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熱処理

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    焼き戻しの種類、メリット・デメリット、硬度、冷却方法

    鋼を強くするための工程のひとつに「焼き入れ」があることは比較的よく知られています。緩んだ気持ちを引き締める時に使う「焼きを入れる」という言葉も、刀を作る際に一度熱した刀を水で冷やす「焼き入れ」から来ているため、鋼を強くするということを知らなくても何となく言葉を聞いたことがある人は少なくないでしょう。ただ、単純に焼き入れをしただけでは鋼は決して強い素材ではないことを知っていますか?鋼を強くするためには、焼き入れと焼き戻しをセットで行う必要があります。今回は、焼き入れの後に行われる「焼き戻し」について詳しく解説していきます。焼き戻しとは?鋼の熱処理は「焼き入れ」「焼き戻し」「焼きなまし」「焼きならし」という4つの工程に分かれています。その中で、焼き戻しは一度急激に冷やした鋼をもう一度加熱する処理のことを言います。一般的に焼き入れで硬くなった鋼は強度が弱く、すぐに壊れたり傷ついたりしてしまうため商品になりません。焼き戻しをすることで、粘り強くより強靭な鋼へと変化していきます。焼き戻しは、そのまま長時間放置しておくと割れが発生してしまう可能性があるため、焼き入れ直後、1時間の間に行います。時間をかけて1回行うのではなく、時間内で焼き入れと焼き戻しを2~3回繰り返す方が、より靭性の高い鋼になります。焼き戻しの種類焼き戻しには低温焼戻しと高温焼戻しの2種類があります。それぞれ違った特徴をもっており、製品によっても使い分けられています。低温焼戻し低温焼戻しは、150℃~200℃の温度で行われる焼き戻しのこと。これにより、焼き入れによるストレスが軽減され、硬くて粘りのある素材へと変化します。経年劣化しにくく、研磨割れや耐摩耗性にも優れているため、ナイフや包丁、切削工具など、耐摩耗性が要求される工具などに多く取り入れられています。高温焼戻し550℃~650℃で行われる焼き戻しのことを高温焼戻しと呼んでいます。低温焼戻しよりもさらに高い強さを持つ素材となるため、高級刃物や歯車、シャフトなど、強靭性が求められる工具の製造に多く用いられています。焼き戻しのメリット焼き入れで硬くなった鋼に焼き戻しをすることで粘りや強靭性の高い鋼になります。さらに、高温焼戻し・低温焼戻しの特徴を把握することで、製造したい部品が求められている強度や硬度等に合わせて調整することが可能です。焼き戻しのデメリット実際に焼き戻しをすると、場合によっては靭性が増すどころか、逆に脆弱性が高くなってしまうケースがあります。これを解消するための手段として、低温焼戻しと高温焼戻しには、温度管理が徹底されています。低温焼戻しの脆弱低温焼戻しは、急速に冷やすと歪みや割れを起こしてしまう可能性があるため、空冷などを使って少しずつ冷やしていくことが望まれます。また、鋼は300℃~400℃で脆弱性が増してしまうため、必要以上に温度を上げ過ぎないことが低温焼戻しの鉄則となります。高温焼戻しの脆弱高温焼戻しは、一度目の急冷で焼き割れと同じような割れが発生する可能性があるため、必ず二回以上行う必要があります。また、鋼は300℃~400℃で脆弱性が増してしまうため、温度を下げる際に急速な冷却が必要とされます。焼き戻しに伴う硬度の推移焼き戻しによって、鋼の強度は増しますが、必ずしも硬くなるとは限りません。素材にもよりますが、多くの素材が500℃~600度で二次硬化を起こし、その後は急激に軟化していきます。ただし、硬い=強靭というわけではないため、硬さが求められる場合と強靭性が求められる場合とでは、素材選びや焼き戻しの温度選びなどをうまく調整する必要があります。目的や用途に合わせて素材や温度を調整することで、求められている硬さ、強靭性を持つ素材が完成します。焼き戻しの冷却方法焼き入れの後、温度を上昇させる焼き戻しですが、繰り返し作業を行うため、一度上げた温度をまた下げる必要があります。低温焼戻しでは、急激に冷やすと歪みや割れが生じてしまうため、空冷などでゆっくり冷やします。一方、高温焼戻しではゆっくり冷却すると鋼に脆弱性が生じる300℃から400℃の温度で長時間温度が維持されてしまうため、急激に冷却することが求められます。

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    ステンレスの焼き入れについて専門家が紹介!

    家庭用品をはじめ、機械部品や建築材料として生活を支えているステンレス。 このステンレスには、様々な種類があり特性も違います。その中では、ステンレス素材の強度を向上させるために焼き入れをするものもあります。 ステンレス加工において非常に重要な焼き入れですが、その方法や効果について知っている方はあまり多くありません。 今回はそんな「ステンレスの焼き入れって何?」という疑問をお持ちの方に向け、ステンレスの焼き入れについて詳しくご紹介させて頂きます。また、焼き入れ以外の熱処理についてもご紹介しますので、「熱処理について知りたい!」と思っている方やこれからステンレス加工を依頼しようとしている方も、是非ご一読下さい。 ステンレスの焼き入れの効果 ステンレスの焼き入れは、素材を硬くして強度を高める効果があります。ここでは、焼き入れとはどのような加工処理で、どんな種類があるのか、またその効果の詳細について説明していきます。 焼き入れとは 焼き入れは、一般的には、金属を加熱して高温状態にした後、一定の時間を置いてから急速に冷やす熱処理法です。 専門的には、鉄鋼(ステンレス鋼も含む)の組織を、炭素が固溶しやすいオーステナイトになるまで加熱した後、急冷してマルテンサイトとする熱処理法を指します。 マルテンサイトは、炭素をほとんど固溶しないフェライトに炭素を過剰に固溶させた組織で、硬い性質を持ち、炭素の含有量が多いほど硬度はより高くなります。しかし、焼き入れしたままでは脆いので、通常は粘り強さを向上させるために焼き戻しを行います。 焼き入れの種類 焼き入れの種類は、素材の内部まで焼き入れするズブ焼き入れと、表面のみを焼き入れして内部は柔らかいままにしておく表面焼き入れに二分することができます。 ズブ焼き入れは、内部まで硬化しているため、引っ張りや圧縮に強いという特徴があります。ただし、素材のサイズによっては、浅部と深部の冷却速度が大きく異なるため、内部は柔らかいままということも多々あります。 表面焼き入れは、粘り強さが高く、ねじりや曲げに強いという特徴があります。なお、表面焼き入れでも、焼き入れ後には焼き戻しが必要となりますが、靭性は維持されているので低温焼き戻しを採用することが多いです。 また、表面焼き入れには、加熱する方法の違いにより、高周波焼き入れ、炎焼き入れ、レーザー焼き入れ、電子ビーム焼き入れなどの種類があります。さらに、加熱に併せて素材表面の化学成分を変化させる浸炭焼き入れ、浸炭窒化焼き入れなどがあります。 下図は、棒状素材へ高周波焼き入れを適用した例で、加熱機と冷却機を並べて設置して、そこに素材を通すことで、加熱後の素早い冷却と加熱と冷却の同時実行を可能にしています。 引用元:株式会社イプロス ●熱源別表面焼き入れ法 高周波焼き入れ…高周波の電磁波で素材表面に誘導電流を発生させて加熱する方法。 炎焼き入れ…バーナーなどで炎を吹き付けて加熱する方法。燃料ガスとしては、アセチレンなどを使用。 レーザー焼き入れ…レーザー光を照射して加熱する方法。CO2レーザー、YAGレーザーなどを使用。 電子ビーム焼き入れ…真空中で電子ビームを照射して加熱する方法。 ●化学成分を添加する表面焼き入れ法 引用元:岡谷熱処理工業株式会社 浸炭焼き入れ…上の模式図のように素材表面に炭素を浸透拡散させた後、またはさせながら焼き入れして表面の硬度を得る方法。例えば、代表的なガス浸炭法では、炉に天然ガスなどを大気と共に入れて加熱。すると、下図のように、素材表面で一酸化炭素が鉄と反応し、炭素が鉄中に固溶する。 浸炭窒化焼き入れ…炭素に加え、窒素も素材表面に浸透させる焼き入れ法。浸炭焼き入れより処理温度を低く、または処理時間を短くすることが可能。 引用元:岡谷熱処理工業株式会社 焼き入れの効果 焼き入れは、素材を硬くし、耐摩耗性や引張強さ、降伏強度、疲労強度などを向上させる効果があります。しかし、展延性や靭性が低下し、脆く壊れやすくなります。 例えば、焼き入れ性が良い、つまり焼き入れによって硬化しやすいSUS440Cでは、焼き入れの仕方で大きく変動しますが、硬度・引張強さ・降伏強度が5倍以上も向上します。しかしもちろん、焼き戻しを行うので、使用する際の硬度や強度は、焼き入れ前の3~5倍程度となります。 一方、焼き入れは、割れや変形、残留応力などの原因となることがあります。これらの焼き入れ欠陥は、主に不均一な冷却による熱応力や組織変態に伴う体積変化で素材内部に焼き入れ応力が生じることで起こります。 焼き入れを行うことができるステンレスの材質 それでは、ステンレスのどの材質であれば焼き入れによって硬化するのかを見ていきましょう。 上述したように、焼き入れによる硬化は、炭素量の多いマルテンサイト組織が存在することを前提としています。そのため、マルテンサイト系と、母材をマルテンサイトとする析出硬化系以外のステンレスでは、焼き入れを行ってもほとんど硬化しません。 しかし、オーステナイト系ステンレスについては、プラズマ浸炭法や真空浸炭法などによる浸炭焼き入れにより、表面焼き入れが可能なメーカーもあります。 マルテンサイト系 マルテンサイト系は、焼き入れによってマルテンサイトを形成し、常温でもマルテンサイトを維持するステンレスです。他のステンレスに比べ、クロムの含有量が少なく、炭素の含有量が多いという特徴があります。 引用元:第一鋼業株式会社 代表的な鋼種には、SUS403、SUS420J2、SUS440C等が挙げられます。これらの成分は、マルテンサイトとするのに必要なため、クロムの含有量が多いほど、炭素の含有量が多くなっています。 そのため、焼き入れ性は、炭素量に依存して、SUS403、SUS420J2、SUS440Cの順番に良くなっていきます。しかし、その反面、炭素量が多くなるほど耐食性は低下します。 また、オーステナイト系やフェライト系と比較すると、硬度や強度は数倍となりますが、耐食性はやや劣ります。腐食に対するこの性質は、クロムの含有量が同程度でも同様で、焼き戻しによるクロム炭化物の析出が原因です。 析出硬化系 析出硬化系は、銅やアルミニウムなどを添加して母相中に析出させることで硬化させるステンレスです。そのため、母相がマルテンサイトのSUS630などでは、焼き入れによる硬化が可能です。上の画像は、ニオブとシリコンを析出させたステンレス表面の状態です。 ただし、析出硬化系の焼き入れは、高温状態で添加元素を十分に溶かし込む溶体化処理を伴い、急冷後も添加元素を析出させる時効処理が必要となります。また、析出硬化系は、全般的に炭素の含有量が少なく、炭素量の多いマルテンサイトの形成で硬度を高めるというよりは、添加元素の析出によって硬度を高めているステンレスです。 ステンレスの焼き入れ方法を解説! 次にステンレスの焼き入れの方法についてご紹介します。焼き入れは主に、①加熱②温度保持③冷却の3つの工程があります。 ①加熱 加工する素材を炉などで加熱し、温度をあげていきます。加熱する素材に応じて温度が違う場合もあります。焼き入れをする前工程として、汚れやサビなどが付着していると、焼き入れがうまくいかない可能性があるため、洗浄などで汚れを取り除くことが大切です。 また、加熱する炉には、電気炉やガス炉など様々な種類があります。 ②温度保持 加熱で温度が上昇した後は、全体に熱を通さなくてはいけません。加熱の際は、表面が先に目標温度に達成するため、加工物の中心まで熱がわたるまで時間が掛ります。その為、温度を保持する必要があります。必要な温度保持の時間は、素材や大きさによって変わってきます。 ③冷却 加工物に十分に熱が渡ったら、冷却工程に入ります。焼き入れに必要な冷却速度は一般的に160℃/秒以上とされています。 以上の工程でマルテンサイト系のステンレスに性質を付与することができます。 ステンレスの焼き入れについてわかったところで、 ・具体的にどれくらいの費用が掛かるのか ・納品までどれくらいの期間が掛かるのか などについて気になると思われます。 そこでMitsuriにお任せ下さい! 焼き入れ以外の熱処理方法 熱処理方法には焼き入れ以外にも様々な方法が存在します。主に焼き入れ以外の熱処理方法には、以下の3種類の方法があります。 焼きもどし 焼きもどしは、焼き入れをした後に行う熱処理方法になります。マルテンサイト系は焼き入れ処理のみでは、脆いので、焼き戻しをすることで耐性を付与します。基本的には焼き入れと焼き戻しはワンセットで考えられています。 焼き戻しとは、再度加熱することですが、低温焼き戻しと高温焼き戻しがあります。 低温焼き直しは、150℃から200℃程の温度で加熱します。主に、耐摩耗性や経年変化を防ぐために施されます。 高温焼き直しは、高温で再度加熱する方法です。主に強靭性を上げたいときに使用されます。 焼きなまし 焼きなましは、適当な温度で加工物を加熱し、一定時間後に冷却していく方法です。焼きなましの効果には、加工性の向上や内部応力の除去などがあります。 焼きならし 焼きならしとは、加工物を高温まで加熱した後に空冷などで冷却させる方法です。この焼きならしで、金属の組織結晶を微細化させることで、切削性の向上や、機械的性質の改善をすることができます。 まとめ 今回はステンレスの焼き入れについてご紹介させて頂きました。 焼き入れをするステンレスの種類は限られていますが、その特徴や性質を理解することで、焼き入れの依頼する際に手間のかからない提案ができます。また、焼き入れ以外の熱処理方法についても、製品の用途や材料によって選ぶことが大切です。 焼き入れを依頼できない会社もある為、依頼する際には十分に調べたうえで、依頼することをおすすめします。

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    鋼の性質を変える【熱処理】とは?仕組みや種類について徹底解説!

    鋼の性質を熱によって変える、それが金属加工における熱処理です。熱処理には様々な種類があり、その方法によって、同じ金属でも異なる性質を帯びてくる、不思議な加工といえます。 今回はこの熱処理に着目し、その仕組みや工法など詳しく触れていきます。 熱処理とは? 熱処理とは、ある一定の温度以上に金属を加熱し、適当な方法で冷やすことでその性質を変えることを言います。英語ではheat treatmentと記載します。 もちろん、意図的に行うわけですから、性質を悪くするのではなく、改善することが第一の目的。材料の用途に応じて金属の機械的性質や組織を自在に操るのです。 鋼の性質とは? 鋼の性質には、強さ、硬さ、粘り、耐衝撃性、耐摩耗性、耐腐食性、耐食性、被削性、冷間加工性などが挙げられます。これらは、熱の入れ方や温度、冷まし方によって変わってくるものなのです。 鋼の性質 強さ・硬さ・粘り・耐衝撃性・耐摩耗性・耐腐食性・耐食性・被削性・冷間加工性 鋼は、ある温度に達するとその組織に変化が起こります。この現象を変態(へんたい)といいます。そして変態を起こす温度を変態点と言います。 一口に鋼と言っても、構成する素材の含有量によっても変態点は変わりますし、冷まし方によっては成果物も変わってきます。例えば炭素鋼。これは炭素量と温度によって状態が異なります。温度と炭素量の含有率を変えるだけで、炭素鋼はフェライトやオーステナイト、炭化鉄、セメンタイト、パーライトと変化します。 炭素鋼の種類 炭素鋼はどのように性質が変わるのでしょうか?4つの炭素鉄を比較してみましょう。 4種の炭素鉄 ①フェライト ②オーステナイト ③セメンタイト ④パーライト ①フェライト 酸化鉄を主成分としたセラミックの総称のこと。700℃程度の温度域で発生します。その結晶構造が体心立方格子となっており、別名α鉄と呼びます。 ②オーステナイト フェライトの変態点を上げて911℃以上になったときに生成されるものを指します。その結晶構造は面心立方格子で、Γ(ガンマ)鉄とも言われます。 ③セメンタイト オーステナイトが発生する温度域で発生する炭化鉄で、金属組織学上の呼び名です。フェライトと同様、白色でもろい結晶ですが、強磁性を示します。パーライトが現れる前にオーステナイトと混在して出現します。 ④パーライト 炭素鋼の組織の一種で炭素量の多い炭素鋼に見られます。フェライトよりも色が黒いのが特徴です。黒曜石などのガラス質火山岩を1000℃程度の温度で焼いたときに発生します。 冷まし方で異なる性質 変態点以上に加熱した炭素鋼をゆっくり冷却すると、オーステナイトからパーライトに性質が変わります。通常、高温のオーステナイトを冷却するとフェライトに変態しようとします。 ところがこれを急激に冷却すると、マルテンサイトとなります。マルテンサイトとはオーステナイトを焼き入れしたときに発生する鋼。急冷することで変態が完了せずに、きれいな体心立方格子が形成されず、一部に炭素が紛れ込んだ準安定状態の結晶構造をとります。その組織構造は形状でいうと針状や板状になるので、壊れやすいのです。 これを無拡散変態というのですが、こうした性質のちょっとした違いを利用して性質を変え、私たちの生活に役立てたものがあります。そのひとつがマルテンサイト変態を利用して形成された形状記憶合金です。 このように、ほんの少しの構造の違いにより、性質も変わってくるのです。 熱処理の種類 熱処理により、鋼に強度と粘りを与えることができます。どんな処理法があるのかをい探っていきましょう。 熱処理の種類 ①焼きなまし ②焼きならし ③焼き入れ ④焼き戻し ①焼きなまし 普通熱処理と呼ばれるもののひとつで、鋼の結晶粒を調整し、鋼を軟らかくするために行うものです。英語ではannealingと記載し、JIS記号ではHAと表記されます。 炭素鋼の場合、変態点から30~50℃加熱して、オーステナイト化したのち炉中冷却してオーステナイトをパーライトに変化させます。 ■焼きなましの種類 焼きなましにはいくつか種類があります。 焼きなましの種類 1) 完全焼きなまし 2) 球状化焼きなまし 3) 応力除去焼きなまし 4) 拡散焼きなまし 1) 完全焼きなまし もっとも一般的な焼きなまし法で、JIS記号ではHAFと表記します。変態点以上に加熱後、ゆっくりと炉中冷却するもので、臨海区域(火色消失温度:約550℃、炎の色により温度が変わるが、色が保てなくなった状態)まで炉の中で冷却したのち、空冷したものを二段焼きなましと言います。 2) 球状化焼きなまし 鋼が熱処理されて冷却すると、その構造は層状になったり網状になったり、針状になったりと冷却の仕方によって変わります。この形状では脆いので、球状化するために行うのが球形化焼きなましです。球状化にするためには加熱と冷却を繰り返したりする方法などがあります。JIS記号ではHASと表記します。 3) 応力除去焼きなまし 金属処理で冷間加工や溶接などで発生した熱(残留応力:物体内部に商事、外力を除いた後にも保留される応力のこと)を除去するために行う焼きなましのことを応力除去焼きなましといいます。JIS記号ではHARと表記します。 4) 拡散焼きなまし 鋳造部品によっては合金成分の一部が組織の構造内で偏ってしまう(偏析)ため、それを均一化するための焼きなましのこと。JIS記号ではHADと表記します。偏析を解消するには、変態点を超えて長時間加熱したのち、普通の焼きなましを行います。 ②焼きならし 金属の加工による影響を取り除き、結晶粒を微細化して組織のばらつきをなくして機械的性質を向上させる熱処理のことを焼きならしと言います。英語ではnormalizingと記載し、JIS記号ではHNRと表記します。 炭素鋼で示すと、変態点から30~50℃上げて加熱し、完全にオーステナイト化したのち、冷却を空中放冷で行ったものを指します。 ■焼きならしの種類 焼きならしには2つの種類があります。 焼きならしの種類 1) 普通焼きならし 2) 二段焼きならし 1) 普通焼きならし 鋼によって所定の焼きならし温度から常温まで、大気中放冷することを示します。JIS記号ではHNRと表記します。 2) 二段焼きならし 所定の焼きならし温度から火色消失温度まで空冷したのち、ピットや箱内で徐冷(目標温度までゆっくりと冷却すること)する方法のこと。炭素鋼では内部き裂などを防ぐことができます。 ③焼き入れ 鋼を硬く、強くする熱処理のことです。英語ではhardeningあるいはquenchingと訳します。JIS記号ではHQと表記します。 これを炭素鋼を参考に具体的に見ていきましょう。 まず鋼を加熱してオーステナイトにしてから、急激に冷却してマルテンサイトにします。 マルテンサイトは硬いものの、脆い(もろい)性質があるので、再度、30~50℃の変態点以上に鋼を加熱し、オーステナイト化したら、臨海区域(770℃から550℃までの温度域)までは早く冷却し、危険区域(焼割れや焼入れひずみなどが生じる危険性のある温度範囲)はゆっくり冷却します。 マルテンサイトが発生すると、低温で硬くなる時に膨張するので、急激に冷やすと焼割れが発生しやすくなるのです。 ■焼き入れの種類 焼き入れには、引上げ焼き入れというものがあり、鋼を焼き入れ温度から焼入れ液の中に入れ、ある程度時間がたったのちに引き上げて、ゆっくり冷やす方法を引上げ焼き入れ、または時間焼き入れと言います。 焼入れ液は一般的には水、または油が使用されます。水は急速冷却に使用されますが、その一方で鋼の曲がりや焼割れが発生しやすい難点もあります。 これに比べ、油は水の冷却性能の3分の1なので、焼割れや曲がりが生じにくいのです。 ④焼き戻し 焼き入れ、または焼きならしを行った鋼の硬さを軽減し、代わりに粘性を高めるために行う熱処理のこと。英語ではtemperingと訳し、JIS記号ではHTと表記します。 鋼の粘り気を高めるとはどんな感じでしょうか?言うなれば、鋼に力を入れたときにしなる感じを高めること。硬くてもろい鋼よりも、強くてしなやかな鋼は扱いやすいですものね。 ■焼き戻しの種類 焼き戻しにもいくつか種類があります。鋼の用途によって冷却の仕方を変えれば、最適な鋼を得ることができるのです。 焼き戻しの種類 1) 低温焼き戻し 2) 高温焼き戻し 3) 焼き戻し硬化 1) 低温焼き戻し 刃物やゲージなど、かなりの硬度と耐摩耗性を必要とするものに行います。焼き戻し温度は150~200℃、冷却は空冷で徐々に冷やします。 焼き入れのときに発生する残留応力(以前に加えた力が組織の内部に残っている力のこと。例えば曲げたときの熱など)を除去したり、耐摩耗性を向上したり、経年変化による寸法の狂いを防止したり、研削割れを軽減することが可能です。 2) 高温焼き戻し 機械構造部品に使用される、強度と靭性(金属の粘り強さのこと)を兼ね備えた構造用合金鋼に用いられます。具体的には焼き戻し温度400~650℃からは急速に冷却します。この温度帯で徐冷すると、かえって高温焼き戻し脆性が発生してしまいます。焼入れののち、400~650℃で急冷して焼き戻しする作業を特に調質と呼びます。250~400℃の温度帯で焼き戻しを行うと、鋼がかえってもろくなる(低温焼き戻し脆性)ので注意が必要です。 3) 焼き戻し硬化 金属を高速度で切削加工する工具の材料となる合金工具鋼を高速度鋼とよびますが、これらはタングステンやコバルト、クロム、バナジウム、モリブデンなどが加えられています。こうした鋼を焼き入れしたのち、550~600℃から焼き戻しを行うと、再び硬化します。これを、焼き戻し硬化といいます。この場合、冷却は空冷で徐々に冷やすことが必要です。急激に冷やすと焼き戻し割れが発生します。 その他の熱処理 上記のほかにも、等温熱処理(等温焼きなまし、等温焼ならし、等温焼入れ)や浸炭、窒化などの化学的表面硬化法、高周波焼入れ炎焼き入れなどに代表される物理的表面硬化法があります。 まとめ 以上、熱処理について触れてきました。 まず、熱処理すると鋼の構造に変化が生じることがわかりましたね。変態点を理解し、生成している素材の含有量によって物質の性質が異なることを活かして、鋼の持つ性質を調整することができるのです。 また、熱処理には大きく4つの作業(焼きなまし、焼きならし、焼き入れ、焼き戻し)があり、目的とする鋼の性質を求めるための、各作業の役割も大きなポイントです。 鋼を自在に操る術ともいえる熱処理に、今後も注目していきたいですね。

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    焼き戻しの種類、メリット・デメリット、硬度、冷却方法

    鋼を強くするための工程のひとつに「焼き入れ」があることは比較的よく知られています。緩んだ気持ちを引き締める時に使う「焼きを入れる」という言葉も、刀を作る際に一度熱した刀を水で冷やす「焼き入れ」から来ているため、鋼を強くするということを知らなくても何となく言葉を聞いたことがある人は少なくないでしょう。ただ、単純に焼き入れをしただけでは鋼は決して強い素材ではないことを知っていますか?鋼を強くするためには、焼き入れと焼き戻しをセットで行う必要があります。今回は、焼き入れの後に行われる「焼き戻し」について詳しく解説していきます。焼き戻しとは?鋼の熱処理は「焼き入れ」「焼き戻し」「焼きなまし」「焼きならし」という4つの工程に分かれています。その中で、焼き戻しは一度急激に冷やした鋼をもう一度加熱する処理のことを言います。一般的に焼き入れで硬くなった鋼は強度が弱く、すぐに壊れたり傷ついたりしてしまうため商品になりません。焼き戻しをすることで、粘り強くより強靭な鋼へと変化していきます。焼き戻しは、そのまま長時間放置しておくと割れが発生してしまう可能性があるため、焼き入れ直後、1時間の間に行います。時間をかけて1回行うのではなく、時間内で焼き入れと焼き戻しを2~3回繰り返す方が、より靭性の高い鋼になります。焼き戻しの種類焼き戻しには低温焼戻しと高温焼戻しの2種類があります。それぞれ違った特徴をもっており、製品によっても使い分けられています。低温焼戻し低温焼戻しは、150℃~200℃の温度で行われる焼き戻しのこと。これにより、焼き入れによるストレスが軽減され、硬くて粘りのある素材へと変化します。経年劣化しにくく、研磨割れや耐摩耗性にも優れているため、ナイフや包丁、切削工具など、耐摩耗性が要求される工具などに多く取り入れられています。高温焼戻し550℃~650℃で行われる焼き戻しのことを高温焼戻しと呼んでいます。低温焼戻しよりもさらに高い強さを持つ素材となるため、高級刃物や歯車、シャフトなど、強靭性が求められる工具の製造に多く用いられています。焼き戻しのメリット焼き入れで硬くなった鋼に焼き戻しをすることで粘りや強靭性の高い鋼になります。さらに、高温焼戻し・低温焼戻しの特徴を把握することで、製造したい部品が求められている強度や硬度等に合わせて調整することが可能です。焼き戻しのデメリット実際に焼き戻しをすると、場合によっては靭性が増すどころか、逆に脆弱性が高くなってしまうケースがあります。これを解消するための手段として、低温焼戻しと高温焼戻しには、温度管理が徹底されています。低温焼戻しの脆弱低温焼戻しは、急速に冷やすと歪みや割れを起こしてしまう可能性があるため、空冷などを使って少しずつ冷やしていくことが望まれます。また、鋼は300℃~400℃で脆弱性が増してしまうため、必要以上に温度を上げ過ぎないことが低温焼戻しの鉄則となります。高温焼戻しの脆弱高温焼戻しは、一度目の急冷で焼き割れと同じような割れが発生する可能性があるため、必ず二回以上行う必要があります。また、鋼は300℃~400℃で脆弱性が増してしまうため、温度を下げる際に急速な冷却が必要とされます。焼き戻しに伴う硬度の推移焼き戻しによって、鋼の強度は増しますが、必ずしも硬くなるとは限りません。素材にもよりますが、多くの素材が500℃~600度で二次硬化を起こし、その後は急激に軟化していきます。ただし、硬い=強靭というわけではないため、硬さが求められる場合と強靭性が求められる場合とでは、素材選びや焼き戻しの温度選びなどをうまく調整する必要があります。目的や用途に合わせて素材や温度を調整することで、求められている硬さ、強靭性を持つ素材が完成します。焼き戻しの冷却方法焼き入れの後、温度を上昇させる焼き戻しですが、繰り返し作業を行うため、一度上げた温度をまた下げる必要があります。低温焼戻しでは、急激に冷やすと歪みや割れが生じてしまうため、空冷などでゆっくり冷やします。一方、高温焼戻しではゆっくり冷却すると鋼に脆弱性が生じる300℃から400℃の温度で長時間温度が維持されてしまうため、急激に冷却することが求められます。

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    ステンレスの焼き入れについて専門家が紹介!

    家庭用品をはじめ、機械部品や建築材料として生活を支えているステンレス。 このステンレスには、様々な種類があり特性も違います。その中では、ステンレス素材の強度を向上させるために焼き入れをするものもあります。 ステンレス加工において非常に重要な焼き入れですが、その方法や効果について知っている方はあまり多くありません。 今回はそんな「ステンレスの焼き入れって何?」という疑問をお持ちの方に向け、ステンレスの焼き入れについて詳しくご紹介させて頂きます。また、焼き入れ以外の熱処理についてもご紹介しますので、「熱処理について知りたい!」と思っている方やこれからステンレス加工を依頼しようとしている方も、是非ご一読下さい。 ステンレスの焼き入れの効果 ステンレスの焼き入れは、素材を硬くして強度を高める効果があります。ここでは、焼き入れとはどのような加工処理で、どんな種類があるのか、またその効果の詳細について説明していきます。 焼き入れとは 焼き入れは、一般的には、金属を加熱して高温状態にした後、一定の時間を置いてから急速に冷やす熱処理法です。 専門的には、鉄鋼(ステンレス鋼も含む)の組織を、炭素が固溶しやすいオーステナイトになるまで加熱した後、急冷してマルテンサイトとする熱処理法を指します。 マルテンサイトは、炭素をほとんど固溶しないフェライトに炭素を過剰に固溶させた組織で、硬い性質を持ち、炭素の含有量が多いほど硬度はより高くなります。しかし、焼き入れしたままでは脆いので、通常は粘り強さを向上させるために焼き戻しを行います。 焼き入れの種類 焼き入れの種類は、素材の内部まで焼き入れするズブ焼き入れと、表面のみを焼き入れして内部は柔らかいままにしておく表面焼き入れに二分することができます。 ズブ焼き入れは、内部まで硬化しているため、引っ張りや圧縮に強いという特徴があります。ただし、素材のサイズによっては、浅部と深部の冷却速度が大きく異なるため、内部は柔らかいままということも多々あります。 表面焼き入れは、粘り強さが高く、ねじりや曲げに強いという特徴があります。なお、表面焼き入れでも、焼き入れ後には焼き戻しが必要となりますが、靭性は維持されているので低温焼き戻しを採用することが多いです。 また、表面焼き入れには、加熱する方法の違いにより、高周波焼き入れ、炎焼き入れ、レーザー焼き入れ、電子ビーム焼き入れなどの種類があります。さらに、加熱に併せて素材表面の化学成分を変化させる浸炭焼き入れ、浸炭窒化焼き入れなどがあります。 下図は、棒状素材へ高周波焼き入れを適用した例で、加熱機と冷却機を並べて設置して、そこに素材を通すことで、加熱後の素早い冷却と加熱と冷却の同時実行を可能にしています。 引用元:株式会社イプロス ●熱源別表面焼き入れ法 高周波焼き入れ…高周波の電磁波で素材表面に誘導電流を発生させて加熱する方法。 炎焼き入れ…バーナーなどで炎を吹き付けて加熱する方法。燃料ガスとしては、アセチレンなどを使用。 レーザー焼き入れ…レーザー光を照射して加熱する方法。CO2レーザー、YAGレーザーなどを使用。 電子ビーム焼き入れ…真空中で電子ビームを照射して加熱する方法。 ●化学成分を添加する表面焼き入れ法 引用元:岡谷熱処理工業株式会社 浸炭焼き入れ…上の模式図のように素材表面に炭素を浸透拡散させた後、またはさせながら焼き入れして表面の硬度を得る方法。例えば、代表的なガス浸炭法では、炉に天然ガスなどを大気と共に入れて加熱。すると、下図のように、素材表面で一酸化炭素が鉄と反応し、炭素が鉄中に固溶する。 浸炭窒化焼き入れ…炭素に加え、窒素も素材表面に浸透させる焼き入れ法。浸炭焼き入れより処理温度を低く、または処理時間を短くすることが可能。 引用元:岡谷熱処理工業株式会社 焼き入れの効果 焼き入れは、素材を硬くし、耐摩耗性や引張強さ、降伏強度、疲労強度などを向上させる効果があります。しかし、展延性や靭性が低下し、脆く壊れやすくなります。 例えば、焼き入れ性が良い、つまり焼き入れによって硬化しやすいSUS440Cでは、焼き入れの仕方で大きく変動しますが、硬度・引張強さ・降伏強度が5倍以上も向上します。しかしもちろん、焼き戻しを行うので、使用する際の硬度や強度は、焼き入れ前の3~5倍程度となります。 一方、焼き入れは、割れや変形、残留応力などの原因となることがあります。これらの焼き入れ欠陥は、主に不均一な冷却による熱応力や組織変態に伴う体積変化で素材内部に焼き入れ応力が生じることで起こります。 焼き入れを行うことができるステンレスの材質 それでは、ステンレスのどの材質であれば焼き入れによって硬化するのかを見ていきましょう。 上述したように、焼き入れによる硬化は、炭素量の多いマルテンサイト組織が存在することを前提としています。そのため、マルテンサイト系と、母材をマルテンサイトとする析出硬化系以外のステンレスでは、焼き入れを行ってもほとんど硬化しません。 しかし、オーステナイト系ステンレスについては、プラズマ浸炭法や真空浸炭法などによる浸炭焼き入れにより、表面焼き入れが可能なメーカーもあります。 マルテンサイト系 マルテンサイト系は、焼き入れによってマルテンサイトを形成し、常温でもマルテンサイトを維持するステンレスです。他のステンレスに比べ、クロムの含有量が少なく、炭素の含有量が多いという特徴があります。 引用元:第一鋼業株式会社 代表的な鋼種には、SUS403、SUS420J2、SUS440C等が挙げられます。これらの成分は、マルテンサイトとするのに必要なため、クロムの含有量が多いほど、炭素の含有量が多くなっています。 そのため、焼き入れ性は、炭素量に依存して、SUS403、SUS420J2、SUS440Cの順番に良くなっていきます。しかし、その反面、炭素量が多くなるほど耐食性は低下します。 また、オーステナイト系やフェライト系と比較すると、硬度や強度は数倍となりますが、耐食性はやや劣ります。腐食に対するこの性質は、クロムの含有量が同程度でも同様で、焼き戻しによるクロム炭化物の析出が原因です。 析出硬化系 析出硬化系は、銅やアルミニウムなどを添加して母相中に析出させることで硬化させるステンレスです。そのため、母相がマルテンサイトのSUS630などでは、焼き入れによる硬化が可能です。上の画像は、ニオブとシリコンを析出させたステンレス表面の状態です。 ただし、析出硬化系の焼き入れは、高温状態で添加元素を十分に溶かし込む溶体化処理を伴い、急冷後も添加元素を析出させる時効処理が必要となります。また、析出硬化系は、全般的に炭素の含有量が少なく、炭素量の多いマルテンサイトの形成で硬度を高めるというよりは、添加元素の析出によって硬度を高めているステンレスです。 ステンレスの焼き入れ方法を解説! 次にステンレスの焼き入れの方法についてご紹介します。焼き入れは主に、①加熱②温度保持③冷却の3つの工程があります。 ①加熱 加工する素材を炉などで加熱し、温度をあげていきます。加熱する素材に応じて温度が違う場合もあります。焼き入れをする前工程として、汚れやサビなどが付着していると、焼き入れがうまくいかない可能性があるため、洗浄などで汚れを取り除くことが大切です。 また、加熱する炉には、電気炉やガス炉など様々な種類があります。 ②温度保持 加熱で温度が上昇した後は、全体に熱を通さなくてはいけません。加熱の際は、表面が先に目標温度に達成するため、加工物の中心まで熱がわたるまで時間が掛ります。その為、温度を保持する必要があります。必要な温度保持の時間は、素材や大きさによって変わってきます。 ③冷却 加工物に十分に熱が渡ったら、冷却工程に入ります。焼き入れに必要な冷却速度は一般的に160℃/秒以上とされています。 以上の工程でマルテンサイト系のステンレスに性質を付与することができます。 ステンレスの焼き入れについてわかったところで、 ・具体的にどれくらいの費用が掛かるのか ・納品までどれくらいの期間が掛かるのか などについて気になると思われます。 そこでMitsuriにお任せ下さい! 焼き入れ以外の熱処理方法 熱処理方法には焼き入れ以外にも様々な方法が存在します。主に焼き入れ以外の熱処理方法には、以下の3種類の方法があります。 焼きもどし 焼きもどしは、焼き入れをした後に行う熱処理方法になります。マルテンサイト系は焼き入れ処理のみでは、脆いので、焼き戻しをすることで耐性を付与します。基本的には焼き入れと焼き戻しはワンセットで考えられています。 焼き戻しとは、再度加熱することですが、低温焼き戻しと高温焼き戻しがあります。 低温焼き直しは、150℃から200℃程の温度で加熱します。主に、耐摩耗性や経年変化を防ぐために施されます。 高温焼き直しは、高温で再度加熱する方法です。主に強靭性を上げたいときに使用されます。 焼きなまし 焼きなましは、適当な温度で加工物を加熱し、一定時間後に冷却していく方法です。焼きなましの効果には、加工性の向上や内部応力の除去などがあります。 焼きならし 焼きならしとは、加工物を高温まで加熱した後に空冷などで冷却させる方法です。この焼きならしで、金属の組織結晶を微細化させることで、切削性の向上や、機械的性質の改善をすることができます。 まとめ 今回はステンレスの焼き入れについてご紹介させて頂きました。 焼き入れをするステンレスの種類は限られていますが、その特徴や性質を理解することで、焼き入れの依頼する際に手間のかからない提案ができます。また、焼き入れ以外の熱処理方法についても、製品の用途や材料によって選ぶことが大切です。 焼き入れを依頼できない会社もある為、依頼する際には十分に調べたうえで、依頼することをおすすめします。

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    鋼の性質を変える【熱処理】とは?仕組みや種類について徹底解説!

    鋼の性質を熱によって変える、それが金属加工における熱処理です。熱処理には様々な種類があり、その方法によって、同じ金属でも異なる性質を帯びてくる、不思議な加工といえます。 今回はこの熱処理に着目し、その仕組みや工法など詳しく触れていきます。 熱処理とは? 熱処理とは、ある一定の温度以上に金属を加熱し、適当な方法で冷やすことでその性質を変えることを言います。英語ではheat treatmentと記載します。 もちろん、意図的に行うわけですから、性質を悪くするのではなく、改善することが第一の目的。材料の用途に応じて金属の機械的性質や組織を自在に操るのです。 鋼の性質とは? 鋼の性質には、強さ、硬さ、粘り、耐衝撃性、耐摩耗性、耐腐食性、耐食性、被削性、冷間加工性などが挙げられます。これらは、熱の入れ方や温度、冷まし方によって変わってくるものなのです。 鋼の性質 強さ・硬さ・粘り・耐衝撃性・耐摩耗性・耐腐食性・耐食性・被削性・冷間加工性 鋼は、ある温度に達するとその組織に変化が起こります。この現象を変態(へんたい)といいます。そして変態を起こす温度を変態点と言います。 一口に鋼と言っても、構成する素材の含有量によっても変態点は変わりますし、冷まし方によっては成果物も変わってきます。例えば炭素鋼。これは炭素量と温度によって状態が異なります。温度と炭素量の含有率を変えるだけで、炭素鋼はフェライトやオーステナイト、炭化鉄、セメンタイト、パーライトと変化します。 炭素鋼の種類 炭素鋼はどのように性質が変わるのでしょうか?4つの炭素鉄を比較してみましょう。 4種の炭素鉄 ①フェライト ②オーステナイト ③セメンタイト ④パーライト ①フェライト 酸化鉄を主成分としたセラミックの総称のこと。700℃程度の温度域で発生します。その結晶構造が体心立方格子となっており、別名α鉄と呼びます。 ②オーステナイト フェライトの変態点を上げて911℃以上になったときに生成されるものを指します。その結晶構造は面心立方格子で、Γ(ガンマ)鉄とも言われます。 ③セメンタイト オーステナイトが発生する温度域で発生する炭化鉄で、金属組織学上の呼び名です。フェライトと同様、白色でもろい結晶ですが、強磁性を示します。パーライトが現れる前にオーステナイトと混在して出現します。 ④パーライト 炭素鋼の組織の一種で炭素量の多い炭素鋼に見られます。フェライトよりも色が黒いのが特徴です。黒曜石などのガラス質火山岩を1000℃程度の温度で焼いたときに発生します。 冷まし方で異なる性質 変態点以上に加熱した炭素鋼をゆっくり冷却すると、オーステナイトからパーライトに性質が変わります。通常、高温のオーステナイトを冷却するとフェライトに変態しようとします。 ところがこれを急激に冷却すると、マルテンサイトとなります。マルテンサイトとはオーステナイトを焼き入れしたときに発生する鋼。急冷することで変態が完了せずに、きれいな体心立方格子が形成されず、一部に炭素が紛れ込んだ準安定状態の結晶構造をとります。その組織構造は形状でいうと針状や板状になるので、壊れやすいのです。 これを無拡散変態というのですが、こうした性質のちょっとした違いを利用して性質を変え、私たちの生活に役立てたものがあります。そのひとつがマルテンサイト変態を利用して形成された形状記憶合金です。 このように、ほんの少しの構造の違いにより、性質も変わってくるのです。 熱処理の種類 熱処理により、鋼に強度と粘りを与えることができます。どんな処理法があるのかをい探っていきましょう。 熱処理の種類 ①焼きなまし ②焼きならし ③焼き入れ ④焼き戻し ①焼きなまし 普通熱処理と呼ばれるもののひとつで、鋼の結晶粒を調整し、鋼を軟らかくするために行うものです。英語ではannealingと記載し、JIS記号ではHAと表記されます。 炭素鋼の場合、変態点から30~50℃加熱して、オーステナイト化したのち炉中冷却してオーステナイトをパーライトに変化させます。 ■焼きなましの種類 焼きなましにはいくつか種類があります。 焼きなましの種類 1) 完全焼きなまし 2) 球状化焼きなまし 3) 応力除去焼きなまし 4) 拡散焼きなまし 1) 完全焼きなまし もっとも一般的な焼きなまし法で、JIS記号ではHAFと表記します。変態点以上に加熱後、ゆっくりと炉中冷却するもので、臨海区域(火色消失温度:約550℃、炎の色により温度が変わるが、色が保てなくなった状態)まで炉の中で冷却したのち、空冷したものを二段焼きなましと言います。 2) 球状化焼きなまし 鋼が熱処理されて冷却すると、その構造は層状になったり網状になったり、針状になったりと冷却の仕方によって変わります。この形状では脆いので、球状化するために行うのが球形化焼きなましです。球状化にするためには加熱と冷却を繰り返したりする方法などがあります。JIS記号ではHASと表記します。 3) 応力除去焼きなまし 金属処理で冷間加工や溶接などで発生した熱(残留応力:物体内部に商事、外力を除いた後にも保留される応力のこと)を除去するために行う焼きなましのことを応力除去焼きなましといいます。JIS記号ではHARと表記します。 4) 拡散焼きなまし 鋳造部品によっては合金成分の一部が組織の構造内で偏ってしまう(偏析)ため、それを均一化するための焼きなましのこと。JIS記号ではHADと表記します。偏析を解消するには、変態点を超えて長時間加熱したのち、普通の焼きなましを行います。 ②焼きならし 金属の加工による影響を取り除き、結晶粒を微細化して組織のばらつきをなくして機械的性質を向上させる熱処理のことを焼きならしと言います。英語ではnormalizingと記載し、JIS記号ではHNRと表記します。 炭素鋼で示すと、変態点から30~50℃上げて加熱し、完全にオーステナイト化したのち、冷却を空中放冷で行ったものを指します。 ■焼きならしの種類 焼きならしには2つの種類があります。 焼きならしの種類 1) 普通焼きならし 2) 二段焼きならし 1) 普通焼きならし 鋼によって所定の焼きならし温度から常温まで、大気中放冷することを示します。JIS記号ではHNRと表記します。 2) 二段焼きならし 所定の焼きならし温度から火色消失温度まで空冷したのち、ピットや箱内で徐冷(目標温度までゆっくりと冷却すること)する方法のこと。炭素鋼では内部き裂などを防ぐことができます。 ③焼き入れ 鋼を硬く、強くする熱処理のことです。英語ではhardeningあるいはquenchingと訳します。JIS記号ではHQと表記します。 これを炭素鋼を参考に具体的に見ていきましょう。 まず鋼を加熱してオーステナイトにしてから、急激に冷却してマルテンサイトにします。 マルテンサイトは硬いものの、脆い(もろい)性質があるので、再度、30~50℃の変態点以上に鋼を加熱し、オーステナイト化したら、臨海区域(770℃から550℃までの温度域)までは早く冷却し、危険区域(焼割れや焼入れひずみなどが生じる危険性のある温度範囲)はゆっくり冷却します。 マルテンサイトが発生すると、低温で硬くなる時に膨張するので、急激に冷やすと焼割れが発生しやすくなるのです。 ■焼き入れの種類 焼き入れには、引上げ焼き入れというものがあり、鋼を焼き入れ温度から焼入れ液の中に入れ、ある程度時間がたったのちに引き上げて、ゆっくり冷やす方法を引上げ焼き入れ、または時間焼き入れと言います。 焼入れ液は一般的には水、または油が使用されます。水は急速冷却に使用されますが、その一方で鋼の曲がりや焼割れが発生しやすい難点もあります。 これに比べ、油は水の冷却性能の3分の1なので、焼割れや曲がりが生じにくいのです。 ④焼き戻し 焼き入れ、または焼きならしを行った鋼の硬さを軽減し、代わりに粘性を高めるために行う熱処理のこと。英語ではtemperingと訳し、JIS記号ではHTと表記します。 鋼の粘り気を高めるとはどんな感じでしょうか?言うなれば、鋼に力を入れたときにしなる感じを高めること。硬くてもろい鋼よりも、強くてしなやかな鋼は扱いやすいですものね。 ■焼き戻しの種類 焼き戻しにもいくつか種類があります。鋼の用途によって冷却の仕方を変えれば、最適な鋼を得ることができるのです。 焼き戻しの種類 1) 低温焼き戻し 2) 高温焼き戻し 3) 焼き戻し硬化 1) 低温焼き戻し 刃物やゲージなど、かなりの硬度と耐摩耗性を必要とするものに行います。焼き戻し温度は150~200℃、冷却は空冷で徐々に冷やします。 焼き入れのときに発生する残留応力(以前に加えた力が組織の内部に残っている力のこと。例えば曲げたときの熱など)を除去したり、耐摩耗性を向上したり、経年変化による寸法の狂いを防止したり、研削割れを軽減することが可能です。 2) 高温焼き戻し 機械構造部品に使用される、強度と靭性(金属の粘り強さのこと)を兼ね備えた構造用合金鋼に用いられます。具体的には焼き戻し温度400~650℃からは急速に冷却します。この温度帯で徐冷すると、かえって高温焼き戻し脆性が発生してしまいます。焼入れののち、400~650℃で急冷して焼き戻しする作業を特に調質と呼びます。250~400℃の温度帯で焼き戻しを行うと、鋼がかえってもろくなる(低温焼き戻し脆性)ので注意が必要です。 3) 焼き戻し硬化 金属を高速度で切削加工する工具の材料となる合金工具鋼を高速度鋼とよびますが、これらはタングステンやコバルト、クロム、バナジウム、モリブデンなどが加えられています。こうした鋼を焼き入れしたのち、550~600℃から焼き戻しを行うと、再び硬化します。これを、焼き戻し硬化といいます。この場合、冷却は空冷で徐々に冷やすことが必要です。急激に冷やすと焼き戻し割れが発生します。 その他の熱処理 上記のほかにも、等温熱処理(等温焼きなまし、等温焼ならし、等温焼入れ)や浸炭、窒化などの化学的表面硬化法、高周波焼入れ炎焼き入れなどに代表される物理的表面硬化法があります。 まとめ 以上、熱処理について触れてきました。 まず、熱処理すると鋼の構造に変化が生じることがわかりましたね。変態点を理解し、生成している素材の含有量によって物質の性質が異なることを活かして、鋼の持つ性質を調整することができるのです。 また、熱処理には大きく4つの作業(焼きなまし、焼きならし、焼き入れ、焼き戻し)があり、目的とする鋼の性質を求めるための、各作業の役割も大きなポイントです。 鋼を自在に操る術ともいえる熱処理に、今後も注目していきたいですね。