℃)熱変形温度 (℃)ABS66~11094~107高密度PE12143~54PP107~15052~60PS66~77~104硬質PVC66~7954~74参照元:技術情報「プラスチック物性一覧表 (熱可塑性)」華陽物産株式会社なお、上表の「熱変形温度」とは、18.5kg/cm2の荷重が加えられたときに変形が始まる温度のことです。ABS樹脂の腐食耐性耐薬品性について、ABS樹脂は、酸やアルカリ、塩類に耐性があります。しかし、強酸に対しては、これらが付着すると劣化してクラックなどが生じることがあります。溶剤には特に弱く、ケトンやエステル、塩素化炭化水素などの有機溶剤に接触すると溶解するので注意が必要です。一方、アルコールや炭化水素には不溶ですが、これらに長時間浸漬すると吸収して膨潤してしまいます。また、ABS樹脂は、紫外線の影響でブタジエン成分が酸化することから耐候性が低く、長時間直射日光に曝されると表面変色や光沢劣化が発生します。そのため、屋内で使用される家電製品や雑貨品などの材料には適しているものの、屋外での使用には向いていません。ただし、塗装を施したものや構成成分を変えて耐候性を高めたものの中には、十分に屋外使用に耐えうるABS樹脂が存在します。他の汎用樹脂と腐食耐性を比較したのが下表で、ABS樹脂の腐食耐性は汎用樹脂の中では低めです。<主要汎用樹脂の腐食耐性(数字が大きいほど耐薬品性が高い)>汎用樹脂の略称酸アルカリ塩類酸化(耐候性)有機溶剤ABS981044PE10101087PP10101087PS10101042硬質PVC10101095参照元:プラスチックの基礎「プラスチックの耐薬品性」株式会社KDAABS樹脂の加工性加工性が良好であることもABS樹脂の特徴です。ABS樹脂は、流動性に優れるため、射出成形や押出成形、ブロー成形などの樹脂成形全般に適しており、薄肉品なども容易に成形できます(成形時の条件・性質は下表参照)。<ABS樹脂の樹脂成形時の性質>性質の項目 (単位)値圧縮成形温度 (℃)149~230射出成形温度 (℃)177~316成形収縮率 (%)0.3~0.8 参照元:技術情報「プラスチック物性一覧表 (熱可塑性)」華陽物産株式会社ABS樹脂は、その流動性の高さから、3Dプリンターの材料としても有用です。プリンターのノズルで詰まったり、固まったりすることはほとんどなく、プリントしやすい樹脂として頻繁に用いられています。切削加工や曲げ加工の加工性も良好で、溶接や溶着、接着なども可能です。めっきや塗装などの表面処理も適用可能で、印刷特性にも優れます。ABS樹脂へのめっき例としては、銅めっきや金めっき、クロムめっきが挙げられ、めっきが施されたABS樹脂は、自動車の内外装部品や様々な機器の筐体などに用いられています。参考:樹脂加工とは?素材の種類と加工方法参考:射出成形の仕組みやメリットを解説!他の加工法との比較も参考:押出成形の仕組み・メリット・用途などを解説!参考:ブロー成形とは|特徴や仕組み、用途を解説!ABS樹脂の外観外観について、ABS樹脂の自然色は、光沢のある薄目のアイボリー色です。着色できる上、自然色に癖がないため、自由に色を着けることが可能です。光沢についても調節可能で、光沢を残すことも、艶を消してマットな質感にすることもできます。このABS樹脂の光沢を活かしたのが「ピアノブラック」と呼ばれる高級感のある色調です。ピアノブラックは、その名の通り、ピアノの高光沢の黒色のことで、家電製品の筐体や自動車の内装に採用されています。その鏡面のような仕上がりは、通常何層もの塗装とその研磨によって実現していますが、ABS樹脂を材料とする特殊な射出成形技術によっても実現可能です。ABS樹脂の電気的性質ABS樹脂は、電気絶縁性を示します。幅広い温度・湿度・周波数の範囲で良好な絶縁性を示し、誘電率も極めて低くなっています。ABS樹脂の燃焼性ABS樹脂は、可燃性です。とは言え、引火しやすいわけではなく、燃焼速度も速いわけではありませんが、ゴム臭を伴って煤を出しながら燃焼します。以上の特徴・性質は、ABS樹脂の成分比率や合成方法、ペレット(素材となる粒状の合成樹脂)のサイズによって変化します。一般的に、ABS樹脂を構成するアクリロニトリル・ブタジエン・スチレンの成分比率は、20:30:50となっており、この比率が異なると、性質も変わってきます。例えば、ブタジエンの比率が多いABS樹脂では、耐衝撃性が高くなりますが、強度や剛性、硬度、流動性、耐熱性は低くなります。一方で、ABS樹脂を販売している素材メーカーの多くは、成分比率や合成方法を公開しておらず、またデータシートなどに記載されている機械的性質などはメーカーによって異なります。従って、ABS樹脂を選定する際には、その違いを考慮する必要があります。ABS樹脂のメリット・デメリット以上のように、ABS樹脂は、様々な特徴がありますが、メリットとデメリットに分けてまとめると以下の通りです。メリット・機械的性質のバランスが良い・耐寒性に優れる上、耐熱性も比較的高いため、広い温度範囲で使用可能・耐薬品性を持ち、弱酸や弱アルカリ、塩類に強い・良好な電気絶縁性を示す・樹脂成形(射出成形・押出成形・ブロー成形・カレンダー成形など)に適している・多様な加工方法(切削加工・曲げ加工・溶接・溶着・接着など)にも対応している・表面処理(めっき・塗装など)の適用が可能・印刷特性が良好・自由な着色が可能・光沢の調整が可能・構成成分の比率を変えることで、性質の調整が可能・3Dプリンターの材料に使用可能デメリット・強酸や強アルカリに若干弱く、クラックなどの原因となる・有機溶剤に弱く、溶解する・アルコールや炭化水素を吸収し、膨潤する・紫外線に弱く、耐候性が低い・可燃性で、ゴム臭と煤を伴って燃焼するABS樹脂の種類ABS樹脂は、上述したように、構成成分の比率や合成方法などによって性質が大きく変わりますが、添加物を加えたり、構成成分を入れ替えたりすることでも、性能の向上や機能の付加を図ることが可能です。ここでは、そのような例をいくつかをご紹介します。強化ABS樹脂強化ABS樹脂は、主に機械的性質の向上を目的に繊維素材などを添加したABS樹脂です。ガラス繊維(Glass Fiber)を添加した「GF強化ABS樹脂」が最も多く採用されており、剛性強化や耐熱性向上を図ることができます。「CF強化ABS樹脂」と呼ばれる炭素繊維(Carbon Fiber)を添加したABS樹脂も存在し、強度や剛性、耐摩耗性を高める効果があるほか、軽量化が図れるという利点があります。そのほか、添加剤を加えて耐薬品性や耐候性を高めたものなど、様々な特性を強化したABS樹脂を素材メーカーは取り揃えています。αメチルスチレン系、フェニルマレイミド系αメチルスチレン系ABS樹脂とフェニルマレイミド系ABS樹脂は、ABS樹脂の耐熱性を高めたものです。αメチルスチレン系はスチレンをαメチルスチレンで代替したもの、フェニルマレイミド系はN-フェニルマレイミドを添加してスチレン成分に重合させたもので、フェニルマレイミド系の方が耐熱効果に優れます。ASA樹脂、ACS樹脂、AES樹脂ASA樹脂、ACS樹脂およびAES樹脂は、ABS樹脂の弱点である耐候性を改善するため、紫外線に弱いブタジエンをそれぞれ別の成分に入れ替えて共重合させた合成樹脂のことです。ASA樹脂(アクリロニトリル-スチレン-アクリル酸エステル樹脂)は、アクリルゴムにアクリロニトリルとスチレンを共重合させた合成樹脂です。耐候性や耐オゾン性に優れたアクリルゴムを用いることで、耐衝撃性を維持しつつ、耐候性の改善が図れます。ACS樹脂(アクリロニトリル-塩素化ポリエチレン-スチレン樹脂)は、ブタジエンの代わりに、耐候性や耐オゾン性、耐衝撃性に優れた塩素化ポリエチレンを用いた合成樹脂です。ABS樹脂よりも、優れた耐候性、耐帯電性および耐汚染性を示すほか、可燃性のABS樹脂とは異なり難燃性です, AES樹脂(アクリロニトリル-エチレン-プロピレン-ジエン-スチレン樹脂)は、ブタジエンの代替としてエチレンプロピレンジエンゴムを共重合させた合成樹脂です。ABS樹脂に比べて、耐候性に勝りますが、熱的性質に若干劣ります。下表は、これらの樹脂とABS樹脂の違いをまとめたものです。<ASA樹脂・ACS樹脂・AES樹脂とABS樹脂との違い>樹脂の名称入替前成分入替後成分ABS樹脂に勝る特性ASA樹脂ブタジエンアクリルゴム耐候性ACS樹脂塩素化ポリエチレン耐候性, 難燃性, 耐帯電性, 耐汚染性AES樹脂エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)耐候性ABS樹脂の製品例ABS樹脂は、外観の良さとバランスの取れた機械的性質などから、以下のような様々な製品に用いられています。●家電製品…テレビ、エアコン、冷蔵庫、掃除機、洗濯機、ポット、PC、ノートパソコン、デジタルカメラ、プリンター、ゲーム機など●自動車部品…メーターケース、カーナビフレーム、コンソールボックス、フロントグリル、ハンドルなど●建築部材…ドアや流し台、棚などの装飾部材(屋内用)、パイプなど●日用品…食器、トレー、密閉容器、スーツケース、キャリーケース、おもちゃ、スポーツ用品、家具、文具、楽器などABS樹脂とポリカーボネートとの性能の違いポリカーボネート(Poly Carbonate: PC)樹脂は、ABS樹脂と同じ熱可塑性樹脂の一つですが、汎用樹脂であるABS樹脂とは異なり、より高性能なエンジニアリングプラスチック(汎用エンプラ)に分類される合成樹脂です。ここでは、ポリカーボネート樹脂のABS樹脂との性能の違いについてご紹介します。参考:ポリカーボネート(PC)とは?加工方法と特徴外観の違いポリカーボネート樹脂の外観は、薄く色付いているABS樹脂とは違って、クリアな透明です。非常に透明性が高く、その透明度は光学機器に用いられるほどです。アクリル樹脂などと共に有機ガラスと呼ばれることがあります。機械的性質の違いポリカーボネート樹脂の機械的性質は、強度、剛性、硬度および靭性(耐衝撃性)の全てにおいてABS樹脂よりも優れています(下表参照)。特に、耐衝撃性は、汎用エンプラの中でも特に高く、銃弾の貫通を防ぐ防弾ガラスの材料にも使用されています。<ABS樹脂とPC樹脂の機械的性質の比較>汎用樹脂の略称ABSPC引張強さ(MPa)23~5564~66引張弾性率(MPa)1900~28002400圧縮強さ(MPa)45~5269~86曲げ強さ(MPa)66~9693衝撃強さ(J/m)75~640640~854ロックウェル硬さR100~120M70~72参照元:プラスチックの基礎「プラスチックの物性」株式会社KDA熱的性質の違いポリカーボネート樹脂は、熱的性質にも優れており、-100~140℃の温度範囲で使用可能です。ABS樹脂も-20~110℃の温度範囲で使用できることから決して悪くはありませんが、ポリカーボネート樹脂には劣ります(下表参照)。なお、ポリカーボネートの使用可能温度範囲の下限は、脆化温度のー100℃です。<ABS樹脂とPC樹脂の熱的性質の比較>汎用樹脂の略称ABSPC連続耐熱温度 (℃)66~110120熱変形温度 (℃)94~107 130~140参照元:技術情報「プラスチック物性一覧表 (熱可塑性)」華陽物産株式会社腐食耐性の違い耐薬品性について、ポリカーボネート樹脂は、酸とアルカリの双方に弱く、特にアルカリに対しては弱アルカリでも接触すると劣化します。この点、ABS樹脂の耐薬品性に劣っています。有機溶剤に対しても弱い特徴がありますが、これはABS樹脂も同様です。耐候性については、ABS樹脂よりは良好であるものの、紫外線による劣化は起こります。下表は、以上のポリカーボネート樹脂とABS樹脂の腐食耐性を数値化してまとめたものです。<ABS樹脂とPC樹脂の腐食耐性の比較(数字が大きいほど耐薬品性が高い)>汎用樹脂の略称ABSPC酸97アルカリ81塩類1010酸化 (耐候性)46有機溶剤43参照元:プラスチックの基礎「プラスチックの耐薬品性」株式会社KDA加工性の違いポリカーボネート樹脂は、ABS樹脂同様、樹脂成形加工と切削加工の加工性が良く、溶接にも適しています。ただし、曲げ加工については適用可能ですが、ABS樹脂ほど加工しやすいわけではありません。めっき方法も確立しており、塗装もABS樹脂と同様に可能です。燃焼性の違いそのほか、ポリカーボネート樹脂は、不燃性であるという利点があります。この点、可燃性のABS樹脂と比べると、使いやすい樹脂であると言えます。

  • PPS樹脂とは?性質、用途、メリット・デメリット

    PPSは、ガラス繊維などと合わせてプラスチック部品を形成する際に使用される結晶性樹脂です。成形時に充填する繊維の種類や配合など、組み合わせを変えることにより性能を強化することができます。完成された部品はスーパーエンジニアリングプラスチックという種類に分類されます。配合だけでなく、成形方法によっても特徴が変化するため、用途や目的に適したものを選ぶには、数ある特徴を正確に押さえておく必要があります。本記事ではPPSについて詳しくご紹介しますので、製品を考える際の参考にしてください。PPS樹脂とはPPS(ポリフェニレンサルファイド)は、融点が約280度、連続使用温度が220度という高い耐熱温度を持っている樹脂のことです。融点が高く、難燃剤を添加しなくても自己消化性に優れている他、高い耐薬品性や絶縁性など、さまざまな利点を兼ね備えています。PPSはベンゼンと硫黄の簡単な化学構造で構成された結晶性を持っており、ガラス繊維などの繊維状強化剤や無機質フィラーを充填させることで強度や性能を向上させて使用されます。PPSの用途PPSは、車やバイクなどのエンジン周りのパーツに欠かせない素材です。エンジンはガソリンなどの油を燃焼させ、そのエネルギーを動力としているため、稼働中は非常に高い温度環境に晒されます。PPS樹脂は200℃以上の高温環境下で連続使用できる耐熱性を兼ね備えている上、線膨張係数や寸法安定性にも優れています。しかも、金属より軽くコストも安いため、エンジンの部品として欠かせない素材となっています。PPSは絶縁性を持っていることから、コネクタやスイッチ、基盤やIC部品など、さまざまな電子部品やOA機器、家電製品などにも活用されています。特に、安全性を保つために高い耐熱性や成形性など、多くの性能を求められる電子レンジには欠かせない素材となっています。金属を使用できない検査機器や、酸・アルカリなど強い薬品への耐性が求められる機器などにも、寸法安定性や耐薬品性を兼ね備えているPPS樹脂が活躍します。また、医療器具に使用されている金属部品をプラスチックに置き換えることで、MRIに対応できるメリットがあります。プラスチックは金属に比べて軽い上にコストも安いため、医療機器の部品としてだけでなく、手術器具などにも使われ始め、注目が集まっています。PPSの長所・短所PPSにはさまざまな長所がありますが、もちろん短所もあります。それぞれについて詳しくご紹介します。長所●耐熱性200度を超える環境でも連続使用ができるため高温下での耐熱性能がフォーカスされがちですが、実は寒い環境にも耐性があり、約マイナス20度まで耐えることが可能です。●耐薬品性酸性、アルカリ性をはじめとする薬品に対して耐性を持っているほか、有機溶剤や油脂などさまざまな化学品への耐性があります。200度に近い高温環境下で有機溶剤や油脂を扱っても、耐熱性、耐薬品性共に高い抵抗力を維持することができます。●絶縁性PPSは誘電率、誘電正接共に低く周波数に対しても耐性がある、電気絶縁性の高い素材です。温度への耐性も含め、電子レンジやOA機器など、近年の電子機器に求められる条件を兼ね備えています。●耐久性PPSは部品に対して継続的に負荷がかけられる状況下でも極めて変形量が少ない特徴を持っています。そのため、クリープや応力緩和特性の試験においても良好な数値を示しています。●寸法安定性部品成型時の収縮率が小さく吸水性も低いため、さまざまな環境下でも製品が型崩れをしない高い寸法安定性を持っています。●材料異方性結晶性樹脂であるPPSは、ガラス繊維をはじめとする剛性の高い繊維で強化する際、繊維の性質に支配される高い材料異方性を持っています。そのため、繊維との配合によって強度や弾性率、伸びなどの機械的性質や、成形収縮率、線熱膨張、熱変形温度など、さまざまな性能を向上させることが可能です。短所●耐衝撃性耐久性の高いPPSですが、瞬間的な衝撃への耐性が低いため、落下する可能性がある機器などの素材には不向きです。●耐摩耗性熱耐性が強いためエンジンやブレーキなどの部品として選ばれやすい傾向にありますが、摩耗への耐性が低いため注意が必要です。PPSの機械的性質PPSはさまざまな温度下において引張強度や曲げ強度、高い剛性を維持することができます。ポリエチレンやポリスチレン、アクリルなど、さまざまなプラスチックの引張強度が高くても10kgf/㎟であるのに対し、PPSは無充填時で7.0kgf/㎟、グラスファイバーを40%充填することで16.4kgf/㎟という高い強度を示します。PPSの物理的性質結晶性を持つ材料のPPSは、無充填時でも密度が1.34g/㎤、グラスファイバー40%充填時では、1.64g/㎤となっています。溶融状態のベースポリマの密度が1.05g/㎤であることを考慮すると、極めて高い数値と言えます。結晶性を持ち、融点290度という高い耐熱性を兼ね備えていることから、熱処理のしやすい性質を持っています。

  • ポリプロピレン(PP樹脂)とは?特徴、用途、性質、メリット・デメリット

    今回は、ポリプロピレンの特徴や用途、機械的性質などについて解説します。ポリプロピレンは、合成樹脂(プラスチック)のなかでも「汎用樹脂」と呼ばれる材料の一種です。汎用樹脂は、主に日常でよく使われている家庭用品・雑貨・包装材料などに採用されています。そのなかでもポリプロピレンは、同じ汎用樹脂であるポリエチレンに次いで生産量が多く、幅広い用途で活用されている材料です。ポリプロピレンとポリエチレンは、似た性質を多く持ちますが、違いもいくつかあります。この記事では、ポリプロピレンとポリエチレンの違いについてもご紹介します。参考:樹脂加工とは?素材の種類と加工方法ポリプロピレン(PP樹脂)とはポリプロピレン(PP樹脂)とは、炭素と水素からなる重合体(ポリマー)で、汎用樹脂の一種です。プラスチックのなかでも生産量が非常に多く、比重が0.9と軽量な材料です。製法も、射出成形・押出成形・ブロー成形・真空成形などと豊富で、大量生産に適しています。また、最新のテクノロジーである3Dプリンタの材料としても利用されています。参考:射出成形の仕組みやメリットを解説!他の加工法との比較も参考:押出成形の仕組み・メリット・用途などを解説!参考:ブロー成形とは|特徴や仕組み、用途を解説!参考:3Dプリンタとは?3Dプリンタの基礎を丁寧に解説!ポリプロピレンの特徴と用途ポリプロピレンは、熱可塑性樹脂であるため、熱を加えると変形する特徴を持ちます。反りが発生しやすい材料のため、ポリプロピレンの製品を作る際は、反りにくい形状に設計する必要があります。しかし、耐薬品性・耐摩耗性・耐衝撃性・軽量性に優れており丈夫で傷が付きにくい性質を持つことから、自動車部品や食品容器、医療機器などの幅広い分野で採用されています。また、低コストで量産が可能なので、家庭用品・雑貨・包装材料などにも使われています。ポリプロピレンのメリットとデメリットメリット●軽量性ポリプロピレンは、比重が0.9と軽量です。比重が1よりも低いことから、水に浮かぶほどの軽量性を有しています。そのため、製品の軽量化目的で採用されることがあります。●耐熱性ポリプロピレンは、熱可塑性樹脂のなかでも耐熱温度が高い傾向にあります。●耐薬品性ポリプロピレンは、薬品による影響を受けにくいため、科学機器や医薬機器などにも多く採用されています。●機械的強度に優れるポリプロピレンは、機械的強度に優れており、表面が硬くて耐摩耗性も良好です。●低コストで大量生産できるポリプロピレンは、切削加工や曲げ加工などの加工がしやすく、射出成形や押出成形などさまざまな製法に対応できます。金型を使った製造をすれば、低コストで大量生産が可能です。デメリット●耐候性に乏しいポリプロピレンは、一般的に紫外線に弱く、日光に当たると白くなってしまうので、屋外での使用には適していません。ただし、酸化防止剤などの添加剤を入れることで、改善が見込めます。●接着しにくいポリプロピレンは、接着性に乏しい特徴があります。表面を粗くするなどの下地処理を施すことで改善はされますが、金属を接着するほどの強度を得るのは難しいです。●印刷しにくいポリプロピレンは、そのままだと印刷が難しい材料です。印刷したい場合は、接着のときと同じく下地処理を施す必要があります。ポリプロピレンの機械的性質ポリプロピレンは多くのグレードが存在しており、グレードによって強度に幅があります。一般的なグレードにおける引張強度は30MPa程度です。そのほかの機械的性質については以下の表を参考にしてください。<ポリプロピレンの機械的性質>項目最小値最大値平均値標準偏差引張降伏応力 (MPa)    2641--引張破壊応力 (MPa)    ----引張弾性率(ヤング率)(MPa)60022001313336ポアソン比----曲げ強度 (MPa)254731.96.4曲げ弾性率 (MPa)    65023001291356圧縮永久歪(%)    ----シャルピー衝撃強度(kJ/m2)1667.87.4アイゾット衝撃強度(kJ/m2)----表面硬度6211089.111.2引用元:機械設計エンジニアの基礎知識 ポリプロピレン樹脂(PP)の物性・用途・特性ポリプロピレンの熱的性質ポリプロピレンは熱に強い樹脂のため、ポリプロピレン製の耐熱容器は電子レンジにも対応できます。小さな荷重が加わる場合でも、製品の構造によりますが、100℃近い温度で連続して使うことができます。例えば、市販されているポリプロピレン製のパイプは、0.2MPaの圧力で耐熱温度は90℃です。<ポリプロピレンの熱的性質>項目最小値最大値平均値標準偏差ビカット軟化温度 (℃)110140119.210.5荷重たわみ温度 (℃)6512593.114.4線膨張係数:流動(×10-5/℃)----線膨張係数:直角(×10-5/℃)----引用元:機械設計エンジニアの基礎知識 ポリプロピレン樹脂(PP)の物性・用途・特性ポリプロピレンとポリエチレンの違いポリエチレンは、ポリプロピレンと同じく汎用樹脂の一種です。ポリプロピレンとポリエチレンは以下のような多くの共通点があります。●ポリプロピレンとポリエチレンの共通点・炭素と水素からなるポリマー・熱可塑性樹脂で射出成形・押出成形など、金型を使用した多くのプラスチック成形に対応しており、安いコストで大量生産が可能・絶縁体・比重が軽い(ポリプロピレン:0.9、ポリエチレン:0.95)・吸水率が低く、寸法安定性が良好・誘電率が低く、高周波材料として使われる。電子レンジで発熱しない・無臭、無毒一方で、ポリプロピレンとポリエチレンの違いについては以下の要素が挙げられます。●ポリプロピレンとポリエチレンの相違点・ポリプロピレンは硬く、ポリエチレンは柔らかい・耐候性はポリエチレンの方が優れる・耐熱温度はポリプロピレンの方が優れる・融点はポリプロピレンの方が高い・ポリプロピレンは無色透明に近いものができるが、ポリエチレンは白濁したもののみポリプロピレンとポリエチレンの特徴的な違いは、透明性や耐熱性です。内容物を確認したい場合や、滅菌処理をしたい場合などの違いで、それぞれの材料が使い分けられています。

  • PEEKとは?用途、種類、性質、メリット・デメリット

    今回は、PEEKの基礎知識について解説します。PEEKは、スーパーエンジニアリングプラスチックと呼ばれる、熱可塑性樹脂の一種で、エンジニアリングプラスチックに比べて高い性能を有しています。多くのメリットを持つプラスチックであるため、安全性が求められる製品や、金属部品の代わりとして多く採用されています。この記事で、PEEKの特徴や用途などについて詳しく見てみましょう。参考:樹脂加工とは?素材の種類と加工方法PEEKとはPEEK(ピーク)とは、Poly Ether Ether Ketone(ポリエーテルエーテルケトン)と呼ばれる樹脂の略称で、PAEK(ポリアリールエーテルケトン)、あるいは芳香族ポリエーテルケトンと呼ばれるポリマー群の一種です。PAEKは、アリール基・エーテル基・ケトン基から構成されるポリマー群で、これらの官能基の組み合わせや配列などにより、さまざまな種類の樹脂が存在します。そのなかでもPEEKは豊富なメリットを持つため、PAEKの代表的な樹脂として採用されています。また、PEEKは、熱可塑性樹脂のスーパーエンジニアリングプラスチック(スーパーエンプラ)に該当する樹脂で、スーパーエンプラのなかでも代表的な樹脂として扱われています。スーパーエンプラは、工業用として耐熱性や機械的強度を向上させていますが、PEEKは特に耐熱性や耐薬品性などに優れています。PEEKのメリットとデメリットメリット●耐熱性・耐高温性・耐加水分解性PEEKは、スーパーエンジニアリングプラスチックのなかでも、耐熱性・耐高温性・耐加水分解性が非常に優れた材料です。連続使用温度は250℃程度とされており、熱老朽にも強い特徴があります。耐熱水性にも優れており、200~250℃のスチームの中でも連続使用が可能です。そのためスチーム滅菌も可能で、短時間であれば300℃の高温にも耐えられる性能を有しています。●耐薬品性PEEKは、非常に優れた耐薬品性を有しています。多くの酸やアルカリ、有機溶媒に対して耐性があり、高温化でも耐えられるプラスチックです。ただし濃硫酸などの強酸には耐えられないので注意してください。●機械特性・クリープ特性・耐摩耗性PEEKは、広い温度範囲において高い強度と剛性を示し、機械特性にも優れたプラスチックです。強度については、ガラス繊維やカーボン繊維によって、さらに強化されます。また、クリープ特性や耐摩耗性にも優れており、金属の代替品としても活用されています。●耐放射線性熱加工性を持つ一般的な樹脂は、電磁波や放射線の影響により、脆くなる特徴があります。しかし、PEEKは科学的構造が安定しているため、電磁波や放射線のある環境下でも使うことが可能です。●難燃性PEEKは、難燃性の材料であるため、摩擦熱などの熱で燃える可能性が、他のプラスチックに比べて少ないです。また、燃焼時の発煙や腐食性ガス、有毒ガスなどが極めて少ないのもメリットです。デメリット●コストが高いPEEKは豊富なメリットを持ちますが、他のプラスチックに比べてコストが高いです。PEEKの用途PEEKは、豊富なメリットを持つことから、航空・宇宙・自動車産業、食品加工産業、医療分野、電子産業など、さまざまな業界で採用されています。金属の代替品として使われることもあり、自動車の性能向上や軽量化、コスト削減のために、金属部品の代わりとして多用されています。ギア・ワッシャー・ベアリングなどのパーツ類もPEEKにて製造が可能で、高温時でも優れた機械的性能や耐摩耗性、耐薬品性などを要する場合にPEEKが用いられます。PEEKの種類一般的にPEEKと呼ばれているものは、さまざまなグレードがあるうちのひとつである、基本グレードのことを指しています。ここでは基本グレードにさらに特性を付与した他のグレードについて、いくつかご紹介します。摺動グレード摺動グレードは、基本グレードに炭素繊維・グラファイト・四フッ化エチレン(PTFE)を充填したグレードで、基本グレードに比べて耐摩耗性や摺動性に優れています。用途としては、軸受やライナーなどの摺動部品に採用されています。ガラス繊維強化グレードガラス繊維強化グレードは、基本グレードに比べて高い剛性と耐クリープ性を持ちます。また、寸法安定性も良好です。主に静的荷重が長時間かかる場所に使用されています。カーボン繊維強化・導電グレードカーボン繊維強化・導電グレードは、ガラス繊維強化グレードに比べてより高い剛性を持つほか、機械的強度やクリープ性、耐摩耗性にも優れています。カーボン繊維を採用していることから、基本グレードに比べて約3.5倍高い熱伝導率も有しており、部品に発生した熱を素早く放散します。用途としては、静電気やほこりなどを嫌う環境で採用されています。PEEKの物理的・機械的性質<PEEKの物理的・機械的性質>比重引張強さ(MPa)破断時伸び(%)圧縮強さ(MPa)曲げ強さ(MPa)衝撃強さ (アイゾット ノッチ付)(J/m)1.371-10330-15012511085引用元:株式会社KDA PEEK(ピーク)樹脂の物性物性表1 ※引用資料「プラスチック読本」(プラスチックス・エージ発行)PEEKの熱的性質・成形時の性質・吸水性<PEEKの熱的性質・成形時の性質・吸水性>線膨張率(×10-5/℃)荷重たわみ温度(1.81MPa)(℃)成形温度(射出成形)℃成形温度 (押出成形)℃吸水率 (24h)(重量%)4.0-4.7 (<150℃)160350-400350-3800.10-0.14引用元:株式会社KDA PEEK(ピーク)樹脂の物性物性表1 ※引用資料「プラスチック読本」(プラスチックス・エージ発行)

  • ポリアセタール樹脂(POM)種類・製法・特徴・加工方法

    ポリアセタール樹脂(POM)は、耐衝撃性や耐摩耗性、機械的性質に優れるプラスチック素材です。さまざまな生活用品や、家電製品、機械部品、自動車部品、配管部品、ハードウェア部品、電子部品、電気部品などに用いられており、私たちの生活には欠かせない素材の一つです。今回は、ポリアセタール樹脂(POM)について、種類・製法・特徴・加工方法など幅広い内容について解説します。参考:樹脂加工とは?素材の種類と加工方法ポリアセタール樹脂(POM)とはポリアセタール樹脂は、ポリオキシメチレン(polyoxymethylene)の構造(-CH2O-)を持つポリマーであり、その略記号を用いてPOMと呼ばれています。ポリアセタール樹脂(POM)は、耐衝撃性や耐摩耗性に優れており、「エンジニアプラスチック(特に強度や耐熱性などの特性に優れるプラスチック)」に分類されます。このようなプラスチックは、プラスチックの最大の欠点である熱劣化性を改善した材料であり、金属の代替部品として幅広い用途に利用されています。ポリアセタールとジュラコンとデルリンの違いポリアセタール樹脂(POM)は、複数の会社で製造されており、それぞれ製品名が異なります。代表的な製品として、ポリプラスチックス社のジュラコン®(DURACON®) とデュポン社が開発したデルリン®(Delrin®) が挙げられます。この2つの製品の違いは、分子構造です。ジュラコン®はコポリマーであるのに対し、デルリン®(Delrin®)はホモポリマーと呼ばれる分子構造を持ちます。ポリアセタールの種類と製法前述した通り、ポリアセタール樹脂(POM)は、分子構造によってホモポリマーとコポリマーに分類されます。それぞれの構造について製法と合わせて、以下説明します。ホモポリマーホモポリマーの構造を持つポリアセタール樹脂(POM)は、上図のような分子構造を有します。ホモポリマーとは、モノマー(ポリマーを構成する化合物の単位)が一種類のポリマーを指します。ホルムアルデヒドを原料とし、重合を行って製造されます。コポリマーコポリマーの構造を持つポリアセタール樹脂(POM)は、上図のような分子構造を有します。コポリマーとは、二種類以上のモノマーから構成されるポリマーを指します。コポリマーは、ホルムアルデヒドから三量体であるトリオキサンを生成し、エチレンオキサイドなどのコモノマーとともに重合することで製造されます。ポリアセタールの特徴と用途ポリアセタール樹脂(POM)は、耐摩耗性、剛性や靭性などの機械的性質のほか、耐疲労性や耐クリープ性に優れる素材です。他にも、金属と比較して軽量な素材であることから、より軽い部品、製品の設計が可能となります。また、寸法安定性に優れ、精密部品への使用にも向いています。このような優れた特徴を有するポリアセタール樹脂(POM)は、金属に代わる素材として、さまざまな分野において採用されています。特に、耐久性が必要とされる部品に多用されています。●ポリアセタール樹脂(POM)の主な用途・ギヤ(歯車)やベアリング・生活用品(ファスナー、クリップ、文房具)・自動車部品(燃料ポンプ、ドアロック・ドアラッチ、シートベルトロック機構)・機械部品(半導体製造装置部品、電子機器部品、産業機械部品)・楽器(リコーダーや木管楽器など)ポリアセタールの長所ポリアセタール樹脂(POM)の優れた特徴についてご紹介します。耐衝撃性靭性が高いため衝撃への耐性に優れます。耐熱性耐熱温度は、ホモポリマー約85℃、コポリマー約105℃です。短時間であれば、150℃でも使用可能です。高温での使用のほか、低温耐性にも優れ零下40℃前後まで使用できます。耐薬品性薬品や溶剤への耐性に優れ、薬品による劣化の影響を受けにくい素材です。ただし、強酸には耐性がないため注意が必要です。寸法安定性寸法安定性に優れます。精密部品への使用にも最適です。耐摩耗性自己潤滑性が高い、つまり摩擦係数が極めて小さいためほとんど摩耗しません。ポリアセタール樹脂(POM)は、プラスチックの中でも特に耐摩耗性に優れる素材です。ポリアセタールの短所さまざまな優れた特徴を持つポリアセタール樹脂(POM)ですが、次のような短所もあります。難燃性ポリアセタール樹脂(POM)の分子構造には、酸素(O)が含まれます。そのため、酸化指数が高く燃えやすい材料であるため、注意が必要です。耐候性紫外線(UV)安定性が低く、屋外での使用など長時間紫外線にさらされるような環境においては素材が劣化し、色の変化や強度の低下などが発生します。そのため、屋外での使用には、安定剤やUV吸着剤などを含む製品を利用する必要があります。接着性接着性に優れず、塗装などを行うことが困難です。ただし、溶接は可能です。ポリアセタールの加工方法ポリアセタール(POM)の成形、接着・溶着の加工方法について、説明します。射出成形・ブロー成形ポリアセタール(POM)の主な成形加工方法として、射出成形とブロー成形が挙げられます。ポリアセタール(POM)は熱可塑性樹脂であるため、加熱によって軟化させ成形し、冷却して固化することができる素材で、成形加工性にも優れます。参考:射出成形の仕組みやメリットを解説!他の加工法との比較も接着と溶着前述した通り、ポリアセタール(POM)は接着性には優れません。通常の接着剤を使用しての接着は極めて困難であるため、ポリアセタール(POM)の接着には特殊な方法を用いる必要があります。一つ目の方法は、エッチングなどの表面加工を利用して、その後に接着剤を使用して接着する方法です。なお、エッチングとは化学薬品を利用して、化学反応による腐食作用によって、被加工物表面を溶解させる加工方法です。また、溶着を用いる方法も有効です。溶着とは樹脂などの非鉄金属を接合する技術です。この方法を用いれば、ポリアセタール(POM)の接着が可能です。参考:【エッチング加工とは?】価格や加工例、製造工程までご紹介!ポリアセタールとナイロンの比較と使い分けエンジニアプラスチックには、ポリアセタール樹脂(POM)のほかにもナイロンが挙げられます。ナイロンには、PA6(Polyamide 6)とPA66(Polyamide 6)が存在し、それぞれ6ナイロン、66ナイロンと呼ばれます。<6ナイロン><66ナイロン>上図に、6ナイロン、66ナイロンの分子構造を示しました。分子構造からわかる通り、ナイロン(ポリアミド系樹脂)はアミド結合(-CONH-)を有するポリマーです。ナイロンは、耐衝撃性、耐摩耗性、耐熱性、耐薬品性に優れるほか、高い靱性・引っ張り強度を示します。特に、ナイロンの融点は6ナイロンが225℃、66ナイロンが265℃と、ポリアセタール樹脂(POM)をはじめとするその他のプラスチックよりも、高い融点を示します。そのため、金型を使用してナイロンを成形する際には、温度の管理をより注意して行う必要があります。また、ナイロンは吸水性があり、寸法安定性が低いという特徴があります。そのため、精密部品の製作には、寸法安定性の高いポリアセタール樹脂(POM)の使用が適切です。

  • 塩ビ管(塩ビパイプ)種類・特徴・用途・規格まとめ

    今回は塩ビ管の種類や特徴、用途などについて解説します。塩ビ管とは、主に配管で使われている部材です。塩ビ管は、水道や下水道管などで流体を流すだけでなく、ケーブルを通す保護管としても採用されることがあります。塩ビ管は鉄製の管に比べて施工性・軽量性・経済性などに優れているのが特徴です。塩ビ管に使われている素材のポリ塩化ビニルは、塩化ビニル(クロロエチレン)を重合させたプラスチックです。ポリ塩化ビニルは熱可塑性樹脂の一種で、五大汎用樹脂とも呼ばれています。参考:樹脂加工とは?素材の種類と加工方法塩ビ管(塩ビパイプ)とは塩ビ管とは、ポリ塩化ビニルでできた配管素材のことです。塩ビ管の正式名称は「硬質ポリ塩化ビニル管」で、通称「ポリ塩化ビニル・塩化ビニル樹脂」とも呼ばれています。塩ビ管は鉄製の管よりも流体の流れる抵抗が少なく、腐食にも強い特徴があります。軽量性にも優れており、取り扱いやすいのもポイントです。塩ビ管の素材であるポリ塩化ビニル(PVC)は合成樹脂(プラスチック)です。ポリ塩化ビニルは加工性に優れ、軟質から硬質まで幅広い成型品を製造できます。また、耐水性・耐酸性・耐アルカリ性・電気絶縁性・耐候性・難燃性・経済性など、多くの メリットがあります。一方で、耐熱性・耐衝撃性が低い点はデメリットです。参考:塩ビ(ポリ塩化ビニル・PVC)とは?特徴・長所と短所・用途・加工方法塩ビ管(塩ビパイプ)の種類と色、用途塩ビ管は大きく分けてVP管とVU管があります。VP管は厚肉、VU管は薄肉の特徴があり、用途に合わせて使い分けられています。また、VP管には耐火性・耐衝撃性・耐熱性をそれぞれ向上した種類もラインナップしています。ここでは、各種類の特徴について解説します。塩ビ管の色が違う理由塩ビ管は種類ごとに色が異なります。一般的に、VU管とVP管はグレー、耐火VP管は緑色、HI管・HIVP管は黒色または濃紺色、HT管・HTVP管は赤茶色で分けられています。VU管(グレー)引用元:ダンドリープロ 塩ビパイプ(VPパイプ・VPパイプ)とはVU管は、VP管と比べて薄肉で、主に無圧管路に使用する塩ビ管です。低層住宅の排水系統や、埋設では自然流下用途(下水用・土木用・排水用)に採用されています。VU管は薄肉管なので、VP管と比べて重量が軽いメリットがありますが、圧力には弱く、中~高圧管路用には使用できません。VP管(グレー)引用元:ダンドリープロ 塩ビパイプ(VPパイプ・VPパイプ)とはVP管は、一般的に圧力用の上農水道埋設用・建築給水用に採用されています。そのほかにも集合住宅の排水・通気配管や浅埋設・深埋設の用途でも採用されます。VP管はVU管に比べて厚肉でたわみにくい特徴があります。また、内面が滑らかで摩擦抵抗が小さいことから、粘性の高い液体などが付着しにくく、排水効率に優れています。しかし、直射日光により、塩ビ管の表面温度が上昇すると、塩ビ管の裏側との温度差により反りが発生するので注意が必要です。耐火VP管(緑色) 引用元:ダンドリープロ 塩ビパイプ(VPパイプ・VPパイプ)とは耐火VP管は、火災時の延焼を防止する塩ビ管です。主に集合住宅や店舗等の建物内の雑排水・汚水・雨水排水などの排水設備用として使われています。耐火VP管は、内層・中間層・外層の3層で構成されており、内層と外層は従来の硬質ポリ塩化ビニル樹脂を、中間層には耐火性硬質ポリ塩化ビニル樹脂を採用しています。また、VP管と寸法や性能が同等で、軽量性にも優れており施工が簡単に行えます。HI管・HIVP管(黒色) 引用元:ダンドリープロ 塩ビパイプ(VPパイプ・VPパイプ)とはHI管(HIVP管)は、耐衝撃性能を向上させた塩ビ管です。主に寒冷地での使用や、施工時における、外部衝撃による破損を防止する場面に採用されています。従来の塩ビ管は、低温環境だと耐衝撃性が低下する傾向にありましたが、HI管は粘り強さがあることで、衝撃を吸収します。また、優れた可とう性を有しているほか、管軸・管側方向の荷重に対する接合部の信頼性も高く、地震に強い管路を構築できます。一方で高性能であることから、配管コストがかかる点はデメリットです。HT管・HTVP管(赤茶色)引用元:ダンドリープロ 塩ビパイプ(VPパイプ・VPパイプ)とはHT管(HTVP管)は、耐熱性を向上させた塩ビ管で、給湯配管、冷・暖房管、温泉配管などの用途に採用されています。HT管は熱伝導率が非常に小さい特徴があり、配管内部の流体の保温性に優れています。また、金属管とは異なり、錆びや腐食による水質悪化や電食、漏電事故などの心配もありません。しかし、高性能な塩ビ管のため、配管コストが増加します。塩ビ管の規格(サイズと太さ)塩ビ管のサイズ選びで見ておくべきポイントとして「呼び径」があります。呼び径は管の太さを表す呼称ですが、管の呼び径=管の外径というわけではありません。また、VP管に関しては呼び径と概略内径が近い値を示していますが、実際のところ呼び径は内径とも異なります。JIS規格では、塩ビ管は外径を基準寸法としており、外径から厚さを差し引いた分が内径になるので、内径の値は参考値となります。以下に、JIS K 6741:2016 硬質ポリ塩化ビニル管の規格に記載されている、一部の呼び径を抜粋したものを参考として記載します。<VP・HIVP管の外径・厚さ・概略内径>呼び径外径厚さ参考基準寸法最小許容差概略内径1318.02.2+0.6131622.02.7162026.0202532.03.1+0.8253038.0314048.03.6405060.04.1516576.0677589.05.577引用元:JIS K 6741:2016 硬質ポリ塩化ビニル管<VU管の外径・厚さ・概略内径>呼び径外径厚さ参考基準寸法最小許容差概略内径4048.01.8+0.4445060.0566576.02.2+0.6717589.02.783100114.03.1+0.8107125140.04.1131150165.05.1154200216.06.5+1.0202250267.07.8+1.2250引用元:JIS K 6741:2016 硬質ポリ塩化ビニル管JIS K 6741:2016 硬質ポリ塩化ビニル管では、VP管(HIVP管)の呼び径は13~300まであります。一方でVU管は呼び径40~600まであります。上の2つの表を見比べると、VP管とVU管で同じ呼び径のものは、同じ外径の寸法を示していることが分かります。ただし、厚みの寸法はそれぞれで違うので、内径の寸法はVP管とVU管で異なります。

  • 塩ビ(ポリ塩化ビニル・PVC)とは?特徴・長所と短所・用途・加工方法

    今回の記事では塩ビについての特徴・加工方法・用途などについて解説します。塩ビ(ポリ塩化ビニル・PVC)は熱可塑性樹脂の一種で、五大汎用樹脂とも呼ばれるほど汎用性が高い材質です。用途としては、上下水道管や波板などの建築資材や、家具のレザーなどに採用されており、私たちの身近なところでも、比較的見かけることが多いでしょう。参考:樹脂加工とは?素材の種類と加工方法塩ビとは?塩ビとは、「塩化ビニル樹脂」または「ポリ塩化ビニル」の略称で、塩化ビニル(クロロエチレン)を重合させたプラスチックの一種です。英語ではPVC(Poly Vinyl Cloride)と表記します。また、軟質PVCはソフトビニールやソフビとも呼ばれています。塩ビは、ポリエチレン(PE)・ポリプロピレン(PP)・ポリスチレン(PS)と同じく、五大汎用樹脂に分類される材料です。性能はあまり高くないものの、安価で生産量が多い特徴があります。また、製造過程において可塑剤の添加量を調整することで、硬質・軟質の製品が得られるのも特徴です。塩ビは安価かつ大量に生産されているエチレンと塩素を原料としており、石油を原料とする他のプラスチック製品と比べて省資源で製造できます。ポリ塩化ビニルと塩化ビニルの違いモノマーである塩化ビニル(クロロエチレン)を、繰り返し結合したものをポリ塩化ビニルと呼びます。ポリ塩化ビニルの「ポリ」という言葉は、ポリマー(重合体)からきたもので、「たくさん」という意味があります。しかし、一般的に呼ばれている「塩ビ」は塩化ビニルではなく、ポリ塩化ビニルを指しているケースが多いので注意が必要です。軟質PVCと硬質PVC塩ビには「軟質PVC」と「硬質PVC」の2種類があります。軟質PVCは柔らかい素材で、多少厚みがあるものでも手で曲げられるほどの柔軟性があります。一方、硬質PVCは硬くて強度に優れています。これらの違いは硬さだけでなく、物性や機械的性質にも違いがあります。一例を挙げると、比重は軟質PVCで1.16~1.35、硬質PVCで1.30~1.58と値が異なります。引張強さにおいても軟質PVCは6.9~25MPa、硬質PVCは34~62MPaと大きく違いがあります。PVCの重合度(分子量)比較的小さな分子であるモノマーが、繰り返し結合したものをポリマーと呼びますが、この繰り返し結合した度合いのことを「重合度」と呼びます。PVCは以下の表のように、重合度を変えることでさまざまな用途に活用できます。<PVCの重合度の違いによる分類>平均重合度用途別分類150~400接着剤600~700硬質射出成型品700~800硬質フィルム、シート、ボトル1000硬質パイプ、一般軟質品、波板1300~1800軟質フィルム、電線被覆2000~4000パッキン、床材表面層引用元:ダイヤモンドホイール・ダイヤモンド砥石・CBN工具・CBN砥石と研削研磨の情報サイト ポリ塩化ビニル(PVC)の素材としての特徴|物性と用途、特性についてPVCは、クロロエチレンのみで重合したPVC-S(ストレートPVC)と、ほかの物質との共重合体であるPVC-Mがあります。PVC-Mには、プロピレンと塩ビとの共重合体、酢酸ビニルと塩ビとの共重合体などがあります。塩ビの特徴(長所と短所)ここでは主な塩ビの長所と短所についてご紹介します。塩ビの長所・耐薬品性:薬品に対しての耐性が強い。・耐酸性、耐アルカリ性:酸やアルカリに強い。・耐水性:水を通さない。・電気絶縁性:電気を通しにくい。・難燃性:酸素指数が45~49と高く、自己消火性樹脂に分類される。・耐久性:通常の使用環境下での経年劣化が少ない。・着色やプリント加工性:着色や柄のプリントが可能。・価格が安価:他の材質に比べて価格が安価。重量も重たくないので、運送費や管理費なども抑えられる。塩ビの短所(耐熱温度と融点)・耐熱性:塩ビの耐熱温度は60~80℃、融点は85~210℃程度と、耐熱性に乏しい。・耐衝撃性:他の五大汎用樹脂と比べて耐衝撃性に乏しい。特に低温環境だと衝撃値が低下する。塩ビの加工方法ここでは塩ビの加工方法として代表的なものである、押出成形・カレンダー成形・射出成形・熱成形・ディッピング加工・コーティング加工を解説します。押出成形押出成形は、押出機のなかに溶融した原料を入れ、口金から押し出して成形する加工方法です。パイプなどのように、断面形状がシンプルな形状の製品を作るのに適しています。口金の形状を変えることで、押し出される製品も形を変えられます。カレンダー成形カレンダー成形は、シートやフィルムなどの平らな製品を成形するのに活用される加工方法です。何本もある加熱したロールに、原料を通して圧延したあと、冷却ロールに通して厚みを調整し、材料を巻き取ることで、シートやフィルム状の塩ビを成形します。射出成形射出成形は、金型に溶融した原料を流し込んで固める成形方法です。立体的な製品を成形可能で、押し出し成形よりも複雑な形状を生産できます。製品のサイズも小さいものから大きなものまで対応が可能です。参考:【金型製作】金型の種類と基礎や流れについて徹底解説!!熱成形熱成形は、押出成形やカレンダー成形であらかじめ生産した板状の製品を加熱し、空気や気圧を利用して型の形に成形する加工方法です。型のなかにある空気を吸い取り、大気圧で型に押し付ける手法を「真空成形」、大気圧ではなく圧縮空気で金型に押し付ける手法を「圧空成形」と呼びます。ディッピング加工引用元:塩ビ工業・環境協会 塩ビ樹脂の配合・加工方法ディッピング加工は、ペンチなどの取っ手を保護するカバーのように、皮膜を形成する際に活用されている加工方法です。塩ビ樹脂溶液に皮膜を形成したいものを浸漬し、熱乾燥することで皮膜を形成できます。コーティング加工引用元:塩ビ工業・環境協会 塩ビ樹脂の配合・加工方法コーティング加工は、繊維材料などに樹脂溶液を塗布して熱乾燥処理する加工方法です。上図はドクターナイフ法と呼ばれる方式で、厚みの調節が自由に行えます。表面に凹凸の模様を入れるエンボス加工にも対応が可能です。塩ビの用途塩ビは耐久性・耐薬品性・電気絶縁性などに優れている特徴から、幅広い用途で採用されています。建築資材で使われることの多い材料のため、塩ビの取扱いがない方でも目にする機会は多くあります。軟質PVC硬質PVC床材壁紙家具や車などのレザー人工皮革テープ上下水道・電線管などのパイプや継手バルブ波板やプリント合板などの建築資材平板排水マス

  • ポリカーボネート(PC)とは?加工方法と特徴

    ポリカーボネートは「ポリカ」や「PC」とも呼ばれている、熱可塑性樹脂の一種です。優れた特性を多くもつことから、屋根材やパーテーションなどのさまざまな製品に採用されています。ポリカーボネートはDIYで人気のあるアクリルと同じ種類の材料ですが、特性に違いがあることをご存知でしょうか?この記事では、ポリカーボネートの特徴や用途、加工方法について解説します。ポリカーボネートとは?種類と特徴ポリカーボネートとは、熱可塑性樹脂である汎用エンプラの一種。「5大汎用エンプラ」と呼ばれるほど代表的な材料で、さまざまな用途で採用されています。ポリカーボネートの特徴は、高い透明性・耐衝撃性・耐久性・耐候性・自己消火性をもつ点にあります。また、プラスチックの基本的な成形方法である、射出成形・押出成形・真空成形・ブロー成形などに対応しているのもポイントです。一方で、有機溶剤や界面活性剤に弱いほか、キズが付きやすいといったデメリットがあります。また、アクリルと比べて、接着や熱曲げ加工には不向きです。これらの特徴から、ポリカーボネートは細かい加工を行うよりも、板状のまま使用することが多い材料です。DIYでも加工を行えるものの、アクリルに比べて加工性に劣る点に注意してください。参考:樹脂加工とは?素材の種類と加工方法ポリカーボネートの種類ポリカーボネートには、【平板・中空板・波板】の3種類があります。●平板平板は、アクリル板のような1枚板のタイプで、無色透明から色付きのモノ、すりガラスのような加工を施したモノと種類が豊富です。平板は汎用性が高く、パーテーションや看板、カーポートの屋根材など、幅広い用途で使われています。●中空板中空板は、段ボールのように板と板の間に空洞を設けているのが特徴です。空洞であることで高い断熱性と保温性を有しており、屋根材や保温室、ドアの採光などの用途に適しています。●波板波板は、断面が波をうったような形に成形されているのが特徴です。波状の形により、平板よりも高い強度をもちます。雨水が集まり流れ落ちやすくなるので、屋根材に使われることが多くあります。ポリカーボネートの用途ポリカーボネートは、透明性・耐衝撃性・耐久性・耐候性・自己消火性に優れていることから、幅広い用途で使われています。例えば、高い透明性と耐久性があることにより、DVD基盤やメガネのレンズによく採用されています。また、スマートフォンに内蔵されているカメラのレンズや、スマートフォン用のケースにもぴったりの材料です。ポリカーボネートは高い精度で作れるだけでなく、ひずみも少ないため、カメラよりも雑に扱われることの多いスマートフォンへの使用に適しています。ポリカーボネートは割れにくい特性もあるので、安全性が求められるパーテーションや、階段の腰板にもおすすめの材料です。ポリカーボネートの長所と短所ここではポリカーボネートの長所と短所について詳しく見てみましょう。ポリカーボネートの長所●透明性可視光線透過率80~90%というガラスやアクリルに近い透明性をもちます。●耐衝撃性ポリカーボネートは、ABS樹脂の5倍、ポリ塩化ビニル(PVC)の10倍、ポリエチレン(PE)やアクリル(PMMA)の50倍程度の耐衝撃性を有しています。これはプラスチックのなかでも非常に強く、ハンマーで叩いても壊れないほどです。●耐候性例えば、耐候性の低いポリエチレンなどの樹脂素材は、太陽光・紫外線・雨などの自然環境による影響で、屋外で使用しているとヒビが入ったり変形したりします。一方、ポリカーボネートは耐候性に優れているので、屋外で使用してもさまざまな自然環境に耐えられる性質をもちます。そのため屋根材や看板といった屋外で使用するモノにも適した材料です。●自己消火性ポリカーボネートは、自己消火性(火がついても燃え広がらずに自然に消火される特性)をもちます。プラスチックの自己消化性を判断する材料として代表的なものに、“UL94規格”と“JIS K 7201”の酸素指数(OI)があります。UL94規格では難燃性の違いによってUL94の後ろにさまざまな記号が付きますが、ポリカーボネートは“UL94 V-2”程度の値を示します。これは、2回(各10秒間)炎に接触させても、燃焼時間が30秒以下であることを示します。酸素指数は、数値が高いモノほど難燃性であることを示しますが、ポリカーボネートの酸素指数は24~25程度です。この数値は、材料が燃えるものの、自己消火性があることを示しています。ポリカーボネートの短所●有機溶剤・界面活性剤に弱いポリカーボネートは、有機溶剤・界面活性剤に弱い特徴があります。これらが付着した状態で放置していると、ヒビ割れや変形などを起こす場合があります。●キズがつきやすいポリカーボネートは耐久性に優れているものの、キズがつきやすい点はデメリットです。鉛筆の硬度だとHB程度のため、ブラシで擦るだけでもキズがついてしまいます。キズがつくと透明感が失われるほか、外観も悪くなってしまうので、美観性を求められる箇所にはポリカーボネートの使用は避けたほうがよいでしょう。●加工がアクリルに比べて難しいアクリルは、カッター切断や曲げ加工、溶剤接着が手軽に行えるため、DIYでも人気の材料です。一方でポリカーボネートは、これらの加工を行うのがアクリルに比べて難しい傾向にあるので、板状のまま使うことが多くなります。ポリカーボネートの加工ここではポリカーボネートの加工方法・工作例をご紹介します。ただし、ポリカーボネートはアクリルに比べて加工が難しい傾向にあるので取り扱いには注意が必要です。●切断加工ポリカーボネートは、アクリルカッターを用いて切断することができます。切断の際は板を固定した状態で行い、定規などをガイドにして加工してください。アクリルカッターで設けた溝が不十分だと、折るときに割れてしまう可能性があるので注意が必要です。●面取りポリカーボネートの端部は、何も処理を施していないと鋭利な状態になっているので、取り扱いに注意してください。端部に触れるような用途での使用の際は、糸面取りを行うようにしましょう。糸面取りは、プラスチック用カッターの刃の裏やスクレーパーの刃の側面を、擦るように端から端まで走らせることで角が取れます。●曲げ加工ポリカーボネートは棒ヒーターやヒートガンを用いて曲げられますが、細かい温度調節が求められるため難しい傾向にあります。●接着材料を溶かして接着する溶剤接着は、仕上がりが悪く、強度も損なうので避けてください。●ボルト固定ボルト固定の場合は下記の穴ピッチを参考にしてください。・板厚が3.0mm以下:10~20mm・板厚が3.0mm以上:20~30mm・押さえ板による固定:30~50mmボルト穴の寸法は、温度の変化により伸縮することを想定して、ボルト軸の径に対して2~4mm大きい径で開けましょう。縁にボルト穴を設ける場合は、板の縁から穴径の2.5倍以上内側に位置するようにしてください。●シーリングポリカーボネートのシーリングは、シリコン系アルコールタイプを使用します。アルコールタイプ以外のシーリング材を使用するとクラックが発生する場合があるので注意してください。

  • ブロー成形とは|特徴や仕組み、用途を解説!

    ブロー成形とは、「吹く」を意味する「blow」という言葉に由来する、樹脂成形方法の一種です。加熱した樹脂を型に入れ、樹脂の内側から空気を吹き込むことで、型の形状に樹脂を成形します。吹きガラスの製造方法と類似した成形方法であると言えば分かりやすいでしょうか。樹脂成形や金属加工に関わりのない方には、あまり馴染みのない言葉かもしれませんが、日常的に目にするペットボトルがまさにこの方法で製造されています。そのほか、シャンプー容器や灯油タンク、自動車の排気パイプなど、主に中空のある製品に幅広く適用されている加工法です。今回の記事では、ブロー成形について解説していきます。その特徴や仕組み、用途についても説明しますので、参考にしてください。ブロー成形は樹脂成形方法の一種ブロー成形は、合成樹脂(プラスチック)に対する加工法の一種です。加熱して溶融又は柔らかくした樹脂を金型に入れ、樹脂に空気を吹き込んで膨らませ、金型に押し当てることで成形します。高温溶融したガラスに空気を吹き入れて成形する「吹きガラス」の製造技術を応用した方法です。その成形方法から、「吹込み成形」や「中空成形」とも呼ばれます。空洞がある樹脂成形品の大量生産に適した方法です。ペットボトルやシャンプー容器といったボトル形状の製品のほか、タンク・パイプ形状の製品やポリ袋の成形にも用いられています。ブロー成形では、用途や充填物によって、多様な機能・性質を持った樹脂が利用されています。例えば、食品の酸化や変質を防ぐためには酸素や紫外線を通さない樹脂、内圧が高くなる場合には高強度の樹脂など、様々な樹脂が採用されています。また、場合によっては、複数の樹脂を多層化していることもあります。参考:樹脂加工とは?素材の種類と加工方法ブロー成形の特徴とメリット・デメリットブロー成形の特徴としては、成形品の外側の面は金型に触れているものの、内側の面は空気で圧力を掛けているだけで金型には触れていないという点が挙げられます。そのため、ブロー成形では、成形品の全面が金型に触れる射出成形などと比べて、金型が簡素になり、金型の制作費用が安くなるというメリットがあります。しかし、金型に触れない面があることは、デメリットともなります。まず、金型が触れていない面の形状は、制御が難しく精度が悪くなりやすいことが挙げられます。同様の理由で、肉厚の寸法も高精度にすることが困難です。そのため、金型に触れない面への部品のはめ込みなどが必要な場合は注意が必要です。また、ブロー成形では、溶融樹脂が重力方向に垂れ下がる「ドローダウン」が起きることがあります。これは、溶融樹脂の粘度が低い場合などに起こり、成形品の上部と下部で厚みが不均一となる「偏肉」の原因となります。この偏肉を防止するためには、樹脂の粘度や注入する空気圧の調整などが必要です。そのほか、成形品の形状について、「ゆるやかに変化する形状にする」、「断面は円(楕円)又は角がない形状にする」といった点に気をつけることで偏肉が起こりにくくなります。ブロー成形の仕組み次は、ブロー成形の仕組みについて見ていきましょう。ブロー成形には、いくつかのバリエーションがありますが、ここでは、押出ブロー成形の仕組みについて説明します。①樹脂の加熱溶融とパリソンの成形引用元:大興化成株式会社はじめに、上図の押出機と呼ばれる装置で金型に樹脂を円筒状に押し出します。そのためにまず、押出機のホッパーに樹脂を投入し、樹脂をヒーターで加熱して溶かします。溶融樹脂は、押出スクリューによってヘッド方向に押し出され、リング状に空いたヘッドの出口を経由することで、円筒状となって金型に押し出されます。この膨張前の予備成形状態をパリソンと呼びます。②エアー注入による金型内での膨張と冷却引用元:大興化成株式会社続いて、上図のように、金型を閉じてパリソンを挟み、圧縮空気をブローピンから吹き込んでパリソンを膨張させます。このとき、パリソンの端を巻き込むように金型を閉じることで底部分の成形を行います。膨張したパリソンは、冷却された金型に押し付けられることで、固化していきます。③成形品の取り出し引用元:大興化成株式会社一定時間冷却した後に金型を開き、成形品を取り出せば完成です。ただし、金型で挟んだ樹脂が上図のようにバリとして残ることがあります。その場合、このバリの除去が必要となります。また、完成形状によっては、切削などの後加工が必要となります。さまざまなブロー成形ブロー成形の種類には、代表的なものだけでも以下のようなバリエーションがあります。ここでは、これらのブロー成形法について解説していきます。●代表的なブロー成形の種類・押出ブロー成形・射出ブロー成形・延伸ブロー成形・多層ブロー成形・3次元ブロー成形射出ブロー成形射出ブロー成形は、射出成形でパリソンを成形した後、パリソンをブロー成形用金型に移してブロー成形する方法です。まず、試験管のような形状のパリソン(有底パリソン)を射出成形します。このとき、射出成形品をいったん冷却・固化させるか否かで、コールドパリソン式とホットパリソン式に分かれます。コールドパリソン式では、再加熱してブロー成形を行います。メリットとして、パリソンを中間製品として仕入れたり、製造速度が異なる射出成形機とブロー成形機を個別に運用したりすることが可能となる点が挙げられます。なお、下の写真は、ペットボトルのパリソンで、中間製品として用意されているものです。引用元:料材開発株式会社一方、ホットパリソン式は、射出成形による予熱を残したままブロー成形に移る方式です。再加熱する必要がないため、余分な燃料費が掛からないというメリットがあります。射出ブロー成形自体の利点としては、成形品の底面に接合痕が生じないことや、成形品の重量や肉厚のバラツキなどを抑えやすいといった点が挙げられます。また、ボトルの口部などは予め射出成形で作り込み、胴体部だけにブロー成形を行えば、口部でバリやスクラップが発生せず、後工程が不要になります。ペットボトルの製造には、コールドパリソン式の射出ブロー成形が用いられています。参考:射出成形の仕組みやメリットを解説!他の加工法との比較も延伸ブロー成形延伸ブロー成形は、射出ブロー成形のブロー成形工程において、軸方向にも樹脂を延伸させる成形法です。樹脂毎に異なる適切な温度で行う必要がありますが、膨張させることによる円周方向の延伸と軸方向の延伸をバランス良く行うことで、強度や透明性、ガスバリア性などを向上させることができます。醤油などの食品容器や医薬品容器のほか、炭酸飲料を充填する耐圧ペットボトルの製造にも適用されている方法です。押出ブロー成形引用元:株式会社吉野工業所押出ブロー成形は、前述の「ブロー成形の仕組み」で解説したように、押し出したパリソンをダイレクトに金型に投入してブロー成形する方法で、ダイレクトブロー成形とも呼ばれます。近年の押出ブロー成形では、上図のように、複数の金型を用意して稼働させるケースがほとんどです。一つの金型ではパリソンが押し出され、もう一つの金型ではパリソンを膨張させて成形します。連続的にパリソンを押し出し続ける押出機を停止させることなく、効率的に成形品を製造することができます。次に解説する射出ブロー成形と比べると、押出機によるパリソンの生産速度が速いために大量生産に向いた方法です。しかし、その場合、押出機の生産速度に合わせて複数の金型が必要となります。また、金型に投入されるパリソンは、底部では金型で挟み込み、口部では長さに余裕を持たせて切断されます。そのため、成形品の底部には、バリが残ることがあり、バリを除去しても接合痕が残ります。そして、口部にはスクラップが発生することから、その切断が必要となります。化粧品や洗剤等の容器類、各種タンク・パイプ、ダクト、建材など、様々な製品の製造に適用されている方法です。参考:押出成形の仕組み・メリット・用途などを解説!多層ブロー成形引用元:キーエンス株式会社多層ブロー成形は、飲料などの充填物の酸化・変質防止や成形品の強度向上などを目的に、多層構造の樹脂成形品を製造する方法です。(上図参照)この方法は、コールドパリソン式で実施されます。まず、押出機によって複数の樹脂を同時に押し出して、多層のパリソンを成形。これを再加熱して、ブロー成形します。酸素や紫外線などで劣化しやすい食品やガソリンタンクなどの成形に用いられる方法です。3次元ブロー成形引用元:エクセル株式会社3次元ブロー成形は、複雑形状の容器やパイプなどをブロー成形する方法です。コンピュータ制御によって、パリソンが押し出されてくるヘッドの位置をコントロールしてパリソンを金型形状に沿うように誘導する方法などがあります。(上図参照)クーラーやヒーター用のホースや、自動車の排気パイプなど、湾曲部や蛇腹のある複雑形状の成形に用いられる方法です。ブロー成形の用途ブロー成形は、食品や化粧品、洗剤などの容器類、ホース、ポリ袋といった身近な製品のほか、パイプやダクト、中空の建材、工業用タンクといった業務用製品の製造にも採用されています。その中でも、最も代表的なのは、飲料容器として用いられるペットボトルです。しかし、単にペットボトルと言っても、その機能や形状は様々で、その内容物に合わせて適切なペットボトルが利用されています。例えば、炭酸飲料用の耐圧ペットボトルでは、内側から掛かる圧力を分散させるため、底に5足形状の凸凹(ペタロイド形状と呼ぶ)が設けられています。また、加熱後すぐに充填したり充填後に加熱したりするケースでは、耐熱ペットボトルが採用されます。耐熱ペットボトルには、樹脂の熱固定(150〜165℃に保持)による耐熱性の向上効果を活用したものや、材料として耐熱プラスチックを使用したものなどがあります。そのほか、酸素や紫外線などで変質してしまう食品の容器には、それらに対する遮断効果を持つ樹脂が材料として使用されています。また、人体や環境に悪影響を与えるガソリンの容器(下の写真)は、エチレン-ビニルアルコール共重合体(EVOH)などのガソリンに対するバリア層が積層された構成となっています。その成形には、多層ブロー成形が適用されますが、ガソリンタンクでは6層もの積層が必要になることも少なくありません。まとめブロー成形は、金型に入れた溶融樹脂に空気を吹き込み、金型の形状に合わせて膨張させることで成形する樹脂加工法の一種です。ペットボトルに代表される中空容器の製造に適した方法で、大量生産にも向いています。身近な日用品から自動車部品、業務用タンクなど、幅広い用途に用いられている方法ですので、ぜひこの機会にブロー成形に注目してみてください。ブロー成形や金型製作を得意としているメーカーをお探しの際には、ぜひMitsuriにご相談ください。Mitsuriは、日本全国250社以上の業者と提携しています。そのため、お客様のご要望に合わせて、高い技術とノウハウを持つ業者をご紹介できます。お見積りは複数社から可能です!ブロー成形や金型製作でお困りの際は、ぜひMitsuriにご相談ください。

  • 圧縮成形とは|メリットや原理、用途を解説!

    「圧縮成形とは?」、「圧縮成形の製造方法を知りたい」、「圧縮成形の特徴は?」といった疑問を持つ方は必見です。圧縮成形は、プラスチックの成形方法のひとつ。古くから熱硬化性樹脂の成形に採用されている製法です。熱硬化性樹脂は、加熱すると硬化するという、熱可塑性樹脂とは異なる特性を持ち、家庭でもよく見かける灰皿や電気スイッチなどでも使われています。プラスチックの成形は、射出成形や押出成形なども代表的です。しかし、シンプルな製法である圧縮成形ならではのメリットも存在します。本記事では圧縮成形について知らない方向けに、基礎的な知識に加え、加工手順やメリット・デメリットについて解説します。圧縮成形について知識を深めたい方は、ぜひご一読ください。参考:射出成形の仕組みやメリットを解説!他の加工法との比較も参考:【押出加工】とは?仕組みや特徴、種類、製品例について徹底解説!圧縮成形は熱硬化性樹脂に用いられる加工方法圧縮成形とは、樹脂成形の製法の一種。流動性のある熱硬化性樹脂を金型に入れたのち、圧力を加えて金型内に充填させます。金型内は、キャビティと呼ばれる材料を成形するための隙間があり、充填した材料に圧力をかけてることで形取られます。ここから金型の温度を200℃程度まで加熱し、熱硬化性樹脂を固めて成形します。参考:【金型製作】金型の種類と基礎や流れについて徹底解説!!基本的に樹脂製品は、熱を加えると軟化する熱可塑性樹脂が多いもの。一方、圧縮成形でよく用いられる、熱硬化性樹脂と呼ばれる材料は、加熱すると硬化し、再加熱しても柔らかくならない特性があります。また、強度や絶縁性に優れているのも特徴です。ただし、熱可塑性樹脂に比べて耐衝撃性には劣ります。熱硬化性樹脂の代表的な材料は、フェノール樹脂・メラミン樹脂・エポキシ樹脂・尿素(ユリア)樹脂・ポリウレタンなどが挙げられます。これらの材料も細かく特徴が異なり、用途によって使い分けられています。参考:樹脂加工とは?素材の種類と加工方法圧縮成形の特徴圧縮成形には金型を必要としますが、製法の仕組みからして、複雑な形状のものを成形するのは困難です。その一方で、金型の構造は単純であるため、金型製作にかかるコストが安価に抑えられます。また、成形の際、材料を加圧して金型内に充填させるため、高密度な製品が得られるのも特徴です。ただし、製造の過程でガスが多く発生し金型に付着するため、清掃の手間がかかります。また、バリ(成形の際に発生する突起)が発生しやすく、バリ取りの作業も必要です。圧縮成形の原理と加工手順、注意点ここでは圧縮成形の加工手順を見ながら、原理や注意点について解説します。成形材料の準備まず成形材料を秤量します。材料が多すぎても少なすぎても不良が発生しやすくなるため、秤量は正確に行う必要があります。成形材料は、上の画像のように粉末状や粒状が基本的ですが、生産ロットが大きい場合は、タブレット(成形材料を錠剤のように予備成形したもの)を用いる場合もあります。タブレットを用いると、バリが少なくなるなど、生産する上で有利に働きます。成形材料の予熱次に高周波予熱などを用いて成形材料を予熱します。通常、成形材料全体に熱が伝わるまでに、多くの時間が必要です。しかし、予熱をしておくことで、成形時間が短縮されるほか、成形品を均一に硬化させやすくなる効果が期待できます。また、小さい圧力で成形できるようになるので、金型の損傷も抑えられます。成形材料を金型へ充填引用元:アイアール技術者教育研究所予熱した成形材料を、キャビティ(金型の成形部分の凹部)に充填します。このとき、材料の充填に偏りがあると成形不良を起こす可能性がるので、均一に充填する必要があります。充填したあとは、加熱しながら低い圧力をかけて、成形材料をキャビティ全体に流動させます。加熱を続けると流動性が減少するため、材料がキャビティの隅々まで充填するように加圧の速度を調節しなければなりません。ガス抜き成形材料を加熱すると、材料に含まれる揮発物や水分がガスとなって出てきます。発生したガスは、成形品にヒビが入ったり、「巣」と呼ばれる虫食い穴のような成形不良を起こす可能性があるため、ガス抜きを行う必要があります。ガス抜きの方法は、成形材料が金型内に行き渡ったのちに圧力を落とし、金型をわずかに開くことで行えます。ガス抜きは、材料の硬化が進みすぎると不良品になる可能性があるので、タイミングには注意が必要です。加熱・加圧ガス抜きで低下した圧力から、再度加熱・加圧をして成形材料を熱硬化させます。材料の種類や寸法によって、硬化する時間は左右しますが、肉厚な製品であるほど、硬化時間が長くなる傾向にあります。硬化が不完全だと、表面にふくれが生じたり歪みが発生したりするので、製品に応じて成形条件を変える必要があります。成形品の取り出しと仕上げ成形材料が硬化したら、金型を開いて取り出します。出来上がった成形品は、バリが発生しているため、機械や手作業で取り除きます。圧縮成形のメリット・デメリットここでは、圧縮成形のメリットとデメリットについて解説します。圧縮成形のメリット●金型製作のコストが比較的安価金型の構造が複雑にできない分、射出成形用に比べて金型にかかるコストが削減できます。●圧力の損失が少ない成形材料に直接圧力をかけられるため、射出成形のようにランナーやスクリューなどによる圧力損失が少なく成形が可能。これにより、低い圧力でも成形しやすい傾向にあります。●成形材料をムダなく使いやすい射出成形のように、ランナーやゲートがなく、成形材料をムダなく使えます。製品として機能しない部分は、ほぼバリのみです。●成形材料が配向しにくい射出成形の場合、高い圧力で樹脂を流動させることにより、材料がランナーやゲートを流れる際に配向を生じます。配向は、樹脂の流動する方向と直角方向で収縮率に違いが生じ、強度にバラつきがでるなどの悪影響を及ぼすことも。しかし、圧縮成形では金型に直接成形材料を充填するため、樹脂の特性を活かした製品を作ることが可能です。圧縮成形のデメリット●複雑な形状には不向き金型の構造と成形の原理上、複雑な形状のものを成形するのは困難です。●バリが厚くなりやすいバリに厚みがあるので、仕上げに時間を要します。圧縮成形の用途圧縮成形品は、一般的に熱硬化性樹脂を使った加工であることから、耐熱性は良好です。フェノール樹脂・尿素(ユリア)樹脂・メラミン樹脂・ポリウレタンで100℃前後、エポキシ樹脂で150~200℃程度の耐熱性を有しています。また、強度や絶縁性にも優れているのも特徴です。圧縮成形品は、これらの特性を必要とする、航空機や発電機器の部品のほか、家庭でもよく見かける灰皿・電気スイッチ・台所用品などの製品にも採用されています。まとめ今回は、圧縮成形の基礎知識・加工手順・特徴などについて解説しましたが、いかがでしたでしょうか。圧縮成形は、材料に熱硬化性樹脂を使い、材料を圧縮・加熱して成形する製法です。熱硬化性樹脂の加熱を続けると硬化する性質を利用しています。圧縮成形は製法上、複雑な形状のものを成形できません。その分、金型の構造もシンプルなため、金型製作のコストが抑えられます。また、成形材料をムダなく使えるほか、低い圧力で成形がしやすいなどのメリットがあります。しかし、バリを取り除く手間がかかる点はデメリットと言えます。圧縮成形をはじめとした、樹脂加工業者をお探しの場合は、ぜひMitsuriまでご相談ください。日本全国で250社以上の協力企業と提携しているので、お客様のご希望に沿う加工業者が見つかります。お見積りは複数社から可能ですので、お気軽にお問い合わせください。