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ステンレス鋼

  • SUS440Cとは?性質、規格、成分、用途

    SUS440Cは、JIS規格に規定されているステンレス鋼の中で最も硬いステンレス鋼です。マルテンサイト系ステンレス鋼の一種で、熱処理を施し、硬度を高めた状態で利用することが前提とされています。強度や耐摩耗性が必要なベアリングやシャフトなどの機械部品によく採用されるステンレス鋼で、高い強度と耐食性から刃物の用途もあります。しかし、SUS440Cにとって最も重要な硬度、さらにはステンレス鋼の大事な特性である耐食性も、熱処理条件によって変化するため、その取扱いには十分な知識が必要です。この記事では、SUS440Cの性質や規格、物理的性質、耐食性、熱処理条件によって変わる機械的性質などについて解説していきます。SUS440CとはSUS440Cとは、炭素の含有量が0.95〜1.20%と多く、焼入硬化性が特に高いマルテンサイト系ステンレス鋼の一種のことです(上図参照)。焼き入れと焼き戻しによって、ステンレス鋼の中でも最高レベルのHRC58以上という硬度を出すことができます。高硬度であるため、耐摩耗性や疲労強度が高く、引張強さも良好で、機械的性質に優れたステンレス鋼です。価格は、SUS304と同程度か、SUS304よりも少し高いくらいとなっています。参考:マルテンサイト系ステンレス鋼の基礎知識まとめSUS440Cの耐食性は、クロムを16.0〜18.0%とステンレス鋼の中でも比較的多く含有するため、S45Cなどの炭素鋼やSK材・SKS材といった工具鋼と比べると高くなっています。しかし、炭素含有量が多いため、オーステナイト系ステンレス鋼(SUS304など)やフェライト系ステンレス鋼(SUS430など)、他のマルテンサイト系ステンレス鋼(SUS410やSUS420など)に劣ります。参考:SUS304とSUS430の意味とは? 使い分けや特徴も分かりやすく解説!SUS440Cの被削性は、焼き入れ前(焼き鈍し後の状態)であれば、普通鋼やフェライト系ステンレス鋼と同程度で、オーステナイト系ステンレス鋼よりは良好です。しかし、焼き入れ・焼き戻し後の被削性は悪いため、焼き入れ前に最終的な形状まで成形することが多くなっています。ただし、焼き入れ・焼き戻し後にも加工を行う場合は、硬度に関係なく加工ができる放電加工を採用したり、難削材用の工具を使用したりする必要があります。なお、JIS規格には、SUS440Cに硫黄を添加して被削性を改善したSUS440Fが存在します(上図参照)。SUS440Cの焼入硬化性は特に良好で、焼き入れ・焼き戻しの適用が前提とされているステンレス鋼です。下表は、JIS規格(JIS G 4303:2021)に記載してある焼き鈍し・焼き入れ・焼き戻しの熱処理条件の例ですが、この条件以外の熱処理条件が用いられることもよくあります。熱処理方法焼き鈍し焼き入れ焼き戻し温度 (℃)800~9201010~1070100~180冷却方法徐冷油冷空冷・徐冷…炉の停止後、鋼材を炉内に入れたままにし、炉が冷えるのに合わせて鉄鋼を冷却する方法・油冷…炉の停止後、鋼材を炉から取り出し、油中に入れて冷却する方法・空冷…炉の停止後、鋼材を炉から取り出して、常温の空気中で冷却する方法参考:ステンレスの焼き入れについて専門家が紹介!SUS440Cの用途SUS440Cの用途は、以下のように、優れた硬度や耐摩耗性、比較的良好な耐食性を活かしたものが多くなっています。・ベアリング(軸受)…回転・往復運動する部品を支持する部品のこと。荷重に対する形状不変性や摩擦に対する耐性が必要であることから、SUS440Cが採用されることがあります。・刃物…包丁やハサミ、カミソリ、医療用メスなどの刃のこと。高い硬度と防錆性が必要であることから、SUS440Cがよく採用されています。・ゲージ…製品検査で形状や精度などの検証に使用する測定・検査ゲージのこと。形状不変性や防錆性が必要であることから、SUS440Cが採用されることがあります。・金型…耐摩耗性が必要。プラスチックの射出成形用の金型にSUS440Cが採用されることがあります。そのほか、ノズルやシャフト、ポンプ部品などの強度を要する機械部品に用いられています。SUS440Cの規格SUS440Cは、以下のJIS規格に定められています。・JIS G 4303:2021「ステンレス鋼棒」・JIS G 4308:2013「ステンレス鋼線材」・JIS G 4309:2013「ステンレス鋼線」・JIS G 4318:2016「冷間仕上ステンレス鋼棒」SUS440Cの板材の規格はありませんが、市場には出回っています。なお、炭素含有量だけがSUS440Cと異なる、SUS440Aの板材については、以下のJIS規格に記載があります。・JIS G 4304:2021「熱間圧延ステンレス鋼板及び鋼帯」・JIS G 4305:2021「冷間圧延ステンレス鋼板及び鋼帯」また、SUS440CのJIS規格以外の規格との対応は以下の通りです。規格記号JISISOENASTM規格名日本産業規格国際標準化機構欧州標準化委員会米国試験材料協会鋼種名SUS440CX110Cr171.4023S44004SUS440Cの機械的性質焼き鈍し状態の硬さ焼き入れ・焼き戻し状態の硬さHBWHRCHVHBWHRCHV269以下28以下284以下−58以上653以上SUS440Cの硬度は、「JIS G 4303:2021」にて上表のように規定されています。ただし、必ずしもこれらの硬度になるわけではなく、特に焼き入れ後と焼き戻し後の硬さは熱処理条件によって大きく変わります。例えば、様々な焼き入れ温度に対する焼き入れ後(焼き戻し前)の硬度は、以下のような値が報告されています。焼き入れ温度900℃950℃1000℃1050℃1150℃硬度 (HRC)4753596142参照元:シリコロイ ラボ「SUS440C」株式会社シリコロイラボ焼き入れ・焼き戻し状態については、下表のように、様々な焼き戻し温度における多種の機械的性質のデータがあります。焼き戻し温度引張強さ0.2%耐力伸び硬さMPaMPa%HRC焼き鈍し状態7584481427.71 (269HB)204℃20301900459260℃19601830457316℃18601740456371℃17901660456参照元:Penn Stainless「440C STAINLESS STEEL」Penn Stainless Products Inc1020℃で焼き入れを行い、冷却方法として油冷を採用した場合では、焼き戻し後の硬度は、下図のような値になるとのこと。引用元:Gruppo Lucefin「1.4125a440c62.pdf」LUCEFIN S.P.A.SUS440Cの物理的性質密度熱伝導率比熱*比電気抵抗*×10-8磁性*g/cm3W/(m・K)J/(g・℃)Ω・m7.7824.30.4660強磁性参照元:シリコロイ ラボ「物理的性質」株式会社シリコロイラボ、*製品カタログ・技術情報「ステンレス鋼」愛知製鋼株式会社SUS440Cの主な物理的性質は、上表の通りです。ヤング率は、温度によって値が変化しますが、下表の通りとなっています。温度 (℃)20100200300400ヤング率 (GPa)215212205200190参照元:Gruppo Lucefin「1.4125a440c62.pdf」LUCEFIN S.P.A.温度範囲によって値が変わる熱膨張係数は、下表の通りです。温度範囲 (℃)20~10020~20020~30020~40020~500熱膨張係数 ×10-6 (℃)10.410.811.211.612.0参照元:Gruppo Lucefin「1.4125a440c62.pdf」LUCEFIN S.P.A.マルテンサイト系に言えることですが、SUS440Cの物理的性質は、フェライト系と類似しており、オーステナイト系とは異なる点が多くあります。SUS440Cは、普通鋼と同じく強磁性で、この点、SUS304などのオーステナイト系と異なります。比熱や電気抵抗率、熱膨張係数は、オーステナイト系の値よりも低く、密度や熱伝導率、ヤング率は、オーステナイト系の値よりも高くなっています。SUS440Cの成分(単位:%)炭素ケイ素マンガンリン硫黄ニッケルクロムモリブデンCSiMnPSNiCrMo0.95~1.201.00以下1.00以下0.040以下0.030以下0.60以下16.0~18.00.75以下SUS440Cの化学成分は、JIS規格によって上表のように定められています。SUS440Cは、ステンレス鋼の硬度や強度、焼入性に効果がある炭素の含有量が多く、焼入性のほか、耐食性や耐熱性を向上させるクロムの含有量も比較的多いステンレス鋼です。クロムは、防錆性の源となる酸化皮膜を形成し、焼き入れ後には、炭素と結合してクロム炭化物となり、SUS440Cの硬度や強度に寄与します。SUS440Cの耐食性SUS440Cは、上述したように、酸化皮膜の素となるクロムを多く含むため、良好な耐食性を示します。しかし、焼き入れ・焼き戻しによって、クロム炭化物が析出するため、周囲のクロム含有量が減少し、耐食性が低下します。ただし、その耐食性は、焼き戻しの熱処理条件によって異なり、焼き戻し温度が高いほど、クロム炭化物の析出量が多くなるため、耐食性は低くなります。一方、焼き入れ後の耐食性が最も高く、焼き戻し温度が低いほど、耐食性の低下は抑えられます。SUS440Cの腐食耐性は、代表的なステンレス鋼と比べると下表のようになります。腐食条件代表的なステンレス鋼の腐食度 (g/(m2・hr))SUS440CSUS420J2SUS304SUS430SUS630水*0.18-0.08-0.08塩酸 (5%)10.105934.13130.439012.25680.4772硝酸 (5%)18.88310.3100    0.01370.00580.0071硫酸 (5%)15.599122.12870.40628.78070.2707塩酸性塩化第二鉄 (6%)17.119415.90904.1834-7.5868塩水 (5%)0.01290.00670.0000-0.0000参照元:シリコロイ ラボ「耐食性比較表」株式会社シリコロイラボ、*シリコロイ ラボ「耐食性の一例」株式会社シリコロイラボSUS440Cの局所的な腐食耐性は、代表的なステンレス鋼と比べると下表の通りです。孔食は点状に生じ、内部深くに侵食する腐食のことで、孔食電位は孔食の発生する下限の電位で値が小さいほど孔食が生じやすくなっています。腐食条件代表的なステンレス鋼の孔食電位 (mV)SUS440CSUS420J2SUS304SUS430SUS630塩水 (3.5%)-30020-120100参照元:シリコロイ ラボ「耐食性比較表」株式会社シリコロイラボSUS440A、SUS440Bとの違い(単位:%)鋼種炭素ケイ素マンガンリン硫黄ニッケルクロムモリブデンCSiMnPSNiCrMoSUS440A0.60~0.751.00以下1.00以下0.040以下0.030以下0.60以下16.0~18.00.75以下SUS440B0.75~0.951.00以下1.00以下0.040以下0.030以下0.60以下16.0~18.00.75以下SUS440C0.95~1.201.00以下1.00以下0.040以下0.030以下0.60以下16.0~18.00.75以下そもそも、SUS440CはSUS440Bに炭素を加えて焼入硬化性の向上を図ったもの、SUS440BはSUS440Aに炭素を加えて焼入硬化性の向上を図ったものであり、これらの間の違いは炭素含有量だけです(上表参照)。従って、これらの硬度・靭性・耐食性の関係は、以下のようになります。・硬度:SUS440C > SUS440B > SUS440A・靭性:SUS440A > SUS440B > SUS440C・耐食性:SUS440A > SUS440B > SUS440Cなお、これらの硬度の値は、「JIS G 4303:2021」にて下表のように規定されています。鋼種焼き鈍し状態の硬さ焼き入れ・焼き戻し状態の硬さHBWHRCHVHBWHRCHVSUS440A255以下25以下269以下−54以上577以上SUS440B255以下25以下269以下−56以上613以上SUS440C269以下28以下284以下−58以上653以上

  • SUS304-HL(ヘアライン材)特徴、用途

    強度が高くサビに強いステンレスは、日常生活はもちろん、産業や工業においても欠かせない金属です。その中でも、SUS304は、最も代表的なステンレス鋼であり、強度や耐食性のみならず、耐熱性にも優れ、低価格で入手できる有用性の高い素材です。SUS304-HLは、そのSUS304の表面に細かい筋目模様を付けた素材であり、適度につや消しされた金属的な質感を強調した美しい外観を持ちます。傷が目立ちにくいなどの特徴もあることから、使い勝手の良い材料として、建材やキッチン、家電や機械など、様々な用途で用いられています。参考:SUS304とSUS430の意味とは? 使い分けや特徴も分かりやすく解説!SUS304-HLとはSUS304にヘアライン加工をした素材引用元:レコサポート株式会社SUS304-HLとは、上の写真ような、最も流通量の多いステンレス鋼であるSUS304の表面に髪の毛(ヘアライン)のような単一方向の細かい傷を付けるヘアライン加工を施した素材です。ステンレスの種類を示す「SUS304」と素材に対する最終的な仕上げを示す質別記号の「HL (Hairline)」によって表現されます。その外観は、光の当たり方で多様な表情を持つ鈍い光沢を示し、高級感のあるマットな質感を与えます。ヘアライン加工による仕上げは、鏡のように磨き上げる「鏡面仕上げ」よりも傷が目立ちにくいため、外観品質の維持に効果的です。滑り止めの効果もあります。ただし、線模様の方向と直角方向の傷が目立ちやすく、線模様が経年変化によって薄れてきます。その場合、再研磨することで元の美しさと機能を回復できますので、必要性があれば業者に依頼すると良いでしょう。ヘアライン模様はベルト研磨機やサンドペーパーで付けますが、SUS304-HLは通常、P150~P240番の砥粒研磨ベルトで一定方向に磨いたものを指します。しかし、近年では、粗い線模様を付けたハードHLや短く連続した線模様のスクラッチHL、縦横に線模様を付けたクロスHL(下の写真)なども存在します。引用元:三和タジマ株式会社参考:ヘアライン仕上げとは【専門家が語る】製品事例もご紹介!参考:ステンレスのヘアライン加工の種類や特徴について専門家が解説!SUS304-HLの主な用途SUS304-HLの主な用途は、建材、厨房機器、家電製品です。そのほか、インテリアや装飾品、輸送機器、精密機械などにも用いられています。SUS304-HLの用途の例としては、システムキッチンのシンクやワークトップ、パソコンの筐体、エスカレーターの側板、建築物の外装パネルなどが挙げられます。特に、ステンレス製の建築部材としては最も一般的で、階段の側板、手摺り、自動ドアのフレームなど、金属的な質感を持つ多くの建築部材がSUS304-HLです。産業機械の筐体や鉄道車両、腕時計のベルトなどにも採用されています。

  • 二相系(オーステナイト・フェライト系)ステンレス鋼の基礎知識まとめ

    二相系ステンレス鋼とは、オーステナイト系ステンレスとフェライト系ステンレスのそれぞれの金属組織を混合させたステンレス鋼のことです。オーステナイト系と比べて、高い強度と同等以上の耐食性を示し、オーステナイト系の弱点となる孔食や応力腐食割れに対する耐性を持ちます。ただし、高温強度が弱く、フェライト系の弱点である高温環境下での脆化も起こりやすくなっているため、高温用途には向いていません。耐食性の向上を志向した鋼種と、高価なニッケルを減量して低コスト化を図った鋼種があり、用途に応じて使い分けられています。耐孔食性に優れ、海水などの塩化物環境への耐性が高いことから、海洋構造物や淡水化装置の材料などにも用いられています。二相系ステンレスの組織・成分二相系ステンレスは、金属組織が「フェライト相」と「オーステナイト相」から構成され、その構成比がおおよそ1:1となるステンレスです。フェライト相は、フェライト系ステンレスの主要相で、炭素をほぼ含有しない組織です。磁性を示し、軟らかく変形しやすいという特徴があります。一方、オーステナイト相は、オーステナイト系ステンレスの主要相で、およそ2%までの炭素を含むことができます。非磁性の組織ですが、熱処理や塑性加工によって、磁性を持つマルテンサイト相に変化します。二相系ステンレスは、クロムとニッケルを主要な添加元素として含むクロム・ニッケル系ステンレス鋼に分類されます。主要成分として、鉄以外にクロムを約20〜30%、ニッケルを1〜10%程度含有し、鋼種によってはモリブデンや窒素、銅などを含みます。オーステナイト系よりもニッケルの含有量が少なく、フェライト系が含有しないニッケルを少量含むステンレスとなっています。引用元:International Molybdenum Association (IMOA)二相系ステンレスの種類二相系ステンレスには、様々な鋼種がありますが、含有する化学成分と耐食性を代表する耐孔食指数(PREN)によって以下の種類に分類されます。なお、耐孔食指数は、表面の穴から進行する腐食に対する耐性を示す指数で、オーステナイト系の代表鋼種であるSUS304で18、耐食性の高いSUS316で26となっています。参考:オーステナイト系ステンレス鋼の基礎知識まとめ(1) 汎用二相系ステンレス<単位 %>鋼種名CSiMnPSNiCrMoNSUS329J10.08以下1.00以下1.50以下0.040以下0.030以下3.00〜6.0023.00〜28.001.00〜3.00 −SUS329J3L0.030以下1.00以下2.00以下0.040以下0.030以下4.50〜6.5021.00〜24.002.50〜 3.500.08〜0.20 SUS329J4L0.030以下1.05以下1.50以下0.040以下0.030以下5.50〜7.5024.00〜26.002.50〜3.50 0.08〜 0.30汎用二相系ステンレスは、上表のJIS規格(JIS G 4305:2015)で規定された鋼種を含む二相系ステンレスです。PRENが35前後で、耐海水腐食性に優れています。参考:SUS329J1(ステンレス鋼)化学成分、磁性、機械的性質参考:SUS329J4L(ステンレス鋼)加工性、磁性、化学成分(2)スーパー二相系ステンレス<単位 %>鋼種名CSiMnPSNiCrMoCuNSUS327L10.030以下0.80以下1.20以下0.035以下0.020以下6.00〜8.0024.00〜26.003.00〜5.00 0.50以下 0.24〜0.32 スーパー二相系ステンレスは、PRENが40〜45の二相系ステンレスで、JIS規格には上表の「SUS327L1」が規定されています。汎用二相系ステンレスに比べ、耐食性が向上していますが、高価なニッケル(Ni)やモリブデン(Mo)を多く含むため、高コストとなります。(3)ハイパー二相系ステンレスハイパー二相系ステンレスは、PRENが45以上の二相系ステンレスで、JIS規格に規定されている鋼種はありません。アメリカのUNS規格では、「S32707」や「S33207」などの鋼種があり、スーパー二相系ステンレスよりもクロム含有量が多くなっています。(4)リーン二相系ステンレス(省合金ステンレス)<単位 %>鋼種名CSiMnPSNiCrMoCuNSUS821L10.030以下0.75以下2.00〜4.000.040以下0.020以下1.50〜2.5020.50〜21.500.60 以下0.50〜1.50 0.15〜0.20 SUS323L0.030以下1.00以下2.50以下0.040以下0.030以下3.00〜5.5021.50〜24.500.60 以下0.50〜1.50 0.15〜0.20 リーン二相系ステンレスは、モリブデンをほぼ添加しないことで低コスト化を図った二相系ステンレスです。JIS規格では、上表の2鋼種が規定されています。SUS304やSUS316といったオーステナイト系ステンレスの代替材料として設計された鋼種です。SUS304と同等以上の耐食性を示し、PRENは25〜30程度と良好な耐孔食性を有します。SUS304と比べて、応力腐食割れが生じにくく、高価なニッケルの含有量も少ないため、コストパフォーマンスに優れています。参考:応力腐食割れをわかりやすく!3要素と対策方法二相系ステンレスの機械的性質鋼種名耐力MPa引張強さMPa伸び%絞り%硬さ厚さ2.0mm以下厚さ2.0mm超HBWHRBS又はHRBWHVSUS821L1400以上600以上20以上25以上−290以下32以下310以下SUS323L400以上600以上20以上25以上−290以下32以下310以下SUS329J1390以上590以上18以上40以上277以下 29以下292以下SUS329J3L450以上620以上18以上40以上302以下 32以下320以下SUS329J4L450以上620以上18以上40以上302以下 32以下320以下SUS327L1550以上795以上15以上−310以下 32以下330以下二相系ステンレスの機械的性質は、JIS規格によって上表のように規定されています。二相系ステンレスは、耐力と引張強さが共にオーステナイト系やフェライト系よりも高く、強度に優れます。一方、延性や靭性については、オーステナイト系よりも劣り、フェライト系よりは優れる傾向にあります。フェライト相を含むことから、低温で靭性が急激に低下する「延性-脆性遷移」が起きます。ただし、フェライト系の延性-脆性遷移よりは緩やかに起こるため、−40℃程度まではある程度の靭性を維持することが可能です。また、高温では強度が低下するため、耐熱用には適していません。フェライト系で問題となる「475℃脆化」や「σ相脆化」も起こるため、溶接や熱処理を施す際には注意が必要となります。参考:フェライト系ステンレス鋼の基礎知識まとめ二相系ステンレスの物理的性質と磁性鋼種名密度g/cm3比熱J(kg・K)熱膨張係数(0~100℃)10-6/K熱伝導率(100℃)W/(m・K)電気抵抗(室温)μΩ・cmヤング率MPaSUS329J4L7.804713.020.979196,000参照元:山陽特殊製鋼株式会社二相系ステンレスは、オーステナイト系とフェライト系の中間的な物理的性質を示します。その値は上表の通りで、それぞれの値はオーステナイト系とフェライト系の中間的な値となっています。また、二相系ステンレスは、磁性を持つフェライト相を含むことから、磁性を示します。その磁性は、フェライト量の比率が大きいほど強くなります。二相系ステンレスの加工熱処理鋼種名固溶化処理の熱処理条件(℃)SUS821L1940〜1100SUS323L950〜1100SUS329J1950〜1100SUS329J3L950〜1100SUS329J4L950〜1100SUS327L11025〜1125二相系ステンレスは、常温の強度が高いため、強度向上を目的とした焼入れなどを行うことはほとんどなく、靭性・延性を最大限に発揮できる固溶化熱処理後のものが使用されます。その固溶化熱処理では、上表(JIS規格の参考値)の温度に加熱して保持し、急冷します。二相系ステンレスへ熱処理を行う際には、σ相脆化と475℃脆化の発生に注意する必要があります。σ相脆化は、700〜1000℃でゆっくりと冷却すると起こりやすく、σ相の析出部では耐孔食性が低下します。一方、475℃脆化は、475℃近辺で長時間保持することで起こり、靭性と耐食性の低下に繋がります。固溶化熱処理のみを行う通常の製造過程では問題とはなりませんが、応力除去熱処理を行う際には475℃の周辺温度は避ける必要があります。溶接二相系ステンレスに対する溶接では、溶接部の冷却速度によって、オーステナイト相とフェライト相のバランスが変化し、耐食性や靭性が低下するので注意が必要です。冷却速度が速くなり過ぎると、オーステナイト相が十分に形成されず、クロム窒化物やクロム炭化物が析出して耐食性が低下します。逆に、冷却速度が遅くなり過ぎると、金属化合物や窒化物が析出したりσ相脆化が起きたりするため、耐食性や靭性が低下します。切削加工二相系ステンレスは、高強度かつ高硬度であるために被削性が悪く、難削材として知られています。また、オーステナイト系に匹敵する加工硬化性を示すことから、加工が進展するほど切削が難しくなります。切削加工性は、合金元素を多く含むスーパー二相系やハイパー二相系の方がより悪くなります。一方、リーン二相系の切削性は、オーステナイト系と比べても良好です。参考:加工硬化とはどんな現象?仕組み・影響・扱い方をご紹介!塑性加工二相系ステンレスの塑性加工性は、熱間では良好であるものの、冷間ではあまり良くありません。二相系ステンレスは、高温強度が低く、固溶化温度付近では特に軟らかくなるため、熱間で容易に変形させることが可能です。実際の熱間成形加工では、固溶化温度付近において加工した後、固溶化熱処理と同等の処置を施すことで靭性や耐食性を回復させます。一方、二相系ステンレスは、常温の強度が高く、加工硬化も生じやすいことから、冷間成形加工に多大なエネルギーを要します。また、変形部が元に戻ってしまうスプリングバックが生じやすく、曲げ加工やプレス加工で問題となります。二相系ステンレスの主な用途二相系ステンレスの用途は、以下のように種類によって異なります。汎用二相系汎用二相系ステンレスには、高強度と塩化物環境における耐性を活かした、海岸周辺の構造物や橋梁、海水ポンプや海水淡水化装置の材料としての用途があります。また、汎用二相系は、オーステナイト系でよく問題となる応力腐食割れが起きやすい箇所での代替材料としても用いられます。例えば、石油生産設備の熱交換器では、応力腐食割れや局所腐食の発生が想定されるため、二相系の使用が有効です。そのほか、耐荷重性能が必要な土木・建築分野の構造材、高耐食性の材料が必要な化学プラントやエネルギー関連プラントの設備・機器などにも用いられています。スーパー二相系、ハイパー二相系スーパー・ハイパー二相系ステンレスは、より高い耐食性を持つことから、より厳しい腐食環境下で採用されます。主な用途として、海に浸漬する海洋構造物や水淡水化装置部品、様々な化学物質に曝される公害防止機器などが挙げられます。リーン二相系リーン二相系ステンレスは、オーステナイト系ステンレスのSUS304やSUS316の代替材料として主に用いられています。建材や機械の構造材、貯蔵タンクの材料としてなど、多様な用途があります。汎用二相系と同じく、オーステナイト系で応力腐食割れが懸念される箇所の代替としても用いられます。耐孔食性もSUS304よりは良好で、価格も大きな違いはないため、需要が高まっています。

  • フェライト系ステンレス鋼の基礎知識まとめ

    フェライト系ステンレスとは、主要な化学成分が鉄とクロムであるクロム系ステンレスの一種です。耐食性や耐熱性、加工性に優れた合金で、常に磁性を持つという特徴があります。オーステナイト系ステンレスと比べると、耐食性や加工性、強度が低い材料ですが、ニッケルを含まないことから安価で、オーステナイト系ステンレスの代替材料として用いられることがあります。ただし、マルテンサイト系ステンレスよりは、耐食性や耐熱性、加工性に優れています。多様な鋼種が存在し、幅広い特性を持ちます。そのため、屋内用途の家庭用品や厨房機器から、屋外用途の建築部材、厳しい腐食環境下で用いられる高耐腐食性部品まで、様々な用途に使用されています。参考:【SUS(ステンレス)種類と見分け方】用途・特徴を専門家が徹底解説!フェライト系ステンレスの組成・成分フェライト系ステンレスは、金属組織が「フェライト相」であるステンレス鋼です。フェライト相は、炭素をほとんど溶かすことができないため、軟らかく変形しやすいという特徴があります。マルテンサイト系ステンレスと同じく、クロムが主要成分である「クロム系ステンレス」に分類され、ニッケルをほぼ含有しません。代表的な鋼種のSUS430ではクロム含有率が約18%で、マルテンサイト系の代表鋼種SUS410の約13%と比べると、クロム含有率が高くなっています。ただし、鋼種によって異なり、クロム含有率が約11%と低い鋼種や約32%と高い鋼種があります。鋼種名C(%)Si(%)Mn(%)P(%)S(%)Cr(%)SUS4300.12以下0.75以下1.00以下0.040以下0.030以下16.00〜18.00フェライト系の代表鋼種SUS430の化学成分は、JIS規格(JIS G 4303:2012)によって上表のように定められています。フェライト系には、このSUS430を基準として、クロム・炭素の含有率を変えた鋼種や様々な合金元素を添加した鋼種が多数存在します。下図は、主要なフェライト系を挙げたもので、各鋼種の化学成分とSUS430に付加した性質が示されています。引用元:日本ステンレス協会例えば、SUS430LXは、加工性と溶接性を向上させるために、炭素(C)の含有量を減らして、チタン(Ti)とニオブ(Nb)を添加したものです。炭素の減少によって、軟らかくなるとともに延性が向上するため、加工性が改善します。また、炭素の減少及びチタンとニオブの添加によって、加熱後の冷却時に生じる粒界腐食が起こりにくくなるため、溶接性が向上します。参考:SUS430(ステンレス鋼)成分、磁性、加工性参考:SUS304とSUS430の意味とは? 使い分けや特徴も分かりやすく解説!フェライト系ステンレスの物理的性質と磁性鋼種名密度g/cm3比熱J(kg・K)熱膨張係数(0~100℃)10-6/K熱伝導率W/(m・K)比電気抵抗(室温)μΩ・cmヤング率MPaSUS430(フェライト系)7.704610.426.460200,000SUS304(オーステナイト系)7.935017.316.372193,000SUS410(マルテンサイト系)7.75469.924.957200,000参照元:日本ステンレス協会フェライト系ステンレス(SUS430)の物理的性質は、上表の通りです。比較のため、オーステナイト系(SUS304)とマルテンサイト系(SUS410)の物理的性質も併せて記載しています。フェライト系は、オーステナイト系に比べて、熱伝導率が高いものの熱膨張係数が低くなっています。そのため、常温から高温にわたっての寸法変化が少なく、部分的に膨張するといったことも少なくなるため、熱疲労特性に優れます。また、オーステナイト系とは異なり、常に磁性を示します。これは、結晶構造に起因しており、「体心立方構造」のフェライト系とマルテンサイト系は常磁性、「面心立方構造」のオーステナイト系は非磁性です。フェライト系ステンレスの機械的性質鋼種名耐力MPa引張強さMPa伸び%絞り%硬さHBWHRBS又はHRBWHVSUS430(フェライト系)205以上450以上22以上50以上183以下90以下200以下SUS304(オーステナイト系)205以上520以上40以上60以上187以下90以下200以下SUS410(マルテンサイト系)焼なまし状態−−−−200以下93以下210以下SUS410(マルテンサイト系)焼入焼戻し状態345以上540以上25以上55以上159以上84以上166以上フェライト系ステンレス(SUS430)の機械的性質は、JIS規格(JIS G 4303:2012)によって上表のように定められています。比較のため、オーステナイト系(SUS304)とマルテンサイト系(SUS410)の機械的性質も載せました。フェライト系は、オーステナイト系と比べて、耐力と硬さに大きな違いはありませんが、引張強さと伸び率が劣っています。それは、変形しやすく、破断までの変形量が小さいことを意味します。しかし、フェライト系は、加工硬化しにくいため、必ずしもオーステナイト系より延性に劣るわけではありません。また、フェライト系は、熱処理によって硬化することがほとんどなく、焼なまし状態で使用されることが多い素材です。そのため、焼なまし状態の機械的性質が加工後もほぼ維持されます。一方、オーステナイト系やマルテンサイト系は、加工や熱処理によって強度を高めることが可能です。つまり、フェライト系は、強度が必要だったり負荷が大きかったりする用途には向きません。フェライト系ステンレスの耐食性フェライト系ステンレスの耐食性は、鋼種によりますが、オーステナイト系よりもわずかに劣り、マルテンサイトより優れます。ステンレスの高い耐食性はクロムによって実現されていますが、クロム含有率が同等のフェライト系とオーステナイト系を比較すると、オーステナイト系がより高い耐食性を示します。しかし、クロムはフェライト相を安定化させることから、フェライト系には、クロム含有率が大きく、高い耐食性を持つ鋼種が豊富です。その中には、SUS447J1といったクロム含有率が約30%にも達するフェライト系が存在します。また、クロムには、耐酸化性(高温での酸化に耐える性質)を向上させる効果もあります。引用元:International Stainless Steel Forum (ISSF)フェライト系の中には、モリブデンを添加することで耐食性を向上させた鋼種があります。モリブデンは、表面腐食や隙間腐食のほか、孔食(表面の穴を起点に侵食していく局部腐食)に対する耐食性を高める効果があります。特に、モリブデンを約2%添加したSUS444は、上図のようにSUS316を超えるPRE(好食性指数:耐孔食性の尺度)を示します。また、PREは、塩化物環境における耐食性の指標ともなるため、SUS444などは海水に対しても強い耐性があります。下図は孔食の例です。引用元:谷津テックス株式会社そのほか、フェライト系には、以下のように、合金元素を加えたり化学成分を調整したりすることで耐食性を改善したものがあります。・チタン(Ti)…添加することで耐粒界腐食性が向上・ニオブ(Nb)…添加することで耐粒界腐食性が向上・アルミニウム(Al)…添加することで耐酸化性が向上・銅(Cu)…添加することで大気中や海水中の耐食性が向上・炭素(C)…減少させることで耐粒界腐食性が向上また、フェライト系は、ニッケルを含有しないことから、オーステナイト系の欠点である応力腐食割れがほぼ発生しないという特徴があります。応力腐食割れは、腐食性の環境下の材料に応力が作用して生じる経年損傷です。オーステナイト系では、主に塩化物環境下で応力腐食割れが発生します。下図は応力腐食割れの例です。引用元:谷津テックス株式会社参考:応力腐食割れをわかりやすく!3要素と対策方法フェライト系ステンレスの脆化・低温脆性フェライト系ステンレスは、高温及び低温環境下において脆化が起こることがあります。475℃脆化フェライト系は、数時間から数十時間にわたって400℃〜540℃程度の高温にさらされると脆化が起こります。この現象は、鉄が多い組織とクロムが多い組織に分離することで起こり、475℃で急激に進行することから「475℃脆化」と呼ばれます。475℃脆化が起こると、硬さが上昇しますが、延性・靭性は低下するために壊れやすくなり、耐食性も低下します。この脆化は、600℃以上の温度で一定時間保持し、クロムを再固溶させることで解消することが可能です。σ相脆化また、フェライト系は、550℃〜800℃程度の温度域で数百時間以上保持されることでも脆化が起こります。この脆化は、鉄とクロムの金属間化合物から構成される「σ相」が析出することで起こることから「σ相脆化」と呼ばれます。σ相は硬いものの脆いため、割れや亀裂の原因になることがあります。σ相脆化の解消には、800℃以上の温度で一定時間保持することが必要です。なお、σ相脆化は、フェライト系だけでなくオーステナイト系でも起こります。低温脆性フェライト系には、ある温度以下で衝撃抵抗が急激に低下する「延性-脆性遷移温度」が存在するため、低温で使用すると脆性破壊が起こる危険性があります。この性質は、「低温脆性」と呼ばれ、マルテンサイト系などの体心立方構造を持つ金属に共通のものです。フェライト系における低温脆性の改善には、炭素と窒素の含有率を小さくしたり、チタンとニオブを添加したりすることが有効です。なお、炭素と窒素の含有率を従来よりも低下させたフェライト系ステンレス鋼を「高純度フェライト系ステンレス鋼」と呼びます。フェライト系ステンレスの加工性フェライト系ステンレスは、オーステナイト系ほどではありませんが、通常の鉄鋼と同等程度には加工しやすい素材です。また、マルテンサイト系よりも加工性に優れます。ただし、絞り加工性については、フェライト系のほうがオーステナイト系よりも優れています。さらに、フェライト系は、オーステナイト系とは異なり、加工硬化しにくく、加工変態(オーステナイトがマルテンサイトに変化すること)も起こらないため、加工難度は低くなっています。なお、フェライト系の加工性を向上させるには、炭素・窒素含有量の低減とチタン・ニオブの添加が有効です。被削性については、SUS430Fのように硫黄を添加することで向上します。溶接性については、加熱することによる475℃脆化の発生、熱影響部における結晶粒の粗大化に注意する必要があります。475℃脆化は、延性・靭性・耐食性の低下に繋がりますが、溶接後の冷却速度を上げることで回避することが可能です。一方、結晶粒の粗大化は、熱影響部の延性・靭性を著しく低下させます。延性の低下は、700℃~750℃の熱処理によって解消できますが、靭性については回復しません。結晶粒の粗大化には、チタンやジルコニウムの添加が有効です。また、フェライト系では、オーステナイト系の溶接時に起こる粒界腐食は起こりにくくなっています。フェライト系の耐粒界腐食性は、炭素含有量の低減、チタンとニオブの添加によって、さらに向上させることが可能です。フェライト系ステンレスの主な用途フェライト系ステンレスは、鋼種によって大きく特性が異なることから、鋼種によって用途も違ってきます。そのため、フェライト系を以下のように5つのグループに分類して、用途を挙げていきます。クロム含有量が10%〜14%SUS405・SUS409・SUS410L等を含むグループで、クロム含有率が少なく、最も低価格なものです。このグループは、耐食性が低いことから、多少のサビは許容される用途に用いられています。コンテナやバス、乗用車の腐食しにくい部品などに使用されています。クロム含有量が14%〜18%SUS430に対応するグループで、フェライト系で最も広く使用されています。SUS304よりも安価であることから、一部のSUS304の代替材料として用いられることが多くなっています。屋内パネルや家庭用品、洗濯機のドラム、鍋釜類などの屋内用途で主に使用されています。クロム含有量が14%〜18%でTiやNb等の安定化元素を含むSUS430LX・SUS430F等が含まれるグループで、安定化元素を添加することで加工性や溶接性を向上させています。多くの鋼種でSUS304に近い特性を示し、流し台や排ガス装置、洗濯機の溶接部分などに用いられています。クロム含有量が18%以上でMoを含むSUS434・SUS436・SUS444等を含むグループで、モリブデンを含むことから高い耐食性を示します。主な用途には、屋外パネルや各種タンク、電子レンジ部品などが挙げられます。クロム含有量が18%〜30%SUS445・SUSXM27・SUS447等が含まれるグループで、クロム含有量を増やしモリブデンなどを添加したものです。フェライト系の中では、最も耐食性が高いグループとなっています。海水中など、厳しい腐食環境下で主に用いられており、薬品に触れる化学プラントなどの用途が挙げられます。

  • マルテンサイト系ステンレス鋼の基礎知識まとめ

    マルテンサイト系ステンレス鋼とは、13%のクロムを含むSUS403・SUS410を代表とした、常温でマルテンサイトの組織を持つステンレス鋼です。マルテンサイト系ステンレス鋼は、フェライト系とオーステナイト系には劣りますが、耐食性を持ちます。炭素を多く含んでいるため、焼入れにより硬化させることも可能です。また、大気中で加熱した場合の耐酸化性にも優れ、500℃程度までの温度下でも強度があまり低下しないため、耐熱性も良好です。なお、マルテンサイト系ステンレス鋼は全ての材料で磁性を持ちます。材料の形状は、棒鋼・平鋼で使われることがほとんどです。参考:【SUS(ステンレス)種類と見分け方】用途・特徴を専門家が徹底解説!マルテンサイト系ステンレスの組成・成分表:各マルテンサイト系ステンレス鋼(品種)における組成と特性SUS410SUS403SUS410S 耐食性・加工性SUS410F2 被削性SUS416 被削性SUS420J1 焼入硬化SUS420J2 焼入硬化SUS440A 焼入硬化SUS440B 焼入硬化SUS440C 焼入硬化SUS440F 被削性SUS420F 被削性SUS420F2 被削性SUS431 耐食性・靭性マルテンサイト系ステンレス鋼は炭素の含有量が多く、焼入れによって高い強度を得られ、焼戻しにより耐摩耗性や靭性を得ることができます。ただし不働態皮膜を形成するのに必要なクロムの含有量は少ないため、他のステンレス鋼よりも耐食性には劣ります。また、オーステナイト系ステンレス鋼に比べて、高価な材料であるニッケルの含有量が少なく、値段も比較的安価です。参考:錆びにくい金属について解説【錆びない金属はありません】参考:オーステナイト系ステンレス鋼の基礎知識まとめマルテンサイト系ステンレスの物理的性質と磁性<マルテンサイト系ステンレスの物理的性質>種類の記号ヤング率kN/mm2密度g/cm3比熱J/g・℃熱伝導率W/m・℃比電気抵抗Ωm(10-8)平均熱膨張係数10-6/℃室温室温0-100℃100℃500℃室温650℃0-100℃0-316℃0-538℃0-649℃0-816℃SUS403SUS4102007.750.4624.925.7571099.910.111.511.7-引用元:ステンレス協会(元データはステンレス鋼データブック「家電編」他)上表は、ステンレス協会の公式サイトに記述されているデータの一部を抜粋したものです。マルテンサイト系ステンレス鋼の物理的性質は、概ねフェライト系ステンレス鋼と近い数値で、オーステナイト系と比べると密度・比熱・比電気抵抗・熱膨張係数は小さい数値を表しています。また、オーステナイト系ステンレス鋼と違い、磁性を持つのも特徴です。参考:フェライト系ステンレス鋼の基礎知識まとめマルテンサイト系ステンレスの機械的性質<マルテンサイト系ステンレスの焼入焼戻し状態の機械的性質>種類の記号耐力Mpa(N/mm2)引張強さMpa(N/mm2)伸び絞り硬さHBWHRBS又はHRBWHRCHVSUS403390以上590以上25以上55以上170以上87以上-178以上SUS410345以上540以上25以上55以上159以上84以上-166以上SUS410J1490以上690以上20以上60以上192以上92以上-200以上SUS410F2345以上540以上18以上50以上159以上84以上-166以上SUS416345以上540以上17以上45以上159以上84以上-166以上SUS420J1440以上640以上20以上50以上192以上92以上-200以上SUS420J2540以上740以上12以上40以上217以上95以上-220以上SUS420F540以上740以上8以上35以上217以上95以上-220以上SUS420F2540以上740以上5以上35以上217以上95以上-220以上SUS431590以上780以上15以上40以上229以上98以上-241以上SUS440A------54以上577以上SUS440B------56以上613以上SUS440C------58以上653以上SUS440F------58以上653以上引用元:JIS G 4303:2012上表は【JIS G 4303:2012 ステンレス鋼棒】に記述されている、マルテンサイト系ステンレス鋼(焼入焼戻し状態)の機械的性質を抜粋したものです。マルテンサイト系ステンレス鋼は、焼入れを施すことで高い強度が得られます。焼入れした後は最も高い強度が得られますが、そのままでは脆い状態です。そのため、基本的に焼入れもセットで行い、靭性を与えて使用されています。マルテンサイト系ステンレスと応力腐食割れ・耐食性・錆応力腐食割れは、ステンレス鋼の内、オーステナイト系において起こりやすいものとされていますが、マルテンサイト系でも起こるトラブルです。応力腐食割れを避けたい場合、高温焼戻しをすることで鋭敏化を避け、応力腐食割れを防止できます。マルテンサイト系ステンレス鋼は、フェライト系とオーステナイト系よりも耐食性は劣るものの、室内等の腐食が強くない環境であれば充分な耐食性を持ちます。しかし、酸環境や塩水環境のような場所では錆びが発生しやすいため、使用場所には注意が必要です。参考:応力腐食割れをわかりやすく!3要素と対策方法マルテンサイト系ステンレスと加工熱処理マルテンサイト系ステンレス鋼は、焼入れ処理だけでは脆いため、焼戻しを行うことで耐摩耗性や靭性を付与します。マルテンサイト系ステンレス鋼の焼入れは、全体的にマルテンサイト組織には変態せず、ある程度のオーステナイトが残留(残留オーステナイト)する点に注意が必要です。残留オーステナイトは室温でもマルテンサイト変態し、体積が膨張することで歪みや割れを発生させることがあります。また、残留オーステナイトはマルテンサイトよりも柔らかい分、残留オーステナイトが多いと求める硬さが出せません。これを防ぐためには、焼戻しやサブゼロ処理を行います。サブゼロ処理は、焼入れ直後に0℃以下に冷却することで、刃物のような耐摩耗性を必要とするものに対して行われることが多い処理方法です。マルテンサイト系ステンレス鋼の焼戻しは、150~200℃程度で保持して空冷する低温焼戻しと、600~750℃程度で保持して急冷する高温焼戻しがあります。低温焼戻しは耐摩耗性を付与する場合に、高温焼戻しは靭性を付与する場合に行われます。また、焼戻しには「475℃脆化」と呼ばれる、475℃付近で急速に延性や靭性が低下する現象が起きる場合があるので、475℃付近での焼戻しは避ける必要があります。参考:ステンレスの焼き入れについて専門家が紹介!溶接マルテンサイト系ステンレス鋼は、拡散性水素による低温割れや遅れ割れが発生する場合があります。低温割れとは、200~300℃以下で発生する割れのことです。遅れ割れは、低温割れのなかでも溶接後に多くの時間経過後に起こるもののことを指します。低温割れを防止するには、予熱により母材の温度を200~400℃程度に上げることで、材料の冷却速度を遅くするのが有効です。遅れ割れは、電極・溶加材・母材に大気中の水分が取り込まれないよう、乾燥した環境下で溶接したり、溶接機材や材料を乾燥・清浄化したりするのが有効です。参考:ステンレス溶接の種類や溶接方法を銅種別に徹底解説!塑性加工マルテンサイト系ステンレス鋼の塑性加工・切削加工を行う場合は、800~900℃からの徐冷による焼なましを行います。これは、焼なましを行わないと材料が硬く、加工がしにくいためです。より成形性を求める場合はSUS410Sを、被削性を求める場合は、SUS416・SUS410F2・SUS440F・SUS420F・SUS420F2を採用することで、それぞれの特性を向上できます。参考:ステンレス板の曲げ加工について加工事例と共に徹底解説!マルテンサイト系ステンレスの主な用途マルテンサイト系ステンレス鋼は、他の種類に比べて安価かつ、強度・耐食性・耐熱性に優れているのが特徴です。主な用途としては、これらの特徴を必要とする機械構造用部品(シャフト・ボルト・バルブシートなど)やプラスチック射出成用の金型などに採用されています。また、SUS440系はクロムと炭素の含有量が多く、ステンレス鋼のなかでも最も硬い材料であることから、刃物・外科用器具・ベアリングなどに用いられます。

  • オーステナイト系ステンレス鋼の基礎知識まとめ

    オーステナイト系ステンレス鋼とは、18%のクロムと8%のニッケルを含むSUS304を代表とした、常温でもオーステナイトの組織がフェライトに変化することがないステンレス鋼です。オーステナイト系ステンレス鋼は、耐食性・延性・靭性に優れているほか、冷間加工性や溶接性も良好です。基本的に磁性を持ちませんが、塑性加工を行ったときに磁性を持つ場合があります。オーステナイト系ステンレス鋼はこれらの特徴により、家庭用品・建築用・自動車部品などの幅広い用途で使用されています。製品の形状としては薄板が最も多くありますが、そのほかにも厚板・棒・管・線・鋳物などと多岐に渡ります。生産量は全ステンレス鋼のうち6割以上を占めるほどで、私たちの身の回りでもよく見かける材料です。参考:【SUS(ステンレス)種類と見分け方】用途・特徴を専門家が徹底解説!オーステナイト系ステンレスの組成・成分表:各オーステナイト系ステンレス鋼(品種)における組成と特性SUS304SUS301 加工硬化性SUS301L 耐粒界腐食性SUS301J1 耐食性SUS302 高強度SUS302B 耐熱性SUSXM15J1耐熱性SUS303 被削性SUS303Cu 被削性SUS304L 耐粒界腐食性SUS304LN 強度SUS304N1 強度SUS304N2 強度SUS304Cu 深絞性SUSXM7 深絞性SUS304J1 深絞性SUS304J2 深絞性SUS305 低加工硬化性SUS305J1 低加工硬化性SUS309S 耐熱性、耐酸化性SUS310S 耐熱性、耐酸化性SUS315J1 耐応腐食割れ性SUS315J2 耐応力腐食割れ性SUS316 耐食性SUS316L 耐粒界腐食性SUS316N 高強度SUS316LN耐粒界腐食性SUS316J1 耐酸性SUS316J1L耐粒界腐食性SUS317 耐食性SUS317J1耐食性SUS317L耐粒界腐食性SUS312L 耐食性SUS836L 耐食性SUS890L 耐食性SUS321 耐粒界腐食性SUS347 耐粒界腐食性オーステナイト系ステンレス鋼は、上図のように18クロム(Cr)-8ニッケル(Ni)のSUS304を代表としたさまざまな種類があります。これらは用途に合わせて、添加物の量を変えたり別途追加したりすることで特性を付与しています。例えば、SUS304Lは炭素(C)を0.03%以下に抑えていることで、粒界腐食を防止できるようになります。また、SUS316はモリブデン(Mo)を追加し、SUS304よりも耐食性を向上しています。参考:SUS304L(ステンレス鋼)成分、比重、切削性、機械的性質参考:SUS316(ステンレス鋼)成分、硬さ、ヤング率オーステナイト系ステンレスの物理的性質と磁性<オーステナイト系ステンレスの物理的性質>種類の記号ヤング率kN/mm2密度g/cm3比熱J/g・℃熱伝導率W/m・℃比電気抵抗Ωm(10-8)平均熱膨張係数10-6/℃室温室温0-100℃100℃500℃室温650℃0-100℃0-316℃0-538℃0-649℃0-816℃SUS304SUS304L1937.930.5016.321.57211617.317.818.418.7-SUS310S2007.980.5016.3-79-14.416.416.917.5-SUS3161937.980.5016.321.57411616.016.217.518.520.0引用元:ステンレス協会(元データはステンレス鋼データブック「家電編」他)上表は、ステンレス協会の公式サイトに記述されているデータの一部を抜粋したものです。オーステナイト系に限らず、ステンレス鋼は炭素鋼やアルミニウムなどに比べて熱伝導率に劣り、比電気抵抗の数値が高い特徴があります。また、マルテンサイト系やフェライト系は強い磁性を持つのに対し、オーステナイト系は磁性を持ちません。ただし、オーステナイト系ステンレス鋼を加工すると、加工箇所がマルテンサイトに変態し、磁性を持つことがあります。参考:SUS310S(ステンレス鋼)加工性、用途、機械的性質オーステナイト系ステンレスの機械的性質<オーステナイト系ステンレスの固溶化熱処理状態の機械的性質>種類の記号耐力Mpa(N/mm2)引張強さMpa(N/mm2)伸び絞り硬さHBWHRBS又はHRBWHVSUS304205以上520以上40以上60以上187以下90以下200以下SUS304L175以上480以上40以上60以上187以下90以下200以下SUS310S205以上520以上40以上50以上187以下90以下200以下SUS312L300以上650以上35以上40以上223以下96以下230以下SUS316205以上520以上40以上60以上187以下90以下200以下引用元:JIS G 4303:2012上表は【JIS G 4303:2012 ステンレス鋼棒】に記述されている、代表的なオーステナイト系ステンレス鋼(固溶化熱処理状態)の機械的性質を抜粋したものです。オーステナイト系ステンレス鋼は、炭素鋼やフェライト系ステンレス鋼よりも引張強さや伸びの数値が高く、加工による硬化が大きい特徴があります。そのほかにも、引張強さの数値は高いものの、耐力(降伏点)の数値が低いことから、曲げ成形や張り出し成形性に優れています。また、高温や低温環境下でも強度を保てるのがオーステナイト系ステンレス鋼のメリットです。上表を見ても分かるように、オーステナイト系ステンレス鋼はSUS312Lなどの一部を除き、材質ごとの数値にあまり大きな違いはありません。耐力はおよそ175~275Mpa、引張強さはおよそ480~550Mpa程度の値になります。参考:SUS312L(ステンレス鋼)成分、機械的性質オーステナイト系ステンレスと加工硬化・焼入れオーステナイト系ステンレス鋼は、焼入れによって引張強さや硬さを向上できる材料ではありません。強度を得るためには、塑性加工を施すと加工硬化する現象を利用し、圧延加工や伸線加工を施します。加工硬化する原因は、塑性加工によってオーステナイトがマルテンサイトに変態するためです。この変態したマルテンサイトを「加工誘起マルテンサイト」と呼びます。加工誘起マルテンサイトは、耐食性が低下するほか、磁性を持つ要因にもなります。参考:加工硬化とはどんな現象?仕組み・影響・扱い方をご紹介!参考:ステンレスの焼き入れについて専門家が紹介!オーステナイト系ステンレスと応力腐食割れ・耐食性オーステナイト系ステンレス鋼は応力腐食割れが発生しやすい傾向にあります。応力腐食割れとは、腐食環境下において金属材料に引張応力が作用し、材料に割れが生じることです。ステンレス鋼以外にも、炭素鋼や黄銅にも発生します。オーステナイト系ステンレス鋼は、溶接や熱処理の過程など、およそ550~900℃に加熱するとクロム炭化物が析出し、耐食性が低下します。この現象は「鋭敏化」と呼ばれるもので、応力腐食割れを起こす要因にもなります。応力腐食割れの対策として、SUS403などのフェライト系ステンレス鋼を使用する、オーステナイト系を使用するのであれば、SUS304Lなどの極低炭素鋼を使用するなどの方法があります。また、残留応力を除去するための熱処理を行うことでも防ぐことができます。参考:応力腐食割れをわかりやすく!3要素と対策方法オーステナイト系ステンレスと加工熱処理オーステナイト系ステンレス鋼で硬さや強度を得たい場合、圧延加工や伸線加工を行います。しかし、これらの加工は、オーステナイトからマルテンサイトに変態させているため、磁性を持つようになり、応力腐食割れのリスクも伴います。オーステナイト系ステンレス鋼の応力腐食割れの対策には、使用する材料を変更する以外に、応力除去焼なましや、固溶化熱処理が有効です。応力除去焼なましは、800~900℃程度まで加熱・急冷することで残留応力を除去できます。固溶化熱処理は、1000~1100℃程度まで加熱し、急冷する熱処理のことで、残留応力の除去に限らず、クロム炭化物を固溶させて鋭敏化を防止し、耐食性が向上します。しかし、固溶化熱処理後は材料が軟らかくなります。オーステナイト系ステンレス鋼のほとんどが、応力腐食割れ対策のみでなく、耐食性を低下させないために固溶化熱処理を施しています。参考:ステンレスの焼き入れについて専門家が紹介!溶接オーステナイト系ステンレス鋼は、マルテンサイトやフェライト系に比べて溶接しやすい材料です。難度としては鉄鋼と同程度になりますが、鋭敏化・応力腐食割れなどの対策を必要とします。これらの対策として、鋭敏化する温度域に至らないように溶接時の入熱量を抑制する、母材の炭素量を低減するなどが有効です。また、使用する材料を、炭素の含有量が0.03%以下の極低炭素鋼に変えることや、フェライト系のステンレス鋼を採用することで予防できます。仮にオーステナイト系ステンレス鋼に鋭敏化が発生した場合は、固溶化熱処理も有効です。その他に、高温割れ(凝固割れ)にも注意しなければなりません。高温割れは、不純物として存在するリンや硫黄などの低融点物質が凝固し、結晶粒界に析出して割れを引き起こす現象を指します。高温割れを防止するには、不純物の低減や、リンや硫黄が固溶しやすいフェライトを含む溶加材を用いる方法があります。また、オーステナイト系ステンレス鋼は、線膨張係数が高いため、溶接の熱で変形しやすい点にも注意が必要です。そのため、入熱量を抑制する、入熱が集中しない溶接継手とする、変形方向と逆向きの変形を施す、治具で拘束するなどの対策も必要となります。参考:ステンレス溶接の種類や溶接方法を銅種別に徹底解説!切削加工オーステナイト系ステンレス鋼は加工硬化を起こしやすく、切削性に乏しい材料です。ワークを切削加工すると、オーステナイトの組織がマルテンサイトに変化し、加工部分が硬化します。これにより、刃物の摩耗が激しかったり、破損したりするなどのトラブルを招く恐れがあります。また、ステンレス鋼は鉄などに比べて熱伝導率も低いため、切削時の刃物に熱が溜まりやすいです。そのため、刃物に対して切粉が溶着したり、欠けが生じたりすることも多くあります。以上のことから、オーステナイト系ステンレス鋼の切削加工を行う場合は、SUS303のような快削ステンレス鋼と呼ばれる材料を検討するのがおすすめです。参考:SUS303(ステンレス鋼)規格、成分、機械的性質塑性加工オーステナイト系ステンレス鋼は加工硬化性を持つほか、他のステンレス鋼と比べると伸びに優れている材料です。そのため、プレス加工の張り出し成形や曲げ成形に適しています。用途によっては、オーステナイト系ステンレス鋼を冷間圧延して加工硬化を起こし、高強度かつ薄板で軽量化を図る場合もあります。しかし曲げ加工においては、プレスしても材料の形状が元に戻ろうとする「スプリングバック」が発生することがあるため、曲げ加工の際は注意が必要です。参考:ステンレス板の曲げ加工について加工事例と共に徹底解説!オーステナイト系ステンレスの主な用途オーステナイト系ステンレス鋼は、家庭用品・建築用・自動車部品・化学工業・食品工業・合成繊維工業・原子力発電・LNGプラントなどの幅広い用途で用いられています。どの分野においてもSUS304を用いることが多くありますが、加工硬化を避けたい場合はSUS305を、耐孔食性が必要な場合はSUS316を使うといったように、用途によって鋼種を使い分けるのがおすすめです。オーステナイト系ステンレス鋼は、低温や高温環境でも強度の低下が少なく、溶接や塑性加工がしやすいなどのメリットがあるため、汎用性に優れています。基本的に磁性を持たないので、他の金属と分別し、スクラップとして回収するのも比較的簡単です。ステンレス鋼の製造には、ステンレス鋼のスクラップを多く利用できることから、オーステナイト系ステンレス鋼はリサイクル率が高い材料とも言えます。

  • 析出硬化系ステンレス鋼の基礎知識まとめ

    析出硬化系ステンレス鋼とは、金属間化合物の析出を利用して、高い強度を得ることを目的としたステンレス鋼です。代表的な鋼種にSUS630(17Cr- 4Ni-4Cu-Nb)と SUS631(17Cr-7Ni-1Al)があり、両鋼種ともJISによって規定されています。また、これらの鋼種は、クロム(Cr)の含有量とニッケル(Ni)の含有量から、SUS630は17-4PH、SUS631は17-7PHと呼ばれることもあります。なお、PHとは、precipitation hardening(析出硬化)の頭文字を示しています。析出硬化系ステンレスの組織と熱処理析出硬化系ステンレス鋼では、固溶化熱処理後に析出硬化(時効硬化)処理を行うことで、金属間化合物を析出させ、強度を高めています。固溶化熱処理で過飽和に固溶した析出硬化元素を、時効硬化によって第2相を微細分散析出させるという仕組みです。材質によって成分組成が異なるため、析出する金属間化合物や析出のメカニズムが異なります。また、析出硬化系ステンレス鋼では、焼入れ鋼と比べて、より低温で熱処理を行うため、焼入れによって生じやすい変形、歪み、寸法変化、焼き割れ、残留オーステナイトに起因する経年変化などが起こりにくいという特徴を持ちます。参考:ステンレスの焼き入れについて専門家が紹介!SUS630の熱処理SUS630(17Cr- 4Ni-4Cu-Nb)では、銅(Cu)の添加により析出硬化性を付与することで、Cu-過剰相を析出させます。熱処理としては、固溶化熱処理(S:Solution treatment)後に、規定された次の4段階(H900、H1025、H1075、H1150)の析出硬化処理(H:Hardening)を施します。JISにおいて、SUS630の熱処理条件は次のように定められています。<SUS630の熱処理条件>種類の記号熱処理SUS630種類記号条件固溶化熱処理S1020~1060℃ 急冷析出硬化処理H900470~490℃空冷H1025540~560℃空冷H1075570~590℃空冷H1150610~630℃空冷*注:SUS630については、固溶化熱処理及び析出硬化処理以外の熱処理を受渡当事者間で協定されることがある。引用元:JIS G4305:冷間圧延ステンレス鋼板及び鋼帯固溶化熱処理では、1020~1060℃から急冷させ、マルテンサイトの金属組織が得られます。この後、目的とする硬度に応じて、析出硬化処理を行います。析出硬化処理は、華氏による処理温度によって定められています。例えば、H900では析出硬化処理温度が華氏900度(482℃)で、JIS上では470~490℃で析出硬化処理を行うよう定義されています。下図に示した通り、析出硬化処理温度が高くなるほど、硬度が下がり軟化します。<時効硬化熱処理温度と硬度の関係>引用元:株式会社シリコロイラボSUS630において、固溶化熱処理後、析出硬化処理(H900)後、それぞれの顕微鏡組織(200倍)を下図に示します。<SUS630顕微鏡組織>引用元:株式会社シリコロイラボ参考:SUS630(ステンレス鋼)磁性、成分、切削性、機械的性質参考:15-5PH(ステンレス鋼)化学成分、磁性、機械的性質SUS631の熱処理SUS631(17Cr-7Ni-1Al)では、Alの添加により析出硬化性を付与することで、Ni-Al 金属間化合物相を析出させます。熱処理では、まず固溶化処理(S処理)において1000~1100℃から急冷し、準安定オーステナイト組織が得られます。不安定なオーステナイトから安定なマルテンサイトに変態させるための熱処理(マルテン化処理)である、T処理(中間熱処理)あるいはR処理(サブゼロ処理)を行った後、析出硬化処理(H処理)を行います。JISにおいて、SUS631の熱処理条件は次のように定められています。<SUS631の熱処理条件>種類の記号熱処理SUS631種類記号条件固溶化熱処理S1000~1100℃ 急冷析出硬化処理RH950955±10°Cに10分保持、室温まで空冷、24時間以内に-73±6°Cに8時間保持、510±10°Cに60分保持後、空冷TH1050760±15°Cに90分保持、1時間以内に15°C以 下に冷却、30分保持、565±10°Cに90分保持後、空冷引用元:JIS G4305:冷間圧延ステンレス鋼板及び鋼帯SUS631においても、析出硬化処理温度に応じて熱処理記号が定められており、RH950とTH1050の2種類が存在します。RH950では、S処理→R処理(955±10°Cに10分保持、室温まで空冷、24時間以内に-73±6°Cに8時間保持)→H処理(510±10°Cに60分保持後、空冷)を行います。TH1050では、S処理→T処理(760±15°Cに90分保持、1時間以内に15°C以 下に冷却、30分保持)→H処理(565±10°Cに90分保持後、空冷)を行います。析出硬化系ステンレスの特徴機械的性質<析出硬化系ステンレス鋼の機械的性質>種類の記号熱処理記号耐力N/mm2引張強さN/mm2伸び%硬さHBWHRCHRBS又はHRBWHVSUS630S---363以下38以下--H9001175以上1310以上厚さ5.0mm以下5以上375以上---厚さ5.0mmを超え15.0mm以下8以上厚さ15.0mmを超えるもの10以上H10251000以上1070以上厚さ5.0mm以下5以上331以上---厚さ5.0mmを超え15.0mm以下8以上厚さ15.0mmを超えるもの12以上H1075860以上1000以上厚さ5.0mm以下5以上302以上31以上--厚さ5.0mmを超え15.0mm以下9以上厚さ15.0mmを超えるもの13以上H1150725以上930以上厚さ5.0mm以下8以上277以上28以上--厚さ5.0mmを超え15.0mm以下10以上厚さ15.0mmを超えるもの16以上SUS631S380以下1030以下20以上192以下-92以下200以下RH9501030以上1230以上厚さ3.0mm以下--40以上-392以上厚さ3.0mmを超えるもの4以上TH1050960以上1140以上厚さ3.0mm以下3以上-35以上-345以上厚さ3.0mmを超えるもの5以上引用元:JIS G4305:冷間圧延ステンレス鋼板及び鋼帯SUS630及びSUS631の機械的性質を上表に示しました。析出硬化系ステンレス鋼の硬度については、熱処理(焼入・焼もどし)によって高硬度を得ているマルテンサイト系ステンレス鋼とほぼ同等の値を示します。SUS630の強度については、オーステナイト系ステンレス鋼の代表的な鋼種であるSUS304と比べると、2倍以上の値を示します。SUS631については、SUS301をベースにAlを添加し、析出硬化によって弾性限を高めた鋼であるため、優れたバネ特性を有しています。物理的性質と磁性<析出硬化系ステンレス鋼の物理的性質>種類の記号 密度kg/m3縦弾性係数GPa比電気抵抗(常温)μΩ・cm比熱(0〜100℃)KJ/kg・K熱伝導度(100℃)W/m・K熱膨張係数(0〜100℃)X10-6磁性SUS6307750196800.4618.310.8強磁性SUS6317750204830.4616.415.0強磁性引用元:愛知製鋼株式会社SUS630及びSUS631の物理的性質を上表に示しました。析出硬化系ステンレス鋼の磁性について、固溶化熱処理状態では非磁性ですが、析出硬化処理後は強い磁性を示します。そのため、磁性を嫌う機器などで使用する場合には注意が必要です。耐食性各種ステンレス鋼の耐食性は、次のようになっています。オーステナイト系>析出硬化系>フェライト系、マルテンサイト系析出硬化系ステンレス鋼は、焼入れによって硬化ができないオーステナイト系ステンレス鋼をベースに、熱処理によって高強度化できるよう改良された鋼種です。そのため、オーステナイト系ステンレス鋼同様、Cr-Ni(クロムニッケル)系の組成を持っており、耐食性はオーステナイト系ステンレス鋼には及ばないものの、クロム系のフェライト系ステンレス鋼よりは優れています。また、下図に示したように、一般的に材質の硬度と耐食性は反比例の関係を示します。前述した通り、析出硬化系ステンレス鋼(SUS630)の耐食性は、オーステナイト系ステンレス鋼(SUS304L、SUS316L)よりは劣るものの、マルテンサイト系ステンレス鋼(SUS420J2)やフェライト系ステンレス鋼と比べると優れており、硬度と耐食性のバランスが良好な鋼種です。<硬度と耐食性(孔食電位)の関係>引用元:株式会社シリコロイラボ析出硬化系ステンレスの主な用途析出硬化系ステンレス鋼は、その優れた強度・耐食性を活かして、自動車や航空機、電子機器などの分野で広く利用されています。用途としては、シャフト、タービン部品、スチールベルトなどが挙げられます。また、弾性にも優れることから、バネ材、スプリングワッシャーなどにも利用されています。

  • SUS329J1(ステンレス鋼)化学成分、磁性、機械的性質

    SUS329J1は、オーステナイト相とフェライト相の両方の組織を持つ、二相系のステンレス鋼です。二相系ステンレス鋼は、JIS規格では「オーステナイト・フェライト系」と記述されているステンレス鋼に該当します。SUS329J1は、SUS304のようなオーステナイト系ステンレス鋼と比べて、クロム(Cr)の含有量が多く、ニッケル(Ni)の含有量が少なめです。クロムの含有量が多いため、比較的に耐食性に優れているほか、レアメタルであるニッケルが少ないことから、価格高騰の影響を受けにくい特徴があります。参考:【SUS(ステンレス)種類と見分け方】用途・特徴を専門家が徹底解説!SUS329J1の特性、磁性SUS329J1は、優れた耐食性(耐孔食性と耐応力腐食割れ性)を持つのが特徴です。オーステナイト系に加えてフェライト系の組織を持つため、磁性があります。SUS329J1は、耐孔食性に強いステンレス鋼であるため、孔食のリスクを軽減できます。この特性により、工業用水や海水を扱う部品や機器などに多く採用されています。参考:応力腐食割れをわかりやすく!3要素と対策方法孔食とは、孔が開いたかのように、深い箇所まで腐食することをいいます。孔食の原因は、サビを防ぐための不働態皮膜が、塩素イオンなどの作用により局部的に破壊されてしまうためです。一般的にステンレス鋼が形成する不働態皮膜は、傷がついても再び形成されますが、孔食は連続的に発生し、深くまで腐食してしまいます。また、SUS329J1は、強度にも優れたステンレス鋼です。オーステナイト系ステンレス鋼の代表であるSUS304に比べて、2倍近い耐力があり、引張強度もやや高めです。SUS329J1は、耐食性と強度に優れているだけでなく、高価な材料であるニッケルの含有量も少ないため、価格高騰の影響を受けにくい材料です。加えて、強度で肉厚が決まる構造体の場合は、肉厚を薄くできる分、材料のコストを削減できます。SUS329J1の用途SUS329J1は、工業用水や海水に強い材料であることから、主に海水用ポンプシャフト・水門・排煙脱硫装置などの用途として使われています。SUS329J1の化学成分<SUS329J1の化学成分(単位:%)>種類の記号CSiMnPSNiCrMoNSUS329J10.08以下1.00以下1.50以下0.040以下0.030以下3.00~6.0023.00~28.001.00~3.00-※この表に規定されていないCu、W及びNのうち一つ又は複数の元素を必要によって添加した場合、その含有率を報告しなければならない。引用元:JIS G 4303:2012上表は、JIS規格の【ステンレス鋼棒 JIS G 4303】から抜粋したものです。SUS329J1は、SUS304と比べてクロム(Cr)の含有量が多く、モリブデン(Mo)も含有していることから、不働態皮膜を形成しやすい特徴があります。SUS329J1の機械的性質<SUS329J1の固溶化熱処理状態の機械的性質>種類の記号耐力MPa(N/mm2)引張強さMPa(N/mm2)伸び絞り硬さHBWHRCHVSUS329J1390以上590以上18以上40以上277以下29以下292以下引用元:JIS G 4303:2012SUS329J1は、強度にも優れたステンレス鋼です。SUS304の耐力は205MPa以上、引張強さは520MPa以上であるのに対し、SUS329J1の耐力は390MPa以上、引張強さは590MPa以上と高い数値を示しています。伸びに関してはフェライト系ステンレス鋼と同等の数値になりますが、靭性や溶接性はフェライト系よりも優れている特徴があります。

  • 15-5PH(ステンレス鋼)化学成分、磁性、機械的性質

    15-5PHとは、析出硬化系ステンレス鋼の一種で、強度と耐食性に非常に優れているステンレス鋼です。その優れた特性を活かして、航空機や自動車、化学プラントなどの部品として広く利用されています。15-5PHの特性、磁性15-5PHは、析出硬化系ステンレス鋼に分類され、高強度、高硬度で、さらに優れた耐食性を持つステンレス鋼です。析出硬化系ステンレス鋼とは、金属間化合物の析出により、高い強度を得ることを目的としたステンレス鋼で、代表的な鋼種にSUS630があります。15-5PHは、SUS630のδ-フェライトをなくして、機械的特性を改善した鋼種です。また、15-5PHはSUS630同様、磁性を持つステンレス鋼です。そのため、磁性を嫌う環境においては、トラブルの原因につながる可能性もあるため、注意が必要です。15-5PHはJIS規格外の析出硬化系ステンレス鋼ですが、航空宇宙材料規格:AMS5659として管理され、ASTMA564 XM-12という呼称も使用されています。参考:SUS630(ステンレス鋼)磁性、成分、切削性、機械的性質15-5PHの用途15-5PHは、その優れた強度及び耐食性を活かして、シャフト類、タービン類、自動車部品、航空機部品、ポンプおよびバルブ部品、圧力容器用部材など、さまざまな用途で使用されています。15-5PHの化学成分<15-5PHの成分、組成(単位:%)>材料記号CSiMnPSNiCrMoCuNその他15-5PH0.07以下1.00以下1.00以下0.040以下0.030以下3.50~5.5014.00~15.50-2.50~4.50-Nb0.15~0.45SUS6300.07以下1.00以下1.00以下0.040以下0.030以下3.00~5.0015.00~17.50-3.00~5.00-Nb0.15~0.4515-5PHの化学成分を上表に示しました。比較のため、SUS630の化学成分も記載しています。15-5PHという名前は、クロム(Cr)含有量が約15%、ニッケル(Ni)含有量が約5%という成分含有量に由来しています。また、SUS630は、クロム含有量が約17%、ニッケル含有量が約4%であることから、17-4PHとも呼ばれています。なお、PHとは、precipitation hardening(析出硬化)の頭文字を示しています。析出硬化系ステンレスでは、冷間圧延後析出硬化熱処理を行うことで、マルテンサイト地に微細な金属間化合物を析出させます。15-5PH及びSUS630では、銅(Cu)、ニオブ(Nb)が含まれており、析出硬化処理によりCu-rich 相及び NbC を析出させ、材料を硬化させています。15-5PHの機械的性質(耐力、引張強さ、伸び、硬さ)<15-5PHの機械的性質>材料記号熱処理記号耐力MPa引張強さMPa伸び(%)硬さHBWHRC15-5PHH9001170以上1310以上6以上388以上40以上H9251070以上1170以上7以上375以上38以上H10251000以上1070以上8以上331以上38以上H1075860以上1000以上8以上311以上32以上SUS630H9001175以上1320以上10以上388以上40以上H9251070以上1170以上10以上375以上38以上H10251000以上1070以上12以上331以上35以上H1075725以上930以上16以上277以上28以上15-5PHの機械的性質を上表に示しました。比較のため、SUS630の機械的性質も記載しています。15-5PH及びSUS630には、析出硬化熱処理条件の違いによって、H900・H1025・H1075・H1150などのグレードが存在します。参考:ステンレスの焼き入れについて専門家が紹介!15-5PHは、耐力、引張強さ、伸び、硬さにおいてSUS630とほぼ同等の性質を持つことがわかります。また、オーステナイト系ステンレス鋼の代表的な鋼種であるSUS304と比べると、2倍以上の引張強さを示します。15-5PHは、SUS630と比較して、横方向の延性に強いという性質も有しています。そのため、部品などに横方向の応力が見込まれる場合には、15-5PHの使用を検討することが勧められます。その他にも、15-5PHは、熱による変形が少ないという特徴も持ちます。15-5PHの加工性15-5PHは、析出硬化熱処理をする前のS材と処理後のH材があり、切削性は異なります。粗削りなど、加工量が多い場合には、S材から加工することがお勧めされます。15-5PHは、SUS304と比べて、切削抵抗が低く、粘りも少ないため、SUS304と同じ条件ならば、工具寿命はより長くなります。参考:【ステンレス加工】加工方法や加工実績について徹底解説!!

  • SUS304とSUS304Lの違いと使い分け

    SUS304は、ステンレス鋼の代表的な材料で、市場に多く出回っており、私たちの日常でもよく目にします。耐食性・耐熱性・強度などに優れているのが特徴のため、日常生活に限らず、幅広い業界で採用されています。一方、SUS304LはLグレードと呼ばれるステンレス鋼で、SUS304よりも炭素の成分を減らすことで鋭敏化の発生を抑え、耐粒界腐食性を向上した材料です。鋭敏化とは、ステンレス鋼が550~900℃程度加熱された際に炭素とクロムが結合し、耐食性を低下させてしまう現象のことを指します。SUS304Lは、鋭敏化を避けられるメリットがありますが、ステンレス鋼の選定において、一概にSUS304Lを選べばいいという訳ではありません。本記事では、SUS304とSUS304Lの価格と強度の違いを見てみましょう。参考:SUS304とSUS430の意味とは? 使い分けや特徴も分かりやすく解説!参考:SUS304L(ステンレス鋼)成分、比重、切削性、機械的性質SUS304とSUS304Lの価格差以下は、金属材料を取り扱う通販サイト【E-metals】のSUS304とSUS304Lの丸棒の価格を一部表にしたものです。<SUS304およびSUS304Lの丸棒(酸洗)の参考価格表>材料のサイズ直径×長さ(mm)SUS304の価格SUS304Lの価格φ13×500694円744円φ13×10001,188円1,288円φ13×15001,682円1,832円φ13×20002,177円2,376円参照元:E-Metals(上表は2021年1月時点での価格)SUS304Lは、SUS304と比べて数%~1割程度、価格の高い材料であることがわかります。上表の【丸棒(酸洗)】の製品に限らず、一般的にSUS304Lのほうが高価な材料です。また、SUS304Lは、SUS304よりも流通量が少ないため、納期に時間を要する場合もあります。これらのことから、コストや使用条件などを考慮して、SUS304とSUS304Lを使い分けなければなりません。例えば、溶接加工を必要とする部材や酸化性のある環境などは、鋭敏化の恐れがあるので、SUS304Lを採用する。逆に鋭敏化の心配がない部材や環境においては、コスト削減のためにSUS304を採用するなど、使用環境によって適切な材料を選ぶようにしましょう。SUS304とSUS304Lの強度<SUSの固溶化熱処理状態の機械的性質>種類の記号耐力Mpa(N/mm2)引張強さMpa(N/mm2)硬さHBWHRBS又はHRBWHVSUS304205520187以下90以下200以下SUS304L175480187以下90以下200以下引用元:JIS G 4303:2012上表は、【ステンレス鋼棒 JIS G 4303】から抜粋したものです。SUS304とSUS304Lの機械的性質の数値を見てみると、硬さは同じ値になりますが、耐力・引張強さにおいては、SUS304のほうがわずかに高い値を示しています。

  • SUS440Cとは?性質、規格、成分、用途

    SUS440Cは、JIS規格に規定されているステンレス鋼の中で最も硬いステンレス鋼です。マルテンサイト系ステンレス鋼の一種で、熱処理を施し、硬度を高めた状態で利用することが前提とされています。強度や耐摩耗性が必要なベアリングやシャフトなどの機械部品によく採用されるステンレス鋼で、高い強度と耐食性から刃物の用途もあります。しかし、SUS440Cにとって最も重要な硬度、さらにはステンレス鋼の大事な特性である耐食性も、熱処理条件によって変化するため、その取扱いには十分な知識が必要です。この記事では、SUS440Cの性質や規格、物理的性質、耐食性、熱処理条件によって変わる機械的性質などについて解説していきます。SUS440CとはSUS440Cとは、炭素の含有量が0.95〜1.20%と多く、焼入硬化性が特に高いマルテンサイト系ステンレス鋼の一種のことです(上図参照)。焼き入れと焼き戻しによって、ステンレス鋼の中でも最高レベルのHRC58以上という硬度を出すことができます。高硬度であるため、耐摩耗性や疲労強度が高く、引張強さも良好で、機械的性質に優れたステンレス鋼です。価格は、SUS304と同程度か、SUS304よりも少し高いくらいとなっています。参考:マルテンサイト系ステンレス鋼の基礎知識まとめSUS440Cの耐食性は、クロムを16.0〜18.0%とステンレス鋼の中でも比較的多く含有するため、S45Cなどの炭素鋼やSK材・SKS材といった工具鋼と比べると高くなっています。しかし、炭素含有量が多いため、オーステナイト系ステンレス鋼(SUS304など)やフェライト系ステンレス鋼(SUS430など)、他のマルテンサイト系ステンレス鋼(SUS410やSUS420など)に劣ります。参考:SUS304とSUS430の意味とは? 使い分けや特徴も分かりやすく解説!SUS440Cの被削性は、焼き入れ前(焼き鈍し後の状態)であれば、普通鋼やフェライト系ステンレス鋼と同程度で、オーステナイト系ステンレス鋼よりは良好です。しかし、焼き入れ・焼き戻し後の被削性は悪いため、焼き入れ前に最終的な形状まで成形することが多くなっています。ただし、焼き入れ・焼き戻し後にも加工を行う場合は、硬度に関係なく加工ができる放電加工を採用したり、難削材用の工具を使用したりする必要があります。なお、JIS規格には、SUS440Cに硫黄を添加して被削性を改善したSUS440Fが存在します(上図参照)。SUS440Cの焼入硬化性は特に良好で、焼き入れ・焼き戻しの適用が前提とされているステンレス鋼です。下表は、JIS規格(JIS G 4303:2021)に記載してある焼き鈍し・焼き入れ・焼き戻しの熱処理条件の例ですが、この条件以外の熱処理条件が用いられることもよくあります。熱処理方法焼き鈍し焼き入れ焼き戻し温度 (℃)800~9201010~1070100~180冷却方法徐冷油冷空冷・徐冷…炉の停止後、鋼材を炉内に入れたままにし、炉が冷えるのに合わせて鉄鋼を冷却する方法・油冷…炉の停止後、鋼材を炉から取り出し、油中に入れて冷却する方法・空冷…炉の停止後、鋼材を炉から取り出して、常温の空気中で冷却する方法参考:ステンレスの焼き入れについて専門家が紹介!SUS440Cの用途SUS440Cの用途は、以下のように、優れた硬度や耐摩耗性、比較的良好な耐食性を活かしたものが多くなっています。・ベアリング(軸受)…回転・往復運動する部品を支持する部品のこと。荷重に対する形状不変性や摩擦に対する耐性が必要であることから、SUS440Cが採用されることがあります。・刃物…包丁やハサミ、カミソリ、医療用メスなどの刃のこと。高い硬度と防錆性が必要であることから、SUS440Cがよく採用されています。・ゲージ…製品検査で形状や精度などの検証に使用する測定・検査ゲージのこと。形状不変性や防錆性が必要であることから、SUS440Cが採用されることがあります。・金型…耐摩耗性が必要。プラスチックの射出成形用の金型にSUS440Cが採用されることがあります。そのほか、ノズルやシャフト、ポンプ部品などの強度を要する機械部品に用いられています。SUS440Cの規格SUS440Cは、以下のJIS規格に定められています。・JIS G 4303:2021「ステンレス鋼棒」・JIS G 4308:2013「ステンレス鋼線材」・JIS G 4309:2013「ステンレス鋼線」・JIS G 4318:2016「冷間仕上ステンレス鋼棒」SUS440Cの板材の規格はありませんが、市場には出回っています。なお、炭素含有量だけがSUS440Cと異なる、SUS440Aの板材については、以下のJIS規格に記載があります。・JIS G 4304:2021「熱間圧延ステンレス鋼板及び鋼帯」・JIS G 4305:2021「冷間圧延ステンレス鋼板及び鋼帯」また、SUS440CのJIS規格以外の規格との対応は以下の通りです。規格記号JISISOENASTM規格名日本産業規格国際標準化機構欧州標準化委員会米国試験材料協会鋼種名SUS440CX110Cr171.4023S44004SUS440Cの機械的性質焼き鈍し状態の硬さ焼き入れ・焼き戻し状態の硬さHBWHRCHVHBWHRCHV269以下28以下284以下−58以上653以上SUS440Cの硬度は、「JIS G 4303:2021」にて上表のように規定されています。ただし、必ずしもこれらの硬度になるわけではなく、特に焼き入れ後と焼き戻し後の硬さは熱処理条件によって大きく変わります。例えば、様々な焼き入れ温度に対する焼き入れ後(焼き戻し前)の硬度は、以下のような値が報告されています。焼き入れ温度900℃950℃1000℃1050℃1150℃硬度 (HRC)4753596142参照元:シリコロイ ラボ「SUS440C」株式会社シリコロイラボ焼き入れ・焼き戻し状態については、下表のように、様々な焼き戻し温度における多種の機械的性質のデータがあります。焼き戻し温度引張強さ0.2%耐力伸び硬さMPaMPa%HRC焼き鈍し状態7584481427.71 (269HB)204℃20301900459260℃19601830457316℃18601740456371℃17901660456参照元:Penn Stainless「440C STAINLESS STEEL」Penn Stainless Products Inc1020℃で焼き入れを行い、冷却方法として油冷を採用した場合では、焼き戻し後の硬度は、下図のような値になるとのこと。引用元:Gruppo Lucefin「1.4125a440c62.pdf」LUCEFIN S.P.A.SUS440Cの物理的性質密度熱伝導率比熱*比電気抵抗*×10-8磁性*g/cm3W/(m・K)J/(g・℃)Ω・m7.7824.30.4660強磁性参照元:シリコロイ ラボ「物理的性質」株式会社シリコロイラボ、*製品カタログ・技術情報「ステンレス鋼」愛知製鋼株式会社SUS440Cの主な物理的性質は、上表の通りです。ヤング率は、温度によって値が変化しますが、下表の通りとなっています。温度 (℃)20100200300400ヤング率 (GPa)215212205200190参照元:Gruppo Lucefin「1.4125a440c62.pdf」LUCEFIN S.P.A.温度範囲によって値が変わる熱膨張係数は、下表の通りです。温度範囲 (℃)20~10020~20020~30020~40020~500熱膨張係数 ×10-6 (℃)10.410.811.211.612.0参照元:Gruppo Lucefin「1.4125a440c62.pdf」LUCEFIN S.P.A.マルテンサイト系に言えることですが、SUS440Cの物理的性質は、フェライト系と類似しており、オーステナイト系とは異なる点が多くあります。SUS440Cは、普通鋼と同じく強磁性で、この点、SUS304などのオーステナイト系と異なります。比熱や電気抵抗率、熱膨張係数は、オーステナイト系の値よりも低く、密度や熱伝導率、ヤング率は、オーステナイト系の値よりも高くなっています。SUS440Cの成分(単位:%)炭素ケイ素マンガンリン硫黄ニッケルクロムモリブデンCSiMnPSNiCrMo0.95~1.201.00以下1.00以下0.040以下0.030以下0.60以下16.0~18.00.75以下SUS440Cの化学成分は、JIS規格によって上表のように定められています。SUS440Cは、ステンレス鋼の硬度や強度、焼入性に効果がある炭素の含有量が多く、焼入性のほか、耐食性や耐熱性を向上させるクロムの含有量も比較的多いステンレス鋼です。クロムは、防錆性の源となる酸化皮膜を形成し、焼き入れ後には、炭素と結合してクロム炭化物となり、SUS440Cの硬度や強度に寄与します。SUS440Cの耐食性SUS440Cは、上述したように、酸化皮膜の素となるクロムを多く含むため、良好な耐食性を示します。しかし、焼き入れ・焼き戻しによって、クロム炭化物が析出するため、周囲のクロム含有量が減少し、耐食性が低下します。ただし、その耐食性は、焼き戻しの熱処理条件によって異なり、焼き戻し温度が高いほど、クロム炭化物の析出量が多くなるため、耐食性は低くなります。一方、焼き入れ後の耐食性が最も高く、焼き戻し温度が低いほど、耐食性の低下は抑えられます。SUS440Cの腐食耐性は、代表的なステンレス鋼と比べると下表のようになります。腐食条件代表的なステンレス鋼の腐食度 (g/(m2・hr))SUS440CSUS420J2SUS304SUS430SUS630水*0.18-0.08-0.08塩酸 (5%)10.105934.13130.439012.25680.4772硝酸 (5%)18.88310.3100    0.01370.00580.0071硫酸 (5%)15.599122.12870.40628.78070.2707塩酸性塩化第二鉄 (6%)17.119415.90904.1834-7.5868塩水 (5%)0.01290.00670.0000-0.0000参照元:シリコロイ ラボ「耐食性比較表」株式会社シリコロイラボ、*シリコロイ ラボ「耐食性の一例」株式会社シリコロイラボSUS440Cの局所的な腐食耐性は、代表的なステンレス鋼と比べると下表の通りです。孔食は点状に生じ、内部深くに侵食する腐食のことで、孔食電位は孔食の発生する下限の電位で値が小さいほど孔食が生じやすくなっています。腐食条件代表的なステンレス鋼の孔食電位 (mV)SUS440CSUS420J2SUS304SUS430SUS630塩水 (3.5%)-30020-120100参照元:シリコロイ ラボ「耐食性比較表」株式会社シリコロイラボSUS440A、SUS440Bとの違い(単位:%)鋼種炭素ケイ素マンガンリン硫黄ニッケルクロムモリブデンCSiMnPSNiCrMoSUS440A0.60~0.751.00以下1.00以下0.040以下0.030以下0.60以下16.0~18.00.75以下SUS440B0.75~0.951.00以下1.00以下0.040以下0.030以下0.60以下16.0~18.00.75以下SUS440C0.95~1.201.00以下1.00以下0.040以下0.030以下0.60以下16.0~18.00.75以下そもそも、SUS440CはSUS440Bに炭素を加えて焼入硬化性の向上を図ったもの、SUS440BはSUS440Aに炭素を加えて焼入硬化性の向上を図ったものであり、これらの間の違いは炭素含有量だけです(上表参照)。従って、これらの硬度・靭性・耐食性の関係は、以下のようになります。・硬度:SUS440C > SUS440B > SUS440A・靭性:SUS440A > SUS440B > SUS440C・耐食性:SUS440A > SUS440B > SUS440Cなお、これらの硬度の値は、「JIS G 4303:2021」にて下表のように規定されています。鋼種焼き鈍し状態の硬さ焼き入れ・焼き戻し状態の硬さHBWHRCHVHBWHRCHVSUS440A255以下25以下269以下−54以上577以上SUS440B255以下25以下269以下−56以上613以上SUS440C269以下28以下284以下−58以上653以上

  • SUS304-HL(ヘアライン材)特徴、用途

    強度が高くサビに強いステンレスは、日常生活はもちろん、産業や工業においても欠かせない金属です。その中でも、SUS304は、最も代表的なステンレス鋼であり、強度や耐食性のみならず、耐熱性にも優れ、低価格で入手できる有用性の高い素材です。SUS304-HLは、そのSUS304の表面に細かい筋目模様を付けた素材であり、適度につや消しされた金属的な質感を強調した美しい外観を持ちます。傷が目立ちにくいなどの特徴もあることから、使い勝手の良い材料として、建材やキッチン、家電や機械など、様々な用途で用いられています。参考:SUS304とSUS430の意味とは? 使い分けや特徴も分かりやすく解説!SUS304-HLとはSUS304にヘアライン加工をした素材引用元:レコサポート株式会社SUS304-HLとは、上の写真ような、最も流通量の多いステンレス鋼であるSUS304の表面に髪の毛(ヘアライン)のような単一方向の細かい傷を付けるヘアライン加工を施した素材です。ステンレスの種類を示す「SUS304」と素材に対する最終的な仕上げを示す質別記号の「HL (Hairline)」によって表現されます。その外観は、光の当たり方で多様な表情を持つ鈍い光沢を示し、高級感のあるマットな質感を与えます。ヘアライン加工による仕上げは、鏡のように磨き上げる「鏡面仕上げ」よりも傷が目立ちにくいため、外観品質の維持に効果的です。滑り止めの効果もあります。ただし、線模様の方向と直角方向の傷が目立ちやすく、線模様が経年変化によって薄れてきます。その場合、再研磨することで元の美しさと機能を回復できますので、必要性があれば業者に依頼すると良いでしょう。ヘアライン模様はベルト研磨機やサンドペーパーで付けますが、SUS304-HLは通常、P150~P240番の砥粒研磨ベルトで一定方向に磨いたものを指します。しかし、近年では、粗い線模様を付けたハードHLや短く連続した線模様のスクラッチHL、縦横に線模様を付けたクロスHL(下の写真)なども存在します。引用元:三和タジマ株式会社参考:ヘアライン仕上げとは【専門家が語る】製品事例もご紹介!参考:ステンレスのヘアライン加工の種類や特徴について専門家が解説!SUS304-HLの主な用途SUS304-HLの主な用途は、建材、厨房機器、家電製品です。そのほか、インテリアや装飾品、輸送機器、精密機械などにも用いられています。SUS304-HLの用途の例としては、システムキッチンのシンクやワークトップ、パソコンの筐体、エスカレーターの側板、建築物の外装パネルなどが挙げられます。特に、ステンレス製の建築部材としては最も一般的で、階段の側板、手摺り、自動ドアのフレームなど、金属的な質感を持つ多くの建築部材がSUS304-HLです。産業機械の筐体や鉄道車両、腕時計のベルトなどにも採用されています。

  • 二相系(オーステナイト・フェライト系)ステンレス鋼の基礎知識まとめ

    二相系ステンレス鋼とは、オーステナイト系ステンレスとフェライト系ステンレスのそれぞれの金属組織を混合させたステンレス鋼のことです。オーステナイト系と比べて、高い強度と同等以上の耐食性を示し、オーステナイト系の弱点となる孔食や応力腐食割れに対する耐性を持ちます。ただし、高温強度が弱く、フェライト系の弱点である高温環境下での脆化も起こりやすくなっているため、高温用途には向いていません。耐食性の向上を志向した鋼種と、高価なニッケルを減量して低コスト化を図った鋼種があり、用途に応じて使い分けられています。耐孔食性に優れ、海水などの塩化物環境への耐性が高いことから、海洋構造物や淡水化装置の材料などにも用いられています。二相系ステンレスの組織・成分二相系ステンレスは、金属組織が「フェライト相」と「オーステナイト相」から構成され、その構成比がおおよそ1:1となるステンレスです。フェライト相は、フェライト系ステンレスの主要相で、炭素をほぼ含有しない組織です。磁性を示し、軟らかく変形しやすいという特徴があります。一方、オーステナイト相は、オーステナイト系ステンレスの主要相で、およそ2%までの炭素を含むことができます。非磁性の組織ですが、熱処理や塑性加工によって、磁性を持つマルテンサイト相に変化します。二相系ステンレスは、クロムとニッケルを主要な添加元素として含むクロム・ニッケル系ステンレス鋼に分類されます。主要成分として、鉄以外にクロムを約20〜30%、ニッケルを1〜10%程度含有し、鋼種によってはモリブデンや窒素、銅などを含みます。オーステナイト系よりもニッケルの含有量が少なく、フェライト系が含有しないニッケルを少量含むステンレスとなっています。引用元:International Molybdenum Association (IMOA)二相系ステンレスの種類二相系ステンレスには、様々な鋼種がありますが、含有する化学成分と耐食性を代表する耐孔食指数(PREN)によって以下の種類に分類されます。なお、耐孔食指数は、表面の穴から進行する腐食に対する耐性を示す指数で、オーステナイト系の代表鋼種であるSUS304で18、耐食性の高いSUS316で26となっています。参考:オーステナイト系ステンレス鋼の基礎知識まとめ(1) 汎用二相系ステンレス<単位 %>鋼種名CSiMnPSNiCrMoNSUS329J10.08以下1.00以下1.50以下0.040以下0.030以下3.00〜6.0023.00〜28.001.00〜3.00 −SUS329J3L0.030以下1.00以下2.00以下0.040以下0.030以下4.50〜6.5021.00〜24.002.50〜 3.500.08〜0.20 SUS329J4L0.030以下1.05以下1.50以下0.040以下0.030以下5.50〜7.5024.00〜26.002.50〜3.50 0.08〜 0.30汎用二相系ステンレスは、上表のJIS規格(JIS G 4305:2015)で規定された鋼種を含む二相系ステンレスです。PRENが35前後で、耐海水腐食性に優れています。参考:SUS329J1(ステンレス鋼)化学成分、磁性、機械的性質参考:SUS329J4L(ステンレス鋼)加工性、磁性、化学成分(2)スーパー二相系ステンレス<単位 %>鋼種名CSiMnPSNiCrMoCuNSUS327L10.030以下0.80以下1.20以下0.035以下0.020以下6.00〜8.0024.00〜26.003.00〜5.00 0.50以下 0.24〜0.32 スーパー二相系ステンレスは、PRENが40〜45の二相系ステンレスで、JIS規格には上表の「SUS327L1」が規定されています。汎用二相系ステンレスに比べ、耐食性が向上していますが、高価なニッケル(Ni)やモリブデン(Mo)を多く含むため、高コストとなります。(3)ハイパー二相系ステンレスハイパー二相系ステンレスは、PRENが45以上の二相系ステンレスで、JIS規格に規定されている鋼種はありません。アメリカのUNS規格では、「S32707」や「S33207」などの鋼種があり、スーパー二相系ステンレスよりもクロム含有量が多くなっています。(4)リーン二相系ステンレス(省合金ステンレス)<単位 %>鋼種名CSiMnPSNiCrMoCuNSUS821L10.030以下0.75以下2.00〜4.000.040以下0.020以下1.50〜2.5020.50〜21.500.60 以下0.50〜1.50 0.15〜0.20 SUS323L0.030以下1.00以下2.50以下0.040以下0.030以下3.00〜5.5021.50〜24.500.60 以下0.50〜1.50 0.15〜0.20 リーン二相系ステンレスは、モリブデンをほぼ添加しないことで低コスト化を図った二相系ステンレスです。JIS規格では、上表の2鋼種が規定されています。SUS304やSUS316といったオーステナイト系ステンレスの代替材料として設計された鋼種です。SUS304と同等以上の耐食性を示し、PRENは25〜30程度と良好な耐孔食性を有します。SUS304と比べて、応力腐食割れが生じにくく、高価なニッケルの含有量も少ないため、コストパフォーマンスに優れています。参考:応力腐食割れをわかりやすく!3要素と対策方法二相系ステンレスの機械的性質鋼種名耐力MPa引張強さMPa伸び%絞り%硬さ厚さ2.0mm以下厚さ2.0mm超HBWHRBS又はHRBWHVSUS821L1400以上600以上20以上25以上−290以下32以下310以下SUS323L400以上600以上20以上25以上−290以下32以下310以下SUS329J1390以上590以上18以上40以上277以下 29以下292以下SUS329J3L450以上620以上18以上40以上302以下 32以下320以下SUS329J4L450以上620以上18以上40以上302以下 32以下320以下SUS327L1550以上795以上15以上−310以下 32以下330以下二相系ステンレスの機械的性質は、JIS規格によって上表のように規定されています。二相系ステンレスは、耐力と引張強さが共にオーステナイト系やフェライト系よりも高く、強度に優れます。一方、延性や靭性については、オーステナイト系よりも劣り、フェライト系よりは優れる傾向にあります。フェライト相を含むことから、低温で靭性が急激に低下する「延性-脆性遷移」が起きます。ただし、フェライト系の延性-脆性遷移よりは緩やかに起こるため、−40℃程度まではある程度の靭性を維持することが可能です。また、高温では強度が低下するため、耐熱用には適していません。フェライト系で問題となる「475℃脆化」や「σ相脆化」も起こるため、溶接や熱処理を施す際には注意が必要となります。参考:フェライト系ステンレス鋼の基礎知識まとめ二相系ステンレスの物理的性質と磁性鋼種名密度g/cm3比熱J(kg・K)熱膨張係数(0~100℃)10-6/K熱伝導率(100℃)W/(m・K)電気抵抗(室温)μΩ・cmヤング率MPaSUS329J4L7.804713.020.979196,000参照元:山陽特殊製鋼株式会社二相系ステンレスは、オーステナイト系とフェライト系の中間的な物理的性質を示します。その値は上表の通りで、それぞれの値はオーステナイト系とフェライト系の中間的な値となっています。また、二相系ステンレスは、磁性を持つフェライト相を含むことから、磁性を示します。その磁性は、フェライト量の比率が大きいほど強くなります。二相系ステンレスの加工熱処理鋼種名固溶化処理の熱処理条件(℃)SUS821L1940〜1100SUS323L950〜1100SUS329J1950〜1100SUS329J3L950〜1100SUS329J4L950〜1100SUS327L11025〜1125二相系ステンレスは、常温の強度が高いため、強度向上を目的とした焼入れなどを行うことはほとんどなく、靭性・延性を最大限に発揮できる固溶化熱処理後のものが使用されます。その固溶化熱処理では、上表(JIS規格の参考値)の温度に加熱して保持し、急冷します。二相系ステンレスへ熱処理を行う際には、σ相脆化と475℃脆化の発生に注意する必要があります。σ相脆化は、700〜1000℃でゆっくりと冷却すると起こりやすく、σ相の析出部では耐孔食性が低下します。一方、475℃脆化は、475℃近辺で長時間保持することで起こり、靭性と耐食性の低下に繋がります。固溶化熱処理のみを行う通常の製造過程では問題とはなりませんが、応力除去熱処理を行う際には475℃の周辺温度は避ける必要があります。溶接二相系ステンレスに対する溶接では、溶接部の冷却速度によって、オーステナイト相とフェライト相のバランスが変化し、耐食性や靭性が低下するので注意が必要です。冷却速度が速くなり過ぎると、オーステナイト相が十分に形成されず、クロム窒化物やクロム炭化物が析出して耐食性が低下します。逆に、冷却速度が遅くなり過ぎると、金属化合物や窒化物が析出したりσ相脆化が起きたりするため、耐食性や靭性が低下します。切削加工二相系ステンレスは、高強度かつ高硬度であるために被削性が悪く、難削材として知られています。また、オーステナイト系に匹敵する加工硬化性を示すことから、加工が進展するほど切削が難しくなります。切削加工性は、合金元素を多く含むスーパー二相系やハイパー二相系の方がより悪くなります。一方、リーン二相系の切削性は、オーステナイト系と比べても良好です。参考:加工硬化とはどんな現象?仕組み・影響・扱い方をご紹介!塑性加工二相系ステンレスの塑性加工性は、熱間では良好であるものの、冷間ではあまり良くありません。二相系ステンレスは、高温強度が低く、固溶化温度付近では特に軟らかくなるため、熱間で容易に変形させることが可能です。実際の熱間成形加工では、固溶化温度付近において加工した後、固溶化熱処理と同等の処置を施すことで靭性や耐食性を回復させます。一方、二相系ステンレスは、常温の強度が高く、加工硬化も生じやすいことから、冷間成形加工に多大なエネルギーを要します。また、変形部が元に戻ってしまうスプリングバックが生じやすく、曲げ加工やプレス加工で問題となります。二相系ステンレスの主な用途二相系ステンレスの用途は、以下のように種類によって異なります。汎用二相系汎用二相系ステンレスには、高強度と塩化物環境における耐性を活かした、海岸周辺の構造物や橋梁、海水ポンプや海水淡水化装置の材料としての用途があります。また、汎用二相系は、オーステナイト系でよく問題となる応力腐食割れが起きやすい箇所での代替材料としても用いられます。例えば、石油生産設備の熱交換器では、応力腐食割れや局所腐食の発生が想定されるため、二相系の使用が有効です。そのほか、耐荷重性能が必要な土木・建築分野の構造材、高耐食性の材料が必要な化学プラントやエネルギー関連プラントの設備・機器などにも用いられています。スーパー二相系、ハイパー二相系スーパー・ハイパー二相系ステンレスは、より高い耐食性を持つことから、より厳しい腐食環境下で採用されます。主な用途として、海に浸漬する海洋構造物や水淡水化装置部品、様々な化学物質に曝される公害防止機器などが挙げられます。リーン二相系リーン二相系ステンレスは、オーステナイト系ステンレスのSUS304やSUS316の代替材料として主に用いられています。建材や機械の構造材、貯蔵タンクの材料としてなど、多様な用途があります。汎用二相系と同じく、オーステナイト系で応力腐食割れが懸念される箇所の代替としても用いられます。耐孔食性もSUS304よりは良好で、価格も大きな違いはないため、需要が高まっています。

  • フェライト系ステンレス鋼の基礎知識まとめ

    フェライト系ステンレスとは、主要な化学成分が鉄とクロムであるクロム系ステンレスの一種です。耐食性や耐熱性、加工性に優れた合金で、常に磁性を持つという特徴があります。オーステナイト系ステンレスと比べると、耐食性や加工性、強度が低い材料ですが、ニッケルを含まないことから安価で、オーステナイト系ステンレスの代替材料として用いられることがあります。ただし、マルテンサイト系ステンレスよりは、耐食性や耐熱性、加工性に優れています。多様な鋼種が存在し、幅広い特性を持ちます。そのため、屋内用途の家庭用品や厨房機器から、屋外用途の建築部材、厳しい腐食環境下で用いられる高耐腐食性部品まで、様々な用途に使用されています。参考:【SUS(ステンレス)種類と見分け方】用途・特徴を専門家が徹底解説!フェライト系ステンレスの組成・成分フェライト系ステンレスは、金属組織が「フェライト相」であるステンレス鋼です。フェライト相は、炭素をほとんど溶かすことができないため、軟らかく変形しやすいという特徴があります。マルテンサイト系ステンレスと同じく、クロムが主要成分である「クロム系ステンレス」に分類され、ニッケルをほぼ含有しません。代表的な鋼種のSUS430ではクロム含有率が約18%で、マルテンサイト系の代表鋼種SUS410の約13%と比べると、クロム含有率が高くなっています。ただし、鋼種によって異なり、クロム含有率が約11%と低い鋼種や約32%と高い鋼種があります。鋼種名C(%)Si(%)Mn(%)P(%)S(%)Cr(%)SUS4300.12以下0.75以下1.00以下0.040以下0.030以下16.00〜18.00フェライト系の代表鋼種SUS430の化学成分は、JIS規格(JIS G 4303:2012)によって上表のように定められています。フェライト系には、このSUS430を基準として、クロム・炭素の含有率を変えた鋼種や様々な合金元素を添加した鋼種が多数存在します。下図は、主要なフェライト系を挙げたもので、各鋼種の化学成分とSUS430に付加した性質が示されています。引用元:日本ステンレス協会例えば、SUS430LXは、加工性と溶接性を向上させるために、炭素(C)の含有量を減らして、チタン(Ti)とニオブ(Nb)を添加したものです。炭素の減少によって、軟らかくなるとともに延性が向上するため、加工性が改善します。また、炭素の減少及びチタンとニオブの添加によって、加熱後の冷却時に生じる粒界腐食が起こりにくくなるため、溶接性が向上します。参考:SUS430(ステンレス鋼)成分、磁性、加工性参考:SUS304とSUS430の意味とは? 使い分けや特徴も分かりやすく解説!フェライト系ステンレスの物理的性質と磁性鋼種名密度g/cm3比熱J(kg・K)熱膨張係数(0~100℃)10-6/K熱伝導率W/(m・K)比電気抵抗(室温)μΩ・cmヤング率MPaSUS430(フェライト系)7.704610.426.460200,000SUS304(オーステナイト系)7.935017.316.372193,000SUS410(マルテンサイト系)7.75469.924.957200,000参照元:日本ステンレス協会フェライト系ステンレス(SUS430)の物理的性質は、上表の通りです。比較のため、オーステナイト系(SUS304)とマルテンサイト系(SUS410)の物理的性質も併せて記載しています。フェライト系は、オーステナイト系に比べて、熱伝導率が高いものの熱膨張係数が低くなっています。そのため、常温から高温にわたっての寸法変化が少なく、部分的に膨張するといったことも少なくなるため、熱疲労特性に優れます。また、オーステナイト系とは異なり、常に磁性を示します。これは、結晶構造に起因しており、「体心立方構造」のフェライト系とマルテンサイト系は常磁性、「面心立方構造」のオーステナイト系は非磁性です。フェライト系ステンレスの機械的性質鋼種名耐力MPa引張強さMPa伸び%絞り%硬さHBWHRBS又はHRBWHVSUS430(フェライト系)205以上450以上22以上50以上183以下90以下200以下SUS304(オーステナイト系)205以上520以上40以上60以上187以下90以下200以下SUS410(マルテンサイト系)焼なまし状態−−−−200以下93以下210以下SUS410(マルテンサイト系)焼入焼戻し状態345以上540以上25以上55以上159以上84以上166以上フェライト系ステンレス(SUS430)の機械的性質は、JIS規格(JIS G 4303:2012)によって上表のように定められています。比較のため、オーステナイト系(SUS304)とマルテンサイト系(SUS410)の機械的性質も載せました。フェライト系は、オーステナイト系と比べて、耐力と硬さに大きな違いはありませんが、引張強さと伸び率が劣っています。それは、変形しやすく、破断までの変形量が小さいことを意味します。しかし、フェライト系は、加工硬化しにくいため、必ずしもオーステナイト系より延性に劣るわけではありません。また、フェライト系は、熱処理によって硬化することがほとんどなく、焼なまし状態で使用されることが多い素材です。そのため、焼なまし状態の機械的性質が加工後もほぼ維持されます。一方、オーステナイト系やマルテンサイト系は、加工や熱処理によって強度を高めることが可能です。つまり、フェライト系は、強度が必要だったり負荷が大きかったりする用途には向きません。フェライト系ステンレスの耐食性フェライト系ステンレスの耐食性は、鋼種によりますが、オーステナイト系よりもわずかに劣り、マルテンサイトより優れます。ステンレスの高い耐食性はクロムによって実現されていますが、クロム含有率が同等のフェライト系とオーステナイト系を比較すると、オーステナイト系がより高い耐食性を示します。しかし、クロムはフェライト相を安定化させることから、フェライト系には、クロム含有率が大きく、高い耐食性を持つ鋼種が豊富です。その中には、SUS447J1といったクロム含有率が約30%にも達するフェライト系が存在します。また、クロムには、耐酸化性(高温での酸化に耐える性質)を向上させる効果もあります。引用元:International Stainless Steel Forum (ISSF)フェライト系の中には、モリブデンを添加することで耐食性を向上させた鋼種があります。モリブデンは、表面腐食や隙間腐食のほか、孔食(表面の穴を起点に侵食していく局部腐食)に対する耐食性を高める効果があります。特に、モリブデンを約2%添加したSUS444は、上図のようにSUS316を超えるPRE(好食性指数:耐孔食性の尺度)を示します。また、PREは、塩化物環境における耐食性の指標ともなるため、SUS444などは海水に対しても強い耐性があります。下図は孔食の例です。引用元:谷津テックス株式会社そのほか、フェライト系には、以下のように、合金元素を加えたり化学成分を調整したりすることで耐食性を改善したものがあります。・チタン(Ti)…添加することで耐粒界腐食性が向上・ニオブ(Nb)…添加することで耐粒界腐食性が向上・アルミニウム(Al)…添加することで耐酸化性が向上・銅(Cu)…添加することで大気中や海水中の耐食性が向上・炭素(C)…減少させることで耐粒界腐食性が向上また、フェライト系は、ニッケルを含有しないことから、オーステナイト系の欠点である応力腐食割れがほぼ発生しないという特徴があります。応力腐食割れは、腐食性の環境下の材料に応力が作用して生じる経年損傷です。オーステナイト系では、主に塩化物環境下で応力腐食割れが発生します。下図は応力腐食割れの例です。引用元:谷津テックス株式会社参考:応力腐食割れをわかりやすく!3要素と対策方法フェライト系ステンレスの脆化・低温脆性フェライト系ステンレスは、高温及び低温環境下において脆化が起こることがあります。475℃脆化フェライト系は、数時間から数十時間にわたって400℃〜540℃程度の高温にさらされると脆化が起こります。この現象は、鉄が多い組織とクロムが多い組織に分離することで起こり、475℃で急激に進行することから「475℃脆化」と呼ばれます。475℃脆化が起こると、硬さが上昇しますが、延性・靭性は低下するために壊れやすくなり、耐食性も低下します。この脆化は、600℃以上の温度で一定時間保持し、クロムを再固溶させることで解消することが可能です。σ相脆化また、フェライト系は、550℃〜800℃程度の温度域で数百時間以上保持されることでも脆化が起こります。この脆化は、鉄とクロムの金属間化合物から構成される「σ相」が析出することで起こることから「σ相脆化」と呼ばれます。σ相は硬いものの脆いため、割れや亀裂の原因になることがあります。σ相脆化の解消には、800℃以上の温度で一定時間保持することが必要です。なお、σ相脆化は、フェライト系だけでなくオーステナイト系でも起こります。低温脆性フェライト系には、ある温度以下で衝撃抵抗が急激に低下する「延性-脆性遷移温度」が存在するため、低温で使用すると脆性破壊が起こる危険性があります。この性質は、「低温脆性」と呼ばれ、マルテンサイト系などの体心立方構造を持つ金属に共通のものです。フェライト系における低温脆性の改善には、炭素と窒素の含有率を小さくしたり、チタンとニオブを添加したりすることが有効です。なお、炭素と窒素の含有率を従来よりも低下させたフェライト系ステンレス鋼を「高純度フェライト系ステンレス鋼」と呼びます。フェライト系ステンレスの加工性フェライト系ステンレスは、オーステナイト系ほどではありませんが、通常の鉄鋼と同等程度には加工しやすい素材です。また、マルテンサイト系よりも加工性に優れます。ただし、絞り加工性については、フェライト系のほうがオーステナイト系よりも優れています。さらに、フェライト系は、オーステナイト系とは異なり、加工硬化しにくく、加工変態(オーステナイトがマルテンサイトに変化すること)も起こらないため、加工難度は低くなっています。なお、フェライト系の加工性を向上させるには、炭素・窒素含有量の低減とチタン・ニオブの添加が有効です。被削性については、SUS430Fのように硫黄を添加することで向上します。溶接性については、加熱することによる475℃脆化の発生、熱影響部における結晶粒の粗大化に注意する必要があります。475℃脆化は、延性・靭性・耐食性の低下に繋がりますが、溶接後の冷却速度を上げることで回避することが可能です。一方、結晶粒の粗大化は、熱影響部の延性・靭性を著しく低下させます。延性の低下は、700℃~750℃の熱処理によって解消できますが、靭性については回復しません。結晶粒の粗大化には、チタンやジルコニウムの添加が有効です。また、フェライト系では、オーステナイト系の溶接時に起こる粒界腐食は起こりにくくなっています。フェライト系の耐粒界腐食性は、炭素含有量の低減、チタンとニオブの添加によって、さらに向上させることが可能です。フェライト系ステンレスの主な用途フェライト系ステンレスは、鋼種によって大きく特性が異なることから、鋼種によって用途も違ってきます。そのため、フェライト系を以下のように5つのグループに分類して、用途を挙げていきます。クロム含有量が10%〜14%SUS405・SUS409・SUS410L等を含むグループで、クロム含有率が少なく、最も低価格なものです。このグループは、耐食性が低いことから、多少のサビは許容される用途に用いられています。コンテナやバス、乗用車の腐食しにくい部品などに使用されています。クロム含有量が14%〜18%SUS430に対応するグループで、フェライト系で最も広く使用されています。SUS304よりも安価であることから、一部のSUS304の代替材料として用いられることが多くなっています。屋内パネルや家庭用品、洗濯機のドラム、鍋釜類などの屋内用途で主に使用されています。クロム含有量が14%〜18%でTiやNb等の安定化元素を含むSUS430LX・SUS430F等が含まれるグループで、安定化元素を添加することで加工性や溶接性を向上させています。多くの鋼種でSUS304に近い特性を示し、流し台や排ガス装置、洗濯機の溶接部分などに用いられています。クロム含有量が18%以上でMoを含むSUS434・SUS436・SUS444等を含むグループで、モリブデンを含むことから高い耐食性を示します。主な用途には、屋外パネルや各種タンク、電子レンジ部品などが挙げられます。クロム含有量が18%〜30%SUS445・SUSXM27・SUS447等が含まれるグループで、クロム含有量を増やしモリブデンなどを添加したものです。フェライト系の中では、最も耐食性が高いグループとなっています。海水中など、厳しい腐食環境下で主に用いられており、薬品に触れる化学プラントなどの用途が挙げられます。

  • マルテンサイト系ステンレス鋼の基礎知識まとめ

    マルテンサイト系ステンレス鋼とは、13%のクロムを含むSUS403・SUS410を代表とした、常温でマルテンサイトの組織を持つステンレス鋼です。マルテンサイト系ステンレス鋼は、フェライト系とオーステナイト系には劣りますが、耐食性を持ちます。炭素を多く含んでいるため、焼入れにより硬化させることも可能です。また、大気中で加熱した場合の耐酸化性にも優れ、500℃程度までの温度下でも強度があまり低下しないため、耐熱性も良好です。なお、マルテンサイト系ステンレス鋼は全ての材料で磁性を持ちます。材料の形状は、棒鋼・平鋼で使われることがほとんどです。参考:【SUS(ステンレス)種類と見分け方】用途・特徴を専門家が徹底解説!マルテンサイト系ステンレスの組成・成分表:各マルテンサイト系ステンレス鋼(品種)における組成と特性SUS410SUS403SUS410S 耐食性・加工性SUS410F2 被削性SUS416 被削性SUS420J1 焼入硬化SUS420J2 焼入硬化SUS440A 焼入硬化SUS440B 焼入硬化SUS440C 焼入硬化SUS440F 被削性SUS420F 被削性SUS420F2 被削性SUS431 耐食性・靭性マルテンサイト系ステンレス鋼は炭素の含有量が多く、焼入れによって高い強度を得られ、焼戻しにより耐摩耗性や靭性を得ることができます。ただし不働態皮膜を形成するのに必要なクロムの含有量は少ないため、他のステンレス鋼よりも耐食性には劣ります。また、オーステナイト系ステンレス鋼に比べて、高価な材料であるニッケルの含有量が少なく、値段も比較的安価です。参考:錆びにくい金属について解説【錆びない金属はありません】参考:オーステナイト系ステンレス鋼の基礎知識まとめマルテンサイト系ステンレスの物理的性質と磁性<マルテンサイト系ステンレスの物理的性質>種類の記号ヤング率kN/mm2密度g/cm3比熱J/g・℃熱伝導率W/m・℃比電気抵抗Ωm(10-8)平均熱膨張係数10-6/℃室温室温0-100℃100℃500℃室温650℃0-100℃0-316℃0-538℃0-649℃0-816℃SUS403SUS4102007.750.4624.925.7571099.910.111.511.7-引用元:ステンレス協会(元データはステンレス鋼データブック「家電編」他)上表は、ステンレス協会の公式サイトに記述されているデータの一部を抜粋したものです。マルテンサイト系ステンレス鋼の物理的性質は、概ねフェライト系ステンレス鋼と近い数値で、オーステナイト系と比べると密度・比熱・比電気抵抗・熱膨張係数は小さい数値を表しています。また、オーステナイト系ステンレス鋼と違い、磁性を持つのも特徴です。参考:フェライト系ステンレス鋼の基礎知識まとめマルテンサイト系ステンレスの機械的性質<マルテンサイト系ステンレスの焼入焼戻し状態の機械的性質>種類の記号耐力Mpa(N/mm2)引張強さMpa(N/mm2)伸び絞り硬さHBWHRBS又はHRBWHRCHVSUS403390以上590以上25以上55以上170以上87以上-178以上SUS410345以上540以上25以上55以上159以上84以上-166以上SUS410J1490以上690以上20以上60以上192以上92以上-200以上SUS410F2345以上540以上18以上50以上159以上84以上-166以上SUS416345以上540以上17以上45以上159以上84以上-166以上SUS420J1440以上640以上20以上50以上192以上92以上-200以上SUS420J2540以上740以上12以上40以上217以上95以上-220以上SUS420F540以上740以上8以上35以上217以上95以上-220以上SUS420F2540以上740以上5以上35以上217以上95以上-220以上SUS431590以上780以上15以上40以上229以上98以上-241以上SUS440A------54以上577以上SUS440B------56以上613以上SUS440C------58以上653以上SUS440F------58以上653以上引用元:JIS G 4303:2012上表は【JIS G 4303:2012 ステンレス鋼棒】に記述されている、マルテンサイト系ステンレス鋼(焼入焼戻し状態)の機械的性質を抜粋したものです。マルテンサイト系ステンレス鋼は、焼入れを施すことで高い強度が得られます。焼入れした後は最も高い強度が得られますが、そのままでは脆い状態です。そのため、基本的に焼入れもセットで行い、靭性を与えて使用されています。マルテンサイト系ステンレスと応力腐食割れ・耐食性・錆応力腐食割れは、ステンレス鋼の内、オーステナイト系において起こりやすいものとされていますが、マルテンサイト系でも起こるトラブルです。応力腐食割れを避けたい場合、高温焼戻しをすることで鋭敏化を避け、応力腐食割れを防止できます。マルテンサイト系ステンレス鋼は、フェライト系とオーステナイト系よりも耐食性は劣るものの、室内等の腐食が強くない環境であれば充分な耐食性を持ちます。しかし、酸環境や塩水環境のような場所では錆びが発生しやすいため、使用場所には注意が必要です。参考:応力腐食割れをわかりやすく!3要素と対策方法マルテンサイト系ステンレスと加工熱処理マルテンサイト系ステンレス鋼は、焼入れ処理だけでは脆いため、焼戻しを行うことで耐摩耗性や靭性を付与します。マルテンサイト系ステンレス鋼の焼入れは、全体的にマルテンサイト組織には変態せず、ある程度のオーステナイトが残留(残留オーステナイト)する点に注意が必要です。残留オーステナイトは室温でもマルテンサイト変態し、体積が膨張することで歪みや割れを発生させることがあります。また、残留オーステナイトはマルテンサイトよりも柔らかい分、残留オーステナイトが多いと求める硬さが出せません。これを防ぐためには、焼戻しやサブゼロ処理を行います。サブゼロ処理は、焼入れ直後に0℃以下に冷却することで、刃物のような耐摩耗性を必要とするものに対して行われることが多い処理方法です。マルテンサイト系ステンレス鋼の焼戻しは、150~200℃程度で保持して空冷する低温焼戻しと、600~750℃程度で保持して急冷する高温焼戻しがあります。低温焼戻しは耐摩耗性を付与する場合に、高温焼戻しは靭性を付与する場合に行われます。また、焼戻しには「475℃脆化」と呼ばれる、475℃付近で急速に延性や靭性が低下する現象が起きる場合があるので、475℃付近での焼戻しは避ける必要があります。参考:ステンレスの焼き入れについて専門家が紹介!溶接マルテンサイト系ステンレス鋼は、拡散性水素による低温割れや遅れ割れが発生する場合があります。低温割れとは、200~300℃以下で発生する割れのことです。遅れ割れは、低温割れのなかでも溶接後に多くの時間経過後に起こるもののことを指します。低温割れを防止するには、予熱により母材の温度を200~400℃程度に上げることで、材料の冷却速度を遅くするのが有効です。遅れ割れは、電極・溶加材・母材に大気中の水分が取り込まれないよう、乾燥した環境下で溶接したり、溶接機材や材料を乾燥・清浄化したりするのが有効です。参考:ステンレス溶接の種類や溶接方法を銅種別に徹底解説!塑性加工マルテンサイト系ステンレス鋼の塑性加工・切削加工を行う場合は、800~900℃からの徐冷による焼なましを行います。これは、焼なましを行わないと材料が硬く、加工がしにくいためです。より成形性を求める場合はSUS410Sを、被削性を求める場合は、SUS416・SUS410F2・SUS440F・SUS420F・SUS420F2を採用することで、それぞれの特性を向上できます。参考:ステンレス板の曲げ加工について加工事例と共に徹底解説!マルテンサイト系ステンレスの主な用途マルテンサイト系ステンレス鋼は、他の種類に比べて安価かつ、強度・耐食性・耐熱性に優れているのが特徴です。主な用途としては、これらの特徴を必要とする機械構造用部品(シャフト・ボルト・バルブシートなど)やプラスチック射出成用の金型などに採用されています。また、SUS440系はクロムと炭素の含有量が多く、ステンレス鋼のなかでも最も硬い材料であることから、刃物・外科用器具・ベアリングなどに用いられます。

  • オーステナイト系ステンレス鋼の基礎知識まとめ

    オーステナイト系ステンレス鋼とは、18%のクロムと8%のニッケルを含むSUS304を代表とした、常温でもオーステナイトの組織がフェライトに変化することがないステンレス鋼です。オーステナイト系ステンレス鋼は、耐食性・延性・靭性に優れているほか、冷間加工性や溶接性も良好です。基本的に磁性を持ちませんが、塑性加工を行ったときに磁性を持つ場合があります。オーステナイト系ステンレス鋼はこれらの特徴により、家庭用品・建築用・自動車部品などの幅広い用途で使用されています。製品の形状としては薄板が最も多くありますが、そのほかにも厚板・棒・管・線・鋳物などと多岐に渡ります。生産量は全ステンレス鋼のうち6割以上を占めるほどで、私たちの身の回りでもよく見かける材料です。参考:【SUS(ステンレス)種類と見分け方】用途・特徴を専門家が徹底解説!オーステナイト系ステンレスの組成・成分表:各オーステナイト系ステンレス鋼(品種)における組成と特性SUS304SUS301 加工硬化性SUS301L 耐粒界腐食性SUS301J1 耐食性SUS302 高強度SUS302B 耐熱性SUSXM15J1耐熱性SUS303 被削性SUS303Cu 被削性SUS304L 耐粒界腐食性SUS304LN 強度SUS304N1 強度SUS304N2 強度SUS304Cu 深絞性SUSXM7 深絞性SUS304J1 深絞性SUS304J2 深絞性SUS305 低加工硬化性SUS305J1 低加工硬化性SUS309S 耐熱性、耐酸化性SUS310S 耐熱性、耐酸化性SUS315J1 耐応腐食割れ性SUS315J2 耐応力腐食割れ性SUS316 耐食性SUS316L 耐粒界腐食性SUS316N 高強度SUS316LN耐粒界腐食性SUS316J1 耐酸性SUS316J1L耐粒界腐食性SUS317 耐食性SUS317J1耐食性SUS317L耐粒界腐食性SUS312L 耐食性SUS836L 耐食性SUS890L 耐食性SUS321 耐粒界腐食性SUS347 耐粒界腐食性オーステナイト系ステンレス鋼は、上図のように18クロム(Cr)-8ニッケル(Ni)のSUS304を代表としたさまざまな種類があります。これらは用途に合わせて、添加物の量を変えたり別途追加したりすることで特性を付与しています。例えば、SUS304Lは炭素(C)を0.03%以下に抑えていることで、粒界腐食を防止できるようになります。また、SUS316はモリブデン(Mo)を追加し、SUS304よりも耐食性を向上しています。参考:SUS304L(ステンレス鋼)成分、比重、切削性、機械的性質参考:SUS316(ステンレス鋼)成分、硬さ、ヤング率オーステナイト系ステンレスの物理的性質と磁性<オーステナイト系ステンレスの物理的性質>種類の記号ヤング率kN/mm2密度g/cm3比熱J/g・℃熱伝導率W/m・℃比電気抵抗Ωm(10-8)平均熱膨張係数10-6/℃室温室温0-100℃100℃500℃室温650℃0-100℃0-316℃0-538℃0-649℃0-816℃SUS304SUS304L1937.930.5016.321.57211617.317.818.418.7-SUS310S2007.980.5016.3-79-14.416.416.917.5-SUS3161937.980.5016.321.57411616.016.217.518.520.0引用元:ステンレス協会(元データはステンレス鋼データブック「家電編」他)上表は、ステンレス協会の公式サイトに記述されているデータの一部を抜粋したものです。オーステナイト系に限らず、ステンレス鋼は炭素鋼やアルミニウムなどに比べて熱伝導率に劣り、比電気抵抗の数値が高い特徴があります。また、マルテンサイト系やフェライト系は強い磁性を持つのに対し、オーステナイト系は磁性を持ちません。ただし、オーステナイト系ステンレス鋼を加工すると、加工箇所がマルテンサイトに変態し、磁性を持つことがあります。参考:SUS310S(ステンレス鋼)加工性、用途、機械的性質オーステナイト系ステンレスの機械的性質<オーステナイト系ステンレスの固溶化熱処理状態の機械的性質>種類の記号耐力Mpa(N/mm2)引張強さMpa(N/mm2)伸び絞り硬さHBWHRBS又はHRBWHVSUS304205以上520以上40以上60以上187以下90以下200以下SUS304L175以上480以上40以上60以上187以下90以下200以下SUS310S205以上520以上40以上50以上187以下90以下200以下SUS312L300以上650以上35以上40以上223以下96以下230以下SUS316205以上520以上40以上60以上187以下90以下200以下引用元:JIS G 4303:2012上表は【JIS G 4303:2012 ステンレス鋼棒】に記述されている、代表的なオーステナイト系ステンレス鋼(固溶化熱処理状態)の機械的性質を抜粋したものです。オーステナイト系ステンレス鋼は、炭素鋼やフェライト系ステンレス鋼よりも引張強さや伸びの数値が高く、加工による硬化が大きい特徴があります。そのほかにも、引張強さの数値は高いものの、耐力(降伏点)の数値が低いことから、曲げ成形や張り出し成形性に優れています。また、高温や低温環境下でも強度を保てるのがオーステナイト系ステンレス鋼のメリットです。上表を見ても分かるように、オーステナイト系ステンレス鋼はSUS312Lなどの一部を除き、材質ごとの数値にあまり大きな違いはありません。耐力はおよそ175~275Mpa、引張強さはおよそ480~550Mpa程度の値になります。参考:SUS312L(ステンレス鋼)成分、機械的性質オーステナイト系ステンレスと加工硬化・焼入れオーステナイト系ステンレス鋼は、焼入れによって引張強さや硬さを向上できる材料ではありません。強度を得るためには、塑性加工を施すと加工硬化する現象を利用し、圧延加工や伸線加工を施します。加工硬化する原因は、塑性加工によってオーステナイトがマルテンサイトに変態するためです。この変態したマルテンサイトを「加工誘起マルテンサイト」と呼びます。加工誘起マルテンサイトは、耐食性が低下するほか、磁性を持つ要因にもなります。参考:加工硬化とはどんな現象?仕組み・影響・扱い方をご紹介!参考:ステンレスの焼き入れについて専門家が紹介!オーステナイト系ステンレスと応力腐食割れ・耐食性オーステナイト系ステンレス鋼は応力腐食割れが発生しやすい傾向にあります。応力腐食割れとは、腐食環境下において金属材料に引張応力が作用し、材料に割れが生じることです。ステンレス鋼以外にも、炭素鋼や黄銅にも発生します。オーステナイト系ステンレス鋼は、溶接や熱処理の過程など、およそ550~900℃に加熱するとクロム炭化物が析出し、耐食性が低下します。この現象は「鋭敏化」と呼ばれるもので、応力腐食割れを起こす要因にもなります。応力腐食割れの対策として、SUS403などのフェライト系ステンレス鋼を使用する、オーステナイト系を使用するのであれば、SUS304Lなどの極低炭素鋼を使用するなどの方法があります。また、残留応力を除去するための熱処理を行うことでも防ぐことができます。参考:応力腐食割れをわかりやすく!3要素と対策方法オーステナイト系ステンレスと加工熱処理オーステナイト系ステンレス鋼で硬さや強度を得たい場合、圧延加工や伸線加工を行います。しかし、これらの加工は、オーステナイトからマルテンサイトに変態させているため、磁性を持つようになり、応力腐食割れのリスクも伴います。オーステナイト系ステンレス鋼の応力腐食割れの対策には、使用する材料を変更する以外に、応力除去焼なましや、固溶化熱処理が有効です。応力除去焼なましは、800~900℃程度まで加熱・急冷することで残留応力を除去できます。固溶化熱処理は、1000~1100℃程度まで加熱し、急冷する熱処理のことで、残留応力の除去に限らず、クロム炭化物を固溶させて鋭敏化を防止し、耐食性が向上します。しかし、固溶化熱処理後は材料が軟らかくなります。オーステナイト系ステンレス鋼のほとんどが、応力腐食割れ対策のみでなく、耐食性を低下させないために固溶化熱処理を施しています。参考:ステンレスの焼き入れについて専門家が紹介!溶接オーステナイト系ステンレス鋼は、マルテンサイトやフェライト系に比べて溶接しやすい材料です。難度としては鉄鋼と同程度になりますが、鋭敏化・応力腐食割れなどの対策を必要とします。これらの対策として、鋭敏化する温度域に至らないように溶接時の入熱量を抑制する、母材の炭素量を低減するなどが有効です。また、使用する材料を、炭素の含有量が0.03%以下の極低炭素鋼に変えることや、フェライト系のステンレス鋼を採用することで予防できます。仮にオーステナイト系ステンレス鋼に鋭敏化が発生した場合は、固溶化熱処理も有効です。その他に、高温割れ(凝固割れ)にも注意しなければなりません。高温割れは、不純物として存在するリンや硫黄などの低融点物質が凝固し、結晶粒界に析出して割れを引き起こす現象を指します。高温割れを防止するには、不純物の低減や、リンや硫黄が固溶しやすいフェライトを含む溶加材を用いる方法があります。また、オーステナイト系ステンレス鋼は、線膨張係数が高いため、溶接の熱で変形しやすい点にも注意が必要です。そのため、入熱量を抑制する、入熱が集中しない溶接継手とする、変形方向と逆向きの変形を施す、治具で拘束するなどの対策も必要となります。参考:ステンレス溶接の種類や溶接方法を銅種別に徹底解説!切削加工オーステナイト系ステンレス鋼は加工硬化を起こしやすく、切削性に乏しい材料です。ワークを切削加工すると、オーステナイトの組織がマルテンサイトに変化し、加工部分が硬化します。これにより、刃物の摩耗が激しかったり、破損したりするなどのトラブルを招く恐れがあります。また、ステンレス鋼は鉄などに比べて熱伝導率も低いため、切削時の刃物に熱が溜まりやすいです。そのため、刃物に対して切粉が溶着したり、欠けが生じたりすることも多くあります。以上のことから、オーステナイト系ステンレス鋼の切削加工を行う場合は、SUS303のような快削ステンレス鋼と呼ばれる材料を検討するのがおすすめです。参考:SUS303(ステンレス鋼)規格、成分、機械的性質塑性加工オーステナイト系ステンレス鋼は加工硬化性を持つほか、他のステンレス鋼と比べると伸びに優れている材料です。そのため、プレス加工の張り出し成形や曲げ成形に適しています。用途によっては、オーステナイト系ステンレス鋼を冷間圧延して加工硬化を起こし、高強度かつ薄板で軽量化を図る場合もあります。しかし曲げ加工においては、プレスしても材料の形状が元に戻ろうとする「スプリングバック」が発生することがあるため、曲げ加工の際は注意が必要です。参考:ステンレス板の曲げ加工について加工事例と共に徹底解説!オーステナイト系ステンレスの主な用途オーステナイト系ステンレス鋼は、家庭用品・建築用・自動車部品・化学工業・食品工業・合成繊維工業・原子力発電・LNGプラントなどの幅広い用途で用いられています。どの分野においてもSUS304を用いることが多くありますが、加工硬化を避けたい場合はSUS305を、耐孔食性が必要な場合はSUS316を使うといったように、用途によって鋼種を使い分けるのがおすすめです。オーステナイト系ステンレス鋼は、低温や高温環境でも強度の低下が少なく、溶接や塑性加工がしやすいなどのメリットがあるため、汎用性に優れています。基本的に磁性を持たないので、他の金属と分別し、スクラップとして回収するのも比較的簡単です。ステンレス鋼の製造には、ステンレス鋼のスクラップを多く利用できることから、オーステナイト系ステンレス鋼はリサイクル率が高い材料とも言えます。

  • 析出硬化系ステンレス鋼の基礎知識まとめ

    析出硬化系ステンレス鋼とは、金属間化合物の析出を利用して、高い強度を得ることを目的としたステンレス鋼です。代表的な鋼種にSUS630(17Cr- 4Ni-4Cu-Nb)と SUS631(17Cr-7Ni-1Al)があり、両鋼種ともJISによって規定されています。また、これらの鋼種は、クロム(Cr)の含有量とニッケル(Ni)の含有量から、SUS630は17-4PH、SUS631は17-7PHと呼ばれることもあります。なお、PHとは、precipitation hardening(析出硬化)の頭文字を示しています。析出硬化系ステンレスの組織と熱処理析出硬化系ステンレス鋼では、固溶化熱処理後に析出硬化(時効硬化)処理を行うことで、金属間化合物を析出させ、強度を高めています。固溶化熱処理で過飽和に固溶した析出硬化元素を、時効硬化によって第2相を微細分散析出させるという仕組みです。材質によって成分組成が異なるため、析出する金属間化合物や析出のメカニズムが異なります。また、析出硬化系ステンレス鋼では、焼入れ鋼と比べて、より低温で熱処理を行うため、焼入れによって生じやすい変形、歪み、寸法変化、焼き割れ、残留オーステナイトに起因する経年変化などが起こりにくいという特徴を持ちます。参考:ステンレスの焼き入れについて専門家が紹介!SUS630の熱処理SUS630(17Cr- 4Ni-4Cu-Nb)では、銅(Cu)の添加により析出硬化性を付与することで、Cu-過剰相を析出させます。熱処理としては、固溶化熱処理(S:Solution treatment)後に、規定された次の4段階(H900、H1025、H1075、H1150)の析出硬化処理(H:Hardening)を施します。JISにおいて、SUS630の熱処理条件は次のように定められています。<SUS630の熱処理条件>種類の記号熱処理SUS630種類記号条件固溶化熱処理S1020~1060℃ 急冷析出硬化処理H900470~490℃空冷H1025540~560℃空冷H1075570~590℃空冷H1150610~630℃空冷*注:SUS630については、固溶化熱処理及び析出硬化処理以外の熱処理を受渡当事者間で協定されることがある。引用元:JIS G4305:冷間圧延ステンレス鋼板及び鋼帯固溶化熱処理では、1020~1060℃から急冷させ、マルテンサイトの金属組織が得られます。この後、目的とする硬度に応じて、析出硬化処理を行います。析出硬化処理は、華氏による処理温度によって定められています。例えば、H900では析出硬化処理温度が華氏900度(482℃)で、JIS上では470~490℃で析出硬化処理を行うよう定義されています。下図に示した通り、析出硬化処理温度が高くなるほど、硬度が下がり軟化します。<時効硬化熱処理温度と硬度の関係>引用元:株式会社シリコロイラボSUS630において、固溶化熱処理後、析出硬化処理(H900)後、それぞれの顕微鏡組織(200倍)を下図に示します。<SUS630顕微鏡組織>引用元:株式会社シリコロイラボ参考:SUS630(ステンレス鋼)磁性、成分、切削性、機械的性質参考:15-5PH(ステンレス鋼)化学成分、磁性、機械的性質SUS631の熱処理SUS631(17Cr-7Ni-1Al)では、Alの添加により析出硬化性を付与することで、Ni-Al 金属間化合物相を析出させます。熱処理では、まず固溶化処理(S処理)において1000~1100℃から急冷し、準安定オーステナイト組織が得られます。不安定なオーステナイトから安定なマルテンサイトに変態させるための熱処理(マルテン化処理)である、T処理(中間熱処理)あるいはR処理(サブゼロ処理)を行った後、析出硬化処理(H処理)を行います。JISにおいて、SUS631の熱処理条件は次のように定められています。<SUS631の熱処理条件>種類の記号熱処理SUS631種類記号条件固溶化熱処理S1000~1100℃ 急冷析出硬化処理RH950955±10°Cに10分保持、室温まで空冷、24時間以内に-73±6°Cに8時間保持、510±10°Cに60分保持後、空冷TH1050760±15°Cに90分保持、1時間以内に15°C以 下に冷却、30分保持、565±10°Cに90分保持後、空冷引用元:JIS G4305:冷間圧延ステンレス鋼板及び鋼帯SUS631においても、析出硬化処理温度に応じて熱処理記号が定められており、RH950とTH1050の2種類が存在します。RH950では、S処理→R処理(955±10°Cに10分保持、室温まで空冷、24時間以内に-73±6°Cに8時間保持)→H処理(510±10°Cに60分保持後、空冷)を行います。TH1050では、S処理→T処理(760±15°Cに90分保持、1時間以内に15°C以 下に冷却、30分保持)→H処理(565±10°Cに90分保持後、空冷)を行います。析出硬化系ステンレスの特徴機械的性質<析出硬化系ステンレス鋼の機械的性質>種類の記号熱処理記号耐力N/mm2引張強さN/mm2伸び%硬さHBWHRCHRBS又はHRBWHVSUS630S---363以下38以下--H9001175以上1310以上厚さ5.0mm以下5以上375以上---厚さ5.0mmを超え15.0mm以下8以上厚さ15.0mmを超えるもの10以上H10251000以上1070以上厚さ5.0mm以下5以上331以上---厚さ5.0mmを超え15.0mm以下8以上厚さ15.0mmを超えるもの12以上H1075860以上1000以上厚さ5.0mm以下5以上302以上31以上--厚さ5.0mmを超え15.0mm以下9以上厚さ15.0mmを超えるもの13以上H1150725以上930以上厚さ5.0mm以下8以上277以上28以上--厚さ5.0mmを超え15.0mm以下10以上厚さ15.0mmを超えるもの16以上SUS631S380以下1030以下20以上192以下-92以下200以下RH9501030以上1230以上厚さ3.0mm以下--40以上-392以上厚さ3.0mmを超えるもの4以上TH1050960以上1140以上厚さ3.0mm以下3以上-35以上-345以上厚さ3.0mmを超えるもの5以上引用元:JIS G4305:冷間圧延ステンレス鋼板及び鋼帯SUS630及びSUS631の機械的性質を上表に示しました。析出硬化系ステンレス鋼の硬度については、熱処理(焼入・焼もどし)によって高硬度を得ているマルテンサイト系ステンレス鋼とほぼ同等の値を示します。SUS630の強度については、オーステナイト系ステンレス鋼の代表的な鋼種であるSUS304と比べると、2倍以上の値を示します。SUS631については、SUS301をベースにAlを添加し、析出硬化によって弾性限を高めた鋼であるため、優れたバネ特性を有しています。物理的性質と磁性<析出硬化系ステンレス鋼の物理的性質>種類の記号 密度kg/m3縦弾性係数GPa比電気抵抗(常温)μΩ・cm比熱(0〜100℃)KJ/kg・K熱伝導度(100℃)W/m・K熱膨張係数(0〜100℃)X10-6磁性SUS6307750196800.4618.310.8強磁性SUS6317750204830.4616.415.0強磁性引用元:愛知製鋼株式会社SUS630及びSUS631の物理的性質を上表に示しました。析出硬化系ステンレス鋼の磁性について、固溶化熱処理状態では非磁性ですが、析出硬化処理後は強い磁性を示します。そのため、磁性を嫌う機器などで使用する場合には注意が必要です。耐食性各種ステンレス鋼の耐食性は、次のようになっています。オーステナイト系>析出硬化系>フェライト系、マルテンサイト系析出硬化系ステンレス鋼は、焼入れによって硬化ができないオーステナイト系ステンレス鋼をベースに、熱処理によって高強度化できるよう改良された鋼種です。そのため、オーステナイト系ステンレス鋼同様、Cr-Ni(クロムニッケル)系の組成を持っており、耐食性はオーステナイト系ステンレス鋼には及ばないものの、クロム系のフェライト系ステンレス鋼よりは優れています。また、下図に示したように、一般的に材質の硬度と耐食性は反比例の関係を示します。前述した通り、析出硬化系ステンレス鋼(SUS630)の耐食性は、オーステナイト系ステンレス鋼(SUS304L、SUS316L)よりは劣るものの、マルテンサイト系ステンレス鋼(SUS420J2)やフェライト系ステンレス鋼と比べると優れており、硬度と耐食性のバランスが良好な鋼種です。<硬度と耐食性(孔食電位)の関係>引用元:株式会社シリコロイラボ析出硬化系ステンレスの主な用途析出硬化系ステンレス鋼は、その優れた強度・耐食性を活かして、自動車や航空機、電子機器などの分野で広く利用されています。用途としては、シャフト、タービン部品、スチールベルトなどが挙げられます。また、弾性にも優れることから、バネ材、スプリングワッシャーなどにも利用されています。

  • SUS329J1(ステンレス鋼)化学成分、磁性、機械的性質

    SUS329J1は、オーステナイト相とフェライト相の両方の組織を持つ、二相系のステンレス鋼です。二相系ステンレス鋼は、JIS規格では「オーステナイト・フェライト系」と記述されているステンレス鋼に該当します。SUS329J1は、SUS304のようなオーステナイト系ステンレス鋼と比べて、クロム(Cr)の含有量が多く、ニッケル(Ni)の含有量が少なめです。クロムの含有量が多いため、比較的に耐食性に優れているほか、レアメタルであるニッケルが少ないことから、価格高騰の影響を受けにくい特徴があります。参考:【SUS(ステンレス)種類と見分け方】用途・特徴を専門家が徹底解説!SUS329J1の特性、磁性SUS329J1は、優れた耐食性(耐孔食性と耐応力腐食割れ性)を持つのが特徴です。オーステナイト系に加えてフェライト系の組織を持つため、磁性があります。SUS329J1は、耐孔食性に強いステンレス鋼であるため、孔食のリスクを軽減できます。この特性により、工業用水や海水を扱う部品や機器などに多く採用されています。参考:応力腐食割れをわかりやすく!3要素と対策方法孔食とは、孔が開いたかのように、深い箇所まで腐食することをいいます。孔食の原因は、サビを防ぐための不働態皮膜が、塩素イオンなどの作用により局部的に破壊されてしまうためです。一般的にステンレス鋼が形成する不働態皮膜は、傷がついても再び形成されますが、孔食は連続的に発生し、深くまで腐食してしまいます。また、SUS329J1は、強度にも優れたステンレス鋼です。オーステナイト系ステンレス鋼の代表であるSUS304に比べて、2倍近い耐力があり、引張強度もやや高めです。SUS329J1は、耐食性と強度に優れているだけでなく、高価な材料であるニッケルの含有量も少ないため、価格高騰の影響を受けにくい材料です。加えて、強度で肉厚が決まる構造体の場合は、肉厚を薄くできる分、材料のコストを削減できます。SUS329J1の用途SUS329J1は、工業用水や海水に強い材料であることから、主に海水用ポンプシャフト・水門・排煙脱硫装置などの用途として使われています。SUS329J1の化学成分<SUS329J1の化学成分(単位:%)>種類の記号CSiMnPSNiCrMoNSUS329J10.08以下1.00以下1.50以下0.040以下0.030以下3.00~6.0023.00~28.001.00~3.00-※この表に規定されていないCu、W及びNのうち一つ又は複数の元素を必要によって添加した場合、その含有率を報告しなければならない。引用元:JIS G 4303:2012上表は、JIS規格の【ステンレス鋼棒 JIS G 4303】から抜粋したものです。SUS329J1は、SUS304と比べてクロム(Cr)の含有量が多く、モリブデン(Mo)も含有していることから、不働態皮膜を形成しやすい特徴があります。SUS329J1の機械的性質<SUS329J1の固溶化熱処理状態の機械的性質>種類の記号耐力MPa(N/mm2)引張強さMPa(N/mm2)伸び絞り硬さHBWHRCHVSUS329J1390以上590以上18以上40以上277以下29以下292以下引用元:JIS G 4303:2012SUS329J1は、強度にも優れたステンレス鋼です。SUS304の耐力は205MPa以上、引張強さは520MPa以上であるのに対し、SUS329J1の耐力は390MPa以上、引張強さは590MPa以上と高い数値を示しています。伸びに関してはフェライト系ステンレス鋼と同等の数値になりますが、靭性や溶接性はフェライト系よりも優れている特徴があります。

  • 15-5PH(ステンレス鋼)化学成分、磁性、機械的性質

    15-5PHとは、析出硬化系ステンレス鋼の一種で、強度と耐食性に非常に優れているステンレス鋼です。その優れた特性を活かして、航空機や自動車、化学プラントなどの部品として広く利用されています。15-5PHの特性、磁性15-5PHは、析出硬化系ステンレス鋼に分類され、高強度、高硬度で、さらに優れた耐食性を持つステンレス鋼です。析出硬化系ステンレス鋼とは、金属間化合物の析出により、高い強度を得ることを目的としたステンレス鋼で、代表的な鋼種にSUS630があります。15-5PHは、SUS630のδ-フェライトをなくして、機械的特性を改善した鋼種です。また、15-5PHはSUS630同様、磁性を持つステンレス鋼です。そのため、磁性を嫌う環境においては、トラブルの原因につながる可能性もあるため、注意が必要です。15-5PHはJIS規格外の析出硬化系ステンレス鋼ですが、航空宇宙材料規格:AMS5659として管理され、ASTMA564 XM-12という呼称も使用されています。参考:SUS630(ステンレス鋼)磁性、成分、切削性、機械的性質15-5PHの用途15-5PHは、その優れた強度及び耐食性を活かして、シャフト類、タービン類、自動車部品、航空機部品、ポンプおよびバルブ部品、圧力容器用部材など、さまざまな用途で使用されています。15-5PHの化学成分<15-5PHの成分、組成(単位:%)>材料記号CSiMnPSNiCrMoCuNその他15-5PH0.07以下1.00以下1.00以下0.040以下0.030以下3.50~5.5014.00~15.50-2.50~4.50-Nb0.15~0.45SUS6300.07以下1.00以下1.00以下0.040以下0.030以下3.00~5.0015.00~17.50-3.00~5.00-Nb0.15~0.4515-5PHの化学成分を上表に示しました。比較のため、SUS630の化学成分も記載しています。15-5PHという名前は、クロム(Cr)含有量が約15%、ニッケル(Ni)含有量が約5%という成分含有量に由来しています。また、SUS630は、クロム含有量が約17%、ニッケル含有量が約4%であることから、17-4PHとも呼ばれています。なお、PHとは、precipitation hardening(析出硬化)の頭文字を示しています。析出硬化系ステンレスでは、冷間圧延後析出硬化熱処理を行うことで、マルテンサイト地に微細な金属間化合物を析出させます。15-5PH及びSUS630では、銅(Cu)、ニオブ(Nb)が含まれており、析出硬化処理によりCu-rich 相及び NbC を析出させ、材料を硬化させています。15-5PHの機械的性質(耐力、引張強さ、伸び、硬さ)<15-5PHの機械的性質>材料記号熱処理記号耐力MPa引張強さMPa伸び(%)硬さHBWHRC15-5PHH9001170以上1310以上6以上388以上40以上H9251070以上1170以上7以上375以上38以上H10251000以上1070以上8以上331以上38以上H1075860以上1000以上8以上311以上32以上SUS630H9001175以上1320以上10以上388以上40以上H9251070以上1170以上10以上375以上38以上H10251000以上1070以上12以上331以上35以上H1075725以上930以上16以上277以上28以上15-5PHの機械的性質を上表に示しました。比較のため、SUS630の機械的性質も記載しています。15-5PH及びSUS630には、析出硬化熱処理条件の違いによって、H900・H1025・H1075・H1150などのグレードが存在します。参考:ステンレスの焼き入れについて専門家が紹介!15-5PHは、耐力、引張強さ、伸び、硬さにおいてSUS630とほぼ同等の性質を持つことがわかります。また、オーステナイト系ステンレス鋼の代表的な鋼種であるSUS304と比べると、2倍以上の引張強さを示します。15-5PHは、SUS630と比較して、横方向の延性に強いという性質も有しています。そのため、部品などに横方向の応力が見込まれる場合には、15-5PHの使用を検討することが勧められます。その他にも、15-5PHは、熱による変形が少ないという特徴も持ちます。15-5PHの加工性15-5PHは、析出硬化熱処理をする前のS材と処理後のH材があり、切削性は異なります。粗削りなど、加工量が多い場合には、S材から加工することがお勧めされます。15-5PHは、SUS304と比べて、切削抵抗が低く、粘りも少ないため、SUS304と同じ条件ならば、工具寿命はより長くなります。参考:【ステンレス加工】加工方法や加工実績について徹底解説!!

  • SUS304とSUS304Lの違いと使い分け

    SUS304は、ステンレス鋼の代表的な材料で、市場に多く出回っており、私たちの日常でもよく目にします。耐食性・耐熱性・強度などに優れているのが特徴のため、日常生活に限らず、幅広い業界で採用されています。一方、SUS304LはLグレードと呼ばれるステンレス鋼で、SUS304よりも炭素の成分を減らすことで鋭敏化の発生を抑え、耐粒界腐食性を向上した材料です。鋭敏化とは、ステンレス鋼が550~900℃程度加熱された際に炭素とクロムが結合し、耐食性を低下させてしまう現象のことを指します。SUS304Lは、鋭敏化を避けられるメリットがありますが、ステンレス鋼の選定において、一概にSUS304Lを選べばいいという訳ではありません。本記事では、SUS304とSUS304Lの価格と強度の違いを見てみましょう。参考:SUS304とSUS430の意味とは? 使い分けや特徴も分かりやすく解説!参考:SUS304L(ステンレス鋼)成分、比重、切削性、機械的性質SUS304とSUS304Lの価格差以下は、金属材料を取り扱う通販サイト【E-metals】のSUS304とSUS304Lの丸棒の価格を一部表にしたものです。<SUS304およびSUS304Lの丸棒(酸洗)の参考価格表>材料のサイズ直径×長さ(mm)SUS304の価格SUS304Lの価格φ13×500694円744円φ13×10001,188円1,288円φ13×15001,682円1,832円φ13×20002,177円2,376円参照元:E-Metals(上表は2021年1月時点での価格)SUS304Lは、SUS304と比べて数%~1割程度、価格の高い材料であることがわかります。上表の【丸棒(酸洗)】の製品に限らず、一般的にSUS304Lのほうが高価な材料です。また、SUS304Lは、SUS304よりも流通量が少ないため、納期に時間を要する場合もあります。これらのことから、コストや使用条件などを考慮して、SUS304とSUS304Lを使い分けなければなりません。例えば、溶接加工を必要とする部材や酸化性のある環境などは、鋭敏化の恐れがあるので、SUS304Lを採用する。逆に鋭敏化の心配がない部材や環境においては、コスト削減のためにSUS304を採用するなど、使用環境によって適切な材料を選ぶようにしましょう。SUS304とSUS304Lの強度<SUSの固溶化熱処理状態の機械的性質>種類の記号耐力Mpa(N/mm2)引張強さMpa(N/mm2)硬さHBWHRBS又はHRBWHVSUS304205520187以下90以下200以下SUS304L175480187以下90以下200以下引用元:JIS G 4303:2012上表は、【ステンレス鋼棒 JIS G 4303】から抜粋したものです。SUS304とSUS304Lの機械的性質の数値を見てみると、硬さは同じ値になりますが、耐力・引張強さにおいては、SUS304のほうがわずかに高い値を示しています。