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この記事を監修する専門家有限会社大川板金取締役 大川嘉雄 氏創業50年、板金加工・機械加工等の金属加工を手掛ける有限会社大川板金で取締役を務める。10年以上の金属加工でのキャリアを活かし、コンサルタントとしてMitsuriのアドバイザーを兼務。町工場の3K(きつい、汚い、危険)イメージを変え、カッコいい人達で溢れる職場を目指している。今回は幾何公差の基礎知識について解説します。幾何公差とは、物体の形状・姿勢・位置関係などの誤差の許容値を表します。設計図面で指示された形状などに加工しようとしても、完全に正しい状態(幾何学的に正しい直線・円・平面)に仕上げることはできません。そこで、どの程度まで歪みやズレを許容できるかを数値化したものとして幾何公差を用います。厳しすぎる公差での設計は要注意!精度を出せる切削加工の場合でも、公差を厳しくしすぎるとお見積り提出に至らない場合があります。こちらの動画では、どのような場合に加工不可となるのか解説していますのでぜひご覧ください!Youtubeにて、金属加工Mitsuriチャンネルを運営中!こちらからご覧ください!幾何公差とは?幾何公差とは、とある物体の形状の幾何学的な精度を表す指標のことで、わかりやすく説明すると、設計で意図している形状・姿勢・位置関係などの歪みやズレの許容値を意味します。似た単語として「寸法公差」がありますが、寸法公差は図面で記述されている寸法の許容誤差範囲を示しています。寸法公差だけ指示した場合、設計者の意図する正しい形状には指示しきれないため、幾何公差を用いる必要があります。幾何公差の分類幾何公差には、大きく分けて「単独形体」と「関連形体」があります。これらをさらに細かく分類すると、「形状公差」「姿勢公差」「位置公差」「振れ公差」の4つに分かれます。●単独形体:形状公差●関連形体:姿勢公差・位置公差・振れ公差単独形体とは、形状に対して、単独で指定できる幾何公差のことです。幾何公差の分類の「形状公差」が単独形体に該当します。関連形体とは、何か基準となる相手との関係を示す必要がある幾何公差のことです。「姿勢公差・位置公差・振れ公差」の3種類が関連形体に該当します。以上のことを踏まえ、それぞれの幾何公差の分類について、どのように図示するかの例と意味について解説します。形状公差引用元:アイアール技術者教育研究所 【機械製図道場・上級編】幾何公差の図示を習得!幾何公差の種類・特性・記号は?データムって何?上図左は、形状公差の平面度を図示している例です。面の幾何公差を指示するために、外形線に指示線を入れて、幾何公差の記入枠と結び付けます。幾何公差記入枠には、平面度を示す記号と許容差の数値を記入することで、幾何公差を指示します。上図の例の場合、幾何学的平面から0.1mm以内の歪みで仕上げるように指示しています。姿勢公差引用元:引用元:アイアール技術者教育研究所 【機械製図道場・上級編】幾何公差の図示を習得!幾何公差の種類・特性・記号は?データムって何?上図左は、姿勢公差の直角度を図示している例です。上図左で記入されている「A」の記号は、「データム記号」と呼ばれるものです。データムとは、関連形体の幾何公差を決めるために設定された、理論的に正確な幾何学的基準のことで、「指定された幾何公差に基づいて加工や検査をする際は、この面または線を基準としてください」という意味を持ちます。このことから、上図では、基準面である底面Aに対して、図示している垂直面が0.05mm以内のズレで仕上げることを指示しています。位置公差引用元:アイアール技術者教育研究所 【機械製図道場・上級編】幾何公差の図示を習得!幾何公差の種類・特性・記号は?データムって何?上図左は、位置公差の同軸度を図示している例です。上図左のように、軸線または中心平面に対して幾何公差を指示する場合は、寸法線と一直線上に向き合うようにして支持線を記入します。上図では、径の大きい方の円筒部の軸心を基準とし、径の小さい方の円筒部の軸心のズレが0.05mm以内に収まるように指示しています。振れ公差引用元:アイアール技術者教育研究所 【機械製図道場・上級編】幾何公差の図示を習得!幾何公差の種類・特性・記号は?データムって何?上図左は、振れ公差の全振れを図示している例です。振れとは、上図右のように、円筒を軸心まわりに回転させると、表面の微細な凹凸により、真円のものと比べてズレが生じることを指します。今回ご紹介している全振れの場合は、全周にわたり公差内に収めることを要求する意味を持ちます。そのため上図では、データム軸直線を中心に回転させた、小さい方の円筒の振れが全周0.03mm以内であることを図示しています。幾何公差の種類単独形体である形状公差は、以下の6つの特性があります。●単独形体(形状公差):真直度、平面度、真円度、円筒度、線の輪郭度、面の輪郭度関連形体である姿勢公差・位置公差・振れ公差は、それぞれで以下の特性があります。●関連形体(姿勢公差):平行度、直角度、傾斜度、線の輪郭度、面の輪郭度●関連形体(位置公差):位置度、同軸度、同芯度、対称度、線の輪郭度、面の輪郭度●関連形体(振れ公差):円周振れ、全振れここでは、幾何公差の各特性についての意味をご紹介します。真直度指定面や軸が、どれだけ変形しているかを表す幾何公差。平面度平面からどれだけ変形しているかを表す幾何公差。真円度真円からどれだけ変形しているかを表す幾何公差。円筒度円筒状のものが、どれだけ真っ直ぐかつ、丸いかを表す幾何公差。線の輪郭度母線形状がどれだけ変形しているかを表す幾何公差。面の輪郭度線の輪郭度のような二次元の線ではなく、表面形状からどれだけ変形しているかを表す幾何公差。平行度データム直線またはデータム平面に対して、どれだけ直線や平面が平行であるかを表す幾何公差。直角度データム直線またはデータム平面に対して、どれだけ直角から傾いているかを示す幾何公差。記述する数値は、角度ではなく、mm単位で表します。傾斜度データム直線またはデータム平面に対して、どれだけ指定角度(90°を除く)から傾いているかを表す幾何公差。直角度と同様に、角度ではなくmm単位で表します。位置度データムまたは他の形体に関連して定められた点、直線、平面に対して、どれだけ位置ズレしているかの幾何公差。同心度データム円の中心に対して、他の円の中心位置がどれだけズレているかを表す幾何公差。同軸度データム軸直線と同一直線上にあるべき軸線が、どれだけ正確な位置からズレているかを表す幾何公差。対称度データム軸直線またはデータム中心平面に対して、互いに対称であるべき形体がどれだけ正確な位置からズレているかを表す幾何公差。円周振れデータム軸直線を軸とする回転体を回転させたとき、指定した任意の箇所がどれだけズレているかを表す幾何公差。全振れデータム軸直線を軸とする回転体を回転させたとき、その表面がどれだけ振れているかを表す幾何公差。幾何公差の記号一覧ここまで幾何公差の特性の意味について解説しました。幾何公差の記号については、以下の表をご参考ください。<単独形体 幾何公差の表>※JIS B 0021:1998 製品の幾何特性仕様(GPS)-幾何公差表示方式-形状,姿勢,位置及び振れの公差表示方式を参考に作成形状公差は、単独形体の幾何公差のため、データム指示は不要です。ただし「線の輪郭度」と「面の輪郭度」については、関連形体の姿勢公差と位置公差の用途で用いる場合があります。その際はデータム指示が必要です。<関連形体 幾何公差の表>※JIS B 0021:1998 製品の幾何特性仕様(GPS)-幾何公差表示方式-形状,姿勢,位置及び振れの公差表示方式を参考に作成姿勢公差・位置公差・振れ公差は、関連形体の幾何公差のため、基本的にデータム指示が必要です。ただし、位置度においては、条件によってデータムを不要とする場合もあります。
公差記号とは公差とは「許容される差」を意味します。例えば、製作する部品の寸法が10mmで図面には「公差+0.5」と記載されている場合、完成品の該当箇所が10.5mmとなっても許容範囲内とし品質に問題はないということになります。公差は大きく分けて、普通公差(一般公差)と寸法公差の2種類に分けられます。その寸法公差の中には幾何公差というものがあり、さらに幾何公差の中にも「形状公差」「姿勢公差」「位置公差」「振れ公差」の4つがあります。参考記事:【公差】とは?基本的な定義や許容差との違い・板金加工における公差について解説します!参考記事:【板金加工 図面】図面の基礎を徹底解説!書き方・読み方・必要性公差記号はたくさんあるので慣れないうちは覚えるのに苦労するかもしれません。今回はより楽しく覚えられるようにクイズ形式で記号を紹介していきます!どれも図面でよく使われる記号ですので、全問正解目指して頑張ってください!第1問この記号は何を指定するものでしょうか?①四角さの指定②最も出っ張った部分と最もへこんだ部分の指定③直角の指定答え:②平面度を指す記号。どのくらい正確に平らな面にするべきかの表面の凹凸加減を指定します。最も出っ張っている部分と最もへこんでいる部分が、上下に離れた2つの平面の間に挟まれた一定の距離でなければいけません。第2問この記号は何を指定するものでしょうか?①真っ直ぐの指定②平行さの指定③垂直さの指定答え:①真直度を指す記号。どれくらい真っ直ぐにするべきかを指定します。直線に適用され、中心線や母線などの曲がりを表します。そのため、長尺物を始めとする反りの許容などに利用されます。第3問この記号は何を指定するものでしょうか?①丸さの指定②丸さと真っ直ぐさの指定③丸さと平行さの指定答え:②円筒度を指す記号。まんまるさと真っ直ぐさを指定します。どれくらい正確な円筒形にするべきなのか、そして円筒のゆがみを表します。第4問この記号は何を指定するものでしょうか?①曲面(断面)が注文した通りにできているかの指定②曲面(表面)などが注文した通りにできているかの指定③まんまるさの指定答え:②面の輪郭度を指す記号。曲面(表面)などがデザインした通りにできているかを指示します。面の輪郭度は線の輪郭度と異なり、指定曲面の全体が対象です。第5問この記号は何を指定するものでしょうか?①データム(基準となる平面、直線)に対して、どのくらい正確に直角であるかの指定②データムに対して、どのくらい真っ直ぐであるかの指定③データムに対して、どのくらい2つの平面または直線が平行であるかの指定答え:③平行度を指す記号。平行度には基準となる平面、直線である「データム」が存在します。第6問この記号は何を指定するものでしょうか?①データムに対して、どのくらい真っ直ぐであるかの指定②データムに対して、どのくらい正確な位置にあるかの指定③データムに対して、どのくらい正確に直角であるかの指定答え:③直角度を指す記号。データムに対して、どのくらい正確に直角であるかを指定します。ちなみに、直角度で指定する単位は角度ではなくmmで表記します。第7問この記号は何を指定するものでしょうか?①データムに対して、どのくらい正確に傾斜しているかの指定②データムに対して、どのくらい正確に直角であるかの指定③傾斜がどのくらいあるのかの指定答え:①傾斜度を指す記号。指定する直線や平面が90°以外であり、データムに対して正確に傾斜されているかを指定します。こちらも直角度と同様、傾斜度で指定する単位は角度ではなくmmで表記します。第8問この記号は何を指定するものでしょうか?①データムに対して、垂直であることの指定②データムに対して、対称であることの指定③データムに対して、どのくらい正確な位置にあるかの指定答え:③位置度を指す記号。データムに対してどのくらい正確な位置にあるのか、その精度を指定します。第9問この記号は何を指定するものでしょうか?①回転させたときの任意の円周の一部の振れの指定②回転させたときの表面全体の振れの指定答え:①円周振れを指す記号。部品を回転させたときの任意の円周の一部の振れを指定します。円周振れは部品を回転させたときに生じる測定値の振れが、規定の範囲内にする必要があります。第10問この記号は何を指定するものでしょうか?①回転させたときの任意の円周の一部の振れの指定②回転させたときの表面全体の振れの指定答え:②全振れを指す記号。部品を回転させたときに生じる表面全体の振れを指定します。全振れは円筒面全体の測定値の振れが規定の範囲になければなりません。公差記号のまとめ分類記号幾何公差名データムの有無形状真直度平面度真円度円筒度線の輪郭度面の輪郭度無無無無無無姿勢平行度直角度傾斜度有有有位置位置度同軸度同芯度対称度有有有有振れ円周振れ全振れ有有
「抜き勾配」は、あまり聞き慣れない言葉ではありますが、樹脂製品などを製作する射出成形加工の過程においては、欠かすことができない概念です。射出成形加工では、金型を用いて成形を行いますが、この金型から製品を引き抜く際に、抜き勾配を考慮することは非常に重要です。今回は、この「抜き勾配」をテーマに、抜き勾配とは何かという説明から、抜き勾配角度、さらに、抜き勾配を付けたくない場合の設計方法などについて、幅広く解説していきます。また、最後には、抜き勾配とテーパーの違いについてもご説明していきます。抜き勾配について、さらに知識を深めたい方や、抜き勾配でお悩みの方は、ぜひご一読ください。抜き勾配とは引用元:株式会社大塚商会樹脂部品などを量産する場合には、一般に射出成形という加工が用いられます。射出成形とは、溶かした樹脂を金型に流し冷却することで成形した後、金型から樹脂を引き抜く(離型させる)ことによって、成形品を得る方法です。この離型の際に、金型から成形品をより容易に引き抜くのに役に立つのが、「抜き勾配」です。「抜き勾配」とは、成形品が離型する方向に、あらかじめ設けておく「勾配」を指します。上図に示したように、抜き勾配をつけておくことで、離型の際、成形品と金型の間に隙間が生じるため、成形品を傷つけることなく、スムーズに取り出すことが可能となります。抜き勾配の計算方法以前は、抜き勾配の計算は、設計者によって図面上で行われていましたが、最近では、コンピューターを用いた3次元CADを利用して、設計の段階から抜き勾配を簡単に付けることができます。これによって、CAD上で簡単に勾配角度を設定して設計ができ、さらに設計された3Dモデルの勾配角度を簡単にチェックできるようになりました。抜き勾配の角度成形品の形状などによっても異なりますが、抜き勾配の角度は、一般に0.5~3°の範囲内、特に1°から2°となることが多いです。抜き勾配は、成形品の離型性を考えると、できる限り角度を大きくする方が良いと言われています。一般的な抜き勾配の角度設定では、キャビティー外周では約1°〜2°程度、コア外周では約0.5°~1°、ボスやリブなどの突起部の場合は約0.5°に設定するのが望ましいと言われています。なお、「キャビティー」及び「コア」とは、下図に示したように、それぞれ射出成形における金型の凹部、及び凸部を指します。また、キャビティーを雌型、コアを雄型と言うこともあります。引用元:株式会社REまた、表面の粗さが大きい材料や、シボ加工(金属の表面に模様をつける表面処理)を施した材料などを用いる場合には、成形品が金型から抜けにくくなるため、抜き勾配の角度をより大きくする必要があります。通常は、このような場合、最低でも、3°以上の抜き勾配が必要となると言われています。抜き勾配を付けたくない場合の設計方法前述した通り、射出成形において、成形品の離型性を考慮すると、抜き勾配はできる限り角度を大きくする方が良いのですが、製品の設計によっては、抜き勾配を設けることができない場合などもあります。このような場合には、一般的にスライド金型が利用されます。スライド金型とは、一例として下図に示したような構造を持っており、金型が開くときに、アンギュラピンに沿ってスライドコア部分が金型に対して水平に可動するようになっています。金型をスライドさせる方法は他にもいくつかありますが、これにより抜き勾配がなくても金型からの離型が可能となります。引用元:株式会社アペルザその他にも、突き出しピン(エジェクタピン)などを利用して、成形品の取り出しを行うことも可能です。エジェクタピンは、金型のコア部に配置されており、金型が開いた後、ピンが突き出すことで、パーツが型から押し出されます。その後、ピンは元の位置に戻り、再び樹脂が充填され、射出成形が行われます。エジェクタピン以外にも、プレートで突き出す方法やエアで突き出す方法などによって、成形品を取り出すことも可能です。抜き勾配とテーパーの違い引用元:株式会社RE最後に、抜き勾配とテーパーの違いについて解説していきます。抜き勾配とテーパーはよく混同されやすいのですが、上図に示したように、抜き勾配は角度を示しており、テーパーは、製品の斜面にできる傾斜を指します。なお、テーパー角度とは、両側の傾きによって成される角度のことを指します。ただし、このように抜き勾配とテーパーは全く異なる意味を持つ用語ですが、混同されやすいため、設計の段階でよく確認を行ってから、加工に取り掛かることをおすすめします。抜き勾配についてまとめ今回は、抜き勾配をテーマに、抜き勾配とは何かという説明からはじめ、抜き勾配の角度などについて、ご紹介しました。さらに、抜き勾配を付けたくない場合の設計方法や抜き勾配とテーパーの違いについても解説しましたが、いかがでしたでしょうか。抜き勾配は、特に射出成形加工においては、欠かせない知識です。また、製品を設計する上でも非常に重要な概念となるため、事前に知っておけば、メーカーに加工を依頼する際でもスムーズに話を進めることができるでしょう。抜き勾配でお困りの際は、ぜひお気軽にお問い合わせください。
この記事を監修する専門家有限会社大川板金取締役 大川嘉雄 氏創業50年、板金加工・機械加工等の金属加工を手掛ける有限会社大川板金で取締役を務める。10年以上の金属加工でのキャリアを活かし、コンサルタントとしてMitsuriのアドバイザーを兼務。町工場の3K(きつい、汚い、危険)イメージを変え、カッコいい人達で溢れる職場を目指している。今回は幾何公差の基礎知識について解説します。幾何公差とは、物体の形状・姿勢・位置関係などの誤差の許容値を表します。設計図面で指示された形状などに加工しようとしても、完全に正しい状態(幾何学的に正しい直線・円・平面)に仕上げることはできません。そこで、どの程度まで歪みやズレを許容できるかを数値化したものとして幾何公差を用います。厳しすぎる公差での設計は要注意!精度を出せる切削加工の場合でも、公差を厳しくしすぎるとお見積り提出に至らない場合があります。こちらの動画では、どのような場合に加工不可となるのか解説していますのでぜひご覧ください!Youtubeにて、金属加工Mitsuriチャンネルを運営中!こちらからご覧ください!幾何公差とは?幾何公差とは、とある物体の形状の幾何学的な精度を表す指標のことで、わかりやすく説明すると、設計で意図している形状・姿勢・位置関係などの歪みやズレの許容値を意味します。似た単語として「寸法公差」がありますが、寸法公差は図面で記述されている寸法の許容誤差範囲を示しています。寸法公差だけ指示した場合、設計者の意図する正しい形状には指示しきれないため、幾何公差を用いる必要があります。幾何公差の分類幾何公差には、大きく分けて「単独形体」と「関連形体」があります。これらをさらに細かく分類すると、「形状公差」「姿勢公差」「位置公差」「振れ公差」の4つに分かれます。●単独形体:形状公差●関連形体:姿勢公差・位置公差・振れ公差単独形体とは、形状に対して、単独で指定できる幾何公差のことです。幾何公差の分類の「形状公差」が単独形体に該当します。関連形体とは、何か基準となる相手との関係を示す必要がある幾何公差のことです。「姿勢公差・位置公差・振れ公差」の3種類が関連形体に該当します。以上のことを踏まえ、それぞれの幾何公差の分類について、どのように図示するかの例と意味について解説します。形状公差引用元:アイアール技術者教育研究所 【機械製図道場・上級編】幾何公差の図示を習得!幾何公差の種類・特性・記号は?データムって何?上図左は、形状公差の平面度を図示している例です。面の幾何公差を指示するために、外形線に指示線を入れて、幾何公差の記入枠と結び付けます。幾何公差記入枠には、平面度を示す記号と許容差の数値を記入することで、幾何公差を指示します。上図の例の場合、幾何学的平面から0.1mm以内の歪みで仕上げるように指示しています。姿勢公差引用元:引用元:アイアール技術者教育研究所 【機械製図道場・上級編】幾何公差の図示を習得!幾何公差の種類・特性・記号は?データムって何?上図左は、姿勢公差の直角度を図示している例です。上図左で記入されている「A」の記号は、「データム記号」と呼ばれるものです。データムとは、関連形体の幾何公差を決めるために設定された、理論的に正確な幾何学的基準のことで、「指定された幾何公差に基づいて加工や検査をする際は、この面または線を基準としてください」という意味を持ちます。このことから、上図では、基準面である底面Aに対して、図示している垂直面が0.05mm以内のズレで仕上げることを指示しています。位置公差引用元:アイアール技術者教育研究所 【機械製図道場・上級編】幾何公差の図示を習得!幾何公差の種類・特性・記号は?データムって何?上図左は、位置公差の同軸度を図示している例です。上図左のように、軸線または中心平面に対して幾何公差を指示する場合は、寸法線と一直線上に向き合うようにして支持線を記入します。上図では、径の大きい方の円筒部の軸心を基準とし、径の小さい方の円筒部の軸心のズレが0.05mm以内に収まるように指示しています。振れ公差引用元:アイアール技術者教育研究所 【機械製図道場・上級編】幾何公差の図示を習得!幾何公差の種類・特性・記号は?データムって何?上図左は、振れ公差の全振れを図示している例です。振れとは、上図右のように、円筒を軸心まわりに回転させると、表面の微細な凹凸により、真円のものと比べてズレが生じることを指します。今回ご紹介している全振れの場合は、全周にわたり公差内に収めることを要求する意味を持ちます。そのため上図では、データム軸直線を中心に回転させた、小さい方の円筒の振れが全周0.03mm以内であることを図示しています。幾何公差の種類単独形体である形状公差は、以下の6つの特性があります。●単独形体(形状公差):真直度、平面度、真円度、円筒度、線の輪郭度、面の輪郭度関連形体である姿勢公差・位置公差・振れ公差は、それぞれで以下の特性があります。●関連形体(姿勢公差):平行度、直角度、傾斜度、線の輪郭度、面の輪郭度●関連形体(位置公差):位置度、同軸度、同芯度、対称度、線の輪郭度、面の輪郭度●関連形体(振れ公差):円周振れ、全振れここでは、幾何公差の各特性についての意味をご紹介します。真直度指定面や軸が、どれだけ変形しているかを表す幾何公差。平面度平面からどれだけ変形しているかを表す幾何公差。真円度真円からどれだけ変形しているかを表す幾何公差。円筒度円筒状のものが、どれだけ真っ直ぐかつ、丸いかを表す幾何公差。線の輪郭度母線形状がどれだけ変形しているかを表す幾何公差。面の輪郭度線の輪郭度のような二次元の線ではなく、表面形状からどれだけ変形しているかを表す幾何公差。平行度データム直線またはデータム平面に対して、どれだけ直線や平面が平行であるかを表す幾何公差。直角度データム直線またはデータム平面に対して、どれだけ直角から傾いているかを示す幾何公差。記述する数値は、角度ではなく、mm単位で表します。傾斜度データム直線またはデータム平面に対して、どれだけ指定角度(90°を除く)から傾いているかを表す幾何公差。直角度と同様に、角度ではなくmm単位で表します。位置度データムまたは他の形体に関連して定められた点、直線、平面に対して、どれだけ位置ズレしているかの幾何公差。同心度データム円の中心に対して、他の円の中心位置がどれだけズレているかを表す幾何公差。同軸度データム軸直線と同一直線上にあるべき軸線が、どれだけ正確な位置からズレているかを表す幾何公差。対称度データム軸直線またはデータム中心平面に対して、互いに対称であるべき形体がどれだけ正確な位置からズレているかを表す幾何公差。円周振れデータム軸直線を軸とする回転体を回転させたとき、指定した任意の箇所がどれだけズレているかを表す幾何公差。全振れデータム軸直線を軸とする回転体を回転させたとき、その表面がどれだけ振れているかを表す幾何公差。幾何公差の記号一覧ここまで幾何公差の特性の意味について解説しました。幾何公差の記号については、以下の表をご参考ください。<単独形体 幾何公差の表>※JIS B 0021:1998 製品の幾何特性仕様(GPS)-幾何公差表示方式-形状,姿勢,位置及び振れの公差表示方式を参考に作成形状公差は、単独形体の幾何公差のため、データム指示は不要です。ただし「線の輪郭度」と「面の輪郭度」については、関連形体の姿勢公差と位置公差の用途で用いる場合があります。その際はデータム指示が必要です。<関連形体 幾何公差の表>※JIS B 0021:1998 製品の幾何特性仕様(GPS)-幾何公差表示方式-形状,姿勢,位置及び振れの公差表示方式を参考に作成姿勢公差・位置公差・振れ公差は、関連形体の幾何公差のため、基本的にデータム指示が必要です。ただし、位置度においては、条件によってデータムを不要とする場合もあります。
公差記号とは公差とは「許容される差」を意味します。例えば、製作する部品の寸法が10mmで図面には「公差+0.5」と記載されている場合、完成品の該当箇所が10.5mmとなっても許容範囲内とし品質に問題はないということになります。公差は大きく分けて、普通公差(一般公差)と寸法公差の2種類に分けられます。その寸法公差の中には幾何公差というものがあり、さらに幾何公差の中にも「形状公差」「姿勢公差」「位置公差」「振れ公差」の4つがあります。参考記事:【公差】とは?基本的な定義や許容差との違い・板金加工における公差について解説します!参考記事:【板金加工 図面】図面の基礎を徹底解説!書き方・読み方・必要性公差記号はたくさんあるので慣れないうちは覚えるのに苦労するかもしれません。今回はより楽しく覚えられるようにクイズ形式で記号を紹介していきます!どれも図面でよく使われる記号ですので、全問正解目指して頑張ってください!第1問この記号は何を指定するものでしょうか?①四角さの指定②最も出っ張った部分と最もへこんだ部分の指定③直角の指定答え:②平面度を指す記号。どのくらい正確に平らな面にするべきかの表面の凹凸加減を指定します。最も出っ張っている部分と最もへこんでいる部分が、上下に離れた2つの平面の間に挟まれた一定の距離でなければいけません。第2問この記号は何を指定するものでしょうか?①真っ直ぐの指定②平行さの指定③垂直さの指定答え:①真直度を指す記号。どれくらい真っ直ぐにするべきかを指定します。直線に適用され、中心線や母線などの曲がりを表します。そのため、長尺物を始めとする反りの許容などに利用されます。第3問この記号は何を指定するものでしょうか?①丸さの指定②丸さと真っ直ぐさの指定③丸さと平行さの指定答え:②円筒度を指す記号。まんまるさと真っ直ぐさを指定します。どれくらい正確な円筒形にするべきなのか、そして円筒のゆがみを表します。第4問この記号は何を指定するものでしょうか?①曲面(断面)が注文した通りにできているかの指定②曲面(表面)などが注文した通りにできているかの指定③まんまるさの指定答え:②面の輪郭度を指す記号。曲面(表面)などがデザインした通りにできているかを指示します。面の輪郭度は線の輪郭度と異なり、指定曲面の全体が対象です。第5問この記号は何を指定するものでしょうか?①データム(基準となる平面、直線)に対して、どのくらい正確に直角であるかの指定②データムに対して、どのくらい真っ直ぐであるかの指定③データムに対して、どのくらい2つの平面または直線が平行であるかの指定答え:③平行度を指す記号。平行度には基準となる平面、直線である「データム」が存在します。第6問この記号は何を指定するものでしょうか?①データムに対して、どのくらい真っ直ぐであるかの指定②データムに対して、どのくらい正確な位置にあるかの指定③データムに対して、どのくらい正確に直角であるかの指定答え:③直角度を指す記号。データムに対して、どのくらい正確に直角であるかを指定します。ちなみに、直角度で指定する単位は角度ではなくmmで表記します。第7問この記号は何を指定するものでしょうか?①データムに対して、どのくらい正確に傾斜しているかの指定②データムに対して、どのくらい正確に直角であるかの指定③傾斜がどのくらいあるのかの指定答え:①傾斜度を指す記号。指定する直線や平面が90°以外であり、データムに対して正確に傾斜されているかを指定します。こちらも直角度と同様、傾斜度で指定する単位は角度ではなくmmで表記します。第8問この記号は何を指定するものでしょうか?①データムに対して、垂直であることの指定②データムに対して、対称であることの指定③データムに対して、どのくらい正確な位置にあるかの指定答え:③位置度を指す記号。データムに対してどのくらい正確な位置にあるのか、その精度を指定します。第9問この記号は何を指定するものでしょうか?①回転させたときの任意の円周の一部の振れの指定②回転させたときの表面全体の振れの指定答え:①円周振れを指す記号。部品を回転させたときの任意の円周の一部の振れを指定します。円周振れは部品を回転させたときに生じる測定値の振れが、規定の範囲内にする必要があります。第10問この記号は何を指定するものでしょうか?①回転させたときの任意の円周の一部の振れの指定②回転させたときの表面全体の振れの指定答え:②全振れを指す記号。部品を回転させたときに生じる表面全体の振れを指定します。全振れは円筒面全体の測定値の振れが規定の範囲になければなりません。公差記号のまとめ分類記号幾何公差名データムの有無形状真直度平面度真円度円筒度線の輪郭度面の輪郭度無無無無無無姿勢平行度直角度傾斜度有有有位置位置度同軸度同芯度対称度有有有有振れ円周振れ全振れ有有
「抜き勾配」は、あまり聞き慣れない言葉ではありますが、樹脂製品などを製作する射出成形加工の過程においては、欠かすことができない概念です。射出成形加工では、金型を用いて成形を行いますが、この金型から製品を引き抜く際に、抜き勾配を考慮することは非常に重要です。今回は、この「抜き勾配」をテーマに、抜き勾配とは何かという説明から、抜き勾配角度、さらに、抜き勾配を付けたくない場合の設計方法などについて、幅広く解説していきます。また、最後には、抜き勾配とテーパーの違いについてもご説明していきます。抜き勾配について、さらに知識を深めたい方や、抜き勾配でお悩みの方は、ぜひご一読ください。抜き勾配とは引用元:株式会社大塚商会樹脂部品などを量産する場合には、一般に射出成形という加工が用いられます。射出成形とは、溶かした樹脂を金型に流し冷却することで成形した後、金型から樹脂を引き抜く(離型させる)ことによって、成形品を得る方法です。この離型の際に、金型から成形品をより容易に引き抜くのに役に立つのが、「抜き勾配」です。「抜き勾配」とは、成形品が離型する方向に、あらかじめ設けておく「勾配」を指します。上図に示したように、抜き勾配をつけておくことで、離型の際、成形品と金型の間に隙間が生じるため、成形品を傷つけることなく、スムーズに取り出すことが可能となります。抜き勾配の計算方法以前は、抜き勾配の計算は、設計者によって図面上で行われていましたが、最近では、コンピューターを用いた3次元CADを利用して、設計の段階から抜き勾配を簡単に付けることができます。これによって、CAD上で簡単に勾配角度を設定して設計ができ、さらに設計された3Dモデルの勾配角度を簡単にチェックできるようになりました。抜き勾配の角度成形品の形状などによっても異なりますが、抜き勾配の角度は、一般に0.5~3°の範囲内、特に1°から2°となることが多いです。抜き勾配は、成形品の離型性を考えると、できる限り角度を大きくする方が良いと言われています。一般的な抜き勾配の角度設定では、キャビティー外周では約1°〜2°程度、コア外周では約0.5°~1°、ボスやリブなどの突起部の場合は約0.5°に設定するのが望ましいと言われています。なお、「キャビティー」及び「コア」とは、下図に示したように、それぞれ射出成形における金型の凹部、及び凸部を指します。また、キャビティーを雌型、コアを雄型と言うこともあります。引用元:株式会社REまた、表面の粗さが大きい材料や、シボ加工(金属の表面に模様をつける表面処理)を施した材料などを用いる場合には、成形品が金型から抜けにくくなるため、抜き勾配の角度をより大きくする必要があります。通常は、このような場合、最低でも、3°以上の抜き勾配が必要となると言われています。抜き勾配を付けたくない場合の設計方法前述した通り、射出成形において、成形品の離型性を考慮すると、抜き勾配はできる限り角度を大きくする方が良いのですが、製品の設計によっては、抜き勾配を設けることができない場合などもあります。このような場合には、一般的にスライド金型が利用されます。スライド金型とは、一例として下図に示したような構造を持っており、金型が開くときに、アンギュラピンに沿ってスライドコア部分が金型に対して水平に可動するようになっています。金型をスライドさせる方法は他にもいくつかありますが、これにより抜き勾配がなくても金型からの離型が可能となります。引用元:株式会社アペルザその他にも、突き出しピン(エジェクタピン)などを利用して、成形品の取り出しを行うことも可能です。エジェクタピンは、金型のコア部に配置されており、金型が開いた後、ピンが突き出すことで、パーツが型から押し出されます。その後、ピンは元の位置に戻り、再び樹脂が充填され、射出成形が行われます。エジェクタピン以外にも、プレートで突き出す方法やエアで突き出す方法などによって、成形品を取り出すことも可能です。抜き勾配とテーパーの違い引用元:株式会社RE最後に、抜き勾配とテーパーの違いについて解説していきます。抜き勾配とテーパーはよく混同されやすいのですが、上図に示したように、抜き勾配は角度を示しており、テーパーは、製品の斜面にできる傾斜を指します。なお、テーパー角度とは、両側の傾きによって成される角度のことを指します。ただし、このように抜き勾配とテーパーは全く異なる意味を持つ用語ですが、混同されやすいため、設計の段階でよく確認を行ってから、加工に取り掛かることをおすすめします。抜き勾配についてまとめ今回は、抜き勾配をテーマに、抜き勾配とは何かという説明からはじめ、抜き勾配の角度などについて、ご紹介しました。さらに、抜き勾配を付けたくない場合の設計方法や抜き勾配とテーパーの違いについても解説しましたが、いかがでしたでしょうか。抜き勾配は、特に射出成形加工においては、欠かせない知識です。また、製品を設計する上でも非常に重要な概念となるため、事前に知っておけば、メーカーに加工を依頼する際でもスムーズに話を進めることができるでしょう。抜き勾配でお困りの際は、ぜひお気軽にお問い合わせください。