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水素脆性割れとは、鋼材が水素を吸収することで靭性(粘り強さ)が低下して脆くなり、割れてしまう現象のことで、別名「水素脆化」とも呼ばれています。水素は、めっき・溶接・酸洗い・腐食などによって鋼材に吸収し、脆化を引き起こします。水素脆性は、HRC(ロックウェル硬さ)40以上・抗張力130kgf/mm2などの、高張力鋼や高強度鋼で発生しやすいとされています。低強度の鋼にはほとんど影響を与えないとされていますが、水素の吸収量が多いと発生することもあり、一概にこの鋼材なら安心と言えるものはありません。本記事では、このような水素脆性割れの原因と水素脆化割れの対策について解説します。水素脆性割れの原因水素を吸収することで脆化する原因は、「水素原子が集合することで分子になり内部圧力が上昇するため」や、「水素原子が鉄同士の結合を阻害して材料の強度を下げるため」などの説があるものの、はっきりとした原因は現状不明とされています。引用元:鍋屋バイテック会社また、水素脆性割れは、遅れ破壊も引き起こす可能性があります。遅れ破壊は、引張荷重がかかっている鋼材に塑性変形が見られないものの、応力が集中している部分にクラックが発生し、後に急速に破壊してしまう現象のことをいいます。遅れ破壊は、橋梁などの建築物に使われている高力ボルトに見られやすい現象です。水素脆性割れと遅れ破壊は、酸洗いやめっきなどの過程で水素を吸収している恐れがあるため、橋梁の現場などでは1本のボルトが遅れ破壊を起こすと、同じロットで製造されたものすべての点検および交換を必要とする場合があります。参考:【メッキ処理とは?】目的・仕組み・種類・特徴について徹底解説!参考:メッキ加工方法について!【専門家が語る】メッキされるまでの工程が丸わかり!水素脆性割れの対策、ベーキング処理水素脆性割れを防ぐには、ベーキング処理を行うのが有効です。ベーキング処理とは、綴りである「baking」の名前の通り、200℃程度の温度で8~24時間ほど加熱する脱水素処理のことをいいます。温度と加熱時間については、鋼材やめっき処理の内容によってさまざまです。例えば、高温にすることで硬度が低下する鋼材に対しては、高い温度での処理を避けなければなりません。その場合は、低い温度かつ長い時間をかけて処理します。めっき皮膜に厚みがあるものは、鋼材に吸収された水素が抜けにくくなるので、こちらも同様にベーキング処理の時間を長くする必要があります。そのほかにベーキング処理で注意しておくべきポイントとして、「めっき後すぐにベーキング処理をしなかった」、「ベーキングの効果が低い亜鉛めっき・光沢めっきを行った」、「酸洗いの時間が長い、または高濃度の処理液を使用し、多くの水素を吸収した」などの場合は、水素が抜けにくく、水素脆性割れが起こる場合もあります。ベーキング処理以外の対策としては、めっき工程において酸洗いを行う際、「低濃度の酸を使う」、「短時間で酸処理を終える」、「ショットブラストなどの機械的処理を利用して長時間の酸処理を避ける」といった方法も効果的です。
応力腐食割れ(SCC:Stress Corrosion Cracking)とは、腐食環境下において、金属材料に引張応力が作用することで、材料に割れが生じる現象を指します。部品や機器の破損を引き起こすため、さまざまな事故の原因となります。また、応力腐食割れは、主にステンレス、炭素鋼、黄銅のような合金で発生しやすく、純金属ではほとんど発生しません。応力腐食割れのメカニズムと3要素応力腐食割れは、材料的因子・環境因子・力学的因子の3つの要素が揃った時に、発生します。つまり、応力腐食割れが発生するのは、特定の材料と環境の組み合わせにおいて、ある水準以上の引張応力の付加が継続的に存在する場合に限られます。応力腐食割れが発生するメカニズムとしては、何らかの環境因子によってまず金属表面に腐食が生じ、ここに引張応力が加わることで割れが生じます。環境因子、応力が継続して存在することで、材料の応力腐食割れはさらに進行します。図:応力腐食割れのメカニズムと模式図また、下表に応力腐食割れの原因となりやすい金属材料と環境の組み合わせについて示しました。<応力腐食割れを生じる金属と環境>金属原因物質環境の例炭素鋼NO3-高温NaNO3溶液OH- 高温高濃度NaOH溶液高張力鋼H2SH2S水溶液オーステナイト系ステンレス鋼CL-高温海水OH- 高温高濃度NaOH溶液ポリチオン酸硫化した後湿性環境にさらす高温水 沸騰水型原子炉の配管黄銅NH3 NH3を含む大気アミン アミン水溶液高力アルミ合金CL-海水高力チタン合金CL-海水、熱NaCL上表のような材料を特定の腐食環境下において使用し、かつ「引張応力」が加わると応力腐食割れが発生します。この引張応力には、使用時に加わる応力の他にも、機械加工や溶接、熱処理によって生じる残留応力があります。金属材料の最大引張強さの1/10程度の小さい引張応力でも、応力腐食割れの生じる原因となります。また、焼き入れ材料については、その焼き戻し温度によっても差があり、一般に降伏点の高い材料は応力腐食割れへの感受性が高いと言われています。ステンレスの応力腐食割れステンレス鋼の中でも、特にオーステナイト系ステンレス鋼において、応力腐食割れが発生しやすくなります。オーステナイト系ステンレス鋼では、溶接などによって高温下にさらされると、結晶粒界付近で炭素とクロムが結合し、クロム炭化物を生成します。このため、粒界近傍では、鋭敏化(結晶粒界に沿って耐食性の低下する劣化現象)した状態となり、応力腐食割れが発生しやすくなります。これを、粒界型応力腐食割れと言います。また、ステンレス鋼は、塩素雰囲気(塩化物水溶液や海水など)においても、応力腐食割れを起こしやすいため注意が必要です。炭素鋼の応力腐食割れ炭素鋼では、高温,高濃度の苛性アルカリ水溶液や硝酸塩水溶液などが存在する環境において、応力腐食割れが発生しやすくなります。銅の応力腐食割れ黄銅(銅-亜鉛合金)では、アンモニア雰囲気において応力腐食割れが発生しやすいとされています。応力腐食割れの対策応力腐食割れの対策としては、原因となる3つの要素(材料的因子・環境因子・力学的因子)の内、どれか一つの因子を取り除くことが有効となります。(1)材料的因子例えば、ステンレス鋼では、前述した通りオーステナイト系ステンレス鋼(SUS303、SUS304 など)では発生しやすいため、フェライト系ステンレス鋼(SUS403 など)に材料を変更することが有効です。また、オーステナイト系ステンレス鋼の中でも炭素の含有量を減らした極低炭素鋼に変更することも有効です。極低炭素鋼では、粒界付近でのクロム炭化物の析出が生じにくいため、応力腐食割れに強い特性を持ちます。極低炭素鋼には、SUS304L、SUS316L、SUS321、SUS347などが挙げられます。参考:SUS303(ステンレス鋼)規格、成分、機械的性質参考:SUS321(ステンレス鋼)組成、成分、機械的性質(2)環境因子材料をできるだけ腐食環境因子から遠ざけること、また材料に塗装などの表面処理を施すことで、環境因子との直接的な接触を遮断することも有効です。(3)力学的因子加工・組立て時には、最小の引張応力に抑えられるよう設計を行うこと、また残留応力を除去するために、加工成形後に応力除去熱処理を行うことが対策として挙げられます。参考:鋼の性質を変える【熱処理】とは?仕組みや種類について徹底解説!
加工硬化とは、金属に力を加えると硬くなる現象のことです。針金を何度も折り曲げていると、だんだん硬く脆くなって、ついには切れてしまう現象がこれに当たります。また、全ての金属に起こる現象でもあるため、金属加工に携わる方にとっては必須の知識であり、現場においては加工硬化が起こることを見越した対処が必要となります。そこで、今回の記事では、加工硬化の仕組みや金属を加工するときの影響、材料ごとの加工硬化のしやすさについて解説していきます。加工硬化した金属の扱い方も説明しますので、ぜひ参考にしてください。加工硬化とは、塑性変形により変形抵抗が大きくなる現象加工硬化とは、金属に応力を加えて塑性変形(永続的な変形)させたとき、金属が硬くなる現象のことです。変形の度合いである「ひずみ」が増加するにつれて抵抗が大きくなるため、ひずみ硬化とも呼ばれます。古くから知られていた現象で、ハンマーなどで材料を叩いて成形する加工法などで金属を硬くする手段として利用されていました。ただし、加工硬化が進むと脆くもなるため、一定の硬さ以上にならないよう、定期的に焼なましを実施。打撃による加工硬化と焼なましを繰り返し行うことによって、成形すると同時に硬度を調整していました。なお、焼なましとは、金属を軟らかくするために行われる熱処理のことで、加工硬化などによる内部のひずみを除去するために行われます。つまり、焼なましを行うことで、加工による塑性変形を維持したまま、加工硬化した金属組織を元に戻すことが可能です。加工硬化のしくみ引用元:公益社団法人日本金属学会塑性変形によって生じる加工硬化ですが、その仕組みを理解するためには金属の変形について知る必要があります。そもそも金属は、格子の交点に整然と配置された原子によって構成されています。そして、これに力を加えると、上図の弾性変形に見られるように、ある一定の変形量以下では、力を抜いても元の形状に戻ります。しかし、その変形量を超えると、局所的な原子配列を維持しながらも、元の形状に戻らない塑性変形が起こります(上図の塑性変形)。このとき、下図のような原子配列の乱れ(転位)や、格子の交点が空となる格子欠陥などが発生することがあり、これらは加工を加えるほどに増大。そして、原子配列の乱れや格子欠陥が互いに干渉して、弾性変形が生じにくくなると共に、原子が再配列する塑性変形も起こりにくくなります。このように、原子配列が変動する余地がなくなると同時に、再配列もできなくなることで加工硬化が生じます。なお、下図の「転位」とは、線状に形成された原子配列の乱れを指す言葉です。左図の刃状転位は、原子が真ん中の水平面で横にすべることで発生する転位で、すべり面と垂直であることが特徴です。一方、らせん転位は、原子が真ん中の垂直面で縦にすべることで発生する転位で、すべり面と平行であるという特徴があります。引用元:コトバンク加工硬化のメリット・デメリット加工硬化のメリットは、上述したように材料の硬さが増すことです。しかし、それは、材料が脆くなると共に粘りが低下することも意味するため、割れや破断が発生しやすくなり、耐久性の低下の原因となります。また、加工途中で加工硬化が起こると、後工程の加工で不備が生じることがあります。例えば、ステンレス鋼では、表面を擦るタイプの切削加工で加工硬化が起きやすく、後工程で用いる工具の寿命に悪影響を与えることがあります。なお、この加工硬化を防ぐためには、材料や工具に合わせて、工具の送り速度や回転速度などを調整すると共に、最適な潤滑剤などを用意し、加工硬化が生じにくい条件を見つけることが必要となります。その一方で、プレス加工における深絞り成形と張り出し成形では、加工硬化が成形に有利に働くことがあります。これらの成形方法では、下図中の上部のように板材に金型を押し込み、板材の一部を伸ばすことで成形します。そのため、下図中の下部のように伸びる部分の板厚のみが薄くなり、成形品の板厚が不均一になることはもちろん、破断の原因となることがあります。しかし、加工硬化が起きやすい材料では、変形すると同時に硬化するため、伸びる部分が次々と移り変わり、変形が一様化しやすく破断も起き難くなります。参考:深絞りとは【3分でわかる】専門家がわかりやすく解説します!引用元:toishi.info材料の種類と加工硬化加工硬化は、材料によって起きやすいものと起きにくいものがあります。ここでは、加工硬化のしやすさを表す指数を説明すると共に、代表的な材料の加工硬化のしやすさについてご紹介します。加工硬化しやすい材料・しにくい材料引用元:サイバネットシステム株式会社材料の加工硬化のしやすさは、加工硬化指数(n値)が目安となります。n値とは、応力-ひずみ曲線(上図)における、降伏点(塑性変形が始まる応力)以上の塑性域の応力σとひずみεとの関係を「σ=Cεn」で近似させたときの指数nのことです。n値が大きいほど、局部収縮発生までに要する応力(最大応力)が大きくなり、加工硬化しやすいことを示します。なお、「C」は、塑性係数と呼ばれる定数で、降伏点における塑性域側の傾きを表します。代表的な金属のn値が下表です。SUS304やSUS301、銅、黄銅は加工硬化しやすく、チタンは加工硬化しにくいことが見て取れます。また、同じステンレスであっても、SUS430は、加工硬化しやすいわけではありません。なお、「1/2材」や「H24」の表記があるものは、加工済みの材料であり、すでに加工硬化が起こっているものです。一方、「0」や「0材」の表記があるものは、完全焼なまし処理を行い、加工硬化が起きていないものを示します。引用元:toishi.info加工硬化した金属を軟化する方法は?加工硬化した金属は、焼なましを行うことで、軟化させることが可能です。上述したように、加工硬化は、転位や格子欠陥などが増大することで起こります。しかし、このような状態は、原子配列が周期的である状態に比べて不安定です。そのため、原子が動きやすくなる温度(再結晶温度)まで加熱すると、転位や格子欠陥などがなくなっていき、原子配列は周期性を持った状態へと移行していきます。この現象は金属内部のひずみが緩和されていくことを意味するため、加工硬化した金属は軟化していきます。なお、鉄鋼は、1時間半程度、450℃~600℃を保つことで軟化することが可能です。参考:鋼の性質を変える【熱処理】とは?仕組みや種類について徹底解説!まとめいかがでしたでしょうか。加工硬化は、金属を塑性変形させたときに硬くなると同時に脆くなる現象です。そのため、工具の損耗などの原因となったり、割れや破断などに繋がることがあります。しかし、悪いことばかりではなく、プレス加工においては加工硬化の性質を利用することで、破断を防止したり品質を高めたりすることが可能です。このように、加工硬化は、金属加工を行う際には注意しなくてはならない現象ですので、金属加工に関わりがある方は頭に入れておくことをおすすめします。Mitsuriは、日本全国の250社以上の業者と提携しています。そのため、お客様のご要望に合わせて、高い技術とノウハウを持つ金属加工業者をご紹介できます。お見積りは複数社から可能です!金属加工でお困りの際は、ぜひMitsuriにご相談ください。
水素脆性割れとは、鋼材が水素を吸収することで靭性(粘り強さ)が低下して脆くなり、割れてしまう現象のことで、別名「水素脆化」とも呼ばれています。水素は、めっき・溶接・酸洗い・腐食などによって鋼材に吸収し、脆化を引き起こします。水素脆性は、HRC(ロックウェル硬さ)40以上・抗張力130kgf/mm2などの、高張力鋼や高強度鋼で発生しやすいとされています。低強度の鋼にはほとんど影響を与えないとされていますが、水素の吸収量が多いと発生することもあり、一概にこの鋼材なら安心と言えるものはありません。本記事では、このような水素脆性割れの原因と水素脆化割れの対策について解説します。水素脆性割れの原因水素を吸収することで脆化する原因は、「水素原子が集合することで分子になり内部圧力が上昇するため」や、「水素原子が鉄同士の結合を阻害して材料の強度を下げるため」などの説があるものの、はっきりとした原因は現状不明とされています。引用元:鍋屋バイテック会社また、水素脆性割れは、遅れ破壊も引き起こす可能性があります。遅れ破壊は、引張荷重がかかっている鋼材に塑性変形が見られないものの、応力が集中している部分にクラックが発生し、後に急速に破壊してしまう現象のことをいいます。遅れ破壊は、橋梁などの建築物に使われている高力ボルトに見られやすい現象です。水素脆性割れと遅れ破壊は、酸洗いやめっきなどの過程で水素を吸収している恐れがあるため、橋梁の現場などでは1本のボルトが遅れ破壊を起こすと、同じロットで製造されたものすべての点検および交換を必要とする場合があります。参考:【メッキ処理とは?】目的・仕組み・種類・特徴について徹底解説!参考:メッキ加工方法について!【専門家が語る】メッキされるまでの工程が丸わかり!水素脆性割れの対策、ベーキング処理水素脆性割れを防ぐには、ベーキング処理を行うのが有効です。ベーキング処理とは、綴りである「baking」の名前の通り、200℃程度の温度で8~24時間ほど加熱する脱水素処理のことをいいます。温度と加熱時間については、鋼材やめっき処理の内容によってさまざまです。例えば、高温にすることで硬度が低下する鋼材に対しては、高い温度での処理を避けなければなりません。その場合は、低い温度かつ長い時間をかけて処理します。めっき皮膜に厚みがあるものは、鋼材に吸収された水素が抜けにくくなるので、こちらも同様にベーキング処理の時間を長くする必要があります。そのほかにベーキング処理で注意しておくべきポイントとして、「めっき後すぐにベーキング処理をしなかった」、「ベーキングの効果が低い亜鉛めっき・光沢めっきを行った」、「酸洗いの時間が長い、または高濃度の処理液を使用し、多くの水素を吸収した」などの場合は、水素が抜けにくく、水素脆性割れが起こる場合もあります。ベーキング処理以外の対策としては、めっき工程において酸洗いを行う際、「低濃度の酸を使う」、「短時間で酸処理を終える」、「ショットブラストなどの機械的処理を利用して長時間の酸処理を避ける」といった方法も効果的です。
応力腐食割れ(SCC:Stress Corrosion Cracking)とは、腐食環境下において、金属材料に引張応力が作用することで、材料に割れが生じる現象を指します。部品や機器の破損を引き起こすため、さまざまな事故の原因となります。また、応力腐食割れは、主にステンレス、炭素鋼、黄銅のような合金で発生しやすく、純金属ではほとんど発生しません。応力腐食割れのメカニズムと3要素応力腐食割れは、材料的因子・環境因子・力学的因子の3つの要素が揃った時に、発生します。つまり、応力腐食割れが発生するのは、特定の材料と環境の組み合わせにおいて、ある水準以上の引張応力の付加が継続的に存在する場合に限られます。応力腐食割れが発生するメカニズムとしては、何らかの環境因子によってまず金属表面に腐食が生じ、ここに引張応力が加わることで割れが生じます。環境因子、応力が継続して存在することで、材料の応力腐食割れはさらに進行します。図:応力腐食割れのメカニズムと模式図また、下表に応力腐食割れの原因となりやすい金属材料と環境の組み合わせについて示しました。<応力腐食割れを生じる金属と環境>金属原因物質環境の例炭素鋼NO3-高温NaNO3溶液OH- 高温高濃度NaOH溶液高張力鋼H2SH2S水溶液オーステナイト系ステンレス鋼CL-高温海水OH- 高温高濃度NaOH溶液ポリチオン酸硫化した後湿性環境にさらす高温水 沸騰水型原子炉の配管黄銅NH3 NH3を含む大気アミン アミン水溶液高力アルミ合金CL-海水高力チタン合金CL-海水、熱NaCL上表のような材料を特定の腐食環境下において使用し、かつ「引張応力」が加わると応力腐食割れが発生します。この引張応力には、使用時に加わる応力の他にも、機械加工や溶接、熱処理によって生じる残留応力があります。金属材料の最大引張強さの1/10程度の小さい引張応力でも、応力腐食割れの生じる原因となります。また、焼き入れ材料については、その焼き戻し温度によっても差があり、一般に降伏点の高い材料は応力腐食割れへの感受性が高いと言われています。ステンレスの応力腐食割れステンレス鋼の中でも、特にオーステナイト系ステンレス鋼において、応力腐食割れが発生しやすくなります。オーステナイト系ステンレス鋼では、溶接などによって高温下にさらされると、結晶粒界付近で炭素とクロムが結合し、クロム炭化物を生成します。このため、粒界近傍では、鋭敏化(結晶粒界に沿って耐食性の低下する劣化現象)した状態となり、応力腐食割れが発生しやすくなります。これを、粒界型応力腐食割れと言います。また、ステンレス鋼は、塩素雰囲気(塩化物水溶液や海水など)においても、応力腐食割れを起こしやすいため注意が必要です。炭素鋼の応力腐食割れ炭素鋼では、高温,高濃度の苛性アルカリ水溶液や硝酸塩水溶液などが存在する環境において、応力腐食割れが発生しやすくなります。銅の応力腐食割れ黄銅(銅-亜鉛合金)では、アンモニア雰囲気において応力腐食割れが発生しやすいとされています。応力腐食割れの対策応力腐食割れの対策としては、原因となる3つの要素(材料的因子・環境因子・力学的因子)の内、どれか一つの因子を取り除くことが有効となります。(1)材料的因子例えば、ステンレス鋼では、前述した通りオーステナイト系ステンレス鋼(SUS303、SUS304 など)では発生しやすいため、フェライト系ステンレス鋼(SUS403 など)に材料を変更することが有効です。また、オーステナイト系ステンレス鋼の中でも炭素の含有量を減らした極低炭素鋼に変更することも有効です。極低炭素鋼では、粒界付近でのクロム炭化物の析出が生じにくいため、応力腐食割れに強い特性を持ちます。極低炭素鋼には、SUS304L、SUS316L、SUS321、SUS347などが挙げられます。参考:SUS303(ステンレス鋼)規格、成分、機械的性質参考:SUS321(ステンレス鋼)組成、成分、機械的性質(2)環境因子材料をできるだけ腐食環境因子から遠ざけること、また材料に塗装などの表面処理を施すことで、環境因子との直接的な接触を遮断することも有効です。(3)力学的因子加工・組立て時には、最小の引張応力に抑えられるよう設計を行うこと、また残留応力を除去するために、加工成形後に応力除去熱処理を行うことが対策として挙げられます。参考:鋼の性質を変える【熱処理】とは?仕組みや種類について徹底解説!
加工硬化とは、金属に力を加えると硬くなる現象のことです。針金を何度も折り曲げていると、だんだん硬く脆くなって、ついには切れてしまう現象がこれに当たります。また、全ての金属に起こる現象でもあるため、金属加工に携わる方にとっては必須の知識であり、現場においては加工硬化が起こることを見越した対処が必要となります。そこで、今回の記事では、加工硬化の仕組みや金属を加工するときの影響、材料ごとの加工硬化のしやすさについて解説していきます。加工硬化した金属の扱い方も説明しますので、ぜひ参考にしてください。加工硬化とは、塑性変形により変形抵抗が大きくなる現象加工硬化とは、金属に応力を加えて塑性変形(永続的な変形)させたとき、金属が硬くなる現象のことです。変形の度合いである「ひずみ」が増加するにつれて抵抗が大きくなるため、ひずみ硬化とも呼ばれます。古くから知られていた現象で、ハンマーなどで材料を叩いて成形する加工法などで金属を硬くする手段として利用されていました。ただし、加工硬化が進むと脆くもなるため、一定の硬さ以上にならないよう、定期的に焼なましを実施。打撃による加工硬化と焼なましを繰り返し行うことによって、成形すると同時に硬度を調整していました。なお、焼なましとは、金属を軟らかくするために行われる熱処理のことで、加工硬化などによる内部のひずみを除去するために行われます。つまり、焼なましを行うことで、加工による塑性変形を維持したまま、加工硬化した金属組織を元に戻すことが可能です。加工硬化のしくみ引用元:公益社団法人日本金属学会塑性変形によって生じる加工硬化ですが、その仕組みを理解するためには金属の変形について知る必要があります。そもそも金属は、格子の交点に整然と配置された原子によって構成されています。そして、これに力を加えると、上図の弾性変形に見られるように、ある一定の変形量以下では、力を抜いても元の形状に戻ります。しかし、その変形量を超えると、局所的な原子配列を維持しながらも、元の形状に戻らない塑性変形が起こります(上図の塑性変形)。このとき、下図のような原子配列の乱れ(転位)や、格子の交点が空となる格子欠陥などが発生することがあり、これらは加工を加えるほどに増大。そして、原子配列の乱れや格子欠陥が互いに干渉して、弾性変形が生じにくくなると共に、原子が再配列する塑性変形も起こりにくくなります。このように、原子配列が変動する余地がなくなると同時に、再配列もできなくなることで加工硬化が生じます。なお、下図の「転位」とは、線状に形成された原子配列の乱れを指す言葉です。左図の刃状転位は、原子が真ん中の水平面で横にすべることで発生する転位で、すべり面と垂直であることが特徴です。一方、らせん転位は、原子が真ん中の垂直面で縦にすべることで発生する転位で、すべり面と平行であるという特徴があります。引用元:コトバンク加工硬化のメリット・デメリット加工硬化のメリットは、上述したように材料の硬さが増すことです。しかし、それは、材料が脆くなると共に粘りが低下することも意味するため、割れや破断が発生しやすくなり、耐久性の低下の原因となります。また、加工途中で加工硬化が起こると、後工程の加工で不備が生じることがあります。例えば、ステンレス鋼では、表面を擦るタイプの切削加工で加工硬化が起きやすく、後工程で用いる工具の寿命に悪影響を与えることがあります。なお、この加工硬化を防ぐためには、材料や工具に合わせて、工具の送り速度や回転速度などを調整すると共に、最適な潤滑剤などを用意し、加工硬化が生じにくい条件を見つけることが必要となります。その一方で、プレス加工における深絞り成形と張り出し成形では、加工硬化が成形に有利に働くことがあります。これらの成形方法では、下図中の上部のように板材に金型を押し込み、板材の一部を伸ばすことで成形します。そのため、下図中の下部のように伸びる部分の板厚のみが薄くなり、成形品の板厚が不均一になることはもちろん、破断の原因となることがあります。しかし、加工硬化が起きやすい材料では、変形すると同時に硬化するため、伸びる部分が次々と移り変わり、変形が一様化しやすく破断も起き難くなります。参考:深絞りとは【3分でわかる】専門家がわかりやすく解説します!引用元:toishi.info材料の種類と加工硬化加工硬化は、材料によって起きやすいものと起きにくいものがあります。ここでは、加工硬化のしやすさを表す指数を説明すると共に、代表的な材料の加工硬化のしやすさについてご紹介します。加工硬化しやすい材料・しにくい材料引用元:サイバネットシステム株式会社材料の加工硬化のしやすさは、加工硬化指数(n値)が目安となります。n値とは、応力-ひずみ曲線(上図)における、降伏点(塑性変形が始まる応力)以上の塑性域の応力σとひずみεとの関係を「σ=Cεn」で近似させたときの指数nのことです。n値が大きいほど、局部収縮発生までに要する応力(最大応力)が大きくなり、加工硬化しやすいことを示します。なお、「C」は、塑性係数と呼ばれる定数で、降伏点における塑性域側の傾きを表します。代表的な金属のn値が下表です。SUS304やSUS301、銅、黄銅は加工硬化しやすく、チタンは加工硬化しにくいことが見て取れます。また、同じステンレスであっても、SUS430は、加工硬化しやすいわけではありません。なお、「1/2材」や「H24」の表記があるものは、加工済みの材料であり、すでに加工硬化が起こっているものです。一方、「0」や「0材」の表記があるものは、完全焼なまし処理を行い、加工硬化が起きていないものを示します。引用元:toishi.info加工硬化した金属を軟化する方法は?加工硬化した金属は、焼なましを行うことで、軟化させることが可能です。上述したように、加工硬化は、転位や格子欠陥などが増大することで起こります。しかし、このような状態は、原子配列が周期的である状態に比べて不安定です。そのため、原子が動きやすくなる温度(再結晶温度)まで加熱すると、転位や格子欠陥などがなくなっていき、原子配列は周期性を持った状態へと移行していきます。この現象は金属内部のひずみが緩和されていくことを意味するため、加工硬化した金属は軟化していきます。なお、鉄鋼は、1時間半程度、450℃~600℃を保つことで軟化することが可能です。参考:鋼の性質を変える【熱処理】とは?仕組みや種類について徹底解説!まとめいかがでしたでしょうか。加工硬化は、金属を塑性変形させたときに硬くなると同時に脆くなる現象です。そのため、工具の損耗などの原因となったり、割れや破断などに繋がることがあります。しかし、悪いことばかりではなく、プレス加工においては加工硬化の性質を利用することで、破断を防止したり品質を高めたりすることが可能です。このように、加工硬化は、金属加工を行う際には注意しなくてはならない現象ですので、金属加工に関わりがある方は頭に入れておくことをおすすめします。Mitsuriは、日本全国の250社以上の業者と提携しています。そのため、お客様のご要望に合わせて、高い技術とノウハウを持つ金属加工業者をご紹介できます。お見積りは複数社から可能です!金属加工でお困りの際は、ぜひMitsuriにご相談ください。